「宇宙大魔神」と「宇宙怪魔人」/藤子Fザ・ムービー②
以前の記事でも書いているが、「ドラえもん」と「キテレツ大百科」は、道具を使って事件や騒動を起こすという物語構造が同じである。その違いは「ドラえもん」がひみつ道具=未来の工業製品で、「キテレツ」が江戸時代の発明品=手作りであるいうことだ。
なので、「キテレツ」と「ドラえもん」は、どうしても似たような作品が作られてしまう。
今回は「ドラえもん」「キテレツ大百科」で、それぞれ特撮映画を撮影する話を紹介する。驚くほど同一の展開となっているので、二本まとめてみていくことにしよう。
「キテレツ大百科」:
『宇宙怪魔人』「こどもの光」1976年5月号/大全集2巻
「ドラえもん」:
『超大作特撮映画「宇宙大魔神」』「小学四年生」1979年11月/大全集9巻
◆始まり方
「キテレツ大百科」では、コロ助がテレビでグランドロボが活躍する番組に、思いっきり感情移入して見ている。ロボが戦いに勝つと、「グランドロボは、我々ロボットの誇りナリ、希望の星ナリ」と大興奮。
するとその様子を、キテレツが「夢幻燈」というビデオカメラのようなもので撮影している。夢幻燈は映写機にもなり、さっそくスクリーンに映し出すと、コロ助が町を破壊している映像が流れる。
複数の風景やシーンを撮って、簡単に合成できる優れもののカメラなのである。コロ助は、「グランドロボみたいな役で、自分が主役の映画を撮ってほしい」と願い出る。
一方の「ドラえもん」では、のび太が帰宅すると、ドラえもんが「イージー特撮カメラ」という機械で、どら焼きと自分を合成させた特撮映画を撮っている。このカメラは、「夢幻燈」同様、簡単に複数のシーンを合成できて、しかもすぐに映写機にもなるという。
のび太とドラえもんは互いに自分を主役にして面白い映画を撮影しようと言い出して、意見がぶつかるが、ひとまずそのことは脇に置いておくことにする。
◆撮影準備(プリプロ)
「キテレツ大百科」では、キテレツがシナリオを書き、コロ助は自分の衣装作りに取り組む。セットや小物などは、器用なキテレツがどんどん作っていく。
「ドラえもん」では、主演女優にとしずちゃんを撮影に誘うのだが、遊びに来ていた出木杉が、シナリオと監督を担当したいと申し出る。実は8ミリのアニメ用に書き上げたシナリオが既にあるのだという。
撮影スタジオは「ポップ地下室」、セットは「ポラロイドインスタントミニチュア製造カメラ」、衣装は「着せかえカメラ」、動くミニミュアは「ラジコン粘土」と、ドラえもんの道具をフル活用して準備を進めていく。
メインとなる大魔王の宇宙戦艦は、出木杉が作り上げるのだが、完成度の高さから、のび太たちは「君は天才だよ」と感心される。出木杉は本作でまだ3本目の登場だが、あっと言う間に天才キャラが確立してしまっている。
◆キャスティング
「キテレツ大百科」では、みよちゃんに出演交渉に行く。みよは、「地球を守るウルトラガールをやりたい」と熱を込めるが、宇宙怪物にさらわれる役をオファーされ、少々不服。怖がるシーンの撮影となるのだが、うまく怖がれないので、コロ助が毛虫を使って悲鳴を上げさせる。
「ドラえもん」では、しずちゃんに加えて、スネ夫を始めとする友だちに声を掛けて、少年レインジャー部隊のキャスティングを進める。揉めていた主役は、結局ひみつ道具を貸し出す権限を大人げなく主張したドラえもんが、正義の味方ウルドラマンを演じることになる。
ちなみにレインジャー部隊の衣装は、デザイナー志望のスネ夫がデザインするのだが、最初しずちゃんの衣装が露出度高めで、激怒される。
◆悪役(ヴィラン)
「キテレツ」では、ヴィランの宇宙怪獣役で、ブタゴリラをキャスティング。敵役をオファーすると怒りだしそうなので、正義の味方・スーパー仮面を演じていると騙して撮影することにする。
合成するからと言って土管から出てこさせたり、人形を掴ませる。ヒーローも食事をすると言って、食べさせるシーンも撮影する。本当の主人公であるコロ助との戦いでは、コロ助を追っかけたち上から乗ったりしてしまったので、後で左右・上下を入れかえることを予定する。
「ドラえもん」でもパターンは全く一緒。映画撮影に気が付いたジャイアンに、スネ夫が主演してもらいたかったと調子のいいことを言って撮影に参加してくる。正義の味方役だと思い込んでいるジャイアンだが、本当の役どころは悪役の「宇宙大魔王」である。
なかなか自分の出番が回ってこないジャイアンは機嫌を悪化させるのだが、先に大スターの出演シーンだけ撮るということにする。「キテレツ」同様ご飯を食べているシーンや戦うシーン、寝そべっているシーンなどを撮影して、ジャイアンは帰っていく。
◆タイトル
「キテレツ」が、「宇宙怪魔人」。
「ドラえもん」が、「宇宙大魔神」。
筋立てもタイトルもほぼ一緒なのである。
◆試写
「キテレツ」ではブタゴリラが率先して、試写会に友だちを招き入れる。自分がヒーローで、コロ助が「宇宙怪魔人」だと思い込んでいたが、全く逆のストーリーが流れ出す。戦いが終わり、映画も終わるが、その続きとばかりに、ブタゴリラとキテレツたちがバトルを始めているのだった。
「ドラえもん」では、ジャイアンに試写を見せては殺されるということで、秘密に実施するのだが、上映途中で「なぜ俺を呼ばない」とジャイアンが乗り込んでくる。ジャイアン演じる「宇宙大魔王」が倒され、映画は終了。「殺してやる」と半泣きで暴れだすジャイアンだが、既に皆は部屋から逃げ出してもぬけの殻となっているのだった。
便利なカメラを使って特撮映画を作るという、全く同じテーマとストーリーの作品を比較してみた。主人公がドラえもんとコロ助と、体形が似ているし、ヴィランもジャイアンとブタゴリラで、二人とも主人公と勘違いさせて撮影してしまう点もそっくり。本編を見て怒り狂うのも一緒である。ついでに食べられそうになるヒロイン、という部分も共通している。
違いとしてはキテレツがシナリオから監督、小道具作成までやってしまうのに対して、「ドラえもん」では、天才・出木杉がシナリオ・監督・一部の小道具作りまでやってしまう。スネ夫は衣装デザインを担当して存在感を出していたが、のび太はそれほど活躍しない。
藤子F作品の中から、前回の記事で6本、今回の記事で2本の「映画」ものを紹介してきた。この中で特徴的なのは、隠しきれないF先生の自主映画への憧れが見て取れるということだ。実生活でも、スタジオ・ゼロのメンバーで西部劇を撮影していたという経験もある(未完成であったが)。そうした、映画を作りたいという思いを強く感じ取ることができる。
藤子先生は、晩年は「大長編ドラえもん」や『未来の思い出』など、映画の仕事をライフワークとした。映画が大好きだった少年は、成長して、それこそ死ぬまで映画青年であり続けたのである。
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