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予定は未定くらいがちょうど良い?『スケジュールどけい』他/スケジュールは大事②

スケジュールを守って、規則正しい生活を。

僕たちは子供の頃からそう教えられてきたが、これが実践するとなると難しい。どうしても目の前の誘惑に駆られてしまうこともあるし、面倒くさいことは後回しにしてしまう。

こうして文章を書いていても、今日一日の中で後回しにしたことを思い出して、少々ブルーになっている。何で安きに流れてしまうんだろう、僕ってやつは・・・。


ただその一方で、スケジュールありきで動いている人を見ると、それで果たして良いものか、と首を傾げることもある。もう少し融通を利かせればいいのにとか、敢えて遅らせた方が良い結果を生むのに、なんて老婆心が芽生えることもある。

そう考えると、スケジュール(計画)を立てることは素晴らしいし、有言実行していくことはとっても大切なのだが、世の中計画通りで進むことはないわけで、ある程度の融通さ、ファジーさも大事なんではないかと思うのである。


藤子作品の中で「スケジュール」をテーマとした作品がいくつかあるのだが、それらは、予定を守ることに固執するのはいかがなものか? という藤子先生の緩めのメッセージを感じる内容となっている。

予定は未定くらいがいいんじゃない、といったニュアンスを感じるのである。


前稿ではQ太郎が自分で決めたスケジュールにがんじがらめになってしまうお話だった。本稿では、それからたった一年後に描かれた、同様のテーマを持った作品をご紹介していく。


「ドラえもん」『スケジュールどけい』
「小学四年生」1973年5月号/大全集3巻

スケジュールを守らない選手権があれば金メダル有力候補となるだろう、野比のび太。今日も今日とて、ポアンと部屋でだらけている。そんなのび太を見てドラえもんは、「いつも何もしないで何を考えているのか」と日頃の疑問をぶつけてくる。

すると我らがのび太のセリフは奮っている。

「色々しなくちゃならないことがたくさんあってさ。あれをしようか。それともこれを始めようかと、考えているうちに・・・。時間が過ぎちゃって、結局何にもできないの」

・・・もはや廃人である。さすがのドラえもんも呆れ果てて、「時間の無駄使いはもったいないよ」と言いながらポケットから取り出したのは、「スケジュールどけい」という小型のロボットである。

見た目はタイムカードを入れる機械が一本足で立っているような形状。足には車輪がついていて、移動可能で、手は時計の針のような形をしている。


使い方はこうである。まずはスケジュールを組む。何時から何時まで何をして・・という具合である。その予定をカードに書き、これを「スケジュールどけい」の入り口に差し込む。

のび太はてっきりこの機械がスケジュールをこなしてくれるものかと思うが、そんなわけがない。自分が行動するための道具である。

なんだつまらん、とのび太は急速に興味を失うが、ここで堪忍袋の切れたドラえもんは、「君のだらしないとこを直してやろうと思って・・」と激昂する。あまりの迫力に「わかったわかった」と了解するのび太。


さて、というわけで、今日これからのスケジュールを組んでみる。まずは勉強ということでドラえもんは4時間取ろうと提案するが、「死んじゃう!!」とのび太が拒否って、まずは30分だけして夜に後回しにする。

すったもんだの結果、見えている部分のスケジュールは以下の感じ。
・2時半~3時 勉強
・3時~ おやつとトイレ
・3時半~ テレビ
・その後、野球の約束

予定をカードに写し取り、これを「スケジュールどけい」に差し込むのだが、のび太が入れようとすると、つっかえてしまってうまく挿入できない。

ドラえもんが「じれったいな」と、カードをのび太から取って、「縦にすればほら」と代わりに機械に入れてくれる。すると、「スケジュールどけい」がブーン、カチカチと動き出す。

さあ、のび太のスケジュール作戦が始まるぞ、と思いきや、「スケジュールどけい」が思わぬ行動をとる。のび太ではなく、ドラえもんの手を取って、勉強の時間だと引っ張るのだ。

考えてみれば当たり前の話だが、スケジュールどけいはカードを入れた人のスケジュールを守らせる機械なのである。このくだりは何度読んで笑ってしまう天才的なシーンとなっている。


さてここからは、のび太のために作ったスケジュールを強制させられるドラえもんの悲劇が喜劇調に描かれていく。

2時半~3時 勉強

のび太の代わりに宿題。そこへママがおやつのどら焼きを運んできてくれるのだが、まだおやつの時間ではない。席を離れようとするドラえもんに、「スケジュールどけい」が時計の針のような手でお尻をぶっ刺す。マシンの手が尖っていたのは、スケジュールを強制的に守らせるためだったのだ。

さらにはのび太がドラえもんの分までどら焼きを食べてしまう。大泣きするドラえもん、そそくさと部屋から出ていくのび太。まだ悲劇は始まったばかりである。


3時~ おやつとトイレ

おやつの時間だが、どら焼きはもうない。けれども融通の効かない「スケジュールどけい」は、「ナクテモ食ベサナイ、スケジュールハマモラネバ」と、無駄に厳しいのである。

さらに行きたくもないのに、トイレを勧められるドラえもん。便器の前で立ちすくみ、

「こんなところで用もなくぼさあっと立っているのは・・・何とも言えず虚しいものだ」

と、悲しい目をするのである。


3時半~ テレビ

残念ながら、今日も野比家のテレビは故障中。既に達観が始まっているドラえもんは、黙って砂嵐の画面を見続けるのみ。


野球

スケジュールから離れて伸び伸びできると喜んだのも束の間、外へ出ると強めの雨が降っている。当然、空き地に行っても誰もいない。野球は雨天中止なのである。

しかしスケジュール命のスケジュールどけいの指示により、ドラえもんはたった一人で雨の中野球の練習をする羽目に。ボールを木に投げて跳ね返らせたり、ボールをバットで飛ばしてみたり・・。

のび太はしずちゃんと相合傘で通りかかり、土砂降りの中野球をしているドラえもんに驚くしずちゃんに対して、「ドラえもんは野球が大好きなの」とのび太は、見事に追い打ちを駆ける。


さすがにキレたドラえもんは、「もうやめた」と言って、そこから脱走。「逃げるなんて、スケジュールにない」と怒るスケジュールどけいを尻目に、ドラえもんはタケコプターで逃走する。

ドラえもんは、スネ夫の家に窓から入り込み、匿ってくれとお願いする。一方のスケジュールどけいは、「逃がさない!」と迫力満点。「ドコニカクレヨウガ、カナラズ」と仁王立ちする様子は、ホラー的。

しかも、顔の部分の時計が、5時40分くらいを指していて、ちょうどへの字口に見えるという芸の細かさ。ここにも藤子先生の天才的な仕事ぶりが発揮されている。


どういう仕掛けかわからないが、「スケジュールどけい」は「コッチダ!」とドラえもんの向かった先を突き止め、スネ夫の家へと辿り着く。スネ夫が居留守を使ってくれるのだが、「ウソ」と全く騙されない。

そして隠れ場所を探し当てるという尖った針の手が指し示す場所へと走り出し、グサと押し入れの襖を突き破って、隠れていたドラえもんを突き刺す。「フンギャア」とドラえもんが倒れ込む。


6時~ 晩ご飯

「すぐ帰って食べるよ」と観念するドラえもん。しかしスケジュール第一主義のスケジュールどけいは、今から帰っても間に合わないので、すぐ食べ始めろと無理なことを言う。

そして、時間を守るために、ドラえもんは骨川家の夕ご飯に急きょ混ぜてもらうことに。赤っ恥のドラえもんを見て、急に窓から現れたのび太が「その時計、僕は絶対に使わないからね!!」と釘を刺すのであった。


スケジュールを切るには理由があるが、スケジュールだけ守っていてもあまり意味がない。むしろ時間の無駄が出てしまったり、人に迷惑を掛けてしまったりもする。本末転倒とはこんなことを指す言葉なのだろう・・。


さて、本作から一年半後、「ドラえもん」で良く似た展開のお話が発表されているので、ついでにご紹介。

「ドラえもん」『人間用タイムスイッチ』
「小学二年生」1975年11月号/大全集7巻

こちらは「ドラえもんプラス」に収録されている作品なので、それほど有名ではない。『スケジュールどけい』と類似点が多いので、「てん虫」には採用されなかったのだろう。

こちらは、スケジュールを守らせられるのは、のび太である。

極度の忘れん坊であるのび太。この日は、7時からの「山口じゅん子ショー」を見逃し、しずちゃんとの遊びの約束もすっぽかし、パパから頼まれていた今日発売の記念切手を買い忘れていることも判明。さらには、ごっそり出されていた宿題も忘れてたと言って勉強机に向かう。

そんなのび太を見てドラえもんは、「人間用タイムスイッチ」という見た目は単なる腕時計のような道具を出す。


この時計の使い方は、時計の時刻を合わせてその時間にやりたいこと、やるべきことを言葉で吹き込む。すると、指定の時間になると、勝手に予定通りに(イヤでも)動かしてくれるというのである。

「スケジュールどけい」の時は拒否感アリアリだったのび太だが、本作では予定を忘れて痛い目に遭っているところなので、「そりゃ助かるなあ」と前向きに反応する。


そして、以下のような予定を立てる。

2時~3時 宿題
3時~ しずちゃんの家へ、お土産にガムを買っていく
5時~ 見たいテレビがあるのでそれまでに帰宅、体を鍛えるため20分ほどマラソンして帰る
5時30分~ お風呂
その後、晩ご飯、それから・・・

明日から毎日こんなにきちんとやれたら素晴らしいね、と満足気にのび太は就寝するのであった。


ところで、「人間用タイムスイッチ」の特徴は声で吹き込んで予定を決めることである。ここで勘の良い読者なら気がつくところだが、言葉で「2時」と吹き込んだ場合に、それは午前なのか、午後のことなのか、区別がつかないということである。

いや、普通に考えれば、午前と午後で間違えないようにするためには、24時間表記でスケジューリングしなくてはなるまい。さっきのドラとのび太は、12時間表記で予定を入れていたようだが・・・。

この後、深夜2時に強制的に目覚めさせられたのび太が、「スケジュールどけい」のドラえもん以上な酷い目に遭わされることになる。死ぬほど笑える場面の連続となるのだが、是非ともコミックや大全集にてチェックしてもらいたい。




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