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オバQ路線ふたたび!A・F合作「チンタラ神ちゃん」/追悼・藤子不二雄②

藤子・F・不二雄こと藤本弘先生がお亡くなりになったのが、1996年。それから四半世紀を経た2022年、藤子不二雄Aこと安孫子素雄先生もお亡くなりになった。

これは僕にとって衝撃的なことで、二人で一つのペンネーム「藤子不二雄」が本当に過去のものとなったことを意味する。

藤子不二雄両氏の作品が好きだった僕が、F作品に特化してレビューできていたのも、安孫子先生がご存命だったからだ。もう二度と新作が描かれることのないF作品は僕の中で振り返りの対象だったが、A先生はずっと現役選手である。「藤子不二雄」を振り返る必要はなかったのである。

藤子A作品についても、いずれはきちんと回顧しなくてはならないと思うが、まずは「追悼・藤子不二雄」と題して、藤子・F・不二雄大全集に収録されている、お二人の合作作品を紹介できればと思う。


前回の記事では、藤本先生による「オバQ」誕生の物語『スタジオボロ物語』について解説を行った。どこまでが脚色かは不明だが、F先生とA先生の合作の様子が楽し気に描かれていて大変に興味深い作品である。


子供の頃、まだコンビ解散前でも、藤子不二雄作品の絵柄が微妙に統一されていないことも薄々わかっていた。しかし、コンビ解散によって明らかとなった、活動初期からほとんど別々で描いていたという事実。初めて聞いた時は耳を疑い、冗談抜きでひっくり返ったことを思い出す。

改めて安孫子・藤本両氏の著作歴を見ていくと、合作は本当に少ない。初期の作品群や「オバケのQ太郎」や「海の王子」を除くと、本当に数えるほどしかない。どういう役割分担があって、どのように権利関係が処理されているかわからないが、藤子F大全集で読める作品は、さらに限られている。


不完全の可能性もあるが、「海の王子」以降の合作をリストアップしてみよう。

「海の王子」(1959~61)★
「かせいのたまちゃん」(1960)
「星の子ガン」(1961)
「オバケのQ太郎」(1964~66)★
「名犬タンタン」(1965~68)
「ジロキチ」(1965~66)
「チンタラ神ちゃん」(1967)★
「仙べえ」(1971~72)★

★は藤子F大全集に収録

なんと、8作しかない。このうち、現時点では通常ルートで読むことができない作品が4作もある。

しかしそれでも、「チンタラ神ちゃん」と「仙べえ」は読むことができる。そのことに感謝しつつ、この2作についてはたっぷりと紹介していきたい。


初めての出会い

まず本稿では、「チンタラ神ちゃん」という作品についての解説を行う。

「チンタラ神ちゃん」「少年ブック」1967年1月~12月号

僕の勝手な想像だが、デビューしてまもなく二人それぞれで作品を描くようになったわけだが、常に合作志向はあったのではないだろうか。

50年代の単発作品量産時代でも、毎年数本は合作が描かれていたし、初めての週刊誌連載となった「海の王子」も完全合作だ。その後、いくつかの作品と「オバQ」も共著体制を取っている。

そして1966年中に「オバQ」が終了となって、次なる合作をどうするか考えたはずだが、それが「チンタラ神ちゃん」だったと思われる。


掲載誌の「少年ブック」は、集英社の「週刊少年ジャンプ」の前身と言われる月刊誌で、読者アンケート至上主義を持ち込んで作品の寿命を決めていた。

「少年ブック」では「ジロキチ」(65~66年)という合作を連載したが、6カ月で終了の憂き目に遭っている。その挽回のような形で登場させたのが「チンタラ神ちゃん」で、本作は人気がそれなりにあって、ちょうど一年間連載が続いた。


本作の二人の役割分担は不明だが、主人公の神ちゃんは藤子F先生の絵柄ではないかと思われ、少年ジローはA先生だろう。福の神とビンボー神が微妙で、どちらが描いていると言われても納得できてしまうほどに判別できない。

ストーリーやネームについては、おそらくF先生が主導し、絵のほとんどはA先生ではないかと推察される。


内容としては、チンタラ教の神様であるかみちゃんと、福の神とビンボー神の三人の神様が織りなすナンセンスギャグ連発作品となっている。本作のナンセンス具合は、「オバQ」と同じ勢いを感じる。

そもそも、本作は「オバケ」を「神さま」に変更しただけとも言えなくはない。「忍者ハットリくん」が「忍者」、「怪物くん」が「怪物」、「仙べえ」が「仙人」と、実は同じようなパターンで全て作られている。

異世界の住人が平凡な男の子の日常に入り込んできた時の、カルチャー(?)ギャップだったり、衝突をおもしろおかしく描くという、藤子不二雄の両名が得意としたパターンである。


本作の「のび太」「正ちゃん」に対応するのがジローという男の子。Zが印字されたキャップと眼鏡をしており、身長は低めである。ジローは団地住まいで父親と母親の三人家族の長男。

森の中に洞窟を見つけて、中を自分だけの秘密基地にしていたのだが、ある日チンタラ教の神様、神ちゃんがそこを神殿にして住み始めてしまう。さらに相棒となるビンボー神と、福の神が集まってきて、3人に秘密基地を乗っ取られてしまう。

神さま3人が集まると、何やら辛気臭い話で持ちきりとなる。最近の人間は神さまを敬わないので、お賽銭の上がりが減っているとか、なんとか。


ジローと場所を巡る争いになるのだが、ジローを苛める3人組が秘密基地を見つけてしまい、入り込んでくる。そこでジローは、3人を追い出してくれたら、洞窟内を半分に分けると提案する。

神ちゃんは、天気を操る技を持っており、局所的に雨やひょうを降らせたり、雷や風を起こしたりできる。ビンボー神は、持っているボロのうちわで仰ぐと、何でも中古品にしてしまう。この能力で、いじめっ子3人を追い出して、神ちゃんたちは無事、居場所を確保することができたのだった。

ちなみに福の神は小槌を振ると、物を新品にできたり、金塊を出したりできる。この神さまがいれば、3神の生活もまともになりそうなものだが・・。


作品は全部で12作あるが、そのどれも強烈なインパクトを残す。いつか詳細については深掘りをせねばならないだろう。

一応ひと言メモだけ残しておく。

『チンタラ神ちゃん登場』
3人の初登場編。内容は、先ほどの設定にところで説明したもの。

『チンタラ教に入ろうヨ』
どうやったら信仰心を失った現代人に敬ってもらえるかを会議する3人の神々・・・。

『チンタラアルバイト』
1000円を徴収する「番長」と対決するチンタラ神ちゃん。

『神ちゃんの大好物は・・・』
なんとバナナの皮。そういえば、第一話でもバナナの皮がジローの宝箱に入れられていた。

『チンタラコマーシャル』
布教のためテレビCMでチンタラ教を広めようと画策する。

『チンタラ怪獣』
チンタラ教を広めるべく「お祭り」を開き、獅子舞ならぬ怪獣舞をする。

『神ちゃんパン屋になる』
売れないパン屋を繁盛させて、店主を信者にしようと考える。

『南の島で海水浴しよう』
ジローの頼みを聞き入れ、瞬間移動の術で南の島へ。そして原住民に襲われるというヤバイ展開に。

『神ちゃんハイキングへ行く』
神ちゃんは山へ修行へ向かい、残った面々はハイキングだと勘違いして後を追う。

『クルパー教』
タイトルから想像できるが、「チンタラ神ちゃん」最大の問題作である。どこかでたっぷりと紹介したい。

『神ちゃん赤んぼうになる』
成長を早めることも戻すこともできる神ちゃんの杖をビンボー神がいたずらして、神ちゃんたちを赤ちゃんにしてしまう。

『チンタラスマスで祝おう』
キリストの誕生日=クリスマスに嫉妬する神ちゃん。


ナンセンスなギャグ連発と、それを活かすA先生のオーバーな作画。一般的には全く知られていない作品ではあるが、心から笑えるので、是非多くの方に読んでもらいたい。

そして、『クルパー教』だけはまたどこかでじっくりとご紹介します。



「藤子不二雄」作品の考察たっぷり


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