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「ドラえもん」の穴埋め? 不思議昆虫「モッコロくん」/ちょっぴりマイナーな幼児向けF作品①

1970年に「ドラえもん」が小学館の学習誌でスタートし、そこから20年以上に及ぶ長期連載に発展していく。そうしたことから、「小学一年生」から「小学六年生」まで「ドラえもん」だけが連載されていたように思っている人も多いだろう。

しかし、連載が始まったばかり1970年代前半は、「ドラえもん」の人気は定着せず、他の作品も並行して描かれていた。その内の一本が、今回紹介する「モッコロくん」である。


個人的に「ドラえもん」は幼児向け・低学年向け雑誌では、作品性が本領発揮していない印象がある。短いページ数で納めなくてはならないので、①困ったことがあって、②ひみつ道具を出して、③それで解決する、という3ステップを踏むのが難しいからである。

実際に「幼稚園」や「よいこ」で連載された期間は短く、「小学一年生」でも一年半の間連載が途絶えた時期があった。

「モッコロくん」は、そんな「ドラえもん」の代わりに、幼児向け雑誌の穴を埋めるようにして連載された作品なのであった。


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「モッコロくん」
「幼稚園」1974年1月号~1975年3月号(全15話)
「小学一年生」1974年4月号~1975年3月号(全12話)

モッコロくんは、庭で凍えているところをゆうちゃんという少年に救われて、一緒に住むことになった「昆虫」である。虫だと考えると少々体が大きめで、リアルにいたらちょっと怖い気もする。

モッコロくんの特技は、触角を使って人や物を大きくしたり小さくしたりできる。他の虫と会話ができて、自由に指示して動かすこともできる。「笑い虫」というファンタジーな昆虫を出したり、虫を呼ぶ笛を持っている。

話のモチーフとして徹底的に「虫」にこだわっているが、これは幼児・低学年の子供たちが虫好きであることをきちんと理解してのことである。ただし、モッコロくんにそれほど技が豊富ではないことや、人気のある虫の種類は限られていることから、連載後半はややネタ不足気味の印象も受ける。


本稿では全話をザッと見ていって、気になる部分についてコメントしていくことにしたい。まずは「幼稚園」から。

『こんにちわモッコロくん』
凍えているところをゆうちゃんに助けられる。ママが庭で無くした真珠を探すべく、触角を使って体を小さくしてアリさんに頼んで探してもらう。この時アリには「モッコロさま」と呼ばれているので、モッコロくんは昆虫世界では偉い人なのかもしれない。

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『いじめっ子にはまけないぞ』
モッコロくんにおけるガキ大将の名は「げんごろう」。相変わらず雑なネーミグである。

『おかしなわらい虫』
3話目にして早くも架空の昆虫「わらい虫」が登場。モッコロくんが口笛を吹くと現われ、人の鼻の中に入ると、その人を笑わせることができる。これにてパパとママの夫婦喧嘩は解消となった。

『ぴいぷうぽう』
吹くとその音色によってあらゆる虫を呼ぶことができる笛を使ったお話。トンボ・チョウチョウ・ハチが登場する。

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『とっきゅうアオムシ号』
アオムシを新幹線のひかり号に変えて乗るというお話。カタツムリも登場。

『アメンボのふしぎ』
アメンボの力を借りて、水上をスイスイと動き回れるようになるが、お風呂にも入れなくなる。ドラえもんにも似たようなエピソード『あめんぼう』がある(発表は本作の後)。

『見えないみかた』
ガキ大将げんごろうの愛犬の名は、なんとムク。ジャイアンのペットと同じ名前である。こちらの方が後での登場。本作の見えない味方とは、ノミのこと。

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『地面のなき声』
「モッコロくん」の中では最も特筆すべき作品
パパに怪談を聞かされ怖がるゆうちゃんとモッコロは、二人して泣いてしまう。その夜、モッコロは「地面の中から鳴き声が聞こえる」と言って起きだす。怖がるゆうちゃんと一緒に表に出ると、モッコロは地面の下の何者かと会話を始める。

それは道路が舗装される前に地面に潜って、7年経って外に出ようとしているセミの幼虫であった。モッコロは舗装を剥がして幼虫を助け出してあげる。

この展開は、藤子通なら一発でわかるところだが、「エスパー魔美」の『地底からの声』の元ネタとなっているお話なのである。

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『ゾウとたたかえ』
図鑑の対決シリーズが人気らしいが、本作でもゾウと巨大化したカブトムシが力比べする、子供たち大喜びのエピソード。

『あばれ馬を止めろ』
こちらも馬と巨大化したバッタのスピード勝負を描いている、対決シリーズの第二弾。

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『春風せんぷうき』
昆虫たちの冬眠をテーマとしたお話。モッコロくんも冒頭で寝ているが、冬眠するつもりだったのだろうか?

『タマゴをまもろう』『おもち大すき』『おし入れはゲレンデ』
3作続けて昆虫が出てこないお話。全て冬の号であり、やはり冬場と昆虫は相性が悪いのだろうか。

『ケーキにあつまれ』
この作品も昆虫が登場しない。モッコロくんがケーキ好きだというエピソードとなる。この回で最終回となるが、初回の『こんにちわモッコロくん』でもケーキを美味しそうに食べていた。


続けて「小学一年生」のお話を見ていく。全体的の印象では、特に学年が上がったからといって「幼稚園」と内容を変えていない。

『公園にはなかまがいっぱい』
アリ・ハチ・チョウチョウが登場。ゆうちゃんは絵がうまいらしい。

『虫となかよくなろう』
ママの虫嫌いが今更発覚。ママと仲良くしてもらうため、昆虫たちを大きくして家事を手伝わせるが、逆に怯えさせてしまう。

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『ハイキング』
山の中で道に迷うが、ハチやカブトムシに手伝ってもらって、帰り道を教えてもらう。

『すてきなあそび場』
空き地が大きな子供たちに取られてしまったので、モッコロくんがクモに協力を仰いで木の上のクモの巣ネットを作ってもらってそこで遊ぶことに。ほのぼのとってもいい話。

『へやの中で花火?』
部屋の中でホタルの花火を楽しむお話。

『トンボ・ジェット』
トンボを大きくしてジェット機の格好をしてもらって、空を飛ぶ。げんごろうに取られてしまうが、空中に浮かぶアドバルーンの上に降ろされてしまう。「ドラえもん」の『なんでも空港』に通じていくお話である。

『がんばれゆうちゃん』
運動会での徒競走に自信のないゆうちゃん。そこでモッコロくんはハチをけしかけてゆうちゃんに襲わせ、延々と追いかけ回す。これが走る特訓となって、翌日の競争では一等賞となる。スパルタなお話である。

『アリとキリギリス』
イソップ童話の劇をやるのだが、アリとキリギリスが自分たちと違うと言ってクレームを付けてくる。やがて劇が滅茶苦茶に・・。「藤子Fと演劇」というテーマでも別途取り上げる予定の作品である。

『むし歯虫』
虫歯は虫だったという驚きの設定。モッコロくんが小さくなってむし歯虫と口の中で戦うという展開もすごい。

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『お金虫』
ゼンマイ仕掛けで動く機械・お金虫。お年玉をめぐるF作品定番のお話。

『しょっかくで遊ぼう』
モッコロくんの頭のしょっかくは、何と取り外し可能だったという展開。Q太郎の着替え以来の驚きである。汚れたので洗って乾かしているところをゆうちゃんが持ち出して、色々なものを大きくしたり小さくしたりと、いたずら三昧。

『なき虫・おこり虫・わらい虫』
事実上の最終回。冬場のせいなのか、ネタ切れのせいなのか、最後も架空の虫が登場するお話で連載終了となる。

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昆虫大好きな幼児・低学年向け作品「モッコロくん」は、虫に特化した楽しいお話ばかり。Fマニアとしても、後のドラえもんやエスパー魔美にも通じる元ネタ作品も多数含まれている点は見逃せない。

ただ連載後半は、冬場となってしまったこともあり、安易に昆虫を登場させられなくなったようだ。また虫縛りの展開なので、ネタ不足に陥った可能性もある。

本作はかつてぴっかぴかコミックスという薄い単行本で読んだことがあったが、その時はきちんと面白さを評価できていなかった。今回きちんと読み返してみて、想像以上に楽しめた。小一の息子も楽しく読んでいたようだし、これはもっと世の中でも評価されていいのでは、と思った次第である。


本作に限らず、あまり陽の目を見ていない幼年向け作品がたくさん存在する。不定期シリーズとして「ちょっぴりマイナーな幼児向けF作品」と題して、今後も積極的に紹介・考察を行っていく予定である。



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