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Qちゃんと遊ぶとノンビリ屋になるらしい『セカセカノンビリ』/ノロノロ・チャカチャカ④

「ノロノロ・チャカチャカ」と題して、文字通りノロノロしている人と、チャカチャカしている人の騒動を描いたお話を紹介してきた。記事の中では、「ゾウの時間・ネズミの時間」について触れたり、同居している人同士は時間の感じ方が異なると大変になるというようなことについて書いた。

執筆最新順で4作品を紹介してきたが、本稿がそのラストを飾る。これまでの記事はこちら。


本稿ではセカセカした少年と、ノンビリで有名なQ太郎との攻防を描く爆笑篇となっている。

「オバケのQ太郎」『セカセカノンビリ』
「小学三年生」1966年4月号/大全集8巻

Qちゃんと正ちゃんがオヤツにラーメンを食べていると、突然少年が部屋に入ってきて、「おいしそうだね」と言うやいなやQちゃんのどんぶりを奪って、あっと言う間に食べてしまう。

この少年の名は「落月ナシ男」。名前の通り、セカセカと動き回る落ち着きのない子らしい。ナシ男があまりにせっかちなので、母親が困って先生に相談すると、ノンビリした友だちを遊ぶとよいというアドバイスを受け、Q太郎に白羽の矢が立ったようだ。Qちゃんはすっかりノンビリ屋という噂が広まっているようである。

正ちゃんも正ちゃんのママも、Qちゃんと遊んでいればノンビリがうつると気楽に受け止めていたが、落月ナシ男は、想像以上にせっかちな男の子で、大原家全体に被害が及んでいく。


ナシ男は先を読んで行動するのが得意なようだが、その行動はピントがずれている。

正ちゃんのパパが「おーい誰か」と声を上げると、ナシ男はビュッと飛んでいき、先を読んだ行動を取る。パパが「君は・・・」と質問しようとすると、「誰かといいたいんでしょ。落月ナシ男です」と先んじて挨拶をしてしまう。

そこまでは良かったのだが、パパが何か用事があることを推察し、お茶を持ってきたり、新聞を取ってきたり、お酒を飲ませようとしたり、まんじゅうを口に入れてしまったりする。そして「昼寝がしたいから布団を出してくれと言うんでしょ」と、無理やり布団を敷いて寝かしつけようとする。

結局、パパは灰皿を持ってきてもらいたかっただけ。ナシ男は落ち着きがないので、人の話を最後まで聞けないタイプであるようだ。


そして質が悪いのが、ナシ男自身も自分の性格をよく熟知しているという点だ。正ちゃんが注意していも、その傍から

「慌てちゃダメだと、わかっていても、どうにもならない、この苦しみ」

など言いながらと、ドタバタと家中を走り回ってしまう。


ここまでを読み進めてきて、僕は子供の頃の通知表を思い出した。毎年のように「落ち着きがない」と書かれて、親に注意されていたのである。そして、その性格は全く直らなかった。(というか直すつもりもなかったのだが)

何でそんなことを思い出したかと言うと、これまで紹介した3作品では「セカセカ」タイプが何人か出てきたが、それぞれ薬の効果だったり、生まれた星のせいで慌てん坊になっていた。本作は、普通の少年が性格的にセカセカしているので、急に他人事ではないような気がしてきたのだ。


伸一のアドバイスで気持ちを落ち着かせるために座禅を組むことに。一時間ほどやってみようということになるが、5分で既に飽きてしまうナシ男。我慢するのだが貧乏ゆすりを始めてしまい、家族が地震だと勘違いするほどに・・・。

その後も昼食でも一人早く食べ終わり、Qちゃんのおかずも口に入れてしまい、Qちゃんを泣かせてしまう。また、Qちゃんに「飛べるんだってね」と声をかけ、なぜか自分がQちゃんを背負って空を飛ぼうとしたりする。


ここからがQちゃんとマンツーマンの落ち着き指導が行われる。

ゆっくり歩く練習をするが、ナシ男は「じれったーい」と走り出してしまい、角で自転車とぶつかってしまう。そして何かとQちゃんの発言を最後まで聞かずに話の腰を折ってしまう。

そこでQちゃんが抜群の助言をする。何かしゃべろうと思ったら、深呼吸をして1から10までの数字を数えてからしゃべるといい、という超具体的なもの。

さっそく試してみようというところで、目付きの悪そうな犬がQちゃんの背後から近づいていくる。ナシ男はQちゃんのアドバイスに従って、深呼吸して10を数えてから口を開く。

「犬が来てQちゃんを噛もうとしている」

これを聞いて飛び上がったQちゃんは、間一髪、犬には服を食いちぎられただけで助かった。こういう緊急事態は早く知らせて欲しいところだが、ナシ男は融通が利かない。


急に落ち着き方を会得したナシ男君。またも時間をたっぷりとってからしゃべり出す。

「犬が・・・ここにはいない」

Qちゃんは、ナシ男の言葉を最後まで聞いていられずに、飛び上がって電柱にしがみ付く。

この一帯は犬だらけということで、早く家に帰りたいQちゃんだが、ナシ男は「慌てちゃダメだ」と言ってソロリソロリと歩く。「じれったい」とQちゃんは走って先に帰るのだが、慌てて隣の家に入ってしまう。


さて、ナシ男の慌てん坊ぶりは矯正されたのだろうか。ナシ男のママが大原家にやってくる。すると深呼吸から10を数える技を習得したナシ男が、「やあママか」と出迎える。すっかりQちゃんからノンビリする技術をものにしたナシ男なのである。

・・・ところが、代わりにQちゃんが部屋中をドタバタドタバタと動き回っている。Qちゃんのノンビリが落月ナシ男に移行し、逆にナシ男のセカセカぶりがQちゃんに移ってしまったようである。


さて、毎年のように落ち着きがないと通信簿の「特筆すべきこと」の欄に書かれていた僕だが、いつしかノンビリした性格・態度を取るようになってしまった。誰の影響だったか良くわからないが、際立った性格は歳を取るにつれてマイルドになっていくものなのだなあと思う次第である。


「オバQ」の考察も25本以上になりました。


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