透明になるのも楽じゃない『ネパール・オパール』/透明人間現る現る②
もし体が透明になったら・・・。
まず考えてしまうのは、人の目を気にせず行動できるので、普段できないことをしてみよう、ということだ。これが大人だと、すぐに悪いことだったり、スケベエなことが頭に浮かぶ。
もちろん、そんなことは藤子先生も百も承知なのだが、子供向け作品では「透明人間」になっても、悪事を働くことはない(イタズラ程度はするが)。
藤子先生は、数多くの「透明人間」になるお話を描いているが、主人公の「悪いことをしたい」という欲求が非常に抑制されている。透明になって、いいこともあるけど、不便なこともある、というようなバランスを取った展開になることが多い。
「透明人間現る現る」と題して、藤子作品の透明人間ネタを集めているが、透明人間というどんなこともできる状態を子供向けに描くときに、どのような点に注意を払っているのか。そんな作劇的な創意工夫にどうぞ注目していただきたい。
前回の記事はこちら。
前稿では、「ドラえもん」(ドラミちゃん)の透明人間ものを紹介したが、この作品では、透明になったのび太朗は、くどいくらいに「悪いことをしちゃダメ」だと釘をさしていた。実際にのび太朗は、本を取り戻してゴリブリ(ジャイアン)を懲らしめる程度で、帰宅している。
本作では、透明になる目的が違うが、同じギャグも登場させたりもしており、「ドラミちゃん」の姉妹編という位置づけと考えても構わないだろう。
冒頭、カレンダーを見ていたキテレツが「しまった」と叫ぶ。9月4日(今日)はガールフレンドのみよちゃんの誕生日だったのに、プレゼントの用意を忘れていたのである。
藤子キャラで誕生日が明確なのは珍しい。キテレツの誕生日も不明だが、前回はみよちゃんから絵の具をプレゼントされたようである。
どうにかしなくちゃだが、既に今月のお小遣いは使い切ったという。まだ9月は4日しか経ってないのに使ってしまうとは、何か発明品の素材でも一括購入してしまったのだろうか。
何かないかと部品を漁ると、海で拾った綺麗なガラス玉が出てくる。キテレツは苦肉の策として、ガラス玉をラッピングして、お守りだと言って渡すことに。
これを「ネパール・オパール」と呼び、持っていると災難から逃れることができるとみよちゃんに説明する。かなりの苦し紛れだが、なんと、みよちゃんは「素敵だわぁ」と大喜び。
疑ってかかったのは、他の友だち。「どうせガラス玉かなんかだろ」と鋭い指摘をされる。ところが、キテレツを信じるみよちゃんは、友だちに対して怒る。
そして、
と、大喜びでキテレツの手を握るのであった。
ここで少し思うのは、なぜみよちゃんはキテレツのことを信じているのか、ということだ。キテレツとみよちゃんの関係性は、信頼のおける友だち同士が基本形だが、その一歩先まで見据えているような気がする。
そのあたりの考察は既にしているので、もし気になる方はそちらを是非ご一読下さい。
さて、誕生日プレゼントは乗り切ったものの、今後みよちゃんに災難があったら、キテレツはウソをついたことになる。キテレツは弱りつつ帰宅するのだが、「そうだ」と何かを思いつく。
キテレツ大百科をパラパラめくり、「ビードロ丹」という薬の作り方を見つける。ビードロとは、江戸時代の言葉でガラスのこと。このビードロ丹を飲めば、ガラスのように透明人間になれるのだという。
これを聞いたコロ助は、お守りと透明人間と何の関係があるかわからない。するとキテレツは意地悪な感じで言う。
このセリフを聞いてコロ助はイラつくが、後ほど意趣返しがある。
透明人間になる目的は、透明になってみよちゃんについて歩いて、災難から守ってあげるというもの。さっそく作り始め、翌朝に薬は完成。飲んでから効果が出るまで時間差があったものの、無事、透明人間になれる。
服が見えてはダメということで、裸になって外へ出ることに。このあたりは前稿の「ドラミちゃん」と同じ展開である。そして、季節が夏で良かったとキテレツは呟くが、このあたりは透明人間になったら・・というリアリティを感じさせる。
みよちゃんの家に侵入。この時に「黙ってよその家に上がるのは気が引ける」と言わせているが、これは「透明になって悪いことをする」という要素を薄める意味合いがある。
部屋に入ると、みよちゃんは日曜日の朝から勉強中。すると視線がこちらにきたので、思わず部屋にあったクッションで股間を隠す。すぐに「見えないんだっけ」と手放すが、みよちゃんからすれば、クッションがひとりで動いたので、何だか気持ち悪い話。このあたりの展開も「ドラミちゃん」と酷似している。
みよちゃんが外出し、キテレツが後をつけていく。向かった先はキテレツの家。留守を預かるコロ助が対応するのだが、コロ助は昨日のお守りがニセモノだと言うことをしゃべり出す。
そこで透明なキテレツは「おしゃべり!」とコロ助を思いっきり蹴っ飛ばす。「出し抜けに何するかナリ!」と怒るコロ助と透明のキテレツが喧嘩を始めるが、みよちゃんからすれば、コロ助が一人暴れているように見える不思議な光景。
慌ててみよちゃんの後を追う透明キテレツ。するとみよちゃんが財布を落としているのに気がつく。キテレツはこれをみよちゃんの目の前に届けると、何も知らないみよちゃんは「お守りのおかげだわ!」と狂喜乱舞。
昨日信用してなかった友だちに「ほんとよ!」と大アピールするのだが、俄かに信じられない面々は、それではわざとみよちゃんに災難を振りかけて助けてくれるか試そうと言い出す。
何と迷惑な企画。「途中で逃げるな」と挑発され、みよちゃんは「誰が逃げるものですか」と言い返す。お守り(=キテレツ)のことをここまで信用しているのだ。泣けてくる話だが、キテレツは「逃げて欲しいなあ」と思うのであった。
ここからは、いたずらを仕掛ける悪友たちと、みよちゃんを守るキテレツの攻防が繰り広げられていく。
エスカレートするいたずら全てから逃れたみよちゃん。悪友たちは「畏れ入りました!」とひれ伏し、「わかればよろしい」と得意満面のみよちゃん。そして、キテレツだけは、裸でハチの大軍に追われて多数のキズを負ったのであった。
「これからも毎日みよちゃんについてるわけにもいかない」と困り果てるキテレツ。するとコロ助が簡単な解決法があるという。キテレツにそれは何かと聞かれると、
と、いつぞやの意趣返しをするのであった。
コロ助のアイディアは、お守りとなっている「ネパール・オパール」(ガラス玉)をこっそり取り返せばいいというもの。無くなれば、みよちゃんは自分が落としたと思うだろうという狙いである。
なお、透明となって物を取り返そうとする点は「ドラミちゃん」の展開と同じである。
みよちゃんは、満足した様子で、家の中では寝っ転がってお菓子を食べている。あまり見せられた格好ではない。キテレツはお守りを見つけようと、みよちゃんのポケットを探る。当然「キャッ」と反応して透明なキテレツを突き飛ばす。
ここのシーンはかなりギリギリを攻めていて、お話の上ではポケットの中を探すという自然な展開ではあるが、見方を少し変えれば、透明になって女の子の体を触るという行為でもある。
結果的にみよちゃんは体を触られたということで反応しているが、キテレツにやましい気持ちはない。とは言え、そこはかとないエロを敢えて狙っているシーンだと僕は考えているが、どうだろうか。
ポケットにはお守りは無かった。では、どこにあるのか。手がかりもなく、みよちゃんに付き従うキテレツ。するとみよちゃんは、お風呂に入ろうということで服を脱ぎだす。「ヤヤッ」と思わず大声を出して驚くキテレツ。
その声を聞いて、「また変な声が!」と反応するみよちゃん。かなり不思議な現象が身の回りで起き続けているわけだが、「何だか今日はおかしな日だわ」というセリフだけで、何となく処理される。
脱いだ服と一緒にお守りが出てくる。首から掛けていたのだろうか? 「あった」と喜ぶキテレツ。・・・すると、透明だった自分の姿が、色を取り戻していく。そう、薬は必ず効き目が切れるものなのだ。
みよちゃんの家の脱衣所で、素っ裸のキテレツ。どう考えても絶体絶命のピンチなのだが、果たしてこの危機をどのように乗り越えたのだろうか。まるで投げっ放しジャーマンのように、物語はここで終わるのであった。
本作では、前稿の「ドラミちゃん」同様、透明人間になる目的はある種妥当で、透明になってからも、その目的達成のためだけに突き進む姿が描かれている。
しかし異なる点としては、表現として、結果的にエロいことになっているシーンをいくつか登場させている。体を触るシーンと、入浴時に服を脱ぐシーンである。
お話としては非常に抑制された子供向けの展開となっているのだが、よくよく読んでみると、エロ要素が見て取れる。・・・もちろん、これは僕の考えすぎかもしれない。もう少年読者でなくなってしまった、大人ならではの。
「キテレツ大百科」の考察もしています。
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