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ハナちゃんをペットにしたい!『野生ペット小屋』/ドラえもん「感動×動物」傑作選③

のび太くんはかなり動物が好きな子供だと思うが、動物嫌いのママの壁に阻まれて、どうしてもペットを飼うことを許してもらえない。

幾度もこっそりと犬や猫を飼おうとするが、ママの独特なペットレーダーに引っ掛かって、あっと言う間にバレてしまう。かなりの数の作品でママとペットをめぐるバトルが行われているので、一度どこかでまとめ記事を作らねばならないだろう。


ドラえもん「感動×動物」傑作選と題して、動物(ペット)が主人公の泣けるお話を抜き出して特集しているが、今回はのび太くんがドラえもんの力を借りて、とある動物を飼いならそうとするお話を見ていく。

前々回の記事では、しずちゃんの愛犬ペロのお話、前回の記事ではしずちゃんの裏の家の可愛そうなペット犬のお話を取り上げた。もし宜しければ、こちらのチェックもお願いします。


『野生ペット小屋』
「テレビくん」1983年1月号/大全集19巻

普段「欲しい~」とかって意識していなくても、友だちが持っているものを自慢されると、急に自分もそれが欲しくなってしまう。隣の芝生は青く見えるものなのだ。

冒頭、しずちゃんがカナリアのピー子ちゃんが騒ぐので、部屋の中を調べてみたらストーブのガス管が外れていたと話す。オウム真理教の強制捜査を思い出すエピソードだが、当然こちらの方が先である。

続けてジャイアンが、忍び込もうとした泥棒を飼い犬のデカが捕まえたことがあると話す。ジャイアンのペット犬は通常ムクだろうが、本作はなぜかデカ。これはテレビ放送版となると、ムクと置き換えられているようである。

そうなると次はスネ夫の家のシャムネコの自慢。わざわざ血統書付きだと注釈した上で、一千万のママのダイヤが無くなった時に、見事に探したのだという。ここではアンナという名前となっているが、良く知られているのはチルチルではないだろうか。

3人は「動物ってカワイイ、可愛がってやれば必ず応えてくれる」と盛り上がるのだが、当然のび太はのけ者となり、そっと一人その場を立ち去っていく。


家に帰るとドラえもんに「僕も動物を飼って、ガス中毒になりかかって、泥棒に入りかけられたい」と少々捻じれた希望を口にし、さらに「どうせ飼うならライオンとかゾウとかみんなをアッと言わせたい」と語る。

単純にペットを飼いたいのではなく、みんなにチヤホヤされたいという追加の欲求が見え隠れする。

ドラえもんは「ママの動物嫌い知ってるくせに」と指摘すると、今回ののび太はちょっと賢くドラえもんを懐柔しにかかる。曰く、

「ドラえもんなら何とかできると思うんだ。ただのロボットじゃないんだから」

このわかりやすいおだてに対して、「そうまでいうなら・・」と出した道具が「野生ペット小屋」である。


見た目は、小型のペット小屋の入り口部分のような機械。スイッチを入れると、中に入れるようになり、くぐり抜けると草原に出る。のび太が「どこでもドア」なのかと尋ねると、似てるけどちょっと違うらしい。

すると、目の前に凶暴な目つきのライオンが現れる。襲い掛かってくるので、たまらずペット小屋を抜けてのび太の部屋と戻って、スイッチを切る。

「野生ペット小屋」という道具は、ダイヤルで移動して好きな動物を探してくれるものであった。さらにダイヤルをロックしておけば、いつでも気に入った動物の傍に出口が開く仕掛けだという。

つまり、野生の動物たちを、あたかもそのペット小屋で飼っているような気分を味わえる、のび太にとっては願ったり叶ったりの機械なのであった。


さて、どんな動物をロックするのか。キリンは大きすぎる、カバはカッコ悪いと駄目出しした後で、赤ん坊のゾウを見つけてのび太は「これに決めた!」と喜ぶ。

ドラえもんは子ゾウは必ず群れの中で大人たちに守られているはずで、独りぼっちはおかしいと考える。何らかの理由で迷子になってしまったのだろうか。

このゾウ、そう見ると何だか元気がない。お腹を空かせているんだろうということで、ミルクを用意するが、瓶一本ではとても足りない。そこでママにバケツ一杯ほど欲しいとお願いすると、当然ながらドヤされてしまう。

そこで「ビックライト」でミルク瓶を大きくして量を確保するのだが、そもそもウシの乳を飲まないようで、子ゾウはそれを全く口にしない。そこでドラえもんは、「桃太郎印のきびだんご」を溶かすことを思いつく。

作戦は成功し、子ゾウはたちまち元気になって、のび太にも懐いてくる。ここでのび太は子ゾウの名前を「ハナちゃん」にしようと決める。台風のフー子、腹ペコ犬のペコ、ワンと鳴くからイチ・・・、いつもながらのび太のネーミングセンスは秀逸である。


さあ、ここからはハナちゃんとのび太の夢のような交流が描かれていく。

夜中にハナちゃんがハイエナの群れに囲まれてしまったので、助け出してのび太の部屋で一緒の布団で寝ることにする。実際には絶対に子ゾウと同じ布団で眠るのは不可能だろうが、絵面的に成立していて、見ていて羨ましく思えてくる。

学校から帰るなり、「野生ペット小屋」を通ってハナちゃんに会いに行くのが日課となる。宿題を終えないと遊べないということで、焦って勉強を終わらせる。やればできるのである。

ハナちゃんは、少しづつ大きくなっていく。そろそろ乳離れさせなくちゃと、バナナを大きくして食べさせる。ハナちゃんの鼻と腕相撲をしても勝てなくなる。

一緒に水浴びしたり、ターザンごっこをしたりと、毎日日焼けをするほどに遊び回る。充実した日々の中で、スネ夫たちにも「のび太、この頃楽しそうだね」と指摘される程である。


いつものようにハナちゃんと遊んでいると、少し離れたところにゾウの群れを見つける。その中で一頭のゾウがこっちをじっと凝視しているように見える。そして、そのゾウがパオンと鳴いて、ドドドドと走って突進してくる。

のび太たちは恐れをなして逃げ出し、「野生ペット小屋」を抜けてのび太の部屋へと戻る。ドラえもんは、ひょっとしてさっきのゾウはハナちゃんのママではないかと考える。我が子を取返しに来たのである。

ちなみにハナちゃんのママではないかとのび太の部屋で思いつくのは、単行本収録時の改訂版で、連載版では逃げ出す時にママではないかと気がつく展開であった。


のび太がやっと手にしたペット、ハナちゃんに親が現れる。この思わぬ展開に際してのび太は、「今さら勝手だよ」と反発。小屋を片付け、スモールライトでハナちゃんを小さくして、二度とアフリカへは連れて行かないと決意する。

ドラえもんは「ママに返してやったら?」と言うが、のび太は「嫌だ!」と拒否。「ハナちゃんはずうっと僕と一緒に暮らすんだ」と、「のび太の恐竜」のピー助の時と同じような強硬な態度に出るのであった。

ちなみにこのセリフを言いながらのび太がバナナをハナちゃんに与えているのだが、その絵が可愛くて仕方がない。「ドラえもん」でのび太が動物と交流するシーンは数多いが、そのどれもが愛おしく描かれているように思う。


数日経ったのだろうか。ハナちゃんがぐったりしているのに気がつく。ドラえもんは、風邪を引いたんだろうと見立てる。日本は寒いのだ。

倒れ込むハナちゃんを見て、のび太は「ハナちゃんのママ、まだあそこにいるかな」と呟く。ずっと一緒にいると強硬した感情はもう見えない。のび太は、ゾウの子供とずっと暮らしていけないことくらい、心の底ではわかっていたのである。

野生ペット小屋を覗いてみると、ママはこっちを向いてじっと立っているという。そこでハナちゃんの大きさを戻して、アフリカへと連れて行く。最初はのび太と離れがたい様子だったが、ママゾウと軽くスキンシップをすると、どうやら思い出したようで、連れ立って群れへと戻っていく。


散々仲良く遊んだハナちゃんとの、突然の別れ。けれど、動物園でもない限り、元々ゾウをペットにし続けるのは困難なことだった。それがわかっているからこそ、ラストののび太の呟きが心に迫る。

「ほっとしたような、寂しいような・・・・・・」

ドラえもんはそんなのび太に、

「きっとアフリカで幸せに暮らしているさ」

と語る。

ペットを飼うということは、そのペットと飼い主が共に幸せであることが求められる。犬や猫やカナリアであれば、そのウィンウィンは成立するだろう。けれどゾウではそうはいかない。

友だちをアッと言わせるようなペットを飼いながら、そのペットが幸せであることを両立させるのは、かなり難しいのではないだろうか。

ハナちゃんの幸せをまず考えようというのが、ドラえもんの言葉の背景にあるように思えるのである。




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