見出し画像

人類皆兄弟!!『最初のアメリカ人』/「T・Pぼん」で学ぶ米国①

世界中の歴史をあまねく取り上げていく藤子F先生後年のライフワークであった「T・Pぼん」は、全35作が残されている。晩年、藤子先生はあと二本書いて、その時に未収録だった作品を含めた単行本を出す計画だったが、ついにそれは叶わなかった。

その意味で「未完」の作品だと言える。

一本一本の完成度が高く、扱っている歴史的な題材も多岐に渡っているため、全作見所が満載。よって、この藤子Fノートでもほぼ全作品を解説するつもりで記事化を進めている。

以前、「T・Pぼん」で学ぶ日本と題して、3作品を紹介するシリーズを書いたが、今回は「T・Pぼん」で学ぶ米国ということで、アメリカの歴史を描いた3作品を取り上げたいと思う。

ちなみに日本史三部作は以下。


本稿はズバリ「最初のアメリカ人」である。

『最初のアメリカ人』
「月刊コミックトム」1981年10月号/大全集2巻

本作を読む前に、大前提として、本作は1981年に発表された作品だという点は押さえておきたい。近年は、遺跡発掘技術やDNA鑑定技術の向上によって、それまでの常識を覆すような発見が続いている。この10年でも通説がガラリと変わることはある。

つまり、今の常識を念頭に本作を読んで、「当たりの前の話じゃんと」思ってはいけないということだ。

本作は初めてアメリカ大陸に辿り着いた名も無き人物を描くわけだが、この人物がモンゴロイドであったという説を採用している。当時としてはまだ通説になる前のアイディアだったようだ。

・・・この辺文章に歯切れが悪いのは、ネットで調べる限り、最初のアメリカ人がモンゴロイドだったとはっきりしたのは近年だったとしつつ、いつからそのような説が唱えられていたかわからなかったから。

モンゴロイドの北方への大移動だったり、本作のテーマにもなっているモンゴロイドがやがて日本にも流入してくるという説については、何かまとまった解説本があると思うので、詳しい方がいらっしゃったら、是非お勧めいただきたい。


本作はあくまで1981年当時に存在していた諸説から、藤子先生が一つの説を採用して描いたお話となっている。それが今わかっている事実と比較しつつも、まずは藤子先生の考えを十分に堪能したいと思う。


今回ぼんたちが向かったのは、3万5106年前、最後の氷河期(最終氷期)が始まった頃のベーリング海峡

海峡といっても、それは今の話。この当時は氷河期だったので海面が下がっており、今のシベリアとアラスカが地続きとなっていた。地質学では「ベリンギア」(もしくはベーリング地峡)と呼ばれている地域である。

この状態は3万6000年前から約4000年続いたと作中で解説している。この説は、ネットで調べる限り諸説あるようで、実際にベーリング地峡を人類が渡ったのは、1万8000年前から1万5000年前あたりが有力説とあった。

最終氷期は7万年前から1万年前とされており、この期間であることは間違っていないが、本作の説と現在の説とは、ベリンギアが大陸だった頃の時代が違っているようである。


そしてぼんたちが今回人命救助を行うのは、この極氷のベリンギアを単独で歩いていた狩人である。

最初に書き忘れたが、本作は「T・Pぼん」の第二部に属する作品で、第一部で助手だったぼんが晴れて正隊員となり、ユミ子という女子中学生を助手としていた時のシリーズである。

よってユミ子はまだまだタイムパトロール歴が浅いのだが、抜群に気が利くし頭も良いため、優秀さにおいてはすでにぼんを追い越している。

本作では事前に任務について調べていたのはユミ子で、彼女が中心となって狩人の救助計画が立案・実行されていく。


ユミ子は、後期旧石器時代の極北地方での様式で家を建てていく。骨組みを作ったり、カリブーの毛を断熱材にしたりと、事細かに描写されており、このあたり実際の歴史の細部を大事にする藤子先生の考え方が見て取れる。

ちなみにカリブーとは、「ワンピース」の登場人物ではなくて、トナカイのこと。念のため。


さて本作は、一人の狩人を救うお話と、もう一つ「人類の共通するルーツ」というテーマも描かれている。具体的に、イギリスの王国をルーツに持つアメリカ人とぼんが同じルーツを持っていた、という謎が提示され、それを解くお話にもなっている。

ぼんがT・Pカタログで見つけたという「ルーツ探知機」。この機械を使うと、プラグを握った二人の共通のご先祖を探しあてることができる。試しに使ってみると、ぼんとユミ子は13代前のご先祖が同一人物であることがわかる。

ぼんによればこれは全く偶然ではなくて、ある種の必然であると言う。と言うのも、14代の間には実に1万6384の家系が交じり合う計算で、仮に百年四世代として計算すると、650年の間に一億の家系が交じり合うことになる。

大雑把に見て、日本中が親戚みたいなものなのだという。


そんな会話をしていると、ぼんがクラスメイトから、アメリカ人の友だちをみんなに紹介する集まりに呼ばれる。行ってみるとトーマス・F・ブラウンという男の子で二年前、父の仕事の都合で来日しているという。

彼のルーツは古いイギリス王朝・プランタジネット朝の血を引く家系であるという。プランタジネット朝とは、本作では詳しく書かれていないが、1154~1399年に成立したイングランドの王朝のこと。フランスの貴族であったアンジュ―伯が即位してできた王朝で、このあたりの歴史も相当面白いが、割愛したい。

と、そんな由緒正しきルーツを持つブラウン君と、先ほどの「ルーツ探知機」を使って、ぼんとの共通の先祖を探していくと、何万年か昔、北東アジアに住んでいた人が映し出される。

イングランド、引いてはフランスの貴族の血を引く少年と、純アジア人であるぼんは、なぜ同一のルーツを持っているのか?? この点が最後に明かされ、本作のテーマが浮かび上がる仕組みとなっている。


さて、ユミ子の活躍もあって、あっさりとベリンギアを歩く狩人は一命を取り留める。任務はこれで完了だが、ぼんは、彼がどこから来て、どこへ行くのがが気になって仕方がない。

なのでここからは、本筋(任務)とはかけ離れた、個人的な関心でお話が転がっていく。


まずは、彼がどこから来たのか。なぜこの人が住めそうもない地域を一人で歩いていたのかを調べる。

彼が進んできた道を遡ると、村が見つかる。調べるとそこは、カムチャッカ半島北部海岸に住んでいたモンゴロイドの村であることがわかる。夏は短かったが、豊富な自然と獣たちがいた。冬は厳しかったが、夏の貯えでほそぼそと命を繋いでいた。

そんな村で、一人の狩人が獣たちが冬になると向かう先に、村を移そうと提案する。しかし、獣が向かい先は、険しい氷の山がある世界の果てだということで、村人からは猛反対を受ける。かくして、自分の説が正しいことを証明するために、若き狩人は、単身ベリンギアを踏破しようとしたのである。


では次に、救助した狩人は、この後どこへ進んでいくのだろうか。とことん面倒を見ようと言うことで、彼の旅路を追走する。

ダイアウルフに襲われたり、オーロラの美しさに感激したりと、藤子流の美しくも過酷な旅が続く。ユミ子たちは、さり気なく狩人を援助して、彼は歩き続ける。そしてとうとう、アラスカの西海岸まで辿りつく。

そこは死の世界ではなく、森があり動物たちが住まう生命に満ちた新天地であった。狩人は大きな感激を隠さない。

そこでぼんは気がつく。自分たちは、歴史的大事件に立ち会ったのだと。すなわち、コロンブスより何万年も前にアメリカ大陸を発見した、その瞬間であるのだと。ぼんたちが助けた狩人は、最初のアメリカ人であったのだ。


一年後、狩人は村の人を引き連れて、新天地にやってくる。やがて、大人数の移動が繰り返され、彼らがアメリカ・インディアンの先祖となるのである。

ここで、もう一つの謎が解かれようとしている。ぼんとルーツが一緒だったブラウン君には、インディアンの血が流れてるのではないかと考える。モンゴロイドが、北米に渡ってインディアンとなり、一方では弥生時代に日本人にもモンゴロイドの血が流れ込んでくる。

すなわち、同一のモンゴロイドをルーツにして、ブラウン君もぼんも同じ血を引く関係だったということなのだ。


ぼんは現代に戻り、ブラウン君に握手を求める。

「人類皆兄弟!!」

どこかで、私たちは繋がっている。そんな前向きなメッセージが、本作の語りたかったテーマであったのだ。


「T・Pぼん」考察しています!


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?