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ドラ・魔美・エモン奇跡の邂逅/21エモンのご先祖様②20世紀篇

前回の記事で、「21エモン」の主な舞台となるホテル・つづれ屋は、市右衛門が1600年頃に創業して以来450年近くの歴史があることを確認した。その上で4エモン、5エモンがいた江戸時代のつづれ屋を描いた作品を紹介して、21エモンのご先祖様の生活や人となりを追った。こちらの記事は下記。

次に時代は一気に遡り、昭和時代・1980年頃。つづれ屋は細々とホテルとして営業を続けていた。「ドラえもん」「エスパー魔美」において、ホテルつづれ屋と、18エモン・19エモンの様子が少しだけ垣間見ることができる。これをそれぞれ見ていくことにしたい。


ドラえもん『オンボロ旅館を立て直せ』
「小学六年生」1980年5月号/大全集8巻

事の発端は、お小遣いの値上げの件でパパと揉め、のび太が家出するところから始まる。ちなみに家出道具にカップ麺を詰めている点に注目。それにしてものび太はたびたび家出をする

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あてもなく歩いていると急な夕立に降られてしまう。ここでたまたま雨宿りで軒先を借りたのが、ホテルつづれ屋である。入り口では絶妙に「つづれ屋」の文字が全部読めないようになっている。

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するとそんなのび太を無理やりにホテルの中に引き入れて、部屋に泊まっていけと言い出すホテルの支配人。彼の口から、ここが創業300年のホテルつづれ屋であることが紹介される。頭は禿げているが、どことなく20エモンに似ている感じ。

お金がないのび太は、その説明をしようとするのだが、全く話を聞かずに4階の「特別室」へと案内される。なお、「特別室」と言っても、つづれ屋は伝統的に汚い何でもない部屋を特別とか上等と紹介するのが常である。そして、当然エレベーターは壊れているので、歩いて昇ることになる。

通された部屋は狭くて汚いが、ピカソの「泣く女」のような抽象画が飾られているのが少々気になるところ。

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のび太はせっかくホテルに泊まったということで、お風呂に入ろうとするがお湯がでない。支配人に相談すると、近くの銭湯を勧められる。続けて腹が減ったと言うと、近くのラーメン屋の出前を紹介され、電話が止められているのでと、走って注文に行ってしまう。

のび太はカップラーメンを家出セットに詰めていたので、それを食べればいいかと思ったが、お湯も出ないから仕方がないか・・・。


ここでのび太がお金を持っていないことがようやく発覚。無銭客を引っ張り込むのは、江戸時代~昭和~21世紀と続くつづれ屋の伝統芸である。

のび太は「ここで働かせてくれ」と申し出るが、仕事がないと愚痴られる。部屋をキレイにしてお客を呼びたいが、資金がなく、ガス・水道も料金未払いで止められてしまっているらしい。このホテルは、ライフラインが完全に断たれていて、経営どころか、住むことすら難しそうだ。

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そこでのび太はボランティアで客引きをすることに。最初はホテル名をつぶれ屋、くずれ屋と言い間違うなど全く客が寄り付かないが、ある一人の男性が泊まると言い出す。またも「特別室」にご案内となるが、そこはやはり汚い部屋。と、すぐに豪華な内装に早変わり。のび太は、ドラえもんが来てくれたことに気が付く。

そこからはドラえもんの道具でホテル営業開始。「カムカムキャット」で集客し、「室内旅行機」で部屋の内装を綺麗に映し、宿泊客には「ソーナル錠」を飲ませて、食べたつもり・お風呂に入ったつもりになって満足させる。

やっていることはほぼ詐欺だが、何とかこれで元手を増やして、経営を好転させるしかない、ということも理解できる。つづれ屋の支配人は、忙しくなったので息子の手を借りたいと言い出す。

息子はホテルの仕事を嫌がっていて、時々家出をしてはヒッチハイクなどをいしているのだという。跡取りになることを嫌がるのも、江戸時代から21世紀へと脈々と受け継がれるエモン家の遺伝のようなものだろう。またヒッチハイクに出てしまうクセも、21エモンに引き継がれている。

この話を聞いて、家出をしている自分を省みたのび太は帰宅することに。そんなのび太たちとすれ違うように、カムカムキャットで引き寄せられる一人の男。

「あれえ、家に帰っちゃった」

そう、このいかにも旅をしていますといった風情の男こそ、つづれ屋の跡取り19エモンなのであった。つまり、21エモンのおじいちゃんに当たる人である。風貌も21エモンとよく似ている。

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次に、ドラえもん『オンボロ旅館を立て直せ』と前後して、エスパー魔美でもつづれ屋が登場しているのでこちらも見ておきたい。ほぼ同時期に描いている作品となる。

エスパー魔美『サブローは鉄砲玉』
「少年ビックコミック」1980年7号/大全集4巻

こちらはつづれ屋が事件に巻き込まれるお話。

乱坊組(らんぼうぐみ)と楼関組(ろうぜきぐみ)の抗争が激化する物騒な世の中。一人の男・サブローが、楼関組の兄貴分人斬りケンに見初められて、乱坊組の組長襲撃を持ちかけられる。

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サブローは、乱坊組の組長の別宅を見張るため、この別宅の隣に建っているつづれ屋に泊まりこむ。サブローのことを心配する女の子の念波に引き寄せられて、魔美はこのホテルにやってくるのだが、ここで18エモンが姿を見せている

魔美と18エモンは「宿賃の支払いが心配」などと会話もしている。つづれ屋を介して「21エモン」と「エスパー魔美」と「ドラえもん」のキャラクターたちが一つに繋がった瞬間で、何だか感無量である。

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この後、組長の別宅が火事となり、つづれ屋にいたサブローが犯人だとチクられて乱坊組の組員たちが部屋へと押し入ってくる。暴力団の抗争に完全に巻き込まれてしまったつづれ屋である。

ちなみに本作では「つづれ屋」の名称が一目でわかるシーンはなく、18エモンの名前も登場しない。21エモンを知らない人には、気にも留められない粋な仕掛けが組み込まれた作品となっている。

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なお、つづれ屋が登場した1980年春掲載の2作品を紹介したが、この翌年に「21エモン」が初めて映像化、映画化される。映画化はこの時点で決まっていたものと思われ、それを意識して描かれたようにも思える。


また、『オンボロ旅館を立て直せ』の前の月には、「パーマン」と「ドラえもん」の世界がリンクした重要回『めだちライトで人気者』が発表されている。これはおそらく偶然ではなく、意識的にF作品を結び付ける仕掛けを組み込んでいるように思われる。

1980年代に入り藤子作品は次々とアニメ化されて、黄金時代を迎えることになる。過去の作品の映像化・リメイクの話も次々と出てきたのだろう。これまで淡々と積み上げてきた作品群が、一つの世界観を構築しつつあった時代なのである。

今回、21エモンの先祖を追って見えてきたことは、藤子Fユニバースの果てしない広がりなのであった。


藤子Fユニバースの考察が盛りだくさん。こちらのINDEXからお好きな記事に!


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