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エリとルルロフと内木の三角関係!「チンプイ」『殿下に負けないで』/藤子恋愛物語⑦

藤子Fキャラクターたちは、恋愛体質の持ち主ばかり。
恋をしては、フラれたり、成就したり、片思いのままだったりと、悲喜こもごもが繰り返されている。
そこで、恋するFキャラの恋模様を考察していく大型企画「藤子恋愛物語」シリーズを始動!
第七弾は、第六弾に続いて、ラブストーリーの要素満載の「チンプイ」から、エリとルルロフ殿下と内木くんの三角関係を真正面から描いた作品をチェックする!

前回の記事で、エリのことが大好きなマール星の第一王子ルルロフ殿下の、エリに対するプレゼント攻勢について特集した。

エリは突然の宇宙人からのプロポーズに対して、猛烈に反発を覚える。エリはまだ小学生だしクラスメートの内木くんが好きなのである。けれどエリは、再三の殿下からのプレゼント作戦と自分が愛されていることを聞くにつれ、心が少しだけ揺らいでしまう。その記事はこちら。


本稿はその続編的な記事となっている。

『殿下に負けないで』(第39話)
「藤子不二雄ランド」「新オバケのQ太郎2巻」1989年4月14日発行

本作では殿下から究極とも言えるプレゼントが贈られてくる。これに対してエリがどのように感じて、そして内木くんに対する気持ちとどのように折り合いを付けていくのかが見所。ラブストーリー「チンプイ」にとっての最大重要作と位置付けて良いだろう。


また、本作はラブストーリーの要素と同時に「他の人と比べること」とはどういうことかというテーマが含まれている。そして、二つの「比較」を同時並行で描く物語構造となっている。

具体的に、

・エリのママが、エリに対して他の子と比較してダメだしをしていく
・文武両道のルルロフに惹かれるエリが、内木くんに同じような素養を求めてしまう

という二つのストーリーが同時進行していく。

この二つのストーリーがラストで「隣の芝は青い」というエリのパパの言葉でまとめられ、その先にラブストーリーとしてのオチも用意されている。極めて良くできたお話だと言える。


まずは一つ目の軸であるママとエリの言い争いについて見ていこう。

冒頭でエリの友だちスネ美(スネ夫の女の子版)が訪ねてくる。要件はキャビアのお裾分けで、

「うちでは食べ切れないので。ほんの口汚しに母が・・」

と聞く人によってはかなり慇懃無礼な挨拶をする。

これに対してママは、キチンとした挨拶だと受け止め、このネタでエリに「それに引き換えあんたは・・」と説教を始める。エリも「それは親のしつけにも問題がある」と言い返して口喧嘩に発展してしまう。


その後も出掛けようとするエリを捕まえ、「お向かいのサッちゃんはテストで十位以下はない」やら、「山口ツトム君も・・・」と他の人を引き合いに、エリにダメ出しをしてくる。

さらに帰宅後も「裏の浦部さんは母親の不在時に家事を一切引き受けている」と言ってまた説教を始める。何度も何度も誰かと較べられてお説教を食らうエリは、ほとほと嫌気がさしてしまう。


続けてルルロフ殿下の猛アピールについて見ていく。

ママに叱られ落ち込んでいるエリに、メロディーに乗せて詩が読まれる。なかなかこそばゆいので、全て抜粋してみよう。

きみのクリ色の髪には
春の日差しこそふさわしい
冬の木枯らしに乱されないよう
僕が守ってあげたい
君のあどけない口元には
天使のほほえみこそふさわしい
もし悲しみに歪むことがあれば
僕の胸も張り裂けるだろう
君のつぶらな瞳には
幸せの輝きこそふさわしい
曇らせる涙を 僕は許さない

この詩はルルロフ殿下からエリに捧げられた「愛の詩集」の一編なのであった。エリはこの詩に心動かされ、ワンダユウから「ありがとう」と喜んで詩集を受け取ってしまう。

が、すぐにハッと気がつき、詩集を放り出して出掛けてしまう。

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向かった先は内木くんの家。内木は野球に行くところだったのだが、そこを無理やり部屋に戻して、自分に向けた詩を作ってくれと要望する。ルルロフ殿下に負けて欲しくないと、一言添えて。

エリは思う。この頃大きな流れに乗って、少しずつマール星に近づいているような気がすると。そして考え込む。

「遠い星へ行くなんて絶対に嫌だけど、自分の気持ちが変わっていくのが怖い。だから内木さん頑張って!! 私をしっかりと地球に繋ぎとめて!!」

連載が始まって、エリの心がもっともマール星に近づいた瞬間かもしれない。

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ここでもう一押しということで、ワンダユウはエリに殿下の賞状を見せてくる。それはマール星トキョー大学の優等賞の免状で、全校一位の成績で卒業したのだという。

エリはそれを見て内木くんの元へ走り、今度は詩を止めて勉強するよう告げる。

さらにもう一押し。ワンダユウは殿下の獲得したトロフィーを見せる。それは、スーベルーボという地球の野球のような球技で、最優秀選手となったトロフィーだという。殿下は王室チームでは守ってはチャッピー、攻めては四番ターバとのこと。(ピッチャーとバッターにあたるらしい)

それを聞いたエリは、またまた内木の所へ向かい、今度は野球に行けとせっつくのであった。


勉強は優秀だが、スポーツは苦手な内木くん。残念ながら代打で出場するも三振で終わってしまう。試合後、エリは「もっと練習して年間最優秀選手を狙ってくれ」と声を掛ける。「根性とガッツで、殿下に負けないで!」と檄を飛ばすエリ。

しかしずっと殿下を引き合いにしてくるエリに対して、内木はキレる。「デンカデンカと、いい加減にしてよ」と。エリはすぐに反省し、「頼れる人がいなかったのでわがままを言ってしまった」と泣き出ししまう。

優しい内木くんはエリを慰めて、

「わかったよ、僕にできる範囲で一生懸命やるよ。約束する」

と男らしく宣言するのであった。

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ワンダユウは「殿下にはかなうまい」と満足そうに引き上げていく。エリはチンプイに、「公平に見て殿下と内木さんをどう思うか」と聞くと・・

「さあ、何とも言えないけど、一つだけ確かなことは、もし将来エリちゃんと結婚したら、内木くんが可哀そうだなと・・」

という意外な答え。これは例えて言うと、エリが結婚後、内木に対して隣りの家庭のダンナと比べてしまうようなことをするのではないか、ということを言いたいのである。

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本作はここまでで、
・エリのママがエリを他の子と比べてしまう
・エリが内木に対してルルロフ殿下と比べてしまう

という二つの似たような「比較」が並行して描かれている。

そしてその夜、パパがママに対して語る。

「いちいち、よその子と比べられちゃ、エリがたまらないよ。隣の芝は青く見えると言うじゃない。エリにはエリの良いところが・・・」

エリはこの会話を聞き、涙を流す。そしてその足で内木くんの元へと飛んでいく。夜遅いが今日の内に先ほどの態度を謝っておきたくなったのである。


向かうと、庭先で内木がバットを振っている。親からは「いい加減寝なさい」と注意されているが、

「うん、もう少し。約束したからには、精一杯頑張らなくちゃ」

と素振りを続ける内木。

その様子を見たエリは、たまらず泣き出しながら、

「ありがとう!! 私、地球に残れそうよ!!」

と叫ぶのであった。

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内木くんの苦手なスポーツにも取り組む描写は、「エスパー魔美」の高畑君を彷彿とさせる。彼もまた頭脳明晰な正義感溢れる人物だった。

殿下に惹かれてしまうエリ。けれど自然な態度でエリを地球に留めさせる内木。このエピソードを読む限り、まだまだエリは地球に残り、「チンプイ」は連載が続いていくように思える。


チンプイは全部で58話描かれており、最後2話分を足して最終巻が発刊される計画であった。しかしそれは叶わず、よって最終回は描かれていない。

殿下とエリと内木の三角関係は、残念ながら決着はつかなかったわけだが、エピソードを全て読んでいくと、結果は何となくわかる仕掛けとなっている。

エリは誰と結婚するのか。それについては、また日を置いて考察記事を作成したいと思う。


藤子作品の考察・解説・検証をしております。お立ち寄り下さい。


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