見出し画像

パーマンは透明人間には手も足も出ない?『透明理事長』/透明人間現る現る④

「透明人間現る現る」と題して、SFの王道ネタである「透明人間」をテーマとした藤子作品をここまで3作品紹介してきた。

老若男女問わず、もし自分の体が透明になったらと、誰もが思うことがあるに違いない。そこで問題なのは、透明になった時に何をするか、である。

大人の場合、たいてい邪(よこしま)な考えが芽生えがちだが、子供たちだったらどのような行動を取るだろうか? 他愛のないイタズラをして満足かもしれないし、大人顔負けのワルな犯罪に手を染めるかも知れない。

そのあたりの考察を含め透明人間あれこれを過去記事にて書いているので、是非ともご参照いただきたい。


本稿では、これまでとは毛色の異なる「透明人間」のお話をご紹介する。ここまでの3作品は全て実際に透明になった主人公たちの物語であったが、本作は透明人間が「敵」になる。果たしてどんな展開が待ち受けているのだろうか?


「パーマン」『透明理事長』
「小学五年生・六年生」1984年1月号/大全集7巻

1980年代にリバイバルを遂げた「新パーマン」には、シリーズを通じてパーマンたちのライバルとなる人々が登場する。それが全国の悪人たちが加盟する団体「全悪連(全国悪者連盟)」と、マッド・サイエンティストの魔土災炎博士である。

全悪連はドン・石川という理事長をトップに、泥棒・空き巣・かっぱらいなどが集う全国的な悪者の統一組織。パーマンの活躍によって、シノギを削られて、打倒パーマンが合言葉の連中である。

魔土災炎は、優秀な科学者で、パーマンたちを苦しめる発明品を開発しているが、どこか間が抜けていて、最終的にはパーマンに返り討ちにあってしまう。

彼らの詳しい活動実績などについては、また「パーマン」の考察の方でじっくりとご紹介したい。


全悪連と魔土博士は共にパーマンに対抗意識を燃やしている悪者で、手を組んでパーマンたちを苦しめる。しかし、パーマンたちを追い詰めたとしても、結局はやられてしまうというオチ続き。

よって、全悪連と魔土博士は悪者仲間でありながら、時としてぎくしゃくした関係にもなっている。そのあたりを踏まえて本作を読み進めてもらいたい。


冒頭で事件を解決したパーマンがテレビの取材を受けている。インタビュワーにパーマンは天下無敵だとおだてられて、「ま、そうですね」などと得意満面に応える。そして調子に乗って、

「そうねえ・・。もしパーマンが負けるとしたら・・透明人間ぐらいなものかな。いくらパーマンでも、見えない相手には手も足も出ませんからね」

などと軽口を叩く。

非常に子供じみた冗談なのだが、これを聞いて真に受ける人間が一人いた。それが、「全悪連」の理事、ドン石川である・・。


稲光と豪雨の中、ある屋敷の中で、とある人物が何かの実験をしてる。その男の名は魔土災炎博士、天才的な頭脳を悪用するマッド・サイエンティストである。彼が実験の果てに作り上げた薬が「瞬間穴あけ液」である。

この液体を使えば地面でも壁でも鉄の扉でも一瞬で穴が開く。銀行の金庫室へ忍び込んだり、パトカーを落とし穴に落とすこともできるという。博士の助手でありロボットのPマンは、「天才!おめでと」と労をねぎらう。

ところが実験として地面に液体を掛けるが、・・・何ともならない。「はて?」と思っているところに、ドン石川が手下を一人連れて現れる。「また何か失敗したのかね」と手厳しいひと言付きで・・。


ドン石川と魔土博士のやりとりが、今後の展開に繋がる重要な場面なので抜粋しておこう。

石川「だいたい君の発明は当てにならん。これまで失敗ばかりじゃないか」
魔土「発明は成功している。使い方が悪かったのだ!!」

双方に言い分があるところだが、僕としては魔土博士に軍配が上がるような気がしている。そのあたりの考察もいずれ行いたい。


ドン石川はともかくパーマンを倒したいのだと言う。そして魔土博士に切り出す。「透明人間になる薬が欲しい」と。

その話を聞いて、魔土博士は大笑い。「全身の細胞を透明にすることは生物学的にも医学的にも不可能で、SFの中の作り話だ」と言うのである。ドン石川は、コケにされつつ、挑発で返す。「天才ならやってみろ!!」と。

そんな議論中に、Pマンが部屋に入ってくる。先ほどの実験が成功したというのである。「瞬間穴あけ液」を掛けた部分が、一時間後にボコッとへこんだと言うのだ。しかし、見に行くとそれはたったの3ミリほど・・・。


そんな結果を見ていた石川は、魔土博士に対して徹底的にダメ出しする。

「何が天才科学者だ。口先ばかりの大ボラ吹き、ウソツキのインチキ野郎!!」

「とんだむだ足だった」と魔土博士のプライドを傷つける石川。すると、沈黙していた魔土博士がいきり立つ。

「ようし!! 透明薬の発明引き受けた!!」

「当てにしないで待っている」とさらに追い打ちを掛けて去っていく石川たち。悔しい表情の魔土博士の心中は、当然期するものがあった・・・。


みつ夫の家に電話がかかってくる。今夜10時に公園でパーマンに会いたいと言う。そして自らのことを「透明人間」だと名乗る。この前のインタビューを聞いたイタズラに違いないとパーマンは思う。

時間通りに公園に行くと、本物の透明人間だと名乗る男が現れる。顔中を包帯でグルグル巻きにしており、サングラスと帽子を被っていて、肌は一切見せていない。

「包帯を取って見ろ」とパーマンが言うと、「今日は予告で来た」と答える。後日姿を消して、マスクとマントを貰いにくると脅す。防げるものなら防いでみろと言って公園の奥へと進んでいく「透明人間」。

怒ったパーマンは「今すぐ正体を見てやる」と言って後を追うのだが、そこには驚きの光景が・・・。先ほど男が巻き付けていた包帯や衣服が散らばっていて、ポコポコと足あとだけが、園内を進んでいくのだ。

パーマンは「透明人間!」と驚き、飛び掛かるが手応えなく街灯に頭をぶつけてしまう。そんな様子を物陰から見ているのは魔土博士。透明人間のトリックは、瞬間穴あけ液を塗った足あとスタンプを一時間前に押して、あたかも透明人間が歩いたように見せかけていたのである。


魔土博士は特ダネだと言って、マスコミにパーマンが透明人間に襲われたとチクる。全国に報道されニュースとなる。パーマンはパー子とブービーに透明人間の恐怖を語る。マスクとマントを奪われないように、いつも身に着けておいて準備しておこうということになる。

ニュースで透明薬の完成を知ったドン石川たち。前回の強気の態度から一転、恭しく魔土博士の屋敷を訪ねて、「君は天才だ」などとおだてる。そして、

「こないだのこと怒っている? あんな冗談本気にするなんて、魔土ちゃんのバカ!」

と妙に馴れ馴れしくする。


魔土博士は「何のことかね」などと白ばくれていたが、やがて無言でシャワールームを見せる。石川たちはシャワーから薬が出るのかと言って、浴びてみる。「子供の頃からの夢だった」と言っていることから、小さい頃から透明人間になって悪さをしようという夢でも描いていたのかも知れない。


これで本当に消えたのかわからない石川たち。魔土博士は大袈裟に「二人はどこへ行った?」とキョロキョロする。その反応を見て自分たちが透明になったと喜ぶ。

石川らは、透明になったということで、そのまま報酬も払わずに帰っていく。「これまで散々ムダ金使わされたからな」などと喜びながら。しかし去っていく石川たちをみて魔土博士は「バカ者どもめが」と一言。


石川と部下の二人は、さっそくパーマンマスクとマントを奪うべく、みつ夫の家へと向かう。玄関のドアを開けるとガン子がいるが、「見えないのだから平気だ」と言って、そのまま室内へと入っていく。

ソロリソロリと歩いて行く二人。ガン子は「?」と思いつつ、わけが分からない状況に声が出ない。石川たちが二階に上がると、ベッドにパーマンが転がっている。

自分たちが透明人間と思い込んでいる二人は、ソ~とパーマンに近づく。マスクを取ろうと手を伸ばしたところで、パーマンにあっさりと一網打尽。・・ま、見えているんだから、当たり前の帰結である。


ドン石川らは、透明人間になったつもりの間抜けな泥棒として逮捕。そのニュースをワイン片手にテレビで見ている魔土災炎。

「これに懲りたら二度とわしをバカにするな」

と、科学者のプライドを傷つけられたことへの意趣返しにニンマリするのであった。


透明人間になるお話は多数あるが、透明人間にはなれないとする設定の藤子作品は、実は珍しい。「透明人間現る現る」というシリーズの趣旨とは少しかけ離れているお話だが、作中で、「透明人間は科学的にも医学的にもあり得ない」と断言するシーンが印象深かったので、このタイミングで本作を紹介した次第である。



「パーマン」考察しています。


この記事が参加している募集

#コンテンツ会議

30,734件

#マンガ感想文

19,984件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?