見出し画像

エリと殿下の赤ちゃん??『エリちゃんのベビーシッター』/エリさまが王妃となる証拠③

藤子F作品では珍しく、小学生の女の子が主人公の「チンプイ」は、一風変わった「シンデレラストーリー」である。

主人公のエリちゃんは、平凡な女の子だが、なぜか地球から遠く離れたマール星のお妃候補として選出され、マール星の殿下から熱烈なラブコールを受ける。

一般的に王子様からの求婚は、たいてい喜んで受けるものだが、「チンプイ」においては少し趣が異なる。エリちゃんはまだ小学生だし、同級生に気になる男の子(内木)もいるし、何より相手が訳の分からない宇宙人ということで、王子様からのプロポーズも断固拒否するのだ。

「シンデレラなんかになりたくない」とは、アニメ版「チンプイ」の主題歌のタイトルだが、まさしくそのような「逆シンデレラストーリー」なのである。


ところが、エリの大反発にも関わらず、どうやら最終的にはエリはマール星のお妃となることが、作中においてほぼ確定的であるように描かれている。少なくと4作品は、お妃前提のお話が存在する。

そこで「エリさまが王妃となる証拠」がばっちりと描かれる4エピソードを、連続してご紹介していきたい。

これまで2本を記事化済みなので、未読の方は是非こちらから・・。


ここまで「エリさまが王妃となる証拠」と題して、『見てしまった結婚式』『あの子はだあれ』の二作を取り上げた。前者は、マール星の殿下との盛大な結婚式を覗き見る話、後者は殿下との子供がエリに会いにくるお話であった。

これらのエピソードの事実だけ見れば、エリのマール星への嫁入りは確定的なのだが、二本とも「未来は変えることができる」という注釈が加えられているのがポイント。

これは、「ドラえもん」において、のび太の将来の結婚相手がジャイ子からしずちゃんに変化したように、「チンプイ」でも将来のフィアンセを変えることができるかも、という余白を残しているのである。


しかしながら、本稿で取り上げるお話では、もう一歩踏み込んだ証拠の提示が行われるので、それを見ていきたい。

『エリちゃんのベビーシッター』
「藤子不二雄ランド 新オバケのQ太郎第4巻」1989年6月9日発行

ことの始まりは、エリの友だち(?)小金山スネ美が、ベビーシッターのアルバイトをしているシーンから。

スネ美の家はスネ夫の家のように大金持ちで、小遣いには不自由していないが、働くことの尊さを体験させようという教育方針に基づいて赤ちゃんを預かることになったという。

スネ美はイギリス王宮のダイアナ妃が、貴族でありながら保母さんをしていたというエピソードを引くが、本作が発表された1989年はまだダイアナ妃がチャールズ皇太子(当時)と仲良く見えた時代であった。

ちなみにスネ美の子守りだが、泣き止まない赤ちゃんに対して手を焼いて、「泣き止んでくれたら千円あげるざます!」などと、札束で赤ん坊の頬を叩くようなセリフを吐いている。将来の育児が心配である。


すぐに人に影響されるエリは、自分もベビーシッターをやってみたいと考える。ただ、赤ちゃんが好きとかいうことではなく、単純に資金稼ぎのアルバイト目的である。

そこへいつものようにワンダユウがやってくる。エリがベビーシッターをしたがっていると聞いて、「素晴らしいお考えではないか」と感心する。そして、「適当な赤ちゃんを見繕ってくる」と言って、チンプイを連れてどこかへと飛んで行ってしまう。


ややあって、本物の赤ちゃんを連れてくるワンダユウとチンプイ。お座りができるようになったばかりのまだ0歳児であろう。またこの赤ちゃん勝手に連れてきたのではなく、ご両親には承知をしてもらっていると言う。

3時間10万円という破格の条件で、ベビーシッターを引き受けるエリ。マール星のベビー用品詰め合わせを渡され、ワンダユウは去っていく。


ここからはエリちゃんの子守り四苦八苦が繰り広げられていく。

・赤ちゃんがエリのおっぱいを触るので、キャッと言って赤ちゃんを投げ出してしまう。
・泣き声をママに聞かれて部屋を見に来られるが、チンプイが赤ちゃんの泣きまねをして誤魔化す。

泣き止まない赤ちゃんに対して、チンプイが科法「高い高い」で宙に浮かせて機嫌を直す。そしてマール星のミルク「グルメ印の女神のミルク」を飲ませると、ようやく笑顔をこぼす。


赤ちゃんはエリに懐いてきたようで、「ママ、ママ」と言って近づいてくる。エリは「お姉ちゃんと言いなさい」などと返しているが、このママ発言は、ラストへの伏線の一つとなっている。

ところが子守りの調子が良くなってきたはずのエリだったが、赤ちゃんが急に大泣きを始める。ゆりかごに入れても、抱っこしても泣き止まず、おむつが濡れているかというとそうでもない。

赤ちゃんは泣くのが仕事と言われるが、泣く理由がわからないのは、育児している側からすると、不安になったり、下手をすればイライラしてしまったりするもの。

エリもこのまま泣かれては、またママが部屋に入ってきてしまうと心配する。そこでチンプイが、マール星の科学力を駆使した子守り道具を赤ちゃんんに試していくのだが、全く効果がない。

ついには「こっちが泣きたくなるわ!」とテンパって、赤ちゃんと一緒に泣き出してしまう始末。


そこでチンプイがベビー用品詰め合わせの中から見つけ出したのが、「アドバイスガラガラ」である。このガラガラを泣いている赤ちゃんに向けて鳴らすと、その原因を説明してくれるという優れもの。これは育児世帯には必ず一台欲しいアイテムだ。

ガラガラによると赤ちゃんが泣き止まないのは、ゲップが出てないからだと助言してくれる。そして、ミルクと一緒に飲み込んだ空気を背中をさすったりして、ゲップとして出してあげればよいと、泣き止ませる方法まで教えてくれるのであった。

ケプと可愛くゲップをすると、赤ちゃんはニコリと笑って、そのまま眠ってしまう。ここまでくれば一安心だが、赤ちゃんの世話が大変だということを痛感したエリなのである。


赤ちゃんはそのまま寝たままで、約束の3時間が経過。ワンダユウが戻ってきて10万円を手渡す。お金目的のベビーシッターだったが、挑戦してみると子守りの楽しさ、喜びを感じたエリは、お金の受け取りを断ってしまう。

それよりも、「この赤ちゃんをまたいつか連れてきて欲しい」とワンダユウに頼む。すっかり可愛くてしようがなくなってしまうエリちゃんなのである。

この話を聞いたワンダユウは、「ハハア・・・さすがに!」と何やら意味深なことを呟く。「さすがにとはどういうこと?」と気にかかるエリだが、ワンダユウはこっちのことだと言って誤魔化す。


そしてここで読者に向けて種明かし。

ワンダユウが連れてきた赤ちゃん。それは他でもない、タイムマシンで連れてきたエリちゃんと殿下の王子様なのである。エリの下に預けることを了承したのは将来の自分自身だったのだ。

「当分秘密にしておくのだぞ」とワンダユウはチンプイに釘をさす。もしエリがこの事実を知れば、『見てしまった結婚式』と『あの子はだあれ』のラストと同じようにショックで気絶してしまったかもしれない。


本作では、エリが妃殿下となる証拠を提示しつつ、「未来は変わるかも」といった注釈も加わっていない。ワンダユウとチンプイの態度から考えても、連載が進み、もはやエリがマール星に嫁ぐのは既成事実となってきているようだ。

あとはエリの心変わりを見守っている状態であり、それは時間の問題なのかもしれない。

そして次回、更なる決定的な証拠が発表される!!



「チンプイ」も紹介しています。


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?