ニッポンの夏、化け猫の夏。『怪談 化けネコ騒動』/しかしユーレイはいない⑦
日本各地に化け猫の伝説が語り継がれていて、落語やら講談などでのエンタテイメントとしても庶民の間に流布されていた。
特に有名なのが、佐賀藩の鍋島騒動と呼ばれる政変を背景とした化け猫の伝説で、その後、翻案されて歌舞伎の演目になったり、昭和の時代では「怪猫伝」として映画化もされた。
「怪猫もの」は、怪談映画の一つの定番となり、怪猫役が当たり役となった入江たか子などは化け猫女優などと呼ばれたりもした。自分も何本か見たことがあるが、艶めかしい化け猫という姿で描かれているので、エロスの香りを漂わせることで、人気ジャンルになったのではないかと思われる。
さて、藤子F作品では怪談もの、ユーレイものが多数あるのだが、大体の場合、怪奇現象やユーレイは現実のものではなかった、というようなオチとなるパターンばかりである。(僕はこれを「しかしユーレイはいない」と呼ぶ)
本稿では「化け猫」をテーマとした「しかしユーレイはいない」作品をご紹介したいと思う。
なお、前回の記事はこちら。これまでの「しかしユーレイはいない」シリーズの紹介もしているので、是非一度お目通ししていただきたい。本稿で紹介する作品にもかなり似通った部分がある作品でもある。
さて、今回は「ミラ・クル・1」という一般的にあまり知られていない藤子作品から一本取り上げる。本稿を書くにあたり、「ミラ・クル・1」の概要はきちんと記事化しておかねばならないだろうということで、急きょ「ミラ・クル・1」の第一話完全解説と銘打った記事を作成した。
まずはこちらをご確認いただくと、すんなり本稿を読めるものと思われます。
さて、以上を踏まえて本題に入る。
主要登場人物を確認しておくと、主人公の男の子が未来、パートナーとなる女の子がくるみ、未来のペットのワン、この3人(2人と1匹)がスーパーパワーを得て、正義のヒーローチーム「ミラ・クル・1」として活躍するお話となっている。
遥か昔に地球に落下し、地面に埋もれたままとなって動けなくなってしまったUFOが、ひょんなことから目を覚まし、地上に住んでいた未来とくるみにスーパーマンになれるアクセサリーや乗り物を提供することになる。
このUFOは意思を持ち、未来のペット犬のワンの体を借りて、自分の意志を伝えてくる。ちなみに、UFOの意識が離れるとワンは普通の犬に戻るという設定である。
本作は、そんなワンの口から語られるUFOの故郷の思い出から始まる。故郷ミラクル星の空の雲は真っ白で丸く、花は歌い、鳥が咲く、夢のように美しい星だという。
ワンは続ける。それに比べて地球はどうだろうと。空気は濁って雲は灰色、地上はゴミだらけだと指摘する。ところが、ワンが言うゴミだらけという場所は、ゴミ捨て場のことであって、さすがに未来は聞き捨てならない。
地球の悪口言うとエサやらないぞと反発し、くるみも「贅沢言わないの」と諭す。少々不満そうな表情をワンが浮かべる。
さて、ワンが投射していたゴミ捨て場に、小さな男の子が映し出される。何やら探し物をしているらしく、しばらく動き回っていたが、やがてがっくり肩を落とし、泣き始める。
未来たちは、少年の様子を伺いにゴミ捨て場へと「浮上」する。地下深く埋まっているUFOからは、地中を通過できるカプセルのような乗り物で浮かび上がることができるのだ。
少年が探していたのは子猫のジャム。大事に育ててきたのに、迷子になって1週間経ち、ゴミ捨て場のあたりで似たような猫がいると聞いて、駆けつけてみたのだという。
すると突然、未来の友人が、「それだ」と話に割って入ってくる。この友人曰く、夕べここで化け猫を見た人がいるのだという。夜の十時頃、ゴミ捨て場の前を通りがかると、パーっと明るくなって巨大な黒猫が姿を見せたらしい。
この友人が、「子猫のジャムが恨みを飲んで死んだので、化けて出たのではないか」と言い出したので、ジャムを探していた少年は泣き叫んでしまう。
するとそこへ、ガキ大将のランボーが通りがかり、「面白そうじゃないか、俺たちがその正体を突き止めよう、肝試しにもなるし」などと乗ってくる。ジャムを探す少年の話題が、いつの間にか、今晩一人ずつゴミ捨て場に行くという肝試しの話に変わってしまっている。
そして、夜十時に、未来たちも集合することとなるのだが、このように、ガキ大将がユーレイを見に行くぞと言い出す流れは、前稿での「ドビンソン漂流記」『ユーレイなんて怖くない!」とほぼ一緒。
未来が家に帰ると、ママが化け猫の噂話をしている。平山さんというご近所の旦那さんが、3mくらいの真っ黒な化け猫を見たのだという。化け猫なんて迷信だとママに言ってもらいたかったのに、逆に恐怖を増してしまう。
藤子キャラの男の子はすべからく幽霊嫌いと相場が決まっている。未来もその一人で、絶対に行かないと宣言するのだが、ワンが「ミラ・クル・1の誇りを持て」とか「僕がついている限り恐れることはない」などと説得してくるので、渋々集合場所へと向かうことに。
集まってきたのはランボーと未来と、他に4人の男の子たち。くるみちゃんは不参加である。ランボーが事前にゴミ捨て場にノートと鉛筆を設置しておいたらしく、一人ずつ名前を書いてくるというルール設定となる。
くじ引きで順番を決めると、ランボーが一番手となる。急にビビり出し、「くじ引きなんて男らしくないから嫌いだ」などと前言撤回する。そして、「肝試しは弱いやつを鍛えるためにやるんだ」と持論を吐いて、喧嘩の弱い順にしようと言い出す。
・・・ということで、結局未来が一番手となって、ゴミ捨て場に向かうことになる。恐る恐るの未来に対し、ワンは「そういう珍しいものを記録したい」ということでビデオカメラを手にして、意気揚々としている。
そしてワンは「ところで化け猫というのはどんな動物なの?」と質問してくる。化け猫を知らずについてきたようである。未来は説明する。
非常に真に迫った解説で、これを聞いていたはずのワンは恐れをなしたのか、いつの間にか姿を消している。
テンパる未来だったが、皆にバカにされたくないという一念で、「出るなら出ろ」と勢いに任せてゴミ捨て場に向かう。ところが、彼の目の前には何も現れず、問題なくノートに名前を書いて、大喜びで帰還する。
未来が何事もなく戻ってきたのを見たランボーは、これで安心ということなのか、今度はオレが行くと言い出す。「初めからそんなものいないとわかっていた」と、自信満々で夜道を進む。
そしてノートの設置場所に着くのだが、ここでニャ~という鳴き声が聞こえてくる。気のせいか・・などと思っていると、突然ある場所が光り出す。ランボーが何を見たのかはわからないが、ギャア~と町中に響き渡るような悲鳴を上げて、狂ったように皆の元へ駆け戻ってくる。
「化け猫が出たぁ!!」と言うのである。これにて、皆も退散。未来はビビりながら家に戻り、トイレを我慢したまま寝てしまう。そして、まんまとおねしょをしてしまう。ちなみに「ドビンソン漂流記」のマサルも同じようにおもらしをしていた。
さて、化け猫は本当にいるのだろうか。
ワン(UFO)が昨晩怖くなって逃げ出したことを謝りつつ、もう一度ゴミ捨て場に行って色々調査をしてきたところ、猫の毛を数本見つけたと言う。続けて、ビデオカメラに写った、昨晩のランボーの様子を流す。
ゴミ捨て場の横には高速道路が走っている。その付近をランボーが歩いていくと、光を見て驚いている様子が伺える。光の中は画面を外れて見ることができない。ワンの調べによると、光源はありふれた白熱電球だが、時速80キロで近づいていることが判明する。
さあ、ここまでが推理に必要な事件篇(前振り)となっている。この後、事件を解決するべく、ミラ・クル・1は現場へと出動することに・・・!
だが、夜出発の時間になっても、寝坊助のワンは全く目を覚まさない。仕方なく、ワンを置いて、未来とくるみが現場へと向かう。くるみは化け猫なんているわけないと、平然としている。
現場近くまでボードで飛んでいき、少し離れた場所から様子を伺う。しばらくすると、ニャ~ンと猫の泣き声が聞こえてくる。ビビっていると、ヒタヒタと何者かの足音が聞こえてくる。
なんと近づいてくるのはまるで鬼ばばのような風貌の着物姿の女性である。「誰じゃ!?」と声を上げ、未来もくるみもさすがにアワワ・・とパニックに・・・。
一方未来の部屋。ようやくワンが起きだしたが、未来がまだベッドの中で寝ていると勘違いし、起こそうと思ってバケツに汲んだ水をかける。が、とっくに未来は出発しているのであった。
そして勘のいい読者はわかるが、このベッドにばら撒いた水がラストのオチへと繋がっていくのである・・。
舞台は戻ってゴミ捨て場。先ほど化け猫かと思われた老婆は、単に白髪の長いおじいさんで、留守中にゴミ捨て場に捨てられてしまった三面鏡を探しに来たのだと言う。三面鏡には100万円のヘソクリが入っていて、慌てて取りに来たのである。(無事100万は見つかる)
なんだ、と思っていると壁に丸い光が現われ、その中に猫の姿が映し出されれる。「キャーッ、化け猫」とくるみが叫ぶ。・・・すると、その光の先、光源は高速道路を走る自動車のライトである。
未来はここで全てを理解する。光源は車のヘッドライトで、光の中に映し出されたのは迷子猫のジャムである。ライトの光が三面鏡で反射し、偶然猫を捉えて、壁に化け猫として写し出されたのである。
迷子になったジャムはゴミ捨て場を寝場所にしていたのだ。くるみたちはジャムを見つけて、あの子の家へ届けてあげることにする。結局のところ、今回のユーレイ(化け猫)騒ぎもまた、本物ではなかったのである。
さて、事件は解決し、安心して未来は眠れる。ところが布団に入ると、びしょ濡れ。先ほどワンが水を大量に掛けたからである。
濡れたベッドを見て、ママはまたおねしょをしたのかとカンカン。「僕じゃないってのに!!」と強く否定するが、ワンがやったとも言えず、その濡れ衣は解けそうもないようだ。
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