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アジカンとは

#とは のテーマを書くために一番好きなバンドのことを引っ張り出してみる。2018年はASIAN KUNG-FU GENERATION、メジャーデビュー15周年。なのだけど特にそれを祝うイベントとかもないのでここでおめでとうございます、と。

「どういう音楽聴くの」と聞かれて「アジカンとかですかね」と答える人生を10年以上続けてるけど、その良さを言語化するのはとても難しかった。一般的に思われてる「リライト」的な豪快なロックスター感ももちろんある、ところが優しげな歌声や繊細なメロディやアレンジもとても良い。歌詞だって、シリアスなのも社会的なのもユーモラスなのも日常的なのもある。これつまり、全部ある、っていうことなのだと思う。最近は、アジカンには「全部あるから好きだ」と答えるようにしている。

リアルタイムで聴きだしたのは2005年からなので、目下ヒット中だった『ソルファ』と『ファンクラブ』は印象深いアルバム。『崩壊アンプリファー』と『君繋ファイブエム』は後追いで聴いた。一番好きなのは2008年の『ワールド ワールド ワールド』『未だ見ぬ明日に』『サーフ ブンガク カマクラ』の3部作か。次の『マジックディスク』の実験性にも驚かされた。『ランドマーク』以降は、正直それまでの作品と比べるとあまり聴き込んではないけど、それでも必ずグサリと来る曲を定期的に生み出してくれるバンドだ。その安定感も支持の理由。

ラウドで激しいバンド像を蘇らせた『Wonder Future』、そして大ヒットした2ndアルバム『ソルファ』を再録という2015、2016年のタームは、デビュー直後の流れを成熟した上でトレースしてるように思えた。『ソルファ(2016)』のインタビューで、「ファンクラブとは違うソルファの続きを次は作れるんじゃないか」と語っていたのは期待できた。そして、パワーポップ作として予告が成された3年半ぶりの9枚目のアルバム『ホームタウン』のリリースが12/5に決定した。

てっきりアッパーなアルバムが出ると身構えてたがゆえ、その先行シングル「ボーイズ&ガールズ」がスローバラードだったのは予想外だった。ゆったりとしたテンポで優しく全ての人々を肯定してくれる歌。シングルの特典DVDに、アメリカツアーのドキュメントが入ってるのだけど、その会場にいる異国のお客さんたちの興奮がとにかく凄くて。言葉も通じぬ人々の日々にも彩りを与えるアジカンだからこそ書く意味のある曲だと思った。

と、ここまで書き連ねてもやはりアジカンに対しての思いを書ききれてる自信は全くない。だからここはいっそ開き直って僕の作ったアジカンのベストプレイリストを紹介し、それについてあーだこーだ言っていくほうがいいと思った。なので以下の文は、それです。

1.踵で愛を打ち鳴らせ
解放、という言葉がとても似合う。静かな立ち上がりから、徐々に熱を帯びて血沸き肉躍るビート。喜怒哀楽を引き連れ、生きることをダンスに結び付けてある。『ランドマーク』期のゴッチは、人と結びつくこと、その場所へと自ら向かうことを強く意識してたように思う。MVでゴッチが披露してるダンス、ネタっぽいけど実は物凄くこの曲の核心をついてる。

2.電波塔
初期の疾走感ある楽曲の中でも丸みを帯びたフォルムで、柔らかな印象。意外とこの路線の曲ってこの後続かなかった気がする。1stフルアルバム『君繋ファイブエム』のテーマを詰め合わせたようなコミュニケーションの希求。最後の曖昧英詞は「you'll find us ok?」だと思うのだけど、2013年のメジャーデビュー10周年ライブでゴッチが言った「見つけてくれてありがとう」って言葉と繋がって鳥肌。

3.青の歌
ゴッチはもうこの曲は若すぎて歌えないと封印してるけど、いやまたいつかは、とまだ少し願ってる。ぶつぶつとした歌い出しからスコーンと抜けるサビは爽快、だけどどこか閉塞したムードが全編に漂う。デビュー作『崩壊アンプリファー』が作られた20世紀の終末の傍ら、社会のことなんて目もくれず、まだ見ぬ君へとめがけて歌う、モラトリアムに浸っていたアジカンなりの青春ソング。

4.極楽寺ハートブレイク
一発録音でのパワーポップアルバム『サーフ ブンガク カマクラ』の中でも、最もシンプルで最も胸キュンを書き記した1曲。コンパクトな構成に、別れのその時を切り取った詩情が零れてる。「電波塔」もそうだけど、サビとAメロが繋がって歌われる感じの曲が好みだ。平熱でどこにも着地しないような。今年の「骨芋」ツアーでようやく聴けて歓喜。建さんありがとう。

5.
実験心に満ちた『マジックディスク』を締めくくった滑らかなメロディの連鎖が胸を打つ真っ直ぐなロックナンバー。制作されたのはその前の『ワールド ワールド ワールド』の頃らしいのだけど。夕暮れの風景を見つめながら、今いる社会から、遠く届かない世界にまで思いを馳せ、祈りへと昇華させていく。ここ最近のアジカンの作風に通奏する大きなメッセージの芽生えを感じ取れる。

6.エントランス
今だったら、"光る「君」という名のボール"なんて歌詞、どうかと思うだろうけど、迷いなく書ききってるあたり、若さの功名でしかない。いわゆるエモーショナル・ハードコアというジャンルのど真ん中。このサウンドの後継者たちは物凄く多いのだけど、このじっとりとした体温をも喚起させるまでには至ってない気がする。つくづく季節感との相性も凄まじいバンドだ。

7.ブラックアウト
アジカンとの出会いの曲。これほどキャッチーでサビを持ちながら、全体のアンサンブルはかなり歪でサイケデリックな趣すらある。そんなフレーズをイントロにする?みたいな不穏で落ち着かない旋律がクセになる。タイアップ曲だけどリリース時はフェスのコンピにしか収録しない、携帯電話のCMソングなのに情報社会批判、と意図的なのか何なのか。屈折した構造が隅々まで行き渡っている。 

8.ネオテニー
ゴッチが内省の髄まで到達した『ファンクラブ』から一転、『ワールド ワールド ワールド』は社会へと目線が向いた作品となった。風景や生活に刻まれた歴史の傷痕を瑞々しく跳ねる歌に乗せて放った願いにも似た1曲。リリースから7年後の『Wonder Future』のツアーでは、本編のラスト4曲目の位置を担っていたほどに、そのスケールには心が沸き立つ。

9.君の街まで
大ヒット作『ソルファ』の先行シングル。アジカンのパワーポップサイドの代表曲では。全国ツアーではアンコールで演奏されることが多く、ツアーソングとしてもお馴染み。最後のサビの前でのクラップはライブでは引き延ばされるのだけど、その多幸感は言葉にできない。印象的な歌い切りで締めくくるのがアジカンは珍しく、ライブでは全く違う節回しで歌われててて、そのバージョンに慣れてきてる。 

10.夜のコール
アジカンに夜を描いた曲はとても多い。孤独に身を沈めるような曲もあるが、この曲はそんな僕らを救い出すかのように切実に意志を飛ばしてくれる。繊細なフィーリングを形にしてるが、音はスタジアムロックというこのバランス感もこのバンドの持ち味だ。押韻を重視したリリックには、言葉を紡ぐことそれ自体への戸惑いと大義を込めてある。 ゴッチの時代の詩人としての意識が濃厚な筆致。

11.Re:Re:(Single ver.)
いつからやってるのか分からないくらい定着した長尺イントロのライブアレンジ。個人的にはラストの壮大な終わり方が好きポイントだった。アニメ「僕だけがいない街」の主題歌として起用されたけど、その内容との共鳴っぷりは伝説的。書下ろしとしか思えないほど、物語の核の部分まで迫ってる。"繋がり"を歌ってきたアジカンが巻き起こした奇跡のシンクロ。 

12.荒野を歩け
来るニューアルバムのトリガーとなった1曲。「夜は短し歩けよ乙女」の主題歌にしては、やや重すぎないかと思ったけど、あのラストシーンに続くのはこのけだるげなゴッチの声しかないよなぁって。「ボーイズ&ガールズ」もそうだけど、少年少女へ贈る言葉、というのが増えつつある。まだまだ何も終わってない、何も始まってないこと。俯いた顔を蹴り上げてくれるエネルギーがある。 

13.融雪
泥臭いギターリフを刻みながらも、淡々と希望を歌い連ねてある。『未だ見ぬ明日に』は『ワールド ワールド ワールド』から漏れた楽曲を集めた編集盤だが、あらゆる角度から世界を切り出した楽曲が並ぶ。このささやかな春の兆しを日常で覚えること、それも世界を生きる大切な一瞬であることを教えてくれる。「骨芋」ツアーでは日替わり選曲で、聴けず、無念。僕の雪はまだ融けず。

14.海岸通り(2016)
この曲が2004年にシングルリリースされてたら、レミオロメン「3月9日」に匹敵する卒業ソングになっていたのではないか、「1リットルの涙」の挿入歌はこっちだったんじゃないか、そして全国の中高生が門出の日に大泣きしながら合唱する曲になってたのではないかとifな妄想が捗る名バラード。ストリングスが丁寧に編み込まれた2016年版、天に召されるような聴き心地。

15.今を生きて
メジャーデビュー10周年の年にリリースされたこの曲、5年を経て今やアジカンのライブでは欠かすことのできない1曲に。出会い別れを重ねていく人生を、その何気ない場面を活写することで描く祝祭の歌。聴き終わると心がぽかぽかしてたまらなくなる。主題歌だった映画「横道世之介」のどうしようもなく切ないラストカットからこのイントロのドラムが鳴るあの瞬間を思い出し、いつも泣く。

好みの曲の傾向がセンチメンタルに偏りすぎてて、アジカンとは、という問いからはむしろ離れてしまった気がするけど、これこそ僕にとってのアジカンとは、なのだということで。

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