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パーマン、北海道の牧場を取り戻す/藤子Fキャラ×西部劇②

西部劇の魅力。ポイントは無法地帯というところかなと思っている。

まだ開拓の途上にあるので、秩序が成り立っておらず、それにより人々は希望を抱いている。何でもありの世界だから、のし上がるチャンスがある。西部に集まってきた人たちは、一攫千金を夢見ているのだ。

その一方で新しく生まれた富を独り占めしたがる強欲な者も現れる。強者が弱者を追いやり、新しい世界の君主として振る舞おうとする。

西部とは、人間の欲が露わになる場所なのである。

西部劇のヒーローたちは、そうした欲に塗(まみ)れた人々を取り締まり、多くの人々に偏りなく富を行き届かせようとする。自らの欲よりも、人々の幸せを願う。

欲望剥き出しのダークサイドに落ちた人間と、禁欲的に人のために戦うヒーロー。誰もが心持ち一つでいずれかに偏ってしまう世界自体が、魅力的に思えるのではないだろうか。


前回の記事で、普段はダメ男ののび太が西部で大活躍する『ガンファイターのび太』を取り上げた。本稿では普段からヒーローのパーマンを、西部劇の世界に飛び込ませた作品を紹介していきたい。

『牧場をとりもどせ』
「週刊少年サンデー」1967年19号/大全集1巻

「パーマン」は正義のヒーローものだが、あくまで町の悪党どもと戦う生活マンガの域に留まっている。つまり西部劇のような広大な大地で無法者と戦うというような設定は、普通では表現できない。

しかし、せっかくスーパーヒーローを主人公にしているのだから、と半ば無理矢理に西部劇を仕立ててしまった作品がある。それが『牧場をとりもどせ』である。

舞台は、日本の開拓地、北海道。北海道の住民から言わせれば、そんな無法地帯今どき無いよとクレームが出てきそうだが、本州の都会の住民からすると、広大な土地のどこかに未開の地があるような気がしている。これは村上春樹の『羊をめぐる冒険』や、筒井康隆の『七瀬ふたたび』などからも感じられる。


冒頭の2ページで西部劇の設定を一気に説明する。まずパーマンに「日本にもまだこんな景色が残っていたんだね」と説明させた上で、いきなり銃撃戦が勃発。ここでもパーマンに「まるで西部劇じゃないか」「きっと目活映画のアクション物のロケーションか」と解説させる。パーマンは映画の撮影を信じて疑わないが、そこに駐在員のおじさんが現れてロケではないと愚痴る。駐在員は、これほどの広大な土地を監視する人間は自分だけなので、ここは無法地帯だという説明も行っている。

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ここでパーマンは北海道にやってきた理由を明かす。見も知らない牧場主、月の輪牧場の黒原という者から遊びに来ないかと招待状が届いたというのである。駐在に教えられて、その牧場へと向かう。

ここまでを少しだけ注釈をしておくと、パーマンの言う目活映画というのは、日活映画のパロディ。この頃は石原裕次郎全盛期で、日活アクションというジャンルを確立していた。月の輪牧場の名称はツキノワグマからの発想と思われる。牧場主の黒原という名前は、明らかに「腹黒い」からの着想で、今回の悪役であることが既に明示されている。

西部劇はある種の定番尽くしのジャンルとなっていて、牧場などの土地の所有権を巡る争いは頻出だし、実は腹黒いボス、というキャラクターもド定番。本作はそうした定跡を踏んだ話となっていて、掲載当時の読者にはすっと気持ちの入る展開だったものと想像される。


パーマンは月の輪牧場にやってくるが、ごろつきだらけで、招待しておきながら「パーマンを痛めつけよう」などと言い出す。パーマンは反撃して蹴散らすが、そこに黒原が詫びながら姿を現わす。

黒原は、ジョン上井(うえい)というライフルの名手がこの牧場を狙っていると告げる。つまり、黒原はジョンをやっつけてくれと言っているのだが、少々虫のいい話。怪しむパーマンに対して、黒原は「ゆっくりしていってくれ」と言う。

ここで名前が出たジョン上井は、西部劇スターのジョン・ウェインのもじりであることは間違いない。ジョン・ウェインは、「駅馬車」や「リオ・ブラボー」などで大活躍した、元祖ハリウッドアクションスターで、戦後ハリウッド映画が上映されるようになったときの最初のスターであったと思われる。つまりそれだけF先生の思い入れのある俳優なのである。おそらく本作もジョン・ウェイン主演の「拳銃の町」あたりを翻案したのではないかと思われる。

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パーマンは空中乗馬などを楽しんでいたが、そこに悪党だと聞かされていたジョンと遭遇する。立ち向かうパーマンにジョンはライフルを撃ちこみ、パーマンは腕を負傷してしまう。

しかしそこで、ジョンから月の輪牧場はもともと上井家のもので、黒原に奪われたものを取り返そうとしているのだと聞かされる。この辺も良くある展開ではある。

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そこにパーマンがジョンをやっつけた頃だと黒原が現れる。ジョンは敵が目の前に現れたので、ライフルで狙いをつけるのだが、パーマンはそれを妨害する。「邪魔するな」と怒るジョンだが、ジョンを人殺しにしたくなかったのである。

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ジョンを打ちのめした後、パーマンは負傷した腕を気にしながらも、黒原に牧場を返すように直談判をする。が、そこでパーマンに襲いかかる悪党ども。

腕の怪我で手間取るが、応援に集まってきた警察に部下を逮捕させ、黒原には牧場を返すよう脅して、権利を取り戻す約束を取り付ける。ジョンに感謝され、また仲間を連れて遊びに来ると約束するパーマンなのであった。

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ジョン・上井と黒原一味の牧場をめぐる争いに、パーマンを絡める、シンプルな西部劇となっている。


『西部劇強盗』
「小学二年生」1968年4月号/大全集3巻

続けて『西部劇強盗』にも触れておく。

こちらは西部劇そのもの、という話ではない。西部劇サーカスを見に行くと、衣装や馬を山賊に取られてしまっていて、パーマンたちはそれを取り戻す、というお話。強盗団が西部劇に出てくる悪党どもを意識しており、こちらも西部劇の変化球のような作品となっている。

最後は馬と衣装を取り返し、パーマンたちは西部劇の衣装を着て、馬に乗って空を飛ぶ、というラストで終了となる。今回紹介した二作とも馬に乗って空を飛ぶパーマンを描いており、これをF先生が書きたかったのだと認識されるのである。

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「パーマン」の考察たくさんやってます。他にもF作品を横断するテーマ別の記事なども豊富ですので、一度お立ち寄りください!


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