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ウメ星人、初めての痛飲『酒はナメナメ』/お酒の大失敗!④

この前、何気なくネットサーフィンをしていたら、死を早める食習慣というような記事で、お酒と書いてあってドキッとした。

自分はそれほど飲める口ではなく、飲むとすぐに顔を真っ赤にしてしまうタイプで、酔いから醒めるのも時間がかかる。つまり体質的にアルコールが合わないとされる人間なのである。

実際に自分の父親は完全な下戸で、お正月のお屠蘇ですら、恐る恐る飲んでいる雰囲気がある。ウィスキーボンボンなどももっての外である。

遺伝的にも、実際の体質としてもアルコールに弱いのに、飲みの場が好きということで、ついつい飲み過ぎてしまう。体に悪いなあと思ったりしていたところに、先ほどの記事が目に留まり、ドキッとしてしまったのである。


しかし、同じ人間なのにアルコールの強弱がこれほどはっきりしているのは、非常に興味深い。酒の強弱に、人種とか性別も関係無いとすれば、どういうことでその差が生まれてくるのだろうか?

本稿で取り上げるのは、「ウメ星デンカ」の一本なのだが、ウメ星の人たちはどうやら恐ろしいほどにアルコールの耐性がないようで、お酒をナメナメしただけでどえらい騒ぎになってしまう。

そんな大掛かりな「お酒の大失敗!」エピソードを見ていきたい。なお、これまでのシリーズ記事は下記。それぞれのび太のママ、スネ夫、バケル一家の泥酔模様を堪能いただけます。


「ウメ星デンカ」『酒はナメナメ』
「週刊少年サンデー」1969年17号/大全集3巻

ある朝、デンカが「昨晩、この家に猛獣が来たらしい」と噂している。吠え声が聞こえたというのである。真相を確かめるべく、王様とベニショーガが中村家の様子を見に行くと、廊下には猛獣と思しき足跡が残り、なぜか巨大な土管が持ち込まれている。

さらに、ウ~ウ~と唸り声が奥の部屋から聞こえてくるので、どんな猛獣が入りこんだのかと思いきや、それは二日酔いの頭痛で苦しんでいる太郎のパパであった。

酒の存在を知らないウメ星の人たちは、昨晩、太郎のパパが酔っ払って帰宅して大騒ぎをした様子を、猛獣の侵入と勘違いしていたのである。


「酒とは何か」と王様が興味を示すと、ママがウイスキーの瓶を出してきて説明する。

「怖い水ですよ。これを飲み過ぎて一生を台無しにした人もいます」

いきなり物騒な物言いを聞いたので、王様たちは「一種の毒薬であるか?」と尻込みする。ママは「そうとも言えるわ」とさらに脅す。

二日酔いのパパが「当分酒の匂いも嗅ぎたくない」と言い出したので、酒を王様に差し上げましょうとママ。「毒をオススメするのか、けしからん」とベニショーガが抗議すると、「飲み過ぎなければいい気持ちになれるんですよ」と、節度が大事なのだと強調する。


さて、恐る恐る酒を部屋に持って帰った王様たち。あの大人しい大臣(太郎のパパ)が猛獣になったほどなので、あまり近寄っては危ないと王妃に説明する。

酔っ払うという言葉も理解していないので、酒を飲むと「追っ払う」「かっぱらう」のだと勘違いする王様たち。その中でデンカはいち早く興味を示すが、子供の飲み物じゃないぞよ、と制止する。

その後捨てようとしたりするのだが、結局地球に住んでいるのだから、地球のサケを試してみよう、という流れになっていく。サケは夜飲むものと聞きかじったので、さっそく今夜に実験してみようということに。

最初は過敏に恐れていたが、この時点では飲み過ぎなければいいという言葉を信じて、むしろ飲みたそうな様子。だが、この好奇心がこの後大変な事態を引き起こすことになるのである。


さて、待ちに待った夜。酒を初めて見た人たちなので、どのくらい飲んだらいいかも見当がつかない。最初は微量から試そうということで、箸につけてしゃぶってみようということになる。確かにこれならリスクは少なそうだ。

ここでどういう順番で飲むか、ひと議論。アイウエオ順なら王様から、ばびぶべぼ順ならベニショーガ、などと不毛な押し付け合いをしていたが、結局、王様、王妃、ベニショーガの順で酒をひと舐めし、デンカは匂いだけを嗅ぐ

・・・すると、あっと言う間に様子がおかしくなるデンカたち。「ウイ~」と4人とも大泥酔となってしまったのである。しかも、気分はかなり良さそうにどんちゃん騒ぎが始まってしまう。

ベニショーガは太郎のパパにひとナメするように強要する絡み酒。王様は「スットナパットナ」とウメ星ダンスを踊る陽気なタイプ。王妃はゲラゲラと笑いが止まらなくなる笑い上戸。匂いだけのデンカも、「ぼかァ幸せだなァ、ウィ」と太郎を舐めだす始末。

お分かりのように、上のデンカのセリフは、加山雄三の大ヒット曲「君といつまでも」の一節をお借りしたもの。本作の約4年前にシングルが発表され、累計300万枚も売ったという化け物ソングである。


酔いがさらに進んだ王様たちは、外が十五夜の満月だと知り、「踊り明かそうウメ星ダンス」などと口走って、皆で走り出していく。太郎やパパたちは近所迷惑だということで、連れ戻しに向かう。

屋根の上で踊る王様と王妃に「迷惑だから帰りましょう」と声を掛けると、一言謝りたいと言い出して、わざわざご近所の人たちを叩き起こして回る。ベニショーガはノラ猫に因縁をつけて喧嘩中・・。

デンカは完全なる千鳥足で近所中を歩き回り、連れ戻そうとする太郎たちを「スッパッパ」と念力をかけて、空中でぶん回す。デンカ含めて太郎もパパもみんなで目を回してしまうのであった。


さて、どんちゃん騒ぎの翌朝。まさに祭りのあとという感じだが、太郎がデンカたちの酔いが醒めたかを確認しにいくと、ツボの中から二日酔いと思しきデンカたちの嘆き声が聞こえてくる。

・頭がグラグラだぞよ
・ウイ~~でありまする
・サケはこりごりでござる
・誰かどこかへ捨ててきてー

部屋では、騒ぎを引き起こしたウィスキーの瓶の周りを厳重に鉄格子で張り巡らせて、「近寄るな」「キケン!」などと看板を掲げて隔離してある。やはりウメ星人たちにとって、酒は毒薬であったのだ。


藤子先生はほとんどお酒の席に参加していなかったというし、「まんが道」でも微量のアルコール飲料(チューダ)で満足していた。おそらくあまりお酒は嗜まなかったに違いない。

けれどその分、周囲のどんちゃん騒ぎは冷静に見ていただろうし、そんな第三者的な視点が、藤子マンガの泥酔キャラたちに見てとれるのである。




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