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スネ夫の弟はなぜ消えたのか?/考察ドラえもん㉖前半

今回は、いつか取り上げなきゃと思っていたスネ夫の弟のお話。

初期の「ドラえもん」で数回姿を現わし、突如消えてしまったキャラクターはいくつかいて、これまで①ジャイ子 ②ガチャ子と記事にしてきた。

ジャイ子は消えてないじゃないかと思われる人もいると思うが、彼女はのび太の将来の奥さんということで登場し、数回顔を出したのち、のび太の奥さんがしずちゃんに代わってしまったので、役割を終えるように一度姿を消してしまったのである。ジャイ子はその後約10年のブランクを置いて再登場。漫画家を目指すという設定が与えられ見事に復活を遂げたのであった。

スネ夫の弟についても、初期のドラえもんに数回登場するのだが、こちらは特にきっかけもなく消えてしまう(消えた理由の考察については後ほど)。その結果、のび太の友だちは全員一人っ子状態になってしまうのである。

ところが、スネ夫の弟もまた、ジャイ子のように突如復活を遂げる。こちらも最後に姿を見せてから12年後という長い空白期間を空けての再登場であった。


では、まずスネ夫の弟の初登場回から見ていこう。

『お化けたん知機』
「小学二年生」1970年6月号/大全集2巻

本作は「ドラえもん」連載開始から半年経った「小学二年生」に掲載された。この号の一つ前では、ガチャ子が初登場している。どうもこの辺りは、色々なキャラクターを試しているような印象を受ける。

冒頭で、のび太は白いシーツを被ったスネ夫に驚かされる。満足げのスネ夫に、スネ夫に良く似た子供が登場。「おにいたん、これ見て」とビックリ箱を持ってくるのだが、スネ夫は全く驚かない。スネ夫を兄と呼んでいるので、当然この子がスネ夫の弟である。名前はこのお話では登場しないままである。

「誰も怖がってくれない」と泣き出すスネ夫の弟に、スネ夫は「必ず怖がるやつがいる」とのび太を紹介。スネ夫の弟はたいして怖くもないビックリ箱をのび太に見せるのだが、まんまとのび太は驚いて逃げていってしまう。「良かったなあ」と満足な骨川兄弟なのであった。

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人を驚かして喜ぶなんて許せない、ということで、ドラえもんは「お化けたん知機」を使って本物のお化けを探し出し、スネ夫たちを驚かせようと画策する。そして、山奥の井戸の跡でゆうれい、がいこつ、のっぺらぼうのお化けトリオを見つけ出す。初期のドラえもんは大らかなので、本物のお化けを登場させてしまう。

お化けたちは、「今の人間は怖がらないので、外の世界に出たくない」と、引きこもっているらしい。ドラえもんは「一目見てぞーっとした」とお世辞を使って、何とか外へと連れ出す。「外へ出るのは100年ぶり」だと感慨に更けるお化けたち。

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スネ夫の家に着き、一人ずつ入って驚かすことにする。

一番手でがいこつが家へ入っていくが、ペットの室内犬に足の骨を咥えられて行ってしまう。スネ夫のママの手に渡り、「これでおいしいスープが取れるざます」と大喜び。普通、訳の分からない骨をペットが咥えてきたらもっと驚きそうなものだが・・・。

続けてのっぺらぼうがスネ夫の部屋に入っていくのだが、スネ夫は「どうせのび太の仕返しだろう」と全く怖がらず、顔にへのへのもへじの落書きをされてしまう。

最後にゆうれいが意気込んで入っていく。ところが「人だまをつけ忘れた」とマッチを擦り出すのだが、湿っていて火が付かない。その様子を見ていたスネ夫の弟が、「火遊びしてる。お巡りさんに言ってやろ」と意地悪く脅迫し、飛行機ごっこの飛行機にして遊び、ゆうれいにとって侮辱以外何物でもない扱いを受ける。

だから嫌だったのだと収まらないお化けたち。仕方なくドラえもんはのび太を差し出し、目をひん剥いて驚かされるのび太なのであった。結局のび太ばかりが怖がった、というお話。

本作では、スネ夫の弟は、性格もスネ夫っぽく、基本的に嫌なヤツという描かれ方となっている。つまり、ミニスネ夫という位置付けである。

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『アリガターヤ』
「小学四年生」1971年8月号/大全集1巻

意外にも次の登場はそれから1年と2か月後。このお話は、「誰の言うことでも聞いてしまうのに、誰も自分の言うことを聞いてくれない」と嘆くのび太に、「アリガターヤ」という天使の輪のような道具をつけて、誰でも言うことを聞くようにする、という展開となっている。

ちなみに思い悩んだのび太は、いっそ川に身投げしようと考えるのだが、泳げないから止めたと、自殺を踏みとどまったらしい。

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この話自体、相当面白いのだが、スネ夫の弟の出番はというと、最初の方で僅か一コマのみ。学校帰りにスネ夫とジャイアンのカバンを家に届けさせられることになるのだが、スネ夫の弟が通りがかり、のび太は「スネ夫の弟だ、これ持っていってよ」とカバンを差し出すのだが、「べえ」と全く相手にされない。注意しておかないと読み飛ばしてしまうほどあっさりの登場シーンであった。

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『お返しハンド』
「小学二年生」1972年8月号/大全集4巻

そして三度目の登場は、二度目からさらに一年後。

本作はジャイアンに殴られ泣き寝入りをしているのび太に、人にされたことの3倍返しをしてくれる半沢直樹のようなひみつ道具を装着させてのドタバタ話。

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ところが、これがなかなか思うように働いてくれない。「お返しハンド」を付けてジャイアンの元に向かうが、まず部屋でパパに躓いて転び、その三倍返しをしようとするので、ドラえもんはパパを外の生ごみ入れに隠して難を逃す。

続けてジャイアンに出会うのだが、かあちゃんに謝りに行けと怒られたということで、のび太に土下座をして詫びを入れる。すると、お返しバンドは三倍の土下座を返すのだった。このへんも半沢直樹の展開にありそう。

殴ってくれなきゃ困るとジャイアンを追いかけると、それを聞きつけたスネ夫の弟が登場し、「よちなぐってやるぞ」とピコピコハンマーでのび太を叩こうとする。

やめろと逃げるのび太だったが追いつかれて叩かれ、そのお返しとばかりにスネ夫の弟を追いかける。その様子を見ていた通行人には、「あんな小さい子をいじめて」と白い目で見られる。

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ドラえもんが何とかのび太を押さえてスネ夫の弟を逃がすが、代わりにドラえもんがボコボコにされてしまう。おもちゃのハンマーの一撃に対して、300倍くらいのダメージを与えている。

話のオチはコミックで確認してもらうとして、スネ夫の弟は、ドラえもんに逃がされて、どうやら遠くまで行ってしまったようで、ここから12年間姿を消してしまうのであった。

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ここまでの3作品を見てみると、スネ夫の弟は、無理なく話の筋に織り込まれている印象を受ける。ミニスネ夫という役柄を活かした登場シーンばかりである。しかし、ここでいったん消える。なぜ消えてしまったのだろうか


まず、初期のドラえもんは色々な試行錯誤が行われているということがある。ドラえもん自体のキャラクターも定まっておらず、脇役の面々もまだまだ本領発揮とはなっていない。敢えて言えば、のび太だけが、最初からキャラクターが変化しない。

ガチャ子、ジャイ子、スネ夫の弟と登場人物は増やしてみたものの、あまり発展性が無かったのか、この3キャラクターを敢えて登場させるようなことをしなくなってしまった。いわば自然消滅のようなものである。

あと、もう一つ重要な視点として、ドラえもんの初期作品では、スネ夫がのび太の主たる目の敵となっているという点に注目しておきたい。

例えば連載五か月目「マル秘スパイ大作戦」では、花瓶を割ったのび太をスネ夫が先生に叱られるぞと散々脅して、自分の家来のようにしてしまう。

連載10カ月目「ペコペコバッタ」では、サッカーボールをぶつけられて眼鏡を壊されたのび太に対して、スネ夫がお前がボールを避けなかったいけないのだと無理やり責任転嫁をしている。

続けて連載12カ月目「タイムふろしき」では、古くなった不用品を新しくできるタイムふろしきの働きを見たスネ夫は、それをこっそりと盗んでしまう。最終的にはスネ夫のママが古くなったワニ皮のハンドバックをタイムふろしきで包み、ワニに戻してしまう。有名な台詞「新しすぎるざますっ」が登場する回となっている。


ジャイアンも乱暴者というキャラクターは最初からだが、スネ夫にくっ付いて行動しているような描かれ方で、ジャイアンの腰ぎんちゃくのようなスネ夫のイメージではない。今と逆の関係性なのである。

このようにスネ夫の意地悪キャラクターは連載当初は強烈で、登場回数も多かった。よって、スネ夫の弟、つまりミニスネ夫が登場する余地も、多かったのではないかと想像されるのである。


ところが、連載が二年も進むと、ガキ大将・ジャイアンのキャラクターが目に見えて濃くなっていく。先ほど紹介した「アリガターヤ」から二か月後の「ショージキデンパ」で、初めてジャイアンの美声(怒声)が描かれ、先ほどの「お返しハンド」辺りからは、のび太に乱暴を働き、それに仕返しするというお馴染みの展開が増えていく。数年後には「心の友」というようなセリフも登場する。

ジャイアンの存在感が増すのと反比例して、スネ夫の立ち位置はメインからニッチへと少しずつ移行していく。こうしたキャラ設定の修正によって、スネ夫の弟が出るようなシーンが必要無くなってしまったのではないかと思われるのである。

もちろん無理して、スネ夫の家族のシーンに書き足すことは出来ただろうが、毎月6本のドラえもんを書いていたF先生には、そのような余裕はなかったのかも知れない。

こうして知る人ぞ知るキャラクターとなったスネ夫の弟だったが、こちらもジャイ子同様突如の大復活を果たすのである。

残念ながら文字数が増え過ぎたので、今回はここで一区切り。次回は再登場の回を見ていく。

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