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「ドラえもん」に出てくる安孫子キャラ/追悼・藤子不二雄③

藤本弘と安孫子素雄、二人で一つのペンネーム「藤子不二雄」。しかし本当に二人で合作している作品は少数派で、30代にもなるとほとんど数えられるくらいしか共作していない。

そのあたりのことを以下の記事にて書いた。


二人はそれぞれ別の作品を描いていたわけだが、体面上、いつも藤子不二雄で一緒に合作していることになっていた。インタビューは二人一緒で「僕ら」という受け答えになっていたし、それぞれのキャラクターがクロスオーバーしたり、共通のキャラクターが登場したりした。

正真正銘の合作「オバQ」があったし、子供ながらに、同じ構造を持つ「ドラえもん」と「ハットリくん」が別々に描かれていたとは到底思えなかった。

後から思えば、F作品とA作品では絵柄もストーリーもタイプが異なっていて、逆にどうしてずっと疑わずに合作だと思いこんでいたのか不思議である。


本稿では藤子F先生の代表作「ドラえもん」において、藤子A作品のキャラクターが登場するお話をまとめてみる。ちょっとしたゲスト的出演なのだが、こうした些細な積み重ねが、AとFの混在を当たり前と信じさせる助けになっていたのだ。


『怪物くんぼうし』
「小学一年生」1982年2月号/大全集14巻

安孫子先生の代表作の一つ「怪物くん」は、怪物ランドから人間界に降りてきた怪物ランドのプリンス・怪物くんと、お供のドラキュラ・フランケンシュタイン・オオカミ男の三大怪物が、何かと騒動を起こしていくギャグ漫画。

初登場は意外と早く、1965年2月に「少年画報」で連載が始まり、すぐに「週刊少年キング」でも連載された。ちょうど「オバケのQ太郎」が大ヒットを飛ばしている最中であった。


物語の構造は「オバQ」とよく似ていて、平凡な男の子のもとに異世界の住民がやってくるというもの。「オバケ」ではなく「怪物」がやってくるという違いになっている。

怪物くんの特徴は、手足がゴムのように伸びることと、顔面を変身させることができることだ。そして、取り巻きの三大怪物の濃いキャラクターが笑いを引き立てる役割となっている。


80年代に入って、藤子不二雄作品が次々とアニメ化されていく黄金時代を迎えていたのだが、「怪物くん」は「ドラえもん」の大ヒットに次ぐ形で放送され、こちらもヒットを飛ばした。

本作が描かれた1982年は、「怪物くん」の新作も発表され、アニメ(第二期)も絶賛放送中でのタイミングであった。


内容をざっくりと書いておくと、野球のボールを神成さんの家の中に飛ばしてガラスを割ってしまい、そのボールを取るために、「怪物くんぼうし」を出してもらうというお話。

完全に「怪物くん」ありきのひみつ道具で、このぼうしを被ると手足がゴムのように伸びる。ちなみにゴム人間と言えば、今はワンピースなのだろうが、昭和世代はすべからく「怪物くん」をイメージする

ボールを取り戻したあとも、のび太はゴム人間効果を使って、風船を取ってあげたり、ジャイアンやスネ夫を撃退したりする。ところが、隙を突かれてジャイアンに帽子を取り上げられてしまう。

ジャイアンは、空き地ではる夫が神成さんの家にボールを入れてしまったのを見て、手を伸ばして取ろうとするのだが、神成さんの罠にかかって、伸びた手を木にグルグル巻きにされてしまう。


「怪物くん」の手足が伸びる能力を、藤子F先生も一度は使って見たかったということだろうか・・。

なお、「怪物くん」は本作の半年前に、一度だけ作品中に顔を出している。それが、『なんでも空港』(「小学二年生」1981年9月号/大全集13巻)である。

空を飛ぶものを強制的に着陸させる「なんでも空港」というひみつ道具を使うお話だが、裏山でこれを広げていると、オバQやウメ星デンカ、エスパー魔美と一緒に、空飛ぶほうきにまたがった怪物くんも降りてきてしまう。

「日本の空には変なのが飛んでいるんだなあ」とスネ夫が感想を漏らすのだった。


またフランケンシュタインだけが、ゲスト出演した回もある。それが『お化けツヅラ』(「小学四年生」1979年9月号/大全集9巻)というお話。

「お化けツヅラ」は、お化け屋敷ごっこに使うお化けの詰め合わせセットのこと。お化けたちは、色々な手段で怖がらせてくるロボットである。ここから怪物くんに登場した姿かたちのフランケンシュタインも現れる。

服装は「怪物くん」のままだが、造形が何か違う・・。


『ニンニン修業セット』
「小学四年生」1982年6月号/大全集12巻

安孫子先生の子供向け作品の中で、圧倒的な一番人気だったのが「忍者ハットリくん」である。

忍者ブームに乗っての連載ではあるが、軟派な現代における堅物な忍者というギャップを使ったギャグが冴えていたのと、様々な忍法や、魅力あふれる脇キャラも揃っていた。

最初の連載は1964年から光文社の「少年」。その後、80年代の藤子不二雄アニメブームの最中に、大本命としてアニメ化されて、6年間で約700話も制作された。アニメ放送に合わせて新作マンガも連載された。

ドラえもんの併映として映画化されたが、この時「ハットリくん+パーマン」という夢のコラボレーションを果たしている。原作となる漫画も「コロコロコミック」に連載されていて、僕も当時読んでいるが、合作を何の疑いもなく受け入れていた。

今読むと、パーマンの絵柄がどうみてもF先生とは異なっているのだが、当時はその違いには気にも留めなかったのである。


本作はいつものようにゴロゴロしているのび太に、ドラえもんが「忍者ハットリくん」のコミックを渡す。熱中して読み終えたのび太は、忍術が使える道具がないかとドラえもんにダメ元で聞くと、「持っている」という。

取り出しのは「ニンニン修行セット」という巻物・・・ではなく、風呂敷に包まれた忍法道具の詰め合わせである。

ドラえもんは忍術とは「しのぶ術」であるとし、辛い修行を乗り越えなくてはならないと説教する。


中身は「水上歩行の術」「天狗飛翔の術」「疾風百里行の術」の3点。ここでは詳細しないが、ガチでの修行を積まないと術を会得できない、非常に厳しい道具ばかりであった。

修行が嫌になったのび太は、最初にドラえもんが間違えて取り出していた巻物に着目する。それは、ドラえもん曰く「子供の忍者ごっこに使うくだらないもの」。すなわち10分間だけ、姿を消したりガマガエルに化けたりできる道具である。

楽に忍術が使えるということで、さっそく借りて出て行ってしまうのび太。ガマに化けてしずちゃんに見てもらおうとするが、のび太の変身と知らないしずちゃんにとっては、ただの化け物ガエルであって、当然一目みて、絶叫されてしまう。

その後も犬に変身して野良犬(クロ)に噛みつかれたり、透明な姿になって自転車にぶつけられたり、水をかけられたする。

結局、楽をしようとして逆に、忍術は「耐え忍ぶ」術だと痛感するのび太なのであった。


ドラえもん以外のF作品の中のAキャラということでは、「エスパー魔美」が「魔太郎がくる」の真似をしてメラメラするシーンや、「パーマン」でブービーがプロゴルファー猿のようにギリギリとドライバーを握る場面などがパッと思いつく。

完全合作の作品や、「ハットリくん+パーマン」や、先述のF&Aキャラのコラボなどがあったことで、藤子不二雄名義の作品は全て合作だと信じて疑わなかった。

コンビ解散の時はショックだったが、逆に言えば、それまでは「二人で一人」を信じていられた。それは今思えば、とっても幸せな日々だったのである。



「ドラえもん」の考察たくさんしています。


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