Netflix「三体」シーズン1が残してくれた関心について【ドラマの感想】
Netflixで3/21より配信開始となったドラマ「三体」が異次元の面白さであった。元々原作小説の時点で興味はあったが、ドラマ化が決まり、ならばそちらをと思い先延ばしにしておいたのが功を奏してか、全ての展開に驚嘆しっぱなしである。
宇宙スケールのSF作品であり、得体の知れない概念をドカンと突きつけてくる一方、オックスフォードの同級生5人が知力を結集して好戦的な爺さんの下で大義を果たすお仕事ドラマらしい熱量もある。この贅沢な盛り合わせは実に魅惑的だ。
ここでは本作に散りばめられたエッセンスを拾いつつ、湧き出た関心についてざっと書いていきたい。総括はまだ先。シーズンいくつまでいけそ?
嘘の可能性
本作で人類と敵対することになる三体星人はその特性上、嘘をつくことができない。それぞれが意識を共有できるため、全てが筒抜けなのだ。未だ三体星人の造形がどのようなものかは不明だが、このコミュニケーション法はエヴァンゲリオンで言うところの人類補完計画を想起する。
全ての人と人を隔てる“心の壁”をなくし、1つの完全な生命体にすることで世界を調和させるのが人類補完計画だが、三体星人は既にそれを生物的に備えているということか。ならば嘘をつく地球人類に星全体で怯えるのも無理はなく、恐ろしいことに侵略性も一塊となって現れ出るのだろう。
三体星人はソフォンという陽子サイズのスーパーコンピューター(!)で地球のあらゆるものを監視し、人類の進化を徹底制御するが、嘘をつくという人類にとって一般的かつシンプルな防衛がその隙を突き得るとは。「三体」の魅力はある種の汚さも含む人間臭さの可能性を信じる点だと思う。
最終話、唯一ふらふらしていた主要人物の1人・ソールに「面壁者」の役割が与えられる。頭の中だけで三体星人に対抗する作戦を考え、実行時に初めて外に出されるという、その手があったか!すぎる戦略。人と人を隔てる”心の壁”が人を救い得る。逆エヴァ的な展開がこの先にあるのか。
宇宙を駆ける片想い
膵臓癌を患い、三体問題と並行して自分の死が間近に迫るウィル。彼の存在は本作で際立っていた。こういうSF題材において死はつきもので、恋愛の要素は敬遠されがちなイメージだがウィルが主人公であるジンに寄せ続ける淡い想いは本作をむしろ人間ドラマらしく強調していたと思う。
片想い相手に星を贈る。サヨナラは告げず、片想い相手のために自ら脳だけになって三体星人に対抗するための作戦に挑んでいく。こんなにも匂い立つセカイ系の予感。本邦ではもはや現実逃避であるだとか、社会を見ていないと揶揄されがちなセカイ系概念の欠片が「三体」にあったのだ。
ボクとキミだけのクローズドな関係性、と言うにはあまりに一方的だが、その恋心を乗せてロケットは宇宙を駆けて世界の命運を握ってゆく。セカイ系的なロマンチシズムが最終話で躍動するのだ。その後の展開にはつくづく唖然とするのだが、何よりもウィルのその後が気になりすぎる。
そもそも脳だけになった人物に、誰かへの恋心は保存されているのだろうか。記憶だけなら脳にあれど、感覚器官や運動器官がなければ恋心という情動はキャッチできないのではないかと思ってしまう。「エターナル・サンシャイン」レベルの愛の在処を巡るストーリーにも期待できそうだ。
400年先を思い描けるか
本作で一番ユニークだと思ったのは、三体星人が地球に襲来するのが今から400年後であるということだ。急襲ではなく、猶予がかなりある。悠久の時間ではないが、2400年代という字面では全くイメージが湧かない。この絶妙な未来の危機をどうにかしなくてはならないというのが面白い。
今から400年前といえば日本は江戸幕府がオープンし、イギリスは東インド会社を設立、アメリカは植民地である。そんな時代に、現代をイメージできていたとは到底思えないし、常に目の前に迫る危機に対して必死だった人類は、ハナからそんな未来のことを考えていなかったかもしれない。
しかし科学に限ってはこの世界に潜むルールを掴むものだ。常に繰り返される進化は、無意識のうちに未来を向いていた。400年先とは環境問題や食糧問題が顕在化し得る時代であり、三体星人の危機はそのメタファーとも取れる。故にそこに科学が挑むこの物語は普遍的な熱量を帯びるのだ。
私も、400年後は知らんっスねーと言いたいところだが、子を持ってしまった以上は、そしてその先に連なり得る子孫の可能性を知ってしまった以上は、今を未来に繋げることを放棄せざるを得なかった。一端の科学人として「三体」がどんな未来を描き出すのか、次なる一手を心待ちにする。
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