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エリちゃんのお姉さんがいた?『エリさま記憶そう失!?』/エリさまが王妃となる証拠④

これまで3回に渡って「エリさまが王妃となる証拠」が描かれている作品を、発表順に見てきた。

『見てしまった結婚式』(第32話)では、マール星殿下との盛大な結婚式を未来を見ることのできる水晶を通して目撃した。

『あの子はだあれ?』(第35話)では、タイムマシンに乗って殿下と結婚してできた男の子がエリの下へとやってくる。

さらに『エリちゃんのベビーシッター』(第42話)では、その男の子がまだ赤ちゃんだった時の子を、タイムマシンでワンダユウが連れてくる。

『見てしまった結婚式』と『あの子はだあれ?』では、この将来は変わるかもしれないという注釈がつけられていたのだが、『エリちゃんのベビーシッター』においては、そんな説明もなく、もはや殿下との結婚は既成事実のように描かれている。

ここまでの3記事はこちら。


エリちゃんはあくまでマール星の王妃になんかなりたくない女の子。顔もわからないような宇宙人との結婚なんてまっぴらなのだ。ところが、そんなエリの意に反して、連載が進むごとに結婚することはほぼ確定的な流れとなっている。

これまでの3作品では、将来結婚することが前提の事実が提示されてきたが、まだその中では、結婚後のエリがどんな様子なのかはまだ描かれていない。

逆に言えば、将来のエリちゃんがきちんと妃殿下として過ごしている様子がないと、まだ妃殿下になったことは確定したことにならないように思える


ところが、それは単なる杞憂。第52話目にして、ついにマール星に嫁いだ将来のエリが登場するのだ。

『エリさま記憶そう失!?』
「藤子不二雄ランド ドラえもん第45巻」1990年06月03日刊

エリちゃんはのび太ほどではないが、忘れっぽい性格で、今日も宿題をしてくるのを忘れてしまう。楽しく遊んでいると嫌なこと(=宿題)を全部忘れてしまうのだ。

友だちとの帰り道、ノンコちゃんが久しぶりにお姉ちゃんが帰ってくるという話題となる。ノンコにお姉さんがいたことを忘れてしまっているエリだが、外交官になってパリに住んでいることを思い出す。

エリは自分も優しいお姉さんが欲しいと思う。宿題を見てもらったり、悩み事の相談に乗って貰ったり。良いことだけではないが、やはり姉妹は欲しいものだ。


いつものように塀を飛び越えて帰宅すると、庭にいたママが庭掃除を押し付けてくる。ママはご馳走を作る仕事があるのだという。そしてなぜご馳走を作るのかというと、何とお姉さんが戻ってくるからだと聞かされる。

「オネエサン!?」

と衝撃を受けるエリ。

ママに誰のお姉さんか尋ねると、「まさか自分のお姉さんを忘れたんじゃ・・」と訝しがられる。最近物忘れが悪化している自覚のあるエリは、「そうだったっけ」ととりあえず引き取るが、いくら思い出そうとしても、姉の存在は覚えていない。


そこへチンプイがご馳走の材料をどっさりと買い込んでくる。チンプイは、ママから8歳まで一緒だったお姉さんが4年ぶりに帰宅すると聞かされていて、「懐かしいでしょう」とエリに告げる。

全くそんな事実を覚えていないエリは、「記憶喪失症にかかったんだわ!!」と大騒ぎ。これに関しては、さすがにチンプイも記憶喪失ではないと考え、まずはパパに確認してみようということになる。


ところが、職場のパパに電話をすると、「そろそろマリ姉さんが家に着くころだろ」と聞いてくる。・・・やはりエリがお姉さんのことをすっかり忘れているのだろうか? そして姉さんの名前がマリであることが判明。

次に頼るのは内木君。クレバーだし、昔からエリのことを知っているので、助言を聞くにはピッタリである。

内木によると、エリと友だちになったのは小学三年生の時で、厳密にはその以前のことをは知らないのだが、8歳で家を出てしまった姉のことは初耳だという。

その上で、言葉だけでなく物証があればハッキリする。例えばアルバムの写真を見たら良いのではないかとアドバイスを送る。さすがは賢い少年である。


早速家に戻ってアルバムを開くと・・・、何とそこにはエリが見たことのない女の子が、エリの家族と共に写っている。写真を見てもさっぱり思い出せないが、姉がいたことは確かなようである。

と、そうこうしているうちに、エリの姉、マリが到着したとママが告げる。そして現れたのが、エリが大きくなったような風貌の女性なのであった。「まあすっかり大きくなって」と手を握られ、あなた誰とは言えずに、「お、お姉さんも・・・」と調子を合わせるエリ。

ママとの会話によれば、マリは国際結婚しており、一時帰国してきたのである。エリがどんな国か尋ねると、マリは「イセルーマー」と答える。エリはその国名の五感から「ルーマニアの近く?」と聞き返すと、「もっと上の方。小さいけど美しい豊かな国よ」と答える。

結婚相手は外人なのだろうが、マリによれば「主人も来るはずだったけど、忙しくて・・・」ということで、今回は会えないらしい。


さて、ここで勘の良い読者ならここで全てわかるところだろう。イセマールはマール星の言い換えだし、「もっと上の方にある国」とは、地図上での上ではなく、天地の上、すなわち宇宙と言う意味合いなのである。そして、マリの言う主人とは、マール星の殿下に他ならない。


マリはエリの部屋に行き、近くに散歩に出てと一緒にいるうちに、エリもだんだん懐かしさを覚えるようになる。相変わらず思い出せないが。他人じゃない気がしてくる。

この「他人じゃない」という感想を聞いて、チンプイはワンダユウじいさんの企みではないかと考え出す。ところが、ワンダユウを呼び出して事情を聞くと、ワンダユウもエリに姉がいたことなど聞いたこともないと言って驚く。

ワンダユウ絡みでないとすると、彼女はいったい何者なのだろうか・・?


一緒に街を回っている内に、どんどん親しくなっていくエリとお姉さん。念願だった姉に宿題を見てもらったり、パパも帰ってきての一家団欒が繰り広げらたりと楽しい時間を過ごす。

傍目に見るチンプイやワンダユウには、本当の家族としか思えない。そしてエリは一緒に寝ようと言って、ベッドに姉を連れて行く。もうすっかり仲良しの姉妹である。


夜も更け、空からUFOが飛んでくる。いつもワンダユウが乗っている乗り物である。そして中からは、もう一人のワンダユウが姿を見せる。ワンダユウが話を聞くと、なんと未来のワンダユウだと答える。そしてここでネタバラシ。

・妃殿下(=未来のエリ)が里帰りを希望し、しかも少女時代の地球へとの注文
・そのままでは現在の家族が大混乱するので、マリという架空の姉を作り出した
・科法「思い出作り」でニセの証拠(写真や記憶)を揃えたが、肝心なエリには効かなかった。

ここでは、エリが完全に妃殿下となっていることが肯定されている。将来エリが地球に残るのか、マール星に嫁ぐのかの論争は、この作品によって、ほぼ後者に結論付けられたと言っても良いだろう。

未来のワンダユウは未来のエリと合流し、マール星へ。妃殿下エリは「懐かしくて楽しくて」と述懐するのであった。このわずかな里帰りは、「パーマン」の隠れた名作『帰ってきたパーマン』を彷彿とさせる。


さて翌朝。未来のエリはいなくなり、元の一人っ子に逆戻り。エリは姉の姿を探すが、パパもママも「姉さんなんかいるわけない」、「夢でも見たんでは」と相手にしてくれない。

アルバムにもマリの写真は写っておらず、せっかく優しいお姉ちゃんができて嬉しかったとエリは非常に残念がる。何もかも夢だったのか・・・。が、一点だけ姉がいたことの証拠が残されている。それは、マリに教わって完成させた宿題である。とても自分一人でやったとは思えないエリなのであった。


本作はエリがマール星に嫁に行くことが確定的となる一作。しかも未来のエリは、今では考えられないようなしっかり者となっていて、マール星にて楽しく生活していることも伺える。

ただそうなると気になってくるのが、実際にエリがマール星に嫁に行くとなった時に、パパとママはどのような反応をしたのだろうか、ということ。記憶を操作して、国際結婚ということにしたのか。それとも本当のことをしゃべったのだろうか。

また、エリは何歳で結婚したのだろうか。小学生のエリに熱烈プロポーズしてくるくらいなので、かなり若い年齢である気がするが、さて。。


「チンプイ」の大団円は描かれず作品は終わってしまったわけだが、本作が最終回的な位置づけなのではないかと、僕などは思うのである。



藤子F作品を解説しています。


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