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愛を叫んだ宇宙犬(ケモノ)『いとしのエリザベス』「ミラ・クル・1」<最終回>/藤子恋愛物語⑯

今回で16本目となる大人気(?)シリーズ「藤子恋愛物語」。ここ一年近くは新作を書かずに放置してしまっていたが、ネタが無くなったわけではない。少なくとも後5本はリストアップを終えており、ここから一気に出していく予定である。

これまでは、ドラえもん・オバQたち、キテレツ、エリさま、かわい子くんなどの恋愛模様を検証してきたが、本稿では少々マイナーな作品のマイナーなキャラクターの恋についてみていきたい。

ビュー数が伸びないタイプの記事になるだろうが、藤子ワールドのすみっこで、愛すべき藤子キャラが恋に悩んで暮らしているならば、それに脚光を浴びせるのが当noteの役割なのだ。


ということで、本稿では「ミラ・クル・1」という作品の、最終回にあたるエピソードを取り上げる。「ミラ・クル・1」は、わずか5作品しか発表されなかったこともあり、最終回でありながら全く最終回の感じが無い。

本作については、藤子先生が中断を経て連載を再開させる気持ちがあったと言われている。そのためにきちんとした最終回にしなかったものと思われる。

具体的な作品の中身の前に、「ミラ・クル・1」についておさらいしておきたいが、以下の記事を読んでもらうと話が早い。

読み返してみたが、これは分かり易い!(自画自賛)

記事にもある通り、「ミラ・クル・1」とは、主人公の少年の未来(みらい)と、少女のくるみ、しゃべる犬ワンのヒーローたちを総称して付けられたものである。

ヒーローの道具(アクセサリー)としては、スーパーパワーを得る「ストロングローブ」「ジャンピングブーツ」と飛行能力を得る「重量ボード」がある。

道具の力によって超能力を得る、パーマンやパジャママン型のヒーローなのである。

また、この紹介編よりもずっと前に「ミラ・クル・1」の作品を一本だけ取り上げているので、こちらの記事もどうぞ合わせてお読み下さい。



「ミラ・クル・1」『愛しのエリザベス』
「月刊コロコロコミックス」1979年12月号

今回の悩める恋の主人公は、犬のワン。ワンはみらいが飼っていた普通のペット犬だったが、知能を持つUFOによって手術を受け、UFOとワンの脳が繋がり、以来しゃべれるようになる。

ここで押さえておきたいのは、ワンの話す内容は、あくまでUFOの考えたことであり、UFOがワンの体を借りているとも言える。体は犬なので、鼻が利いたり、逆に重力ボードの扱いが下手だったりする。

心はUFOで、体が犬というキャラクターがワンなのである。

ところが、そんなワンが好きになってしまう相手とは、何と血統書付きのダックスフントのエリザベスであった。犬が犬を好きになっても問題はないが、ワンの心は別の生命体なので、何だか理屈に合わない気がしてならない。

まあその辺の辻褄はあまり考えずに、犬の体であれば犬が好きになるものだということで、ワンの恋の行方を追ってみたい。


本作では冒頭からワンの様子がおかしい。近頃食欲もなく、そわそわと落ち着かず、ふらふらと一匹で出歩いてしまう。みらいはワンに、「中身が宇宙人だとしても勝手に出歩くと保健所に連れていかれるかもしれない」と注意する。

すると何も反論せずに、深いため息だけついて、地下の基地へと戻っていってしまう。みらいは気になって、両親に「口も利かないんだよ」と相談すると、「イヌが口を利くわけないだろ」とパパは突っ込む。

みらいとくるみが宿題をするために地下基地へと降りると、ワンが物思いに耽っている。「悩みがあるなら打ち明けろ」と尋ねると、「君などに話しても、どうなるものでもない」とつれなく答えて、どこかへと行ってしまう。

そこで、基地に備え付けてある特殊な潜望鏡を使って、ワンの様子を伺うことに。ワンは犬であることを忘れて、二足歩行でフラフラしているので、通行人が驚いたりしている。

やがてワンは大きなお屋敷の前に立ち、しばらくボーっとしていると、そこへ頭にリボンなんかを付けた美人犬が通りかかる。ワンはドギ~ンと心を鷲掴みにされてしまう。

ワンの悩みとは、恋の悩みのなのであった。


基地に力なく戻ってきたワンに、みらいとくるみは救いの手を差し伸べる。ワンは「あの子に話しかけようとすると、舌がもつれてしゃべれなくなる」というので、みらいが人肌脱いで、「飼い主に友だちになりたいと頼んであげよう」と言うことになる。

さっそく犬のいる屋敷へと飛んでいくミラクル1の三人。飼い主よりも先にお目当ての犬と遭遇したので、コソコソと隠れようとするワンを引っ張り出して、話しかけるさせる。

恐る恐る「友達になってくれますか」とワンがお願いすると、相手の犬は「ワンワン」と答える。それを聞いたワンは「えーっ、本当!?」と文字通り飛び上がって喜ぶ。

ワンは「僕がこんなスタイルでも? 飼い主が貧しくて、冴えない男の子でも!?」と念押しし、それを聞いたぼん(=飼い主)は不愉快になる。


ワンはさっそくお相手の犬と庭を走り回ったりして、とても幸せそう。ところが、そこへ飼い主の女性が現れて、一気に雲行きが怪しくなる。

飼い主はペットの犬をエリザベスと呼んでいる。みらいが「ワンが友だちになりたがっている」と告げると、飼い主は目を真ん丸にして驚き、「その雑種の汚いドラ犬が!?」と、かなり失礼な物言いをしてくる。

みらいは「そういう差別はよくない」と反論するが、エリザベスは、ロンドン直輸入の純血種で、ワールドチャンピオンなのだと主張されたようで、怒り千万でみらいたちは、その屋敷を後にする。


みらいとくるみは怒れば気が済む話だが、フラれたワンは悲しさの余りに「ワオーオーオオー」と吠えて、水たまりができるほどに涙を流す。みらいは、しばらく犬の体を抜けて地下のUFOに戻るようアドバイスを送る。

すると犬の体ではなくなっているにも関わらず、地下でもUFOはオーンオーンと泣いて、それが地面を揺らす。UFOが犬の体だったからエリザベスを好きになったのではなく、UFO自体がダックスフントを好きになっていたことが、ここではっきりとわかる。


さて翌日、ワンは再び犬の体に戻り、朝刊を読んでいると、エリザベスが近頃頻発している血統書付きのペットが盗まれる事件に遭ってしまったことを知る。

ワンは犯人逮捕に動き出す。わざと町をうろついて、自分をペット泥棒に攫わせて、エリザベスを助けようというのだ。しかし、残念ながらワンは「雑種のドラ犬」なので、一日中ウロウロしても犯人の目には引っ掛からない。

よよ・・と涙が止まらないワン。そこにくるみが「サファリパーク事件の時の変身コートが使えないか」と提案してくる。このサファリパーク事件とは、本作の一作前に発表された『子連れライオンを救え』の事件のことで、この時ライオンの姿に変身した道具が「変身コート」である。

このお話は、また別の機会にきちんと紹介する予定となっている。


ワンは「変身コート」を被って、なるべく高そうな名犬をイメージする。すると、ワンの表情が若干残ったダックスフントの姿となる。そして、くるみがワンを連れて出歩き、泥棒が狙ってくるのを待つことにする。

人気のない夜の道をアクセサリーを付けずにくるみがワンを連れ歩く。危険なおとり捜査なので、空からは常にみらいが様子を伺うことにする。酔っ払いに声を掛けられたりするが、何事もなく時間が過ぎていく。

ところが、みらいがうっかりウツラウツラしている時に、タイミング悪くペット泥棒がくるみとワンに襲い掛かってくる。犯人は狂暴そうな大柄の男で、知能犯というよりは分かり易い強盗という風貌である。

出遅れてしまったが、みらいが犯行現場に到着し、ワンを連れ去った車を追う。そしてスーパーパワーで車を撃破して犯人をねじ伏せる。ワンも無事である。

犯人を脅して盗んだペットを隠してある空きビルへと案内させた後、みらいは犯人を警察に届けにいき、ワンはエリザベスたちを助けにいく。ワンは鳴き叫ぶ高級ペットたちに「諸君、もう大丈夫だ」と声を掛けていく。


事件を解決した帰り道、元の姿に戻ったワンは、エリザベスが自分に飛びつき、ペロペロと嘗め回してくれたと、興奮してみらいたちに語る。これで飼い主がどう言おうが、もうエリザベスの心を掴んだので、引き離されることはあるまい。

本作、どうやらハッピーエンドに向かいそうである。

ただ気にかかるのは、エリザベスの救助に向かったワンは、ダックスフントに変身した姿のままであった。エリザベスの前で、コートを脱いでいれば大丈夫のはずだが、果たして実際はどうだったのか・・。


翌日、朝早く起きだしたワンは、鏡の前で髪型などを丁寧に直して、エリザベスの元へと向かう。どうやら、助けた時にきっと遊びに行くと声を掛けていたようである。

エリザベスの方も、昨日のヒーローが訪ねてくるのを心待ちにしている。そこへ現れたのがワン。するとエリザベスは言う。

「あんたなんかじゃないわ。純粋のダックスフントよ」

ガガガーン! やっぱりワンは変身コートを着たまま救助して、ダックスフントの姿でペロペロと嘗められていたのである。

エリザベスも、もう少しはワンの話を聞いてやればいいと思うが、やはり彼女も自分と同じような純血にこだわってしまったのだろうか・・。とても残念である。

ワンは基地へと戻り、よよよ・・と泣き続ける。こうなってしまっては、もう慰めようもないみらいとくるみなのであった。

無念、本作は恋に破れるバッドエンディングなのでした。


ワンがフラれて「ミラ・クル・1」という作品が終わりとなってしまうことを考えると、本作は何とも切ない幕切れと言える。それは逆説的に、作者が本作をまだまだ続ける意思があったことを証明してくれる。

ちなみに、この悲恋な終わり方は、一本前に書いた「藤子恋愛物語」と良く似ている。それが下記。O次郎がハンサムな少年に化けたことで、本物と思ってもらえなくなる悲しいお話である。


藤子ワールドでは、あちこちで恋愛が巻き起こっているが、何だか悲しい終わり方が多いような気がしてならない。

後、数本恋愛シリーズを書く予定だが、一度メドがついたところで、恋の成就率を計算してみようかと思う。




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