見出し画像

パパがお酒を飲むと、バケルも酔っ払う?『楽しいお正月』/お酒の大失敗!③

酒飲みの家庭とそうではない家庭では、夕ご飯の食べ方に大きな差が出てくる。

酒飲み家庭では、基本的にお酒を楽しむことが最優先となるので、例えばとりあえずビールを飲むとなると、同じ糖質の炭水化物(白米)は後回しになり、おかず(肴)が先に出されていく。

お酒を楽しむということは、一気飲みして終わりということにはならず、ある程度の時間をかけて、ゆっくりと酒と肴を楽しむことになる。よって、食事時間が長くなるのが特徴的となる。

一方で、酒飲みがいない家庭では、ご飯とおかずは常に一緒に登場する。おかずはご飯のお供ということになり、ご飯がシメという感覚はあまり理解できない。ご飯を食べてしまえば、そこで夕食は終了となるので、食事時間もそんなに長くはならない。


僕の両親は酒飲みではなかったので、酒飲み家庭の流儀を知らずに大きくなった。母親は貰いもののワインを時々飲んでいたけど、食後の晩酌程度だった。

結婚して、奥さんの実家でお世話になる場面も増えたけれど、ここの家庭が典型的な酒飲み一家で、炭水化物後回し系の食べ方をする。僕もお酒を飲まないわけではないので、適当にお付き合いするのだが、そうなると最初から白米とおかずを食べるようなことにはならない。

味の濃いおかず、例えばお肉系やお刺身などは白米のお供にしたいのだが、酒飲み家庭では、お酒を美味しくいただくことが優先事項なので、肉や魚はご馳走的な酒の肴となる。

ご飯が後回しという流れは、酒飲み家庭では至極当然なことなのだが、僕の人生ではそれは異例だ。

酒飲み家庭とそうではない家庭。どっちの方が多いんだろう? その辺は調べても数字は出てこないが、わかっていることは、酒飲みとそうではない人では、食事に対する考え方がまるで違うということだ。

是非皆さまも、自分の食べ方が唯一の常識ではないことを、改めて認識されると、面白い発見があるかもしれない。


さて、あまり意味のない枕(まくら)から始めてしまったが、酒飲み家庭ではなかった我が家も、さすがに正月となるとお屠蘇が用意され、子供ながらにもチビチビと飲んでいたことを思い出す。全くの下戸だった親父も、お屠蘇だけは飲んでいた記憶がある。

酒飲み家庭では、お正月ともなれば、普段に増して酒量が増えるものと思われる。お屠蘇から始まり、とっておきのブランデーやワインや日本酒をチャンポンしていくことになる。

昼間から飲むことになると、飲む時間も長くなって、勢い酔いも深くなっていく。お正月は酒飲み人間たちにとっては、合法的(?)にお酒を心行くまで飲める、たいそういい日なのである。


藤子ワールドでは、そうしたお正月に酔っ払うお話がいくつかあって、既に一本記事にしている。それが、「エスパー魔美」の『ずっこけお正月』というお話である。

この話では、酔っ払った魔美の超能力が冴えたり、気持ちが大らかになって人目を気にせず超能力を使ってしまう場面が描かれた。エスパーは簡単に酔っ払ってはいけないと思わせるお話であった。


本稿では続けて、「バケルくん」のお正月エピソードを取り上げてみたい。人形使いのカワルくんのある特技が開花するお話でもあり、短ページながら見所の多い作品でもある。

ちなみに「ドラえもん」での「お酒の大失敗!」エピソードはこちらから。


「バケルくん」
『楽しいお正月』(初出:バケルくん、おさけでよっぱらうのまき)
「小学二年生」1975年1月号

「バケルくん」は1973年から75年にかけて49作が描かれた。宇宙人から色々な人物に変身できる人形セットをもらったカワルくん。主にバケル一家の5人(4人と一匹)に変身して、色んな事件を起こしたり、解決したりする。

5人のバケル一家のメンバーが個性的で、それぞれに特技がある。バケルくんは運動も頭も冴えているため、カワルはバケルに変身してふだんできない体験をする。

ところが、バケルが皆の人気者になってしまい、カワルは落ち込むなんていう場面も出てくる。これはパーマンとみつ夫の関係によく似ている。

最初は一体の人形と体を入れ替える設定だったが、すぐに人形のボタン二つをいっぺんに押すことで、二体同時に変身することも可能となる。そのうちバケル一家家族5人に変身することもできるようになる。

本作は、そういうバケル一家の扱いに慣れてきたあたりのお話となっている。



この日はお正月。カワル一家ではおせち料理を囲み、お雑煮を食べる良き元旦を迎えている。カワルは雑煮を食べ終わると、バケルの家へいつもお世話になっているからと、新年のあいさつに出掛けていく。人形たちにも楽しいお正月を送ってもらおうという心意気であった。

カワルは代わる代わるバケルの家族に変身していく。まずはパパとなり、バケルとユメ代にお年玉を用意する。続けてバケルとユメ代の二人同時変身をして、百万円以上ありそうな札束のお年玉をもらう。

バケルのパパの財布からはいくらでもお金が出てくるという設定なので、お金には一切不自由しない家庭なのである。


ここで、バケルとユメ代は普通に会話をしているが、本来一人二役をしているので、二人が同じセリフを同時にしゃべってしまうのが、これまでの複数変身のパターンであった。

実際に本作の5カ月前に発表された『バケル一家大集合』では、初めて5人同時の姿に変身したものの、「心が一つなのでみんな同じように動いて、同じことしゃべる」ということになっていた。

ところが、複数の人形を操っているうちに、カワルは一つの心で二つの体を別々に動かすことに慣れたのである。ちなみに、この能力はどんどん伸びていき、カワルは右手と左手で別の絵を描き分けられるようになる。


さて、バケルくんの世界のヒロインに、ユミちゃんという女の子がいる。カワルも好きなのだが、ユミちゃんは優秀なバケルのことが気に入っていて、ちょっとした三角関係となっている。

そんなユミちゃんがバケルの家に遊びに来て、羽根つきをやろうと声を掛ける。初めて羽根つきをするバケルは、負けて顔にスミを塗られてしまう。そこでユメ代に選手交代するが、こちらも敗退。その後も、パパ、ママと負けてしまう。


そんな中、カワルのパパがバケル一家を訪ねてくる。息子がお世話になっていると聞いているので、わざわざ新年の挨拶にやってきたのである。ここで、ユミの相手をするバケルと、カワルのパパの相手をするバケルの父親という、二体の人形を同時に動かすことになってしまう。

先ほど、複数の人形を別々に動かす技術を得てきたと書いたが、まだまだそれは練習中で完璧ではない。ここからは、そうした一人二役のドタバタが描かれていく。

カワルのパパを客間に案内し、「どうぞ」と席を勧めると、バケルもユミに「どうぞおかけください」と声をかけてしまう。つい一緒に動いてしまうのである。

さらにバケルはユミとの羽根つきで盛り上がるのだが、バケルの父親も突然カワルのパパの前で、「えいっ」と羽子板の素振りをしてしまう。


カワルのパパは「珍しい酒を持ってきた」と言って、高そうな蒸留酒の瓶を取り出す。お酒など飲んだことのないバケルの父親(カワル)だが、強く勧められるので、「じゃ、ほんの一口」と口をつける。

すると、高いアルコール度数だったこともあり、一瞬で酔っ払ってしまい、上機嫌に歌いだす。「もう酔ったんですか」と驚くカワルの父親。そして、もう一つの体であるバケルも、連動して泥酔状態に陥ってしまう。突然の変化に驚くユミちゃん。

カワルの父親はそろそろお暇することになり、先に遊びに来ているはずのカワルに、「そろそろ帰るぞ」と呼びかける。呼ばれたバケルは「行かなくちゃ」と酔った体を起こす。


この後どんなドタバタがあったかわからないが、帰宅するカワルはグデングデンになっている。「いい元旦だね、父ちゃん。ウィ」と父親にもたれかかる。「お前、いつ酒なんか飲んだ」と呆れ果てるパパであった。

お正月でも、お酒を飲めない人たちがいることを、どうぞお見知りおき下さいませ・・・。



この記事が参加している募集

コンテンツ会議

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?