タイムマシン=Gカレンダー?『のび太ののび太』/タイムマシンで大騒ぎ⑭
タイムマシンを日常に些細な出来事に使ってしまうという意味では、「ドラえもん」は、大げさではなく世界で最もライトなタイムマシン作品ではないだろうか。
タイムマシンを使ったエピソードは数限りないのだが、丁寧に読んでいくと使い方にはいくつかのパターンがあることがわかる。
一つは過去や未来へと移動するお話で、『のび太の恐竜』や『ガンファイターのび太』や『未来の町にただ一人』などがそのパターン。
もう一つは近くの過去に行く話で、『ドラえもんだらけ』や『タイムマシンで犯人を』『無事故でけがをした話』などがそのパターンに当たる。これを僕は「過去干渉型」と呼ぶ。
上記の2パターンがほとんどなのだが、稀に近くの未来に行くお話がある。これは前稿で取り上げた「ポコニャン」の『タイムマシンで早おき』などがそれ。本稿でこの後取り上げる『のび太ののび太』もここに区分される作品となっている。これは「未来干渉型」とでもしておこう。
近くの未来に行くというのは、将来の自分に何らかの影響を与える展開になりがちで、このパターンだと、未来の自分の様子がおかしいことがまず描かれ、後半でその真実が明かされていくという流れとなる。
ちなみに、近くの過去に行くお話にも、2種類の展開が存在する。一つは過去を変えようとするのだが、どうしても変えられない展開。もう一つは過去を変えたことで運命の変動が起きてしまう展開。
統計をきちんととってはいないが、藤子作品では過去は変えられないというパターンの方が多いような気がする。こうした運命不動のパターンを採用するタイムマシンものでは、映画「テネット」や、ヨーロッパ企画の「サマータイムマシンブルース」などがある。
本作は、前稿「ポコニャン」の『タイムマシンで早おき』の一年半前に発表された作品。内容としては、『タイムマシンで早おき』は、本作の簡略版といった感じである。
逆を言えば、本作を読んだ後に『タイムマシンで早おき』を読めば、よく似たネタをすぐに使ったんだな、ということがわかる。
なお、本作は最近記事にした『スケジュールどけい』と似た展開にもなっている。こちらは本作の2年前に発表している。
以上に2本を踏まえつつ、本作を読み進めていこう。
とある夏休みが始まったばかりの一日。物覚えが悪いのび太は、昨日、野球の約束をすっぽかしてプールに出掛けてしまい、今日こそは必ず来いと電話連絡が入る。戦力としては役立たずだが、野球は9人揃わないとできない、などと言われている様子で、要は人数合わせとして要望されているようである。
のび太は物覚えが悪いのを何とかならないかとドラえもんに相談すると「頭の悪いのだけは取り換えがきかないもんね」と毒を吐かれる。怒るのび太に、「覚えが悪ければそれなりに工夫すればいい」とドラえもん。
すると勉強机の引き出しがゴトゴトいって、もう一人のドラえもんが現れる。そして「特売のどら焼きを買いに行く時間だよ」と告げ、それを聞いたドラえもんが「ああ、そうだっけ」と反応して、さっそく出掛けていく。
のび太はタイムマシンで帰ろうとするドラえもんを呼び止めて、「君、ドラえもんのなんなのさ」と尋ねると、
だと答える。
朝起きて新聞の折り込み広告でどら焼きの特売情報を知り、後で買いに行くのを忘れないようにと、タイムマシンに乗って伝えに来たのだと言う。つまり、「スケジュールどけい」の役割を自らタイムマシンを使って担ったというわけなのだ。
その手があったかとのび太は喜ぶ。予定をしっかり立てて、その時間の自分に注意をして回ればいいのだと考える。そこでのび太は、この後の一日のスケジュールを決めちゃおうと、机に向かう。
時はもうすぐ午前9時。そこで考えたスケジュールは下記である。
これをそれぞれの時間の僕に知らせようということで、タイムマシンに乗りこむのび太であった。
「スケジュールどけい」でも描かれていたが、予定通りに物事進むとは限らないし、予定は周辺状況によって臨機応変に組み換えしていかねばならないものである。すなわち、予定は未定。今回は果たしてどうなるのだろうか?
それぞれの時間にのび太が向かう。当然ながらそれぞれの時間にのび太がいて、色々な反応をしてくる。この反応こそが、未来ののび太の姿そのものであり、後の伏線となる行動となる。
9時~ 溜まっている宿題を片づける
→「やあ来たご苦労さん」などと待ち構えられて、少しバカにされた感じ
10時~ おやつ その後引き続き宿題
→言うまでもなく、既に一階でドラえもんとアイスを食べている
12時半~ 見たいテレビ番組を見る
→なぜか椅子がひっくり返った感じで部屋に転がっている。「予定は守らなくちゃ」と告げる。
1時~ あやとりの研究
→部屋には不在。一階に降りて「あやとりやるんだぞ!」と声を出していると、「わかってるよ、もういいから来るな」と迷惑そうな反応を示す。
1時45分~ 野球にでかける
→未来の自分に「来るな」と言われたことに腹を立てるのび太。「忘れんぼのくせに偉そうな!」ということで、「野球に行こう!」と大声を出すのだが、「余計なお世話だっ」とバットを振り回しながら、怒ったのび太が追いかけてくる。
時間の経過ごとに、のび太の様子がおかしくなっているように思えるが、果たしてどういう背景があったのか。ここまでは伏線タイムで、この後が謎解きタイムとなる。
9時~ 溜まっている宿題を片づける
→やってくるのび太を待ち構えていると、案の定引き出しからのび太が現れる。思った通りに宿題をやれというので、「ほうら言った」と思わず笑ってしまう。
過去ののび太が去ったあと、宿題は楽しくないなと思い始めるのび太。宿題はタイムマシンで明日に行って、明日の僕にやらせようなどと言い出して、ゴロゴロ始める。
今やらない宿題は、タイムマシンなど使わずとも結局将来の自分がやる羽目になるのだから、この考えは単なる後回し、現実逃避に他ならない。スケジュールを立てることと、実践することは全く別物だということがわかるというものである。
10時~ おやつ その後引き続き宿題
→ドラえもんが、どら焼きのついでにアイスも買ってきたので、少し早めにおやつタイム。するとそこへ今朝ののび太がやってくるが、「もう食べてる」という反応。
12時~ 昼ご飯
→予定通り。過去ののび太も現れない
12時半~ 見たいテレビ番組を見る
→ママも見たい番組があるということで、チャンネル権争いになるが、夏休みの宿題が溜まっているようだと指摘され、今日一日は遊ばずにずっと宿題をやれと命じられてしまう。
しぶしぶ机に向かうと、引き出しが開いて過去ののび太が登場、突き飛ばされて、部屋に転がってしまう。この姿を見て、今朝ののび太は寝ているように思ってしまったのだ。
また同じ目に遭うのを避けるため、一階の別室で勉強をすることに。この後野球に出掛けなくてはならないが、ひとまず真面目に勉強に取り組んでおいて、ママを油断させようという魂胆である。
1時~ あやとりの研究
→ママを油断させるべく勉強に取り組んでいるところへ、能天気にあやとりの時間だと告げに来る今朝ののび太。ママに勉強をさぼっていると勘違いされてしまうということで、「わかっているよ、もういいから来るな」と追い返す。
この時間ののび太が迷惑そうだったのは、こうした事情があったからなのだ。
1時45分~ 野球にでかける
→あやとりの時には多少睨まれたが、ちゃんとやっていると反論をしていた。そして、そろそろ野球へと抜け出す時間に。バットを持って、ママに見つからないようにそろそろと廊下を歩いていると、二階から過去の自分の大声が聞こえてくる。
せっかくコソコソしていたのも無駄となり、当然、ママにも気づかれてしまう・・・。
お話はここで終了だが、この後のび太はバットを片手に、二階に来ている今朝ののび太を「余計なお世話だっ」と追い立てることになるのだろう。
過去の自分が未来の自分に影響を与える。それはつまり、未来の自分にとっては、変え難い未来を過去の自分によって作られてしまうことを意味する。
未来の自分にとっては、過去の自分が思いもよらない立場や境遇に置かれてしまっていることもあるわけで、過去からの干渉は、時として邪魔となる。
Gカレンダーだったら、刻一刻と変化する事情に合わせて予定の方を変えてしまえば事足りるわけだが、動かし難いカレンダーだとそうはいかない。
本作のような「未来干渉型」は、事件篇と解決篇に分かれる「名探偵コナン」と似た構成となる。ミステリのような味わいが、本作の魅力だと言えるだろう。
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