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マール星殿下と結婚確定?『見てしまった結婚式』/エリさまが王妃となる証拠①

「チンプイ」という作品をご存じだろうか。

初出は1985年に創刊された初めての全集「藤子不二雄ランド」の巻末に掲載された「新作まんが」である。その後89年にはアニメ化もされ、そこで作品を知った方も多いだろう。

藤子F先生の最後の長期連載作品であり、初めて小学生の女の子を主人公としたお話だった。内容は、異世界(本作では宇宙)からやってきたキャラクター(チンプイ)と、あまりパッとしない小学生(春日エリ)が同居することになるという、藤子作品の王道そのもの。

これまでの藤子作品のパロディやネタの焼き直しも含みつつ、小学生の女の子の気持ちをすくい上げる、新しい魅力も感じさせる作品となっている。


ざっと作品概要については紹介記事を書いているので、できればこちらもお目通しの程・・。


「チンプイ」最大の特徴は、主人公の春日エリちゃんが強烈にプロポーズを受けていて、それを断ろうとしたり、少し気持ちが揺らいだり…といったラブコメ要素が加わっている点である。

とある王国の王子からの熱烈プロポーズ。迷うことなく王妃の道を選びそうなものだが、問題は相手が宇宙人であるということ。さらにその容姿は、結婚するまでわからないというオマケ付き。

さらにエリちゃんには、同級生の男の子内木くんのことが好きで、わざわざ見ず知らずの星へ嫁ぐことなどしたくはないのである。

そんなエリちゃんの恋路については、下記の記事でまとめているので、もしよろしければ、ご一読下さい。。


チンプイはそんなマール星の殿下から、エリちゃんを説得するために派遣されたキャラクター。けれど、チンプイはエリちゃんの気持ちも良くわかるとして、無理強いもせずに、どちらかと言えば利害関係抜きの友情を育んでいく。

また、チンプイは科学と魔法を組み合わせたような「科法」を使ったり、高度な文明の進んだマール星の道具などを使って、エリちゃんのピンチを助けていく。関係としては、のび太とドラえもんにかなり近い。


そして、本作最大級の関心ポイントは、マール星の王子と内木くんのどちらをエリちゃんが選ぶのか、というお妃問題の結末である。

結論から言うと、作中にいくつかのヒントが出てくるものの、最終的な決着はつかないまま連載は終わってしまう。

なお、「チンプイ」は「藤子不二雄ランド」にて全58話描かれたが、58話目の最後に、あと2作書き下ろして単行本化させるという注釈が加えられていた。

当時の藤子ファンたちの間では、この2作品の中で、エリちゃんがお妃になるかどうかの決断をするのではないかと湧き立ったものだが、残念ながらその構想された2作は描かれることがなかった。痛恨の極みである。


しかし、ラストシーンが描かれることはなかった「チンプイ」だが、エリちゃんがマール星のお妃になるのは確定的だと言える。なぜなら、いくつかの嫁いだ証拠が、作中ではっきりと描かれているからである。

そこで、本稿から全4回のシリーズで、エリちゃん(マール星からするとエリさま)が、お妃となった「証拠」について、じっくりと検証していきたいと思う。

ズバリ、題して「エリさまが王妃となる証拠」。・・・お楽しみに。



『見てしまった結婚式』
「藤子不二雄ランド ドラえもん35巻」1987年04月10日刊

本作に関して言えば、タイトルから既にネタバレで、このまま事実を受け止めれば、エリちゃんはマール星の王子と結婚する未来は決定事項のように思えるが、いかに?


内木君との帰り道、内木の両親が田舎へ行ってしまって、今日1日、自分一人だという話を聞く。エリちゃんは、「じゃ寂しいでしょ」ということで、内木の家に遊び行くことにする。

「うん、待ってる」と内木が答えているが、内木くんもエリちゃんのことをほのかに好きなのである。そんな相思相愛の二人を、後ろからじっと見ている女の子がいる。スネ美である。

スネ美は名前通り、スネ夫の女子版で、嫌味な性格に育った大金持ちの子供であり、何より外見がスネ夫そっくり。ただ親類関係であるかは不明だ。


そうと決まったら、すぐに遊びに行きたいエリ。しかし、彼女にとっての大敵であるママの目をかいくぐらなければならない。お手伝いを頼まれてしまえば、当分外出不能となる。

そこで、エリも頭を働かせて、機先を制する。ママと会うやいなや、宿題をすぐにしたいと切り出し、内木くんのところへ行く理由を作ってしまうのである。


作戦が成功し、部屋に戻ると、いつものようにパンパカパーンというファンファーレとともに、大量のリボンが降ってくる。これはマール星の殿下の側近であるワンダユウが、何かプレゼントを持って現れた合図のようなもの。

今回のプレゼントは「占い水晶玉」で、これを黙って覗けばピタリとその後の人生が当たるのだという。

ここに至るまで、散々プレゼント攻勢を受けているエリちゃんは、殿下アレルギー持ちとなっており、水晶玉に目もくれず、内木の元へと出掛けていく。


内木の家へと走るエリちゃんに、大声でスネ美が話しかけてくる。いきなり「どちらへ行くのか」と聞いてくるので、内木の家の方向(北西)を指すと、「週刊「コミック少女」の占いページによると、北西の方角でエリちゃんが大変な災難に遭う」となど言い出す。

小学生の女子にとって占いは、もはや決定事項のようなもの。スネ美の話を真に受けたエリちゃんはトボトボと帰宅し、内木に「ママの手伝いをしなくちゃいけなくなった」と言って遊びに行くのを断ってしまう。

すると、その会話を聞いていたママが嬉しそうに、「じゃあ部屋の掃除からお願いね」と言って掃除機を渡してくる。結局いつものように、お風呂掃除や庭の草むしりなども付け加えられ、渋々お手伝いを始めることに・・・。


占いなんてあたるものなのか・・・。そんな疑念がエリちゃんに浮かんだタイミングで、チンプイが「これなんかは良く当たる」と言って、先ほどの「占い水晶玉」を出してくる。

この水晶玉は一種のタイムマシンで、仮定の未来ではなく、決定の未来を映し出すのだという。

試しに10分後の内木くんの未来を見てみようとすると、ビカと太陽のように水晶が光り輝く。・・・そこ映し出されたのは、内木にスネ美が何かをプレゼントしている様子。

何とスネ美手作りのケーキを内木に渡しているのである。これに嫉妬したエリちゃんは、お手伝いを中断して、内木君の家へダッシュ。そして会うやいなや、「食いしんぼ!!」と怒る。

「何のこと?」と内木。先ほど見たのは10分後の未来であって、まだ10分経っていないので、スネ美はケーキを持ってきていないのである。


スネ美に文句を言ってやろうと待ち受けていると、そこへタイミング悪くママが通り過ぎる。お手伝いを放っているということで、そのまま大口論へ。結局、その隙にスネ美がケーキを内木に渡してしまうのである。

エリはママの手伝いの再開を余儀なくされるが、こうしている間にも気が気じゃない。そこでさっきの続きを水晶に映してみると、スネ美のケーキを美味しいと言って内木が食べている。悔しすぎるエリ。

さらに30分後を見ると、スネ美がベラベラと先祖の自慢をしている。エリが聞き飽きたと言っているので、相当鉄板の繰り返し自慢であるようだ。さらに時間を進めると、スネ美の自慢は続いており、さり気なくディナーに誘っている。

エリは「キーッ。何というおせっかい!!」と大興奮。自分もさっきは晩ご飯でも作ってあげようなどと考えていたものだが。。。そんなエリを見てチンプイは「女のヤキモチは怖い・・・」と呟く。


居ても立ってもいられないエリ。そこで最終手段として、科法でお掃除を手伝って欲しいとチンプイにお願いする。なぜ最終手段かと言えば、マール星の道具や科法に頼っていると、いずれマール星に嫁ぐことになってしまうと、エリは考えているからである。

しかし、今回は急を要す。「ガラス汚れ蒸発」「ミニ・ブラックホール」などの科法を急がせて、手伝いを済ませてしまうと、内木がディナーに連れ出される前に止めようと言うことで、文字通り飛んでいく。(これもチンプイの科法)


結果的に内木はスネ美のディナーの誘いを断っている。お母さんが晩ご飯を用意しているし、勉強もやってしまいたいからだ。内木が真面目な性格ということもあるが、このやりとりを見る限り、スネ美には全く興味がないようにも思える。

そんなことも知らず、飛んで行ったエリは、内木の家の前で、家から出てきたスネ美と出くわす。そしてすぐに、「占いなんて嘘だったんでしょ」と問い詰める。ここからは、内木を巡っての女の戦いの始まりだ。


スネ美は占いの嘘をすぐに白状し、ズバリ告白する。

「ハッキリ言わせていただくわ。私、内木くんが好きですの。このチャンスにお近づきになりたくて・・・」

あまりの直球の投げ込みに対してエリは、

「ダメーッ、内木さんに馴れ馴れしくしないで!」

と、大反発。

しかし強気なスネ美は、内木がエリのものと誰が決めたのか、内木がそう言ったのかと、反論した上で、

「私、欲しいものは何でも手に入れてきましたの。内木さんもきっとそうなるわ!」

と強く断言する。スネ美はスネ夫の外見と、ジャイアンの強欲さと、出木杉のような恋のライバル関係という、最強の敵キャラであることが、ここで露見したのである。


ライバル登場でウカウカしていられない状況に。チンプイは内木にフラれたた殿下がいると慰める(?)。

言わば追い詰められたエリ。そこで、「怖いけどはっきりさせたい」と言って、水晶をまた出すようチンプイに告げる。エリが誰と結婚するか、結婚式の場面を見たいというのだ。


いきなりマンガ「チンプイ」の核心を突く展開。読者としても誰と結婚するか、知りたくてたまらないので、願ったり叶ったりではある。

チンプイは「人生の先が見えすぎちゃつまらないよ」と制止するのだが、「つまんなくても何でも見たい」と、既にエリのはやる気持ちは止まらない。

「わかったわかった」と言って、チンプイは「チンプイ」と水晶玉に科法を唱える。すると・・・


エリさまが王妃となる証拠①

ワーワーと大歓声が上がり花が舞う中、エリちゃんは綺麗なドレスを着て、手を振っている。そしてもう一方の手は、王子の風貌の男性の腕に絡ませている。

「妃殿下おめでとうございます」と掛け声が飛ぶ。・・・これは明らかに、マール星での殿下との結婚式の様子である・・・! 占い水晶玉によれば、エリはマール星のお妃となる未来が待ち受けていたのである。


衝撃的な未来を見せられて、エリはそのまま気絶してしまう。起きた後もくよくよと落ち込むエリ。チンプイは

「未来が変わることだって絶対にないとは言えないんだから」

と慰める。これは、「ドラえもん」でも語られた未来に対する考え方であり、藤子先生の主張でもある。だから、エリが絶対にお妃になるとは決まっていないというのは確かなのだ。


水晶に映し出された場面は3年か2年先の未来であるという。こうしてはいられない。エリは内木の元へと再び飛んでいき、大胆にもプロポーズ

「結婚して!!遠い星に連れて行かれる前に!!」

何が何だかわからない、困り果てた内木なのであった・・・。


本作は32話目の作品だが、ここまではっきりと王妃になるという事実が描かれたのは初めてとなる。

未来は変わるというような注釈付きなので、まだ確定情報とは言えないが、かなりの確率で王妃となる未来が待ち受けていることが判明した。

さらに、連載が続く中で、さらなる「王妃となる証拠」が出てくるので、次稿以降で詳しく追ってみよう。




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