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ウメ星の科学力は地球より上か下か『ノロチャカ』/ノロノロ・チャカチャカ②

決められたことだけやっている分には、仕事もプライベートもそれなりにこなすことはできる。でも将来のための勉強しようとか、少し突っ込んだ仕事に挑戦しようとか、趣味の時間を充実させようなどと考えると、途端に時間がいくらあっても足りなくなる。

普段の日常に新しいプラスアルファを加えるためには、何かの時間をカットするか、時間を短縮させるしか手はない。

よって、世の中には効率性重視の時間術や、要領の良さを求める啓発本が数多く出回ることになるのだ。


悩み事が出てくると、反射的にフィクションに逃げがちな僕は、時間が足りないと感じた時、チャカチャカと一人だけ早く動ける世界を夢想する。自己啓発本を読んだりしない。

空想して、やっぱりダメかと思って、それで結局新しいことにチャレンジすることを止めてしまう。そんな人生なのである。


時間が足りない、もっと早く動きたいと願うのは、藤子キャラたちも一緒。今回は「ウメ星デンカ」から、何かとモタモタする太郎君が、凄まじい早さを獲得するお話をご紹介する。


「ウメ星デンカ」『ノロチャカ』
「小学四年生」1968年11月号/大全集3巻

「ウメ星デンカ」は「パーマン」と「ドラえもん」の間に、学習誌や週刊少年サンデーに連載された作品だが、実質1年少ししか続かず、その後のリバイバルもなかったため、知名度の割にあまり読まれていない。

作品としては、異能力者がやってくる日常系SFに属するタイプで、デンカは超能力や不思議な道具を使いこなす。「ドラえもん」の原形などという風に言われるが、もともと藤子先生が得意だったパターンでもある。

本作は「小学四年生」における連載2回目の作品で、デンカたちは地球に慣れていないし、デンカを見る周囲の目も醸成されていない。まだまだお互い手探りな状況だということを認識して、読み進めていきたい。


宿題がなかなか終わらない太郎。遊びたいので、後でやろうと言って机を離れる。するとウメ星の国王と王妃が家事を手伝っている。国王が廊下の水拭き、王妃が掃除機を持っている。だいぶ地球に慣れてきたので、手伝いたいのだという。

ところが地球の常識を知らない二人。国王は水道の止め方を知らずに蛇口の水を流しっ放しにし、王妃は庭に掃除機をかけてしまう。ママはたまらず、お願いですから遊びに出て下さいと、手伝いを止めさせる。

一方のデンカは、自動車に向かって「チンチン」や「おわまり」などの芸を仕込もうとしている。ガキ大将のフグ田たちに、生き物だと嘘を吹き込まれていたのだ。

このように本作は、地球の常識を知らないデンカたち、という描写で始まる。なお、デンカは念力(サイコキネシス)を使って、車をチンチンさせて、おまわりさせる。


太郎がデンカに対して、ウメ星の科学は地球に劣ると言うと、そうでもないとカッとなる。ウメ星では水はすぐに取り出せるので水道はいらない。ツボに乗ってどこへでも行けるので自動車もいらない。掃除機はないが、どんな汚れでも取れるライトがある。

つまりウメ星は地球の科学力を遥かに凌ぐので、逆に地球レベルの便利な道具があっても仕方がないというわけである。


宿題をしなくてはならない太郎。そこへ野球の誘いがくる。早く行かないとフグ田に怒られてしまうが、頭がさほど良くない太郎では、宿題はパッとは終わらない。

そんな太郎に、デンカが助け舟。「ノロチャカ」という時間の流れを早めたり遅らせたりできる腕時計のような道具を出してくれる。これを使えばあっと言う間に宿題は片付いてしまうという。

「ウメ星は素晴らしい」と口にすることと引き換えに、ノロチャカを借りる太郎。さっそく腕にはめて宿題を再開するが、別にチャッチャッと終わるわけではない。結局3時間くらいかかって終わらせたが、時計を見るとまだ5分しか経っていない。この間、時間がゆっくりと進んでいたのである。

ここで気を付けておきたいのは、太郎が絶対的に早く動けるようになったのではなく、周囲の時間の流れが遅くなったので、相対的に早く宿題を終わらせたということである。太郎の体感としては3時間経過している点を押さえておきたい。


ノロチャカをつけて、たっぷり遊べると家を出ていく太郎。家では、ノロチャカを太郎に貸したと聞いて、王様が「ドヒャーだぞよ」と飛び上がる。ノロチャカを無闇に使うとすぐに年寄りになってしまうという。これは人より長く時間を使っているからなのだろう。


太郎は時間を遅くして、ほぼ止まっているように見える通行人たちにいたずらをしていく。スピード違反して走っている車を見つけ(それでも太郎が走るより遅い)、ペンキを塗って停車させる。太郎は、何でもできるスーパーマンになった気になる。


実際にアイマスクをつけてスーパーマンに扮装した太郎は、空き地でメンバーが足りず野球ができないでいるフグ田たちの所へ行く。声で太郎だとすぐにバレるが、構わず太郎は自分一人でみんなの野球の相手をすると申し出る。

素早く動けるようになって野球をするという話は「パーマン」や「ドラえもん」にもあったが、動きが早くなって野球で活躍したいという子供の気持ちを汲んだものだろう。


一対大勢の野球ではあるが、ノロチャカを使えば楽勝だ。時間を遅くしてフグ田の投球をシャボン玉くらいの速度に落として引っぱたく。ピッチャーゴロかと思いきや、一瞬でベースを一周してホームイン。

その後もランニングホームランを計23発打ち込んで、フグ田たちはヘトヘト。みよちゃんたちも集まってきて、太郎のことを褒め出す。

今度はピッチャーとなる太郎。キャッチャーなしでどうするんだとツッコミを受けながら投げ込むと、ホームベースに向かって走り出し、球を追い越して今度はキャッチャーとなってボールをキャッチする。これで次々と三振を取るのだった。


さて、野球は勝負ありの雰囲気だが、突然グランウンドに自動車が乗り込んでくる。先ほどスピード出し過ぎで太郎に止められた車である。

フグ田が「野球をやっているんだ」と抗議に行くと、男二人が降りてきて、「ここは車の練習場だ」と脅してくる。おずおずと引き下がるフグ田に、みんなはダメなやつと辛辣。

そこでスーパーマン太郎は、男たちにすぐに出て行けと注意する。「なにい?」と怒って太郎に掴みかかってくる男たちだが、時間を操れる太郎の敵ではない。パンチなどをヒョイとかわして、反撃。周囲からすると目にも止まらぬ速さで男たちを打ちのめしていく。


本物のスーパーマンだと恐れられ、すっかり「ノロチャカ」を気に入ってしまう太郎。ところが、帰宅するやデンカから使いすぎるとすぐ年を取ると指摘される。

そして鏡を覗くと、顔がしわくちゃ。人より長く動いているので、確かに早く年をとってしまうという理屈はわかるが、この短期間でしわくちゃレベルまで年を取るのは、道理が合わない。

どうやら「ノロチャカ」は使用した時間の数千倍くらいのスピードで年を取らせるものらしい。恐ろしい道具である。

「どうしよう」と泣き出す太郎。デンカはウメ星では若返りの方法も発明されていたはずだと言って、王様の元へと連れていく。ところが、どれが若返りの薬かわからなくなった王様によって、太郎の顔は大きく膨らんだり、ロボットになったり、頭から花が生えたりしてしまうのであった。


本作は「ウメ星デンカ」の第二話目ということで、デンカたちは地球とは異なる価値観を持つこと、進んだ科学技術を持っていること、念力のような超能力を使えることなどを紹介するお話であった。

ノロチャカという道具は、自分を除く時間の流れを遅くする働きをしていたが、その逆は描かれなかった。その点で、前回の記事で紹介した「ドラえもん」の『のろのろ、じたばた』とは展開が異なるものである。



藤子Fノートでは、藤子作品をたくさん紹介・考察しています。


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