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発明少年の素朴な日常「つくるくん」/ちょっぴりマイナーな幼児向けF作品④

これまで「ちょっぴりマイナーな幼児向けF作品」と題して3作品を記事にしてきた。一覧にすると、

「モッコロくん」(1974年1月~75年3月号)
「4じげんぼうPぽこ」(1975年4月~76年2月号)
「ぞうくんとりすちゃん」(1974年4月~75年3月号)
*リンクから記事に飛べます。

と、連載時期が密集していることがわかる。

何度か書いているが、1974年に最も数多く作品を発表した藤子先生は、75年もほぼ変わらない勢いで描きまくっている。しかも、立ち上げた新連載の数も凄まじい。ざっと、1974年前後にスタートしたの新連載を並べてみよう。

1973年「ジャングル黒べえ」
1974年「モッコロくん」「バケルくん」「パジャママン」「キテレツ大百科」「つくるくん」「ぞうくんとりすちゃん」「みきおとミキオ」「ドラミちゃん」
1975年「ポコニャン」「4じげんぼうPぽこ」
1976年「きゃぷてんボン」「バウバウ大臣」「Uボー」

4年で14作・・・異常事態である。


さて、本稿で取り上げるのは、この密集期間に一年間連載された「ちょっぴりマイナー」な幼児向け作品の「つくるくん」である。


「つくるくん」
「キンダーブック」1974年4月~1975年3月号 全12回

まず掲載誌である「キンダーブック」について。

「キンダーブック」は日本初の保育絵本雑誌として1920年に創刊された。出版社は1907年創業(!)という老舗中の老舗出版社フレーベル館。戦時中はつまらない軍の規制で「日本保育館」と社名変更を余儀なくされ、「キンダーブック」は「ミクニノコドモ」と改名させられた。

戦後に元の社名・雑誌名で復活し、長きに渡り刊行が続けられていたが、「つくるくん」はこの「キンダーブック」の裏表紙に一年間連載された。当然ながらこれまで単行本化されておらず、藤子・F・不二雄大全集で初収録された。

ちなみに「つくるくん」の始まる前年、1973年には「キンダーおはなしえほん」シリーズで「アンパンマン」が初めて連載された。つくるくんも、場合によっては幼児なら誰でも国民的アニメーションに育っていたかもしれない。(「ドラえもん」で十分だろうが)


主人公はつくるくん。年齢はキンダーブックの対象年齢から考えて、3~5歳程度だろう。発明好き、工作好きの男の子である。つくるくんといつも一緒に遊んでいる女の子がいるが、名前は作中では描かれていない。兄妹のようにも思えるが、隣の家の窓から姿を現わすシーンがあるので、おそらくお隣に住む幼馴染みという設定かと思われる。

あと、パパとママが登場するが、パパはつくるくんの発明によって、迷惑を被るケースがほとんど。

本作は、「てぶくろてっちゃん」から連なる、主人公の少年が自分の手で発明してしまうタイプの作品となっている。このタイプの頂点が「キテレツ大百科」であろうが、奇しくも本作とキテレツは全く同じ月に連載をスタートさせている。藤子先生の気分だったのかもしれない。

特徴的と思えるのは、つくるくんの発明は、彼自身のオリジナルだという点。「キテレツ」における「大百科」や、「てっちゃん」における「てぶくろ」がない。完全に自前のテクニックである点が、かなり珍しいと思う。

毎話一頁で、5~7コマの超短編だが、きちんと毎回新しい発明が出てきて、オチもつく。恐るべき完成度を誇る。

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今回は、全話の一言コメントを載せておこう。

4月号『かたをたたくきかい』
パパに肩を叩いて欲しいと頼まれて、「けんきゅうしつ」でさっそく肩叩き機を作るつくるくん。ところが完成してスイッチを入れると、こちょこちょとくすぐる動作をしてしまう。

笑い転げるパパをよそに、「作り方間違えたかな」と冷静なつくるくんが印象的。一話目、たった6コマで、世界観をあっという間に作り上げてしまう、見事なエピソード1である。

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5月号『あんぜん自どう車』
全自動、行先を伝えるだけで自走してくれる自動車を完成させたつくるくん。女の子を乗せてドライブに出かけるが、赤い風船を赤信号を勘違いして止まってしまう。

この発明だけで大金持ちになれること請け合いだが、信号と風船を間違えるという間抜けさが、妙にほのぼのさせる。


6月号『チョウの羽』
服の上から羽をつけると空が飛べるというこれまた凄い発明品。パパが借りるのだが、重かったらしく服だけ脱げて飛んで行ってしまう。

藤子作品の発明と言えば、必ず空を飛ばなくてはならない。夢いっぱいの作品である。


7月号『雨をふきとばすぼうし』
帽子の上のプロペラが回って、雨を吹き飛ばしてくれる。ジャイアンそっくりの大きい体の友だちのために、巨大なプロペラを付けた帽子を作ってあげるが、勢いよく動いてタケコプターを付けたように浮かび上がってしまう。


8月号『おやつが出る時計』
3時になると自動的におやつが出る凄い時計。ケーキとジュースが出てきて美味しくいただくが、次のおやつまで待てない。ということで、改良して文字盤を全て「3」にして、毎時おやつが出てくるようにする。

仕掛けが全くわからない発明だが、子供にとっての夢そのもの。

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9月号『ロープウェイ』
いつも遊んでいる女の子が、隣の家に住んでいることが判明。両家の二階を針金で結び、ロープウェイを走らせる。本作は大発明は出てこないので、何だか試したくなる一作である。


10月号『目ざまし時計』
お寝坊のパパ用に目覚まし時計を作る。時間になると中からニワトリが出てきて、起きるまで突っついてくれるという代物。


11月号『じゃんけん箱』
けん玉の遊ぶ順を決めるため、女の子とジャンケンをすることに。そこでつくるくんはじゃんけんに強い「じゃんけん箱」を作る。これを使って女の子とのジャンケンには勝つが、勝ったのは僕だと言って、じゃんけん箱の手がけん玉で遊びだしてしまう。

藤子作品によく出てくる「ロボット反乱」ものの一本とも言える作品である。


12月号『おんぶロボット』
つくるくんがママにおんぶしてと甘えるが、「大きい子が笑われますよ」とやんわり拒否。仕方なくおんぶロボットを作っておんぶしてもらう。するとお使いに向かうママをおんぶして歩き出してしまう。

まだまだ甘えたいお年頃の心を掴んだお話となっている。

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1月号『ふしぎなしゃぼん玉』
どんな形にもできるシャボン玉を発明する。女の子とイヌや小鳥を作って遊んでいると、ガキ大将キャラの男が「僕によこせ」と近づいてくる。そこで巨大なかいじゅうのシャボン玉を作って脅かし、ガキ大将は「きゃあ」と言って逃げていく。


2月号『パトカー』
お菓子(まんじゅう?)が一つなくなり、つくるくんたちがママに疑われる。そこで犯人を捜してくれる「パトカー」を作ると、ぴぽぴぽ鳴りながら動き出す。犯人はつまみ食いしたパパであった。

勝手に犯人を見つけてくれるという点でドラえもんの「正義ロープ」を思い起こした。


3月号『ふとんをうかすガス』
布団に吹き込むと浮かぶガスを発明するつくるくん。座布団を浮かして遊んでいたが、布団で昼寝しているパパを見て、浮かべてあげようとガスを入れる。するとぐうと強くいびきをかいたので、風圧で外へと飛び出して行ってしまう。

パパがつくるくんの発明と絡むと、大体ろくなことならない。

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どういう経緯で「キンダーブック」に藤子先生が連載することになったかは、現時点で資料が見つかっておらず不明。藤子先生と保育絵本の組み合わせはベストマッチだとは思うが、そのあたり知っている方がいれば教えて欲しい。


メジャーからマイナー作品まで、様々な考察をラインナップ。


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