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生きてるって、なんて素晴らしいことだろう!『カンゲキドリンク』アゲアゲひみつ道具③

秀樹カンゲキ!

突然なんだと思った方は、是非ともググってみてほしい。本作掲載時にはゴールデンタイムでガンガン流れていたカレーのCMのキャッチコピーである。秀樹とは、アイドル新御三家の一人とされて西城秀樹さんである。


さて、のび太は喜怒哀楽の激しいタイプかと思うが、反面、関心のないなものに対しては、まるで地蔵のように反応しない人でもある。ケーキをおやつに出してもらっても反応薄だし、外に楽しみが無いと思えば部屋の中に閉じ籠ってしまう。

それではいかんということで、そんなのび太にドラえもんが出してくれた道具が、「ムードもりあげ楽団」であり、「オーバーオーバー」であった。

これまでの記事はこちら。


さて、本稿でもまた、感じが悪いほどに無関心なのび太を無理やりにアゲアゲにしてしまうというお話を取り上げる。

『カンゲキドリンク』
「てれびくん」1982年3月号/大全集19巻

本作最大の特徴は、のび太の二大おじさんが立て続けに登場するということである。母方の玉夫おじさんと父方ののび郎おじさんである。

玉夫おじさんは、プロポーズできない弱気な姿が描かれた『正直太郎』(73年9月)で初登場して以来だが、本作の二ヶ月後に発表された『ほしい人探知機』(82年9月)にも続けて登場している。

のび郎おじさんは、『そうとおじさん』(73年8月)でインドに頻繁に出掛けていることがわかっているが、本作でもそのイメージの延長上として登場を果たす。

のび郎おじさんは、のび太のパパのび助の実弟だが、実は二人いるのでは?と言われているほど、見た目が大幅に違うのび郎が登場している(というか、確実に二人の人物として描き分けされている)。

一度整理したいと考えているが、今は詳細な研究の時間が取れないので、もう少し落ち着いたらのび郎おじさん問題に取り組みたい。


さて、久しぶり(約10年ぶり)に家に来た玉夫おじさんから、のび太はプレゼントを貰う。「少年大百科」という謎の百科事典で、とってもためになると言って手渡される。いかにも不本意といった表情を浮かべたのび太は、「気にいったろ!」と問われると、「うん・・・まあ・・・」と気のない返事。

そしておじさんが行ってしまうと、すぐに少年大百科を枕にして寝転がり、「マンガの方が良かったのに」とブツクサ言う。「そんなこというもんじゃない」とたしなめるドラえもん。


続けてしずちゃんが置き忘れていたというノートを届けてくれる。「困ってるんじゃないかと思って」と、とってもいい子なしずちゃんだが、のび太は「余計なことを・・・」と不満げ。そして「おかげで宿題を思い出しちゃった」と、人の好意を何とも思わない。

そんなのび太を見てドラえもんはついに堪忍袋の緒が切れて、「人の親切をありがたいと思わないのか」とお説教。それでも「わざわざ喜んで見せるなんて面倒くさい」と暖簾に腕押し状態なので、ドラえもんは「カンゲキドリンク」というハート形の容器に入った飲み物を取り出す。

「カンゲキドリンク」は嬉しいことや悲しいことが常人の何十倍にも感じられる効果があるという。何十倍とはちょっと大仰な印象も受けるが、心のないのび太にはピッタリなのかもしれない。


効き目は30分。無理やりのび太に飲ませると、すぐに「なんだかほのぼのとしてきたぞ」と心境の変化が現れる。そして「少年大百科」を手に取ると、「おじさんは僕のためを思って、これをくれたんだね」と感謝の気持ちが芽生える。

すぐさまおじさんのもとへと飛んでいき、「こんなに素晴らしいプレゼントをほんとにありがとう」とベタ褒め。褒められたおじさんも、「また何か買ってきてあげよう」と気分上々となる。人の好意には大袈裟なほどに返して上げた方がいいと、本作を読んでいると思う。


さて薬の効果を知ったのび太は、追加でガバと「カンゲキドリンク」を飲み干し、しずちゃんのところへ向かう。先ほどのノートのお礼を過剰に伝えると、しずちゃんは少し憂いの表情。

事情を聞くと金魚が一匹死んじゃったのだと言う。するとカンゲキドリンクの効果でのび太は「か、かわいそう」と号泣してしまう。そんなのび太を見てしずちゃんは「のび太さんて優しいのね」と見る目を変える。

機嫌が良くなったしずちゃんはのび太に一緒に宿題をしようと提案すると、「えーっほんとォ」とこれまた過剰反応。「しずちゃんと宿題できるなんて、なんという幸せ」とはしゃぐのであった。

けれど勉強を始めてしばらくすると、急にやる気を失ったのび太は「あとやっといて、写させてもらうから」と言い出して寝転んでしまう。まるで血糖値が下がった糖尿病患者のように、薬の効果が切れてしまったのである。


そこで「カンゲキドリンク」を追加接種して、カンゲキ体質を復活させて宿題を完成させる。ただ、飲みすぎのせいなのか、過剰反応がさらにバージョンアップ。しずちゃんのママにおやつを出してもらうと、花火が何発も打ちあがるほどに喜ぶ。

外へ出ても「おやつをもらったぞ、この喜び!この感激!!」と大はしゃぎをするものだから、それを見た安夫と春雄は「のび太はふだんロクに食べてないんだろ」と冷ややかに反応する。

この会話を聞いたママが「見っともない」と怒り、ドラえもんに抗議。ドラえもんは「飲みすぎたな」ということでのび太の様子を見に行くと、のび太は空き地の土管の上に立ち上がり、

「輝く太陽、爽やかな風。ああ、生きてるって何という素晴らしいことだろう」

と、人生を謳歌している。


ドラえもんが帰ろうと言ってのび太を引っ張っていこうとすると、10円玉が落ちている。のび太は「僕は日本一の大金持ちだ」と見っともなさ全開。そんなのび太にスネ夫が「この前100円落としていったぞ」と告げに来ると、嬉しさのあまり気絶してしまうのであった。

効き目が消えるまでそのままにしておこうとドラえもん。家に戻ってみると、インドのおじさん(のび郎おじさん)が久しぶりに帰国してきたという。本作二人目のおじさん登場である。

のび郎おじさんと言えば、お年玉も高額の気前の良さがウリ。今年はお正月に帰れなかったということで、少し遅いお年玉一万円を渡そうとしてくる。ドラえもんは「だめっ」と猛反発。100円で気絶ということは、1万円ならショック死してしまうと考えたのである。


これまで出した「ムードもりあげ楽団」と「オーバーオーバー」というアゲアゲ道具同様、「カンゲキドリンク」もまた効き目が極端に強すぎる。

するとドラえもんの独り言を聞いていたジャイアンが「面白そうな薬だな」と言って、それをよこせという。

しばらくして目を覚ましたのび太は、あんなに幸せを感じたのは始めてだということで、更なる「カンゲキドリンク」を要求。けれどすでに残りはジャイアンにあげてしまっている。

そこでジャイアンに返せと抗議しに行くのび太。ジャイアンに物を返せと言った時の反応くらい、普段ののび太は知っている訳で、それを乗り越えて抗議にいくわけだから、どうやら「カンゲキドリンク」には、麻薬のような人を狂わす成分が入っているようだ・・・。

のび太に返せと言われたジャイアンは「返せだと!?」と、いつにも増して大激怒。「カンゲキドリンク」は怒りも何倍に感じるヤバい薬であるようだ。

逃げるのび太たちをジャイアンが追う。ところが石に躓き転んでしまうと、ジャイアンの様子が急変。薬の効果は、痛みももの凄く感じさせるらしく、ジャイアンは「のび太がいじめたあ」と大声を出して大号泣するのであった。


カンゲキドリンクは、感激させる薬というよりは、過剰に感情を昂らせる効果があるようで、この話を読む限り、負の側面が強すぎる気がしないでもない。

ドラえもんが出すアゲアゲ道具は、プラスの感情だけでなくマイナスの感情も強める効果ばかりだし、何よりもアゲアゲ具合が極端すぎる傾向があるようだ・・・。



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