ヒーローものの新機軸!コロコロから生まれた「ミラ・クル・1」第1話完全解説!
1977年5月に創刊された「コロコロコミック」は、てんとう虫コミックスから漏れた「ドラえもん」をたっぷりと掲載しようということが主たる目的で作られた雑誌である。
当時は季刊誌として発売され、すぐに隔月刊となり、1979年4月号からは月刊化された。藤子A先生の「忍者ハットリくん」なども掲載され、80年代に花咲く藤子不二雄ブームの本拠地となった雑誌である。
今回ご紹介したいのは、「コロコロコミック」の月刊化を記念した新作「ミラ・クル・1」である。本作は「藤子不二雄ランド」で初めて単行本化された作品で、一般的な認知度は低い。
コロコロでは隔月連載され、計5本が発表されたのち、連載中断となる。中断の理由は、その翌年に劇場公開を控えていた「のび太の恐竜」の原作版を連載することになったからである。
「藤子・F・不二雄大全集」の「ミラ・クル・1」巻末の、コロコロ初代編集長だった千葉和治氏の解説によると、「ミラ・クル・1」は藤子先生のお気に入りだったらしく、あくまで連載再開を前提とした中断であったようだ。
けれど「のび太の恐竜」の映画大ヒットにより、その翌年以降も大長編を制作することになって、気持ちは「ミラ・クル・1」から離れてしまったという。それほどに「大長編ドラえもん」は、藤子先生の中で最重要の案件となったのである。
ということで、最終回らしい終わり方もせぬまま連載が事実上の終結となったことから、その後「てんとう虫コミックス」の仲間入りもできず、知る人ぞ知る作品となってしまった。
しかし、だからと言って「ミラ・クル・1」が面白くないのかと言えば全くそうではない。小学生の男女とペットの犬が正義のヒーロートリオとなって、様々な事件を解決していく、藤子F王道のヒーローマンガとなっているのである。
「ミラ・クル・1」全5話は、23~32ページの中編クラスのお話で、全て読み応えがある。いずれ全話を紹介する予定であるが、まず本稿では記念すべき第一話に焦点を当てて、作品のあらましと魅力をお伝えしたい。
主人公の男の子の名は未来(みらい)。藤子F作品でお馴染みの、勉強の苦手などこにでもいるような少年である。相棒となる女の子はくるみ。未来の近所に住む幼馴染みである。彼らに、未来のペット犬のワンが加わって、三人で「ミラ・クル・1」となる。
この後詳細を見ていくが、彼らが住んでいる町の下には、巨大なUFOが埋まっており、このUFOが授けてくれたアクセサリーや乗り物を使って、未来とくるみはヒーロー活動をすることになる。
ワンはただの犬だったが、UFOの手術を受けて、UFOの意思を言葉にしてしゃべることができるようになる。
第一話は「ミラ・クル・1」が結成されるまでの導入篇となっている。
冒頭、未来が逃げている。追っているのは、ヒーローごっこを楽しむ町のガキ大将(とその子分たち)。彼の名前は連載中にランボーということが判明するが、第一話では明らかになっていない。
未来はうまく隠れてやり過ごそうとしたところで、くるみが「未来さあん、かくれんぼ?」と声をかけてしまい、未来の居場所がバレてしまう。そして、正義の味方になり切ったランボーに乱暴されてしまうのである。
その夜、大きな地震が起こる。未来は驚いて飛び起きるのだが、両親は全く感じていない様子。庭ではワンが、ワンワンワンと何かに向かって吠えている。すると大きな球状の光が出現し、ワンはそれを追って走っていってしまう。
未来は「ワンワンワンワン・・」と大声を出して後を追うのだが、うるさい犬だと勘違いされて水を掛けられてしまう。そして、その晩は結局ワンは帰って来ないまま翌朝となる。
未来が学校に登校するとくるみちゃんの姿がない。休むのは珍しいことのようで、未来は放課後お見舞いに行く。ところが、くるみの家は雨戸が締まっていて、警察もウロウロしている。くるみのママには「今は都合が悪くて」と、お見舞いを断られてしまう。
ワンもまだ帰って来ないし、何か自分の身の回りで、良からぬことが起きているように思う、未来であった。
その夜。物語(ファンタジー)が動き出す。部屋の床から昨晩見た光の玉が浮かび上がってきて、中からワンが出てくる。未来が「どこへ行ってたんだよ」と話しかけると、「僕はワンじゃないよ」と言葉を喋り出す。驚く未来。
さらに、「早く着替えて行こう」と、ワンに誘われる。未来は戸惑いながら着替えて光の中に入ると、地面の下へと猛スピードで沈んでいく。そして何か建造物のような場所に辿り着く。
広大な廊下を進むとコントロールルームのような部屋があり、天井から声が聞こえてくる。未来が「誰、どこにいるの?」と質問すると、「僕はUFOだ」と意外な答えが返ってくる。
UFOの説明によると、
とのこと。
ここで藤子Fマニアの方ならピンとくるところなのだが、本作の「地下に埋まった知力のあるUFO」という設定は、「パジャママン」(1973~74)と全く同じなのである。
この後UFOにヒーローグッズと貰うのだが、その点も「パジャママン」と一緒。男の子と女の子がヒーローとなる部分も同じ。未就学児童から小学生に変更があったくらいの差なのである。
「パジャママン」は講談社系で連載されていたこともあり、こちらも単行本化されていなかった隠れた名作であり、よってあまり深く考えずに設定の使い回しを行ったものと思われる。
ワン(UFO)は、「地球人は戦争やら犯罪やらと程度が低い」と指摘する。それほどでもないと反論する未来に、「もっといい星にするために働く気はないか」とスカウトされる。
ワンの記憶を調べる中で、未来は頭は悪いが信用できる人間だと褒め(?)られる。そしてUFOの星のアクセサリーを身に付ければスーパーマンになれるのだと説明を受ける。
UFOが用意したアクセサリーは、ネクタイと手袋とブーツ。それぞれの特徴やネーミングは「詳しい説明は後で」ということで、ここでは紹介されない。第二話にて、明らかになるのだが、今回は特別に先回りして書いておこう。
本作では手始めということで、未来たちの乗り物となる「重力ボード」の乗り方の説明だけ受けることに。重力ボードは、波乗りボードのような板の上に細い棒が伸びていて、棒の先の握りの部分にスイッチが付いている。
このスイッチがエンジン点火ボタンで、棒を手前に引くことで重量波が発生し、ボードが宙に浮きあがる。体重を前にかけると前進し、重心を乗せるほどにスピードが増す。ひもを引っ張ると浮上することができる。
重力ボードの飛行中は、周囲に反重力場が発生し、その効果で光線が曲がって進み、周囲からは見えなくなるという効果もある。ただ、この設定も第二話で明かされることになる。
本作のように話数を重ねて少しずつ設定を明かしていくやり方は「エスパー魔美」や「パーマン」などでも行われているが、たいていそうした作品は長丁場を見据えた、藤子先生肝入りの場合が多い。
その点において、千葉編集長の見解通り「ミラ・クル・1」は藤子F先生のお気に入りだったということの裏付けとなっているように思う。
重力ボードの練習をしていると、真夜中の公園に男性の人影が見える。別のの男が現われ、何か口論となった後、カバンを受け取って帰っていく。
しばらくすると警察が集まってきて、先ほどの人影はくるみちゃんの父親で、警察に黙って身代金を犯人に渡してしまったことが判明する。くるみは何者かに誘拐されていたので、登校できなかったのである。
犯人の指示通り一人で身代金の受け渡しをしたのに、くるみはいつまで経っても解放されない。そこで未来たちは、ワンの犬の能力を生かして、くるみのにおいを辿ることに。
古ぼけたビルの地下に、くるみのにおいが続いている。地下室では犯人と縛られたままのくるみがいる。誘拐犯は「顔を見られたからには帰すとヤバい」ということで、くるみの首を絞めて殺そうとする。
警察を呼ぼうとする未来。しかしそんな暇はないし、何より君は強いんだとワン(UFO)に背中を押される。未来が部屋の扉を押すと、バアンとはじけ飛ぶ。この時点ではグローブの能力は説明されていないのだが、すごく力が出ていることはわかる。
急な部外者の侵入に驚いた誘拐犯は、刃物を持って未来へと飛び掛かっていく。すると未来のたった一撃で犯人は飛ばされてしまう。あっさりと未来の勝利である。
くるみちゃんは無事、三日ぶりに帰還。くるみは、どうやって救助されたのか、誰が犯人を捕らえたのかは何も覚えていないと説明し、それはテレビで報道される。くるみは、未来との約束を守って、知らないふりをしたのであった。
くるみが未来を訪ねてきて、昨晩のお礼を言う。そして、どうして強くなったのか、ワンがどうしてしゃべるのか、不思議でしょうがないとくるみが尋ねる。
UFOの秘密は無闇にしゃべるわけにはいかないが、くるみが新聞記者たちにしつこく聞かれているので、隠しきれないと半ば脅すと、「しょうがない、君も仲間に入れるよ」とワンが喋る。
こうして、三人揃って「ミラ・クル・1」という、ヒーローチームが結成されて、第一話目は幕を閉じる。それは、新たなるヒーローマンガの幕開けでもあった。
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