虐げられたペットとの立場逆転!『ドロン葉』/ドラえもん「感動×動物」傑作選②
「南極物語」「ハチ公物語」「子猫物語」・・・。突如として、1980年代に動物と人間との絆をテーマとした映画が量産され、大ヒットを飛ばした。その後時代は下り、2000年代でも「クイール」「マリと子犬の物語」「いぬのえいが」と主に人間とペット犬との交流を描いた映画がブームとなる。
日本国内だけでなく、ハリウッド版「HACHI 約束の犬」のヒットを皮切りに、「僕らのワンダフルライフ」「マーリー 世界一おバカな犬が教えてくれたこと」などと、犬もの感動作が世界中で作られるようになった。
つまりは、動物(主に犬)と人間との暖かな交流や、種を超越した絆は、万国共通、時代を選ばないテーマだと言うことなのだろう。
我らが「ドラえもん」では、1970年の連載開始当初から【動物×感動】作品が、数多く描かれている。今回、これらをギュッとまとめて、大いに涙してみようということで、ドラえもん「感動×動物」傑作選という特集を組んでみることにした。
まず最初の記事として、しずちゃんの愛玩ペットペロとの絆を描いた感動作を取り上げた。記事の中では、しずちゃんの秘密のペット犬事情などにも触れている内容となっているので、是非ご一読願いたい。
そして本稿では、泣けるペットものの最高峰『ドロン葉』を紹介する。
昔話の定番ジャンルに「化け狸」がある。古来から狸は化ける能力を持っていて、美しい女性に化けたり、小石をお金に見せたり、糞をご馳走に仕立てたりして、人を騙すというものだ。
話によっては、妖怪と化して人を襲う逸話もあったりする。狐との化かし合いというちょっとだけ残酷な話も有名である。
そして、狸が特殊能力を発揮する時に用いるのが、頭に上に乗せる葉っぱである。化け狸と葉っぱがワンセットの理由は、少し調べたがよくわからなかった。
まあ、ともかくも、化けるタヌキの小道具「葉っぱ」をテーマとしたお話を見ていくこととしたい。
のび太が狸が人を化かす昔話を読んで、「バカだねえ、昔の人って。本気で信じていたんだね」と、感じ悪く小バカにする。
それを聞いたドラえもんは「本当に化かすよ」と言って、狸の特殊能力について解説を始める。
ドラえもんのいつもの口ぶりなので、へえ~そうなんだと、のび太も読者も感心するわけだが、実はこれは真っ赤な嘘。さすが狸型ロボット(ドラ全否定!)は、人を騙すのがお上手のようである。
ドラえもんは「ドロン葉」という道具を出す。見た目は普通の葉っぱだが、頭に乗せると、人を化かす念波が放射される仕掛けだと言う。ただし、狸の脳に合わせて作っているので、人間の頭に乗せても効果はないらしい。
のび太は実験したいので、狸を出してとドラえもんにお願いするが、それは無茶な話。しかしそこで狸も犬も同じイヌ科だから、実験するなら犬でもいいと思いつく。それならば、しずちゃんのシロをタヌキにしようということで、さっそく出掛けていくのび太。
ちなみにしずちゃんが飼っている犬と言えば、ペロが定番だと思うが、本作ではシロ。そのあたりのペット犬遍歴については、前回の記事の中で触れているので、是非読んでみて欲しい。
さて、シロの頭の上に葉っぱを乗せても、何も起こらない。またからかったのかと、家に帰ってドラえもんに文句を言うと、「失敗するのは当たり前だ」という。
化けるのは弱い動物が身を護るためなので、「ドロン葉」は、シロのような幸せな犬には必要なかったのだ。
そこで不幸な犬を探そうと、改めてしずちゃんに相談すると、すぐに「いるいる、すっごく可哀そうな犬が」と表情を曇らせる。
それは、しずちゃんの裏の家で飼われているベソだと言う。どのように不幸なのかというと・・・
加えて、飼い主にムシャクシャすることがあると、犬に八つ当たりして、ボコボコに殴るのだという。とんだ動物虐待サイコ野郎なのである。
飼い主は近所でもすごく乱暴者として知られており、キョーボーというあだ名が付けられている。
実際に、彼の家にボールを入れてしまった野球部員たちが、どうせ頼んでも返してくれないとこっそり庭に侵入するのだが、バットを持ったキョーボーに見つかって、怒鳴られてしまう。
その調子なので、ベソに対してもバットで容赦なく殴りつけるのであった。
そこでのび太はベソの頭の上に「ドロン葉」を乗せて、様子を見ることにする。すると、野球部員を怒鳴りつけたところで、ドロンと煙が舞ったかと思うと、キョーボーの姿がベロとなり、ベロがキョーボーの姿になる。
犬になったキョーボーは、窓ガラスに映った自分を見て、「俺が繋がれて、犬が立ってるなんて馬鹿なことがあるか」と激怒し、体を入れ替えてしまう。
「これでいいのだ」と一度は納得したものの、すぐに我に返る。「ベソに化かされた」と大騒ぎとなるが、後の祭り。既に自分の姿になったベソは、どこかへと出掛けてしまったようである。
初めて自由に外出できることになり、キョーボーとなったベソは、バットを持ったまま、先ほどボールを庭に飛び込ませた野球部員たちの後を追っていく。
部員たちは驚いて、「命ばかりがお助けを」と土下座するのだが、ベソの目的は怒ることではなくて、野球に自分も混ぜてもらいたいということ。言葉は話せないが、ボールを返して、野球の仲間に入れて貰うことになる。
野球では、元々の犬の脚力を活かして、ピッチャーゴロをランニングホームランにしてしまう大活躍を見せる。自由に飛び回るのが嬉しくて仕方がない様子なのである。
一方の鎖に繋がれたキョーボー(姿はベソ)は、足があるのに歩き回れないと怒り心頭。「覚えてろベソ!この仕返しはきっとするぞ!」と息巻くのである。
ところが時間が経つにつれて、これは散々いじめたベソの仕返しかも知れないと考え出す。すると一生このままかと落ち込んでいく。さらには、また自分もベソも小さかった頃、一緒に遊び回った時のことを思い出し、涙を零し、ウワオ~オ~オ~と遠吠えするのであった。
一日遊び回ったベソ。夜になってどんな行動を取るのか。のび太としずちゃんは、元に戻ったらまた苛められるとすれば、このままずっと・・と話し合う。
バットを持ったままキョーボーの姿で、ベソの前に立つ。本人も迷っている様子が伺える。ベソになったキョーボーは開き直って、「殴るなら殴れ!いつも俺がやっているように」とお腹を見せてひっくり返る。
ここでベソが取った行動とは・・・。
それは意外にも、自ら頭の上のドロン葉を外して、元の二人の関係に戻るという選択であった。
「ベソ!・・・・・・」と、言葉に詰まるキョーボー。
二人は犬小屋の前で抱き合う。キョーボーは涙を流し、ベソも一生懸命に尻尾を振っている。ご飯だよという声も二人には届かない。再び絆を結びあうための、愛しい時間が流れているのであった。
ドロン葉を使った狸(イヌ)の化かし実験は、見事に大成功。ベソの気持ちが理解できたキョーボーは、きっと善き人に変わってくれることだろう。
それにても、あたらめて本作を熟読すると、散々苛められてきたのに、それをきれいさっぱり水に流すベソの人格者(犬格者?)ぶりに感嘆する。この赦す心を僕もよく学びたいものである。
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