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ドラ世界一の迷惑ドランカーは誰?『ようろうおつまみ』/お酒の大失敗!①

本の読み方、文章の書き方。走り方、泳ぎ方。将棋の指し方、囲碁の打ち方。お茶の淹れ方、コーヒーの淹れ方。話し方、聴き方。

・・・何事にもやり方というものがある。やり方とは、方法、いわゆるテクニックのことなので、後から学ぶことが十分可能である。

一般的に忘れがちだが、お酒の飲み方も、そうした立派な技術の一つであると思う。

大学生になって初めて飲み会を経験し、調子に乗って飲んでいるうちに、いつの間にか自分のキャパシティを超えてしまい、トンデモなく酔っ払ってしまう。

アルコールは接種してから体内に循環するまでにタイムラグがあるから、体が容認できる酒量をいつ超えたかがわからなくなるのである。

なので、学生時代には、そうしたお酒の失敗を何度か繰り返し、自分の適量や飲むペースを知り、適切なお酒の飲み方を会得していくのだ。

授業でのノートの取り方や、試験の攻略法とともに、お酒の飲み方を、是非とも若いうちに心得ておいてほしいものである。


ただ、お酒のややこしいところは、酔っ払うと理性が失われてしまいがち、ということだ。つまり、学習したことが、酔ってチャラになってしまうのである。

なので、いつまで経っても、僕らはお酒の席での失敗を繰り返す。これは酒が強いとか弱いとかは関係がない。酔えば同じだからである。


さて、藤子マンガのキャラクターたちのお酒の飲み方はどうなっているのだろうか。基本的に未成年が主人公のお話ばかりなので、主人公が酔っ払って何か失敗をする、みたいな展開は考えにくい。

かと言って、お酒が物語に登場しない訳ではない。むしろ、藤子作品を通読していくと、あちこちで登場人物たちがお酒を飲み、何かしらの失敗や周囲への迷惑をかけている。

今回から数本の記事に渡って、「お酒の大失敗!」作品をご紹介していきたいと思う。第一回目は「ドラえもん」のたった4ページの掌編から。


『ようろうおつまみ』
「小学三年生」1975年12月号/大全集6巻

「ドラえもん」世界の主要な登場人物は、のび太たち子供たちなので、お酒を飲むことなど基本的にあり得ない。よって、お酒の失敗もないことになる。

しかし、大人は違う。例えば、のび太のパパは良くお酒を飲んでいるし、飲んで帰ってきて大騒ぎする話もある。では、のび太のママはどうだろう?

そういえばママがパパの晩酌に付き合っている様子は描かれていないし、外でお酒を飲む機会もほとんど無さそうだ。そもそもお酒好きなのだろうか。飲める口なのか、下戸なのか。そのあたりは割と謎である。

そんな謎が明らかとなるお話が『ようろうおつまみ』である。


まず、作中でも語らえる「養老の滝伝説」について簡単に触れておこう。養老の滝と言えば、居酒屋チェーン「養老乃瀧」を真っ先に思い浮かべるのは、僕の年代ではほぼ常識。でも養老の瀧と言えば、長く孝子物語の養老の滝を思い浮かべるものであった。

8世紀はじめの美濃の国、養老山。とある親孝行の若者が普段は薪を拾って生計を立て、目が不自由な父親のために大好きなお酒を買ってあげていた。ある日、山中で転んで気を失ってしまい、気がつくとお酒の香りがする。近くに酒が湧き出る泉があったのである。

若者は酒を汲んで帰って父親に飲ませると、目が快方し元気になった。この噂は女帝・元正天皇の耳に入り、この地に訪れて泉の酒を飲むと、病気が治ってしまう。たいそう喜んで、元号を「養老」に改号したという。

本作に登場する「ようろうおつまみ」は、そうした養老の滝の伝説から発案された嗜好品であるようだ。


ではここから本作を見ていく。たった4ページとは思えない、かなりの見所あるお話となっている。

この日はクリスマス・イブの夜。パパがいつものようにビールで晩酌しているが、あっと言う間に飲み干してしまい、今日くらいはいいじゃないかとママにお代わりをねだる。けれど「飲み過ぎは毒です」と認めてもらえない。

コップに残った最後の一滴までも飲み干すパパに対して、ママは「こんなもの、どこがおいしいのかしら」と感想を漏らす。このシーンを読み限り、ママはビールの美味しさを理解できていないようで、やはり普段からお酒は一切飲まないタイプなのだろう。


のび太はそんなパパの様子を見て「お酒が大好きなのにあんまり飲ませてもらえてない」とパパの側に立った意見を述べる。そしてのび太は「たまにはたっぷり飲ませてあげたい」と続ける。

のび太は部屋に戻り、「今夜はクリスマス・イブ。一本プレゼントしよう」と、この日のために秘かに貯めていたお金を貯金箱から取り出す。ドラえもんは、そんなのび太の親思いの姿勢に「えらい!感動した!」と言って、「ようろうの滝」の話を思い出す。

養老の滝伝説について、熱く語った後、ドラえもんは「ようろうおつまみ」という道具を出す。しかし、話が長すぎたせいか、のび太はすでに部屋から出掛けてしまっている。

パパが夕食でビールを飲んでいたので、かなり遅めの時間になっているはず。のび太は夜更けにも関わらず、プレゼントのお酒を買いに行ったのだ。今回の親孝行ぶりは本当に立派なものである。


「ようろうおつまみ」は、お酒を入れる瓢箪のような形の小さなおつまみで、これを食べながら水を飲むと、それを酒に変えてしまうという。酒の肴ではなく、肴が酒になるという逆転の発想食べ物である。

パパは「水なんか飲んでも嬉しくない、金魚じゃありませんからね」とブツブツ言っていたが、「ようろうおつまみ」のおかげで水は上等なウィスキーに早変わり。

「こりゃありがたい」とガブガブ飲み始め、ママにも「君も食べて飲んでごらんよ」とオススメする。ママも「お水なんか飲んだってしようが・・・」と懐疑的だったが、飲んですぐに「まあおいしい!」とパッと明るい表情になる。


ママの気に入った様子に、「もっと飲みなさい」と水を足すのだが、これをガブガブガブと一気飲みし、ゲハハハハハと笑いだす。どうやら、あっと言う間に酔っ払ってしまったようだが・・・。

そして顔を真っ赤にして、ヤカンの水をコップに流し込む。「飲み過ぎては・・」とパパが止めるが、「いいじゃない!お水ぐらい。けち」と、すっかりでき上がってしまっている。


しばらくして、のび太が、「僕からのささやかなプレゼントです」と言いながら、箱を手にして帰ってくる。箱の中にはきっと上等なお酒が入っているのだろう。

しかし、野比家の屋根の上では、ママがコップを手にして踊りまくり、パパがそれをどうにか止めようとしている。ジングルベルと証城寺の狸ばやしをごちゃまぜにした歌を大声で叫ぶママ。

せっかく貯金を下ろして買ってきたにもかかわらず、「今お酒を出しちゃまずいよ」とドラえもんにストップを掛けられてしまうのであった。


この話を読むと、ママは学生時代から今に至るまで、どうやらお酒の失敗をした経験がないものと思われる。自分の適量なアルコール摂取量も理解できておらず、何より酔っ払い慣れていない。

ビールの味はわからないようだが、上等なウィスキー(水)は、飲んですぐにおいしいと感動している。どうやら、基本的には酒飲みのタイプであるような気がする。単に飲み慣れていないだけなのだ。


それと、本作ではのび太がせっかく親孝行をしようとしたにも関わらず、ドラえもんがのび太に黙ってお酒の代わりを用意してしまった点が非常に気にかかる。

今回はたまたまママが酒乱となったわけだが、パパだけが「ようろうおつまみ」で満足してしまった可能性もあったはず。そうなるとのび太の親孝行は効果半減となってしまったかも知らず、完全にドラえもんの要らないお世話であった。

「養老の滝」の話をしている間に、のび太が買い物に出掛けてしまった段階で、「ようろうおつまみ」など出すべきではなかったのである。




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