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未来から来た少年=殿下との息子!?『あの子はだあれ』/エリさまが王妃となる証拠②

まずは「チンプイ」ではなく、「ドラえもん」の話題から・・。

ドラえもんが未来から来た目的。それは、ジャイ子との結婚だったり、大きな借金を作ってしまうのび太の将来を、変えるためであった。

その目的はわりと早期に達成するのだが、その後もドラえもんは野比家に居続ける。それは、一度掴んだしずちゃんと結婚するバラ色の未来もまた、何かのきっかけで変わってしまう可能性があるからだ。

「ドラえもん」には、「未来は変えることができる」、もしくは「未来は変わってしまう」という深淵なテーマが含まれている。それは、未来は自分の手で作り上げるものだという藤子F先生の思想が色濃く反映されたものだ。


「チンプイ」にも「ドラえもん」と同様のメッセージを受け取ることができる。

主人公の春日エリは、遠くマール星の殿下に見初められ、熱烈なプロポーズを受ける。しかし当人にとっては迷惑千万で、基本的に王子と結婚したくないという「逆シンデレラ」物語となっている。

しかしながらエリちゃんの意に反して、殿下に惹かれてしまう瞬間が、ときどき訪れる。そればかりか、作中において決定的な結婚の証拠が描かれたりしているのだ。

ただし、殿下と結婚する未来は、一つの可能性に過ぎないというメッセージも、併記されるのがポイントである。あくまで未来を決めるのは、これからの自分自身なのだ。


本稿では、前回に続いて「エリさまが王妃となる証拠」を記事にしていく。今回も決定的な証拠なのだが、それはあくまで「現在」での証拠に過ぎないという点に、是非留意いただきたい。

ちなみに前稿は以下。



『あの子はだあれ』
「藤子不二雄ランド 新編集パーマン第12巻」1988年9月9日刊

前回は『見てしまった結婚式』という作品を紹介した。未来を見ることのできる水晶を使って、エリが自分の結婚式の様子を見た結果、なんとマール星での盛大な式を挙げていることが判明するお話である。

決定的な証拠ではあるのだが、チンプイは「未来は変わるかもしれないから気にしないよう」にと忠言していた。

本作も基本的に同様の構成をとる。簡単に内容を追ってみよう。


冒頭、いつものようにマール星の殿下から、ワンダユウじいさんを介してプレゼントが渡される。中身はお菓子だということだが、エリは宇宙人と結婚する気はないと言って受け取り拒否をする。これもいつも通りのやりとりである。

で、結局、チンプイが一度預かり、タイミングの良いところでエリに渡すという流れとなる。これも通常通り。


さて、エリの天敵と言えば、やれ勉強しろ、やれお手伝いをしろと口うるさいママである。今回は、先学期の成績がさんさんたる結果だったようで、「しばらくお手伝いなんかしなくていいから、ひたすら机に向かって勉強しろ」と命じてくる。

エリはそこで、「ママの子供の頃は勉強したのか、成績は良かったのか」と反発。するとママは急にオドオドし、「も、もちろんです」と口調もおかしくなる。疑わしく思うエリ。


部屋に戻ると、突然エリと同じ年くらいの外人風の男の子がいて、大笑いをしている。手には、エリが隠してあった答案(30点)を持っており、「ひどい成績!やっぱり思った通りだ」と言って笑っている。

「思った通り」という言葉が引っ掛かるが、男の子はエリを見て、「かっわいい・・」とにこやかになる。この男の子、予想通りマール星からやってきたらしいが、「帰って!!」とエリが叫ぶと、すぐに姿を消してしまう。

チンプイも少年が何者か分からないようだが、どこかで見たような気がしている。エリも誰かに似ているように思える。


渋々勉強を始めるエリ。だがすぐに「二学期は始まったばかり」と言ってやる気を失い、内木くんの家に遊びに行こうとする。するとそこへ再び先ほどの少年が登場、さらに輪をかけた酷い点のテスト答案をばら撒く。

少年が言うには、これは「タイムホール」で取り寄せた二学期のテストであるらしい。そして「タイムホール」を覗くと、その先では、ママがエリに激怒している。悪いテストの点の新記録だと言うのである。

これを見たエリは号泣するが、少年はそこで、

「がっかりしなくていいよ。努力すれば未来を変えることも不可能じゃない」

と、エリを慰める。さらに、今見た未来は、このままの状態が続いた結果であり、これからの勉強次第ではマシな未来になるはずだと少年は言う。

・・・これは、前稿『見てしまった結婚式』でのチンプイのセリフと一緒。そして「ドラえもん」でも描かれるテーマそのものを語っている。


少年は再び姿を消し、エリは「勉強するしかないわね」と観念する。しかし、机に向かうものの、急に勉強に集中することはできない。それは勉強する習慣が身についていないエリ自身のせいだが、環境のせいだと責任を転嫁する。

そこでチンプイは科法「環境ビジョン」を使って、エリの部屋を爽やかな森林にしてしまう。感覚調整つきの立体映像であるらしい。

ちなみに「ドラえもん」においても『サハラ砂漠で勉強できない』という本作とよく似たお話で、「観光ビジョン」という道具が使われている。


ただ静かすぎても寝てしまうことになるエリ。そこでチンプイは、冒頭でワンダユウから預かっているおやつをエリに勧めてくる。それは小さく丸いチョコで、試しに一つ口に入れると抜群の美味しさ。

エリが「もう一個頂戴」とねだると、そこでチンプイはそのチョコは「学習チョコ」という殿下からのプレゼントであることを明かす。殿下からと聞いて、「だったら要らない」とエリは固辞するが、どうしてももう一個食べなくなってしまう。


この「学習チョコ」は、言わば「馬に対する人参」「芸をするたびに角砂糖を貰えるサーカスのクマ」で、問題を一問解くごとに一個食べることができるという、学習促進効果のあるチョコなのであった。これによって、勉強はどんどん捗っていくが、一つ食べるごとにマール星に近づく気がするエリ。


満腹になるまで勉強をすると、またまたタイムホールが現われる、中を覗くと、今度はエリの二学期の成績が良くなったことでママとパパが大喜びをしている。いつの間にかマール星の少年もいて、未来が変わった学期末のエリだと告げる。

そして「ちゃんと勉強しないと元に戻っちゃう」と、釘をさすことも忘れない少年。エリはそこで「色々とありがとう」と告げつつ、一体何者なのか尋ねる。すると少年は、何やら意味深なことを言い出す。

「母上がいつも僕を叱るんだ。「私の子供の頃はわき目も振らず勉強を…」。ほんとかなあと思って「タイムマシン」で、母上の少女時代を見に・・・」

言葉が途中のまま、亜空間に姿を消してしまう少年。


母上の少女時代?・・・ということは?

エリはそこで状況を全て理解する。そう、今の少年はエリの将来の子供であったのだ。少年はマール人であったことを考えると、つまりエリと殿下の子供だということである。

ショックを受けて気絶してしまうエリ。『見てしまった結婚式』の時も、殿下との結婚式の未来を見て倒れていたが、全く同様の反応である。

そしてチンプイは言う。

「そんなにショックを受けなくてもいいよ。未来は変えることもできるんだから」

・・・その慰めは、失神したエリには届いていないようである。


作中、繰り返し繰り返し、未来は努力次第で変えられるというメッセージが語られる。エリがこのまま普通に生活していると、マール星に嫁ぐことになるのは確定的。だが、何かしら抵抗すれば、別の未来が待っているかも知れない。

本作は決定的な「エリさまが王妃となる証拠」を描くお話であるとともに、それはあくまで途中経過に過ぎないと語る。うまくバランスの取れたエピソードなのではないだろうか。



藤子作品の考察しています。


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