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抜群の自由度を誇る「オバQ」傑作西部劇!『オバQ西部を行く』/オバQ異色作①

藤子Fノートを始めるまでは「オバケのQ太郎」については勉強不足で、「ドラえもん」などに比べてそれほど詳しいわけではなかったのだが、改めてしっかりと読み込むことでその魅力を追認した経緯がある。

オバQの魅力、その一つに「自由度の高さ」があると思う。「ドラえもん」のように「ひみつ道具」が出てくるわけではないし、「パーマン」のように何か事件が起きるわけでもない。簡単に言えばオバQには「フォーマット」が定まっていないのである。


基本的には日常の延長ともいうべき他愛のないテーマが多いが、無人島に行ってみたり、地下の国に潜入したりと、特別感のある話も散見される。連載が進んでいくと、登場キャタクターも多彩になっていき、お話のパターンも無尽蔵に広がっていった。

その自由度の高さがあったからこそ、スピンオフ作品「オバケのP子日記」や、女性誌の「マドモアゼル」で連載されるようなことが起こったのであろう。

これまでも多彩な「オバQ」のエピソードを紹介してきたのだが、ここで改めて、オバQがいかに自由度の高い作品かがわかる異色エピソードを厳選してお届けしてみたい。


『オバQ西部を行く』
「小学四年生」1966年1月号別冊付録

本稿では、お正月号の別冊付録として発表された「異色作」をご紹介。テーマは西部劇である。

藤子先生の西部劇好きが有名で、代表的な西部劇映画はほとんどご覧になっているようだし、自作の中に西部劇映画から影響を受けた要素を積極的に取り入れてきた。

以前(と言ってももう2年前)に、藤子Fキャラ✖西部劇特集として数本の作品を紹介しているので、是非ともそちらもチェックいだたきたい。


本作をひと言で表現すると、「Q太郎が西部の流れ者となって、とある町の保安官になるというお話」である。なぜQちゃんが拳銃が上手いのか、なぜ大原家が町長一家なのかなど、全く説明はない。唐突に西部劇が始まって、Qちゃんが悪者たちを撃退して町を去って行く。

これはフォーマットが確立されている「ドラえもん」には真似できない芸当である。「ドラえもん」で西部劇をするには、のび太を拳銃の名手という設定にして、タイムマシンで西部劇時代に向かわなくてはならない。つまり、一工夫が必要となってくるのである。

ところがオバQは説明不要で、作者のやりたいお話を始められてしまうという利点を持った作品なのだ。


さて、テンガロンハットを被ったオバQがに乗って西部の荒野を進んでいる。「Q、Q、Q、オバケのQ、ぼくは西部の流れ者」と口ずさみながら。

そしてリンゴの木の下にやってきて、サッと拳銃を取り出し「バキューン、オバキューン」と何発かを上に向けて発砲すると、リンゴが何個もいっぺんに落ちてきて、それをQちゃんは全て口の中に入れてしまう。

その巧みな銃さばきを遠くで見ていたのは、これまたテンガロンハットを被った正太。すごい腕前だと感心し、「パパに知らせよう」と言って馬を走らせる。

凄腕の流れ者が町へやってくるという、典型的な西部劇(日本で言うところの股旅もの)のオープニングでありつつ、極めてオバQ的なナンセンスさも加わっている秀逸な冒頭シークエンスである。


正太のパパは西部の町の町長さんで、正太の話を半信半疑で聞きながらも、町に辿り着いたQちゃんに星型のバッチを付けてくれるようお願いする。これは保安官のバッジだが、流れ者のQちゃんはそのことをよく分からない。

安請け合いしてバッジをつけると、集まってきた町民が諸手を挙げて大喜び。新しい保安官が決まったというのである。

パパ(町長)は、この町では保安官のなり手がいないと説明を始める。町の中で狼藉を働く乱暴者のランボー一家が、これまで何人もの保安官を殺めているのだという。

この話を聞いて震え上がるQちゃんに、一人の男が近づいてきて、Q太郎の体格の寸法を測り出す。間もなくQ太郎も、これまでの保安官同様にランボーたちに殺されるのだろうから、葬儀屋が気を利かせて(?)、あらかじめ棺桶を作ろうとしているのだ。

なお、西部劇と棺桶という取り合わせで思い起こされるのは、「続・荒野の用心棒」で棺桶を引きずりながら歩くジャンゴであろう。ただし本作が描かれた後の公開だったので、その影響という訳ではない。


新しい保安官が就任したと聞いたランボーたちが、さっそく集まってくる。気弱なQちゃんは「保安官を辞める」と言ってバッジを投げだす。ところが勢いが止まらないランボーたちは、Qちゃんに向けて銃をぶっ放し、3本の毛のうち一本を吹き飛ばしてしまう

命に匹敵するほど大事な髪の毛を失い、「勘弁ならん!!」と激昂するQ太郎は、やはり保安官になると申し出る。ちなみにこの後、Qちゃんはほとんど帽子を被ったままだが、時々毛が見えている時には2本のままである。


さて、新保安官・Q太郎とランボー一家のバトルが幕を開ける。威勢のいいランボーたちだが、子分たちはQちゃんが凄腕だという噂を聞いて、にわかにビビり出す。

Qちゃんは一家のいるバーに乗り込み「一時間以内に町を出ないと全員逮捕する」と宣言。ビクビクしている子分たちにランボーは、「オバQの苦手なものは調べてあるから安心しろ」と言う。

・・・オバQの苦手なものはもちろん。ランボーたちは馬ではなく犬に乗ってQ太郎に迫ってくる。たまらず逃げ出すQちゃんだったが、そこへ正ちゃんが割って入り「お~いチンチンしろ!」と声を掛けると、犬たちがこぞってチンチンして、子分たちは振り落とされ、犬たちはそのまま帰って行ってしまう。


犬がいなくなればこっちのもの。Qちゃんの「オバキューン」が次々と悪者たちを倒していく。殺すのではなく、銃を手から弾くというシティハンター冴羽獠のような腕前である。

子分たちをなぎ倒し、残るはランボーただ一人。ランボーはQちゃんの背後に回り、銃口を向ける。ピンチのはずのQ太郎だが、「撃ってみな」と余裕の構え。ランボーが引き金を引く前に、自分の拳銃が火をふくぞと、自信満々なQ太郎なのである。


膠着状態となった二人。ここから同じ絵が10ページ続くくらい時が止まるのだが、Qちゃんがそこを割愛する(・・・というギャグ)。

ずっと待たされることとなったQちゃんは腹が減り、服を1枚残してそこから抜け出す。ご存じの通り、Q太郎のオバケな外見はワンピース状の衣服なのである。そして抜け出したQちゃんは小池さんが運営するラーメン屋でラーメンを食べることに・・・。


膠着状態に我慢できなくなったランボーは服だけとなったQちゃんに向かって何発も撃ち込む。姿を消しているQちゃんがランボーに近づき、腕を掴んで銃口を本人に向けさせる。そして「バーン」と大声を出すと、これにビビッてランボーは気絶してしまう。

狼藉者どもを倒した保安官Q太郎。正太やパパ(町長)らが集まってきて、Qちゃんを取り囲む。勲章や葬儀屋が必要のなくなった棺桶を渡そうとするのだが、「要らないよ」とQちゃんまたも服を1枚残して、その場から消え去ってしまう。

Qちゃんは念のため、いつも複数枚の服を重ね着しているのである。


おとなしそうな豚の背に乗って、Q太郎は荒野を旅を再開させる。「ぼくは西部の流れ者」などと口ずさみながら・・・。



「オバQ」を語っております!


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