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酔った姿が本当の性格説『ホンワカキャップ』/お酒の大失敗!②

やけに丁寧な言葉遣いの人がいる。仕事の関係であれば、丁寧に接するのは当然のことだが、少し丁寧すぎる印象を持つ場合がある。慇懃無礼とまでは言わないが、もう少し砕けて貰ってもいいんだけどな、と思ったりもする。

で、ここからは偏見だが、そうした普段バカ丁寧な人は、酔っ払うと豹変するイメージがある。普段大人しい分、酒でストレスを発散し、騒々しくなる姿が目に浮かぶ。

実際に僕の知人で、酔っ払った時に、言葉使いは丁寧なままだが、声量が極端にアップし、態度が大きくなっている人がいる。彼などを見ていて思うのは、酔った時の性格がその人の本来の性格なのでは? ということである。もちろん、これは偏見だ。


本来の性格になるのかはともかくとして、酔っ払うと性格が変わる人は大勢いらっしゃる。時として、普段の理性が飛んでしまい、普段ではやらない失敗をしたりすることがある。

藤子作品でも、酔った時に豹変する人物たちがいる。そして、大失敗をやらかす人たちも・・・。

そこで「お酒の大失敗!」と題して、酔っ払いFキャラたちを見ていきたい。前稿では、普段お酒を飲まないのび太のママの泥酔模様を描いた『ようろうおつまみ』を取り上げた。

今回も「ドラえもん」の一本を見ていくが、本作でも意外(?)な酒乱キャラが登場するので、どうぞお楽しみに。


『ホンワカキャップ』
「小学五年生」1983年11月号/大全集12巻

ムシャクシャした時に、嫌なことを忘れる手っ取り早い方法。それはお酒を飲んで楽しくはしゃぐことである。これは実感を込めて言いたいが、僕もここ最近のイライラの憂さ晴らしは酒席の騒ぎだったりする。

それほどお酒に強くはないのだが、飲みの場は大好き。そんな人、多いんではないだろうか。

「ドラえもん」世界でも、普段何かとストレスを抱えているのび太のパパなどは、家の中でも会社帰りでも、良く同僚と飲んでは憂さを晴らしている様子が描かれる。


本作では切手収集でスネ夫に差を付けられているジャイアンが、不公平だとキレだしてスネ夫の切手を「公平」に分捕られてしまう。その話を聞いたのび太は「見せびらかしたりするからだ」と笑うが、スネ夫に「他人の不幸を笑うな!」蹴飛ばされてしまう。

ムシャクシャを抱えて帰宅すると、昼間からパパが家で友人と飲んで盛り上がっている。のび太は「大人はお酒飲んでいい気持ちになれて」と羨ましがり、「不公平だ!!」と嘆くのであった。


そこでドラえもんは「お酒を飲まなくてもいい気持ちになれるよ」と言って、「ホンワカキャップ」という道具を取り出す。これは、ジュースやコーラなどの瓶の飲み口にキャップすると、そこを通じて注いだ液体がホンワカ放射線を帯びて、まるでアルコールを摂取したようにホンワカさせる飲み物に変化させるという。

要はアルコール成分なしに酔っ払える飲み物を作り出す機械というわけだ。とても便利だが、何だか麻薬的なヤバい印象も受ける。


実際にのび太がチビっと試してみると、すぐにホワ~といい気持ちになる。そして前作『ようろうおつまみ』の時の泥酔したママのように、「証城寺の狸ばやし」を歌いだす。これは完全に遺伝であろう。

ただ飲んだ量が微量だったためか、酔いは突然、あっと言う間に醒めてしまう。ホンワカが続くかどうかは、「ホンワカキャップ」を通じて飲む量と比例しているようだ。

のび太はしずちゃんに飲ませてみたいと言って出掛けていく。途中ジャイアンに「何か面白いことねえか」と聞かれて、ホンワカキャップのことを話しかけたため、ドラえもんが誤魔化して難を逃れる。


しずちゃんは何の躊躇もしないまま、「まあ面白そう」と言ってホンワカキャップを使ってみることに。最初から飲む気満々で、ホームサイズ(2リットル?)のコケコーラを用意して、3人で乾杯する。

するとすぐに気分が上がり、大声で笑うわ踊るわの大騒ぎ。今度は相当量を飲んだらしく、しずちゃんの家を出るタイミングでも、しずちゃんは「楽しかったわ、ヒック」と酔いを引きずり、のび太たちもフラフラとした千鳥足で帰路につくことに。

すると態度が大きくなってしまったドラえもんが、道を歩いているジャイアンに自ら話しかけて、いいものやるぞと言って「ホンワカキャップ」を渡してしまう。ドラえもんもお酒で気持ちが大きくなるタイプであるようだ・・・。


図らずもホンワカキャップを入手したジャイアン。塾に向かう途中のスネ夫を捕まえて、宴会やるからコーラ持って俺の家に来いと命令する。日和るスネ夫に、「俺とじゃ飲めねえってのか!?」とまるで嫌な上司のような圧のジャイアンである。

二人だけの宴会が始まり、しぶしぶ「かる~く一杯」と、下戸の部下のようなスネ夫だったが、一口飲むと「ホンワカしてきたよ!」と明るい感じになる。この二人もいきなり上機嫌となり、どんどんとコーラが進み、そのままジャイアンのカラオケへと突入する。

すると黙ってジャイアンの歌を聞いていたスネ夫。手酌でドボドボとコーラを注ぎ、ガバガバと飲み出すと、表情が邪悪なそれとなっていく。そして「ケッ!やめろやめろ、下手くそ」と素面(しらふ)なら絶対に言えないような文句をつける。

当然、「今何といった!?」とブチ切れするジャイアンだったが、酔っ払ったスネ夫は全く物怖じしない。逆に「下手くそを下手くそと言ってなにが悪い下手くそ」と、コップのコーラをジャイアンの顔にかける。


ここで攻守逆転。「お前コーラぐせが悪いな」とジャイアンはビビり出し、「そろそろ塾へ行かなくてもいいの?」とこの場をやり過ごそうとする。しかし、もはやスネ夫には手を付けられない。

もっと注げ、なければ買ってこい!とコーラの瓶を投げつけてくる。完全な酒乱おじさんである。この勢いはさらに続き、ジャイアンにお説教をしてくる。この言い草が酷いので、全文抜粋すると・・・

「でっかい顔しやがって!! てやんでえ!! みんな泣かされてんだぞ。お前なんか町の公害だぞ!! バーロー!!」

さすがに傷ついたジャイアンは、「何もそんなに言わなくても・・・」とシュンとなりメソメソと泣き出す始末。どうやら普段横暴なジャイアンは、泣き上戸であるらしい。

「心の中ではみんなに悪いと・・・、あたしつらい!」と、オネエ言葉を使い出したジャイアン。そこに畳みかけるように、スネ夫は「悪いと思ったら切手返せ」と、ジャイアンの胸ぐらを掴む。


そういうことで、ジャイアンはみんなから取り上げたおもちゃや本を、近所を回って返還することになる。後ろからは「さっさと回れ」とスネ夫がジャイアンを蹴飛ばしてくる。

ラストではホンワカキャップもドラえもんに返してしまったので、ホンワカ放射線の効果は今後得られず、近く二人の酔いが醒めてしまうだろう。「醒めた後が思いやられるなァ」と遠巻きに見るドラえもんとのび太なのであった。


普段従順な姿を見せるスネ夫は、人に必要以上に絡む酒乱タイプ。普段偉そうなジャイアンは、急にしおらしくなってメソメソとしてしまう泣き上戸タイプ。まあ、予想通りと言えばそうかも知れない。

個人的にはしずちゃんが、ホンワカキャップ(酔っ払うこと)に積極的で、しかも楽しく酔っ払っている姿を見れたのがとても良かった。楽しい酒は本当に楽しい時間になるわけだし、節度を持って、しずちゃんみたいな子たちと飲み明かしたいものである。




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