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【ドラえもん×孫悟空】ひみつ道具全集/藤子Fの西遊記①

藤子F先生は子供の頃から「西遊記」が好きだったと公言されていて、当然のように作品のモチーフに幾度となく使われている。

「西遊記」は16世紀、明の時代に成立したとされる白話小説。白話小説とは話し言葉(口語体)で執筆された大衆小説のこと。作者は諸説あって定まっていないが、いずれにせよ長い時代口伝されてきた物語なのだろう。

物語の原点は、唐の時代に実際に天竺まで経典を取りにいった僧侶・玄奘が旅を終えた後に遺した「大唐西域記」である。629年に出発して645年に戻ってきている。実に足かけ16年。仏教のために危険な大海原に挑んだ鑑真や空海の例からしても、この頃の宗教家は冒険家と言っても過言ではない。

「西遊記」は、全100巻の大著で中国の四大奇書の一つに数えられる。ちなみに有名な「三国志演義」や「水滸伝」なども四大奇書に含まれる。

ストーリーは誰もが知っての通り、唐の三蔵法師が孫悟空・猪八戒・沙悟浄らと仏教の経典を手に入れるため、はるばる天竺(インド)を目指すお話。途中でお馴染みの金角・銀角や牛魔王などの妖怪(妖仙)たちと対峙するなど、81の難を乗り越えていく。

三蔵法師の乗っていた白馬・玉龍も含めて旅する5人の仲間たちは、天界での罪人たちであり、贖罪の旅という意味も込められているという。


日本でも戦前から伝わっていた物語だが、1978年に日中平和友好条約が締結され、その前後で「西遊記」がTVでドラマや人形劇になって一大ブームを形成した

1978年から80年まで2シーズンに渡って放送されたドラマ「西遊記」は、一行を夏目雅子、堺正章、西田敏行、岸部シローと人気者で固めている。主題歌に採用されたゴダイゴの「Monkey Magic」と「ガンダーラ」は、メロディが印象深く今でも年配層のカラオケの定番となっている。大河ドラマの裏番組として放送され、20%以上の高視聴率を獲得したという。

さらにこのドラマに先立って、人形劇版の「飛べ!孫悟空」(1977~1979)という番組があり、ドリフターズが声の出演をしていたことでこちらも大人気を博した。

ドリフ好きだった僕は、こちらの方に思い入れがある。

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こうした西遊記ブームの中で、藤子F先生も1979年1月に「T・Pぼん」で西遊記をテーマとした話を描き、「ドラえもん」でも孫悟空に関係するお話をいくつか描いている。

そこで「藤子Fの西遊記」と題して西遊記をテーマとした作品を紹介していきたい。なお、西遊記と三銃士を掛け合わせた「ギャハハ三銃士」という作品もあるが、これは赤塚不二夫とつのだじろうとの合作という特殊な作品なので、今回の特集では扱わない。


まず本稿では「ドラえもん」に登場する西遊記に関する作品を3本取り上げる。

『ごくうリング』
「小学二年生」1979年3月号/大全集10巻

物語としての「西遊記」の主人公は何と言っても孫悟空筋斗雲を乗りこなし、伸縮自在の如意棒や、分身の術などの妖術を用いる。暴れん坊で自信家で自分勝手な性格が人間くさくて魅力的。

一筋縄ではない性格とパワーから悟空は天界で厄介者となり、釈迦如来によって取り押さえられて五行山に封印されてしまう。(掌から逃げ出せなかったという有名な逸話)

そして500年後。三蔵法師の弟子となることで封印を解かれて、天竺への旅に同行することになる。自分本位な性格の悟空は、500年くらいでは改心せずに師匠に対しても反抗的な態度を見せる。そこで、悟空の頭に呪文を唱えると頭を締め付けるリングのようなものを嵌めて、勝手な行動を取らないように制限を掛けたのだ。(リングの正式名称は緊箍児・きんこじと言うらしい)


本作は「しめる」「しまる」と言うと頭を締め付けるというまさしく悟空のリングが登場するお話。

遅刻や宿題忘れが続くのび太は、だらけないようにする機械をドラえもんに頼み、「ごくうリング」を出してもらう。ドラえもんはリングを貸す際に「のび太は飽きっぽいのですぐ止めると言い出すのでは」と気にするが、のび太は「だらけ癖が治るまで死んでも止めない」と決意する。

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ところが決意した先からしずちゃんの家に向かおうとするので、「しまれ」とドラえもんが言うとギュッと頭を締め付けられる。このリングは人に外して貰わないと取れない仕組みで、のび太をその後も苦しめる。

するとジャイアンに「カッコいいはちまきだ」と勘違いされて取り上げられ、ようやくリングの呪縛から逃れることができる。ジャイアンはこの仕組みに気付き、仕返しにやってくるのだが、「しめてやる」とのび太の首を絞めて自爆(自縛)してしまうというオチ。

ちなみに原作の「西遊記」では、最終回ですっかり徳を積んだ悟空のリングは消えてしまう。

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『きんとフード』
「小学二年生」1980年4月号/大全集12巻

悟空の乗り物と言えば筋斗雲。西遊記から派生した「ドラゴンボール」でも有名だ。

本作では筋斗雲は高い山に住んでいる実在の生物という設定にしている。大長編以外のドラえもんでこのようなキャラクターを登場させることは稀である。(初期ドラでオバケが実在したり、ドンジャラ村のホイなどが数少ない例)

「きんとフード」とは筋斗雲が大好きな食べ物で、これをエサに集まってきた筋斗雲を捕まえて乗り物代わりにしようと試みる。昔、仙人が飼いならしていたという筋斗雲は、扱いが相当に難しいらしい。

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仕掛けた「きんとフード」に集まってくる筋斗雲の子供たち。その中で一番イキの良い雲を捕まえて連れて帰り、翌朝学校に乗っていこうとする。しかし乗りこなすことができず、日本中を飛び回った挙句、昼過ぎにようやく学校に到着する始末。

スパルタの練習の末、筋斗雲を乗りこなせるようになるのび太。調子に乗って皆に自慢しているとジャイアンに取られてしまう。

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雲を手に入れて喜ぶジャイアンだったが、部屋に巨大な親雲が現れて家の壁をぶち破り、子供の筋斗雲は連れて行かれてしまう。

「筋斗雲」ではなく、筋斗雲のエサがひみつ道具となっているという異色の作品である。


『クローンリキッドごくう』
「小学一年生」1982年9月号/大全集15巻

『きんとフード』と同じく、テレビで「西遊記」を見てのび太が欲しがるパターンの始まり方。今回は悟空の分身の術を欲しがる。

「クローンリキッドごくう」は、髪の毛にふりかけて一本抜くと小さな分身が現れてくれるというひみつ道具。ただし効き目は30分と短いことと、いちいち髪の毛を抜かなくてはならないのが難点。

大勢の分身と共にジャイアンに喧嘩を挑むが、気弱なのび太の分身たちはジャイアンの「なんだやる気かっ」の怒声でビビってしまい、全員逃げ出してしまう。援軍なくボコられてリキッドを取り上げられるのび太・・。3本連続で西遊記絡みの道具はジャイアンに取られている

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ジャイアンはさっそくリキッドを使って分身を大勢作り出す。子分を作ったつもりが全く言うことの聞かない乱暴者だらけで、町中で悪さをして回る。結局ジャイアンのママにビシバシ殴られる羽目になってしまうのだった。


今回見てきた三本とも低学年向けのエピソードで「西遊記」人気にあやかったお話とも言える。今よりもずっと孫悟空が子供たちの憧れとなっていた時代だったのだ。


ところで、大長編「ドラえもん」では藤子F先生が病気療養のため初めて自ら映画原作を書かなかった「のび太のパラレル西遊記」という作品がある。オリジナルストーリーだが、舞台設定のアイディアはF先生の意向を組んでいたと思われ、そこで「西遊記」をモチーフにした点には着目しておきたい。西遊記は大長編のネタに採用するほど藤子先生にとって大事なお話の一つであったのだ。

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ただ「パラレル西遊記」はリアルタイムで映画館で見ているが、正直あまり好きにはなれなかった。それまでの大長編の完成度と比べて何段も劣っているように思えたからだ。

この時、藤子先生がご病気で本作が全くのオリジナルだったことを知らず、安孫子先生とのコンビ解消後の一作目であったことから、一人になった藤子先生に対する偏見もあったように思う。

そして「パラレル西遊記」を境に僕はドラ離れが始まってしまった。今思えば苦い思い出である。


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