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オンライン演劇の世界(12人の優しい日本人/肌の記憶/ムロツヨシショー/ロロ「窓辺」/万能グローブガラパゴスダイナモス)

舞台演劇鑑賞の趣味ができたのは最近のことなので、今劇場に向かえない状況はとてももどかしい。一方、アイデア溢れる人々はネットを用いて作品を発表し始めた。そのどれもが一級品。秀作たちの感想をここに記録する。

12人の優しい日本人

三谷幸喜の代表的戯曲であり、1991年には映画化もされている傑作シチュエーションコメディ。それを1990年の初演の役者を出来る限り集めて2020年にZOOMを用いてリモートで再演するという試み。発起人である近藤芳正が、配信前に全役者がZOOMに入室するだけで1時間掛かったと語っていたことからも、恐らくだいぶ苦労して辿り着いた配信なんだろうな、、と思い、それだけでありがたみが倍増。それこそ、配信の裏側では「ラヂオの時間」的などたばたが巻き起こっていたんじゃないかと想像が膨らんでしまう。

この作品の特徴は全てのシーンが1つの部屋で完結する会話劇という点であり、要するに大きな動きや場面転換が無くてもできる作品である。しかし一方、人と人がひしめきあい言葉を浴びせ合うことで生まれる空間の熱量が重要なことは映画版でも明らかだ。それをオンラインで!実際にZOOMをやったら分かるけどタイムラグとかどうするんだ、という思いが必然的によぎるのだが、、、これがまさかのノーストレスな観劇。凄まじい練習量を積んだのだろうか、スピーディーなやり取りも、間合いが必要な台詞回しも、全てが絶妙に進行していく。正直、どこかグダグダになることを見据えた試みなのかと思っていたが、紛いもない2020年版の再演であった。距離と回線を飛び越えて、舞台が画面上に立ち上がったのだ。とにかく、相島一之の熱演だけでも見ごたえあり。2時間半、たっぷりと芝居のぶつかり合いに酔える。


劇団年一「肌の記憶」

柄本時生、岡田将生、落合モトキ、賀来賢人が結成した劇団年一。作演出に「俺のスカート、どこいった?」「死にたい夜にかぎって」の加藤拓也を起用して作り上げた演劇のような映像のような、境界が曖昧な作品であり、これは新しい表現形態と言える仕上がりだろう。録画で行うからできるような画面のスイッチングもありつつ、それぞれが自由に時間を飛び越えて演じていく様は舞台上のようでもあり。今はアイデア次第でどこまでも行ける。

4人の「演じるという営み」を描いた作品だな、と思った。芝居をすることそれ自体が堪らなく誇らしいという志をディストピアSFに乗せている。終盤、加藤拓也が劇団た組として上演した「在庫に限りはありますが」を引用するシーン。それこそ執筆当時はなんてことなかった顔を突き合わせて食事をすることや濃厚接触に関しての言及が、こうして声を合わせ語られることで途端に愛おしく思えてくる。あの描写も、過去の遺物になるのだろうか。


非同期テック部「ムロツヨシショー」
ムロツヨシの発起&主演、ヨーロッパ企画・上田誠の作演出、ライゾマティックス真鍋大度の映像技術が織りなすハイテクSFショー。中身はかなり上田さんのこれまでの作品で扱ってきたモチーフが中心にあって、めちゃヨーロッパ企画感満載。本多力と永野宗典が出るとそうなっちゃうんだけどね。

定額配信されづらいコンテンツである舞台演劇だが、ヨーロッパ企画の作品はU-NEXTで6作品もの公演が楽しめる、柔軟性のある劇団だ。ちなみにU-NEXTにある作品だと、もちろん「サマータイムマシンブルース」「曲がれ!スプーン」を入口にするのがベスト。で、「あんなに優しかったゴーレム」(ハートフルと狡猾さが渦巻くファンタジー)→「月とスイートスポット」(ヤクザが異次元空間に挑むハードボイルドSF)→「でてこようとしているトロンプルイユ」(かなり異色の逸品)の順番で観ると、すっかり沼入りするはず。


ロロ「窓辺」
以前も触れたが、リモート演劇をいちはやく実践に移そうとした劇団のうちの1つ。アイデア一発というより、しっかり作られた会話のやりとりで、人と人との距離の間で、爆発寸前の"会いたさ"を柔らかく掬いあげる作品が第一回公演の内容であり、心を掴まれてしまった。5/20の23:00から再演予定。

この作品は、録画を何度も放映しているのではなく、実際に生配信で演じていることが意義深い。その時に流れる空気、呼吸の異なりはまさに演劇を見る体験そのものだ。5月22日からの第2回公演も楽しみでならない。


万能グローブガラパゴスダイナモス「甘い手リモート観察」
地方の劇団が全国へと作品をアピールできるというのもオンライン演劇の強みだと思う。福岡の推し劇団・ガラパは年明けに上演していた本公演のスピンオフという形で、ショート演劇を制作して次々に配信中。

サクサク見れる良さもさることながら、遠隔演劇の手法をやり尽くしてしまおうという容赦ない気概もあってすごくいい。アイデアを作風に落とし込んで短期間に12話作る瞬発力、それもちゃんと面白く。本編DVDも楽しみだ。

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