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謎だらけ『未来の町にただひとり』を徹底考察/考察ドラえもん㉗

『未来の町にただひとり』
「小学四年生」1979年7月号/大全集9巻

ドラえもんのエピソードの中には、何度読んでも腑に落ちない話というのがある。特に、今回記事にする『未来の町にただひとり』は、大きな疑問点が少なくとも二点ある作品で、まずはその謎について共有したい。

その上で、この疑問について自分がどのように納得をつけているかを説明していきたいと思う。


さっそく本作の疑問点を話に沿って紹介していきたい。

事の始まりは夏休み、しずちゃんは北海道へ家族旅行、スネ夫はハワイ、ジャイアンは中元大売り出しのクジに当選してグアム島と、みんな夏休みを満喫しているのに、のび太は一人どこにも行かない夏となってしまう。しずちゃんはおしゃれな帽子、スネオは家族でサングラス、ジャイアンも珍しいシャツ姿とバカンス気分満載の様子。

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そこでのび太は、ドラえもんに誰も行ったこともない凄いところへ連れて行ってもらおうと考える。ところがドラえもんは、「それどころじゃないっ!!」と怒り出し、「大変なことになった、未来に帰らねば」とタイムマシンに飛び乗ってどこかへ行ってしまう。

ドラえもんの慌てっぷりを見てのび太は、「大地震かな、宇宙人の襲来、地球最後の日!」と想像し楽しむのだが、この機会に「タイムマシン」で初めてドラえもんの時代へと行ってみようというアイディアを思いつく。

向かう先は2115年の野比家。住所は

トーキョーシティ、ネリマブロック、ススキガハラ、ストリート

と未来っぽいカタカナ表記。ネリマブロックとは練馬区のことだろう。ススキガハラとは「すすきヶ原」のこと思われる。

というのも、のび太が現在住んでいる地域も、練馬区月見台すすきヶ原か、その近辺であることが分かっている。それは「小学四年生」1977年4月号に掲載された「不幸の手紙同好会」の一コマで、のび太の家に届いた不幸の手紙を逆探知すると、スネ夫から出されたと判明するのだが、その封書の宛名に「練馬区月見台すすきヶ原」と書かれているのである。

のび太はスネ夫と同学区なので、この近くであることは間違いない。野比家は借家であったはずだが、22世紀まで遠くへ引っ越すことなく、練馬のこの場所で留まっていたようだ。

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話を戻し、のび太はセワシやドラミちゃんにも会ってこようということで、タイムマシンで未来を目指すことにする。「夏休みに未来旅行。みんなに自慢してやろう」と意気揚々のご様子。

と、ここでストップして、疑問その①
なぜタイムマシンをのび太が使っているのか?
というのも、タイムマシンは一足早く、ドラえもんが慌てて乗り込んで未来へと帰るのに使ったはず。タイムマシンは一台限りなので、のび太が使えるはずがないのである。これは一体どういうことなのだろうか。


この疑問は残したまま、話を進める。のび太が辿り着いた2115年のトーキョー。タイムマシンの出口が高い塔のような建物のてっぺんに開いてしまう。しかしさすがは22世紀。その超高層の建物から落ちても、フワリフワリとゆっくり地面へと着地できる仕掛けとなっている。

この22世紀のトーキョー、なぜかのび太以外に通りがかる人や車は皆無である。自動衣類販売店や、全自動の食堂などに入るが、人間には出会わない。この辺りの幾何学的な未来の街並みの描写は、異質で迫力がある。

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そうしていると、遠くの公園の上に、何かがフワフワと浮いているのが見える。やっと生き物らしきものが見つかったと、のび太が公園へと急ぐ。

するとそこは空中公園で、エレベーターで高く上がると、無数のインベーダーゲームのインベーダーが飛んできて、のび太にビーム状の攻撃を仕掛けてくる。逃げるのび太。

「なんだあれは、地球上の生物じゃないぞ。と、いうことは・・・。宇宙人!!」

宇宙人が攻め込んできた。だからドラえもんが慌てていたのかと思い当たるのび太。20世紀に帰ろうと逃げ出すが、そこに銃を片手にしたセワシくんと遭遇する。喜ぶのび太と、なぜおじいちゃんがいるのかと驚くセワシ。

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セワシが言うには、生き残ったのは自分だけ。突然UFOが襲ってきた。やつらの光線銃に当たると、人間はチリヂリになって消えてしまう・・・。なにやら物騒なことになっていたのである。

銃を渡されたのび太。

「人類最後の日がこんなにあっけないものだとは…」

そこに草陰から現れるインベーダーたち。のび太とセワシは一生懸命に抗戦する。ところが背後から襲い掛かってきた巨大なUFOの一撃で、のび太とセワシは吹っ飛ばされてしまう!

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倒れ込む二人のもとに、ジャイアンそっくりの男が「やられたなセワシ」と言いながら現れる。「やあ、ジャンボ」と起き上がったセワシ。そこにスネ夫としずちゃんにそっくりな二人がタケコプターで現れる。

事の顛末は、未来の世界も夏休み中で、セワシ以外のみんな、ジャイアン似が月旅行、しずか似が火星、スネ夫似が太陽系一周旅行に出かけていて、セワシだけがどこにも行けずに一人で立体インベーダーゲームをやっていた、ということなのであった。つまり、現代ののび太の境遇と一緒であったのだ。

セワシは、

「夏休みにどこへも行かないなんて、うちぐらいのもんだよ。おじいちゃんがしっかりしてないと僕ら子孫が・・・」

と愚痴をこぼすのであった。

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セワシの家ではドラミちゃんが出迎えてくれて、ドラえもんも原子炉の調子がおかしかったのだが、部品の交換で良くなったと言って工場から帰ってくる。

そして一台のタイムマシンに乗って現代に帰るのであった。


さて、ここで疑問その②。
未来の世界のセワシの友だちに、ジャイアン似とスネ夫似の男の子がいても不思議ではないが、しずちゃん似の女の子がいるのは変ではないだろうか。この時点では、のび太はしずちゃんと結婚することになっていて、しずちゃんの遺伝子はセワシに組み込まれているはずである。つまりしずちゃんに似ている子がいたとして、それはセワシの兄妹か、親戚でなくてはならない。しかし本作でのしずかちゃんに似ている子は、セワシとは他人行儀なのである。

ついでに疑問その③
セワシの境遇が現代ののび太と同じで、夏休みにどこへも旅行できない恵まれない子設定となっている。セワシは、自分がこのようなことになっているのは、先祖であるのび太のせいだと非難する。しかし、これも野比家が優秀なしずちゃんを招き入れたことで、未来は明るく変化を遂げたはずである。しかし、ジャイ子との結婚が定められ、数々の不幸をおびき寄せる最初の頃の未来図が変化していないように見える。これはどういうことなのか。


以上、この3点の大いなる疑問点を、どのように考えたら良いのだろうか。一つずつその疑問を解消していこう。

それでは回答①。のび太がタイムマシンを使えた理由。
のび太はタイムマシンを使って未来に行った。そして使えるタイムマシンは一台のみ。とすれば、考えられるのは、ドラえもんがタイムマシンを使わずに未来へと戻った、ということしかあり得ない。一例では「タイムベルト」を使った可能性はある。現代と未来の野比家では、両時代とも練馬区に住所がある。場所が変わらない時間移動であれば、タイムベルトで十分である。

しかし僕としては、ドラえもんはタイムマシンなしで、普通に時空空間を泳いで未来へと帰っていったのだと想像している。なぜなら、そのようなことを、初期ドラでは行っていたからである。証拠画像は下記(「愛妻家ジャイ子!?」より)。

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ドラえもんが机に飛び込む感じも、今回と同じような描写となっている。あの慌てっぷりから、タイムベルトを付けている余裕は感じられない。


そして回答②。なぜしずちゃん似の女の子がいるのか。他人の空似という見方もできるが、あまりにそっくりだし、スネ夫とジャイアンとセットでの登場なので、やはりこれは源家の血筋である可能性が高い。セワシの親戚という線も完全には消えていないが、こちらの家系だけ火星に行けるような収入格差が生じた理由も不明だし、「セワシさんはどこへ行っていたの」と質問していることから、年の近い親戚の行動を全く把握できていないのも不自然である。

そう考えると、この未来では、セワシはしずちゃんの血を引いてはおらず、連載開始時の設定どおり、のび太とジャイ子が結婚した先にある、貧しい家庭のままであるということだ。そう考えると、疑問③のセワシの境遇の謎も一気に解決したと言えるだろう。


ではなぜ、しずかと結婚して野比家の未来は変わったはずなのに、まだセワシはジャイ子との結婚後の未来図にいるのか。考えらえることは二つ。

まず一つは、のび太としずかの結婚は、未確定だということだ。本作が描かれたのは1979年7月。この直前、1978年10月「雪山のロマンス」でのび太はしずかとの婚約までこぎ着けている。しかし、正式に結婚式が行われるのが、本作の二年後となる1981年8月「のび太の結婚前夜」である。つまり、まだ婚約解消という可能性も強く残されている。つまり本作の時点では、のび太の妻はジャイ子であり、しずかへに変わる前だったのだ。よって、セワシの生活は苦しく、しずかちゃん似の女の子は他人のままなのである。

もう一つの可能性として、のび太がしずかと結婚したとしても、セワシのいる世界は変化がなかった、という考え方もある。つまりのび太が変えた未来と、セワシのいる世界とは、別の時間軸=パラレルワールドであるという説である。

この説では、未来人が過去に遡って干渉すると、その時点から新しい時間軸が生じる、という世界観となる。

「ドラえもん」で言えば、セワシがドラえもんを送り込んだ時点から、のび太のタイムラインは別世界へと延びていき、セワシいる世界とは並行して存在することになってしまったことになる。なので、セワシはこれからのび太が改心して頑張って未来を変えたとしても、その恩恵を受けることはない

ただ、この説の場合、現代ののび太がタイムマシンを使って未来に行った場合に、どちらのタイムライン上の未来に行く着くのか、という問題が残される。作中、セワシくんの世界としずちゃんと結婚した世界の、二つの未来に行っているので、予めタイムラインを選択できる機能がないとおかしなことになる。そうした隠れ設定が無いとも言い切れないが、こちらの説(パラレルワールド説)の採用は難しいだろう。


では、ここまでの考察をまとめておく。

疑問①のび太がタイムマシンを使えたのはなぜか
回答①ドラえもんが時空空間を泳いで未来へと帰っていった

疑問②なぜしずちゃん似の女の子がいるのか
回答②のび太としずかの結婚は、未確定

疑問③なぜセワシは貧しい家庭のままなのか
回答③のび太としずかの結婚は、未確定


さて、長々と『未来の町にただひとり』に生じている矛盾・謎を3点上げて、それぞれへの答えを自分なりに見つけ出して解説を行った。最後までお付き合いいただきましてありがとうございます。


ドラえもん考察など、藤子作品のレビューは他にもありますので、どうぞこちらかお好きなページへ飛んで下さい!


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