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円環的時間を生きる〜2024.03.09 Base Ball Bear『天使だったじゃないか』ツアー@福岡DRUM Be-1

もう3ヶ月も前のことだが、今こそBase Ball Bear『天使だったじゃないかツアー』の福岡公演を振り返ってみようと思う。基本的にはいかに早く出すかを考えてきたライブレポートであるが、思考を熟成することでより深まった部分もあるし、今回の新作『天使だったじゃないか』の意義を考えることに繋がるような気がしたからだ。

ティーンネイジ・ファンクラブが流れ続ける開場SEが終わり、ライブは幕を開ける。1曲目「ランドリー」からまずもってその出音がこれまでとまるで違うことに驚く。特に小出祐介のギター。ふくよかで分厚く、ナチュラルだ。まだツアー2日目であり、探っている部分も大いにあっただろうが、これが新作で志向したギターポップを体現するサウンドメイクか!とこの時点でも感動した。

この刷新されたベボベサウンドは過去曲を演奏する場面でも強く実感できた。「そんなに好きじゃなかった」と「抱きしめたい」では歪みを活かしたギターソロが轟き、思い返すと音源でも音が潰れっぱなしだった「WINK SNIPER」がこれ以上ない迫力で届けられる。マイルドだが大迫力な音を放つ現在のモードに合う楽曲が随所に配置されており、そのライブ構築力に終始唸り続けた。

また札幌公演のMCではこのブロックに関する選曲の理由が語られていたとのこと。「Thousand Chords Wonders」を軸に“女性”を眼差す視点への自己批評を小出祐介が口にしたのだという。年齢や時代の進行に応じて変わる価値観を踏まえ、過去の楽曲を否定や拒絶をすることなく直線的な時間の中で捉えてみせたのだ。「WINK SNIPER」をオチに使うユーモア含め、意義深い懐古だろう。


過去はそこにあり続けるがどうしようもなく変わっていくこともある。そのポジティブな側面が滲み出たのが前ブロックならば、「Late Show」以降は感傷的にその変容を受け止めるブロックだろう。アコギの無い「Late Show」は深い残響を注ぐシューゲイザーとして空間を満たす。その戻れはしないノスタルジーを悲しむように、「ホーリーロンリーマウンテン」がそこに連なる。

さぁ、いこうよ
ホーリーロンリーマウンテン
そこには、表裏も光も影もなく
僕らが忘れていたそれがあるから

Base Ball Bear「ホーリーロンリーマウンテン」

ただ1人でその時間、その場所に佇むことで心の内側の蘇る寂しさやほろ苦さが強く残る。が、ずしんとした気分の中、静寂を掻き消すように鳴らされた「檸檬タージュ」が僅かに前を向かせてくれる。《忘れたからこそ決して忘れられない/俺は今を生きてる》と叫ぶこの曲は新作のテーマとも共鳴していた。13年前の楽曲だからこそ、より“あの頃”への憧憬が強く色濃く映し出される。

この後で演奏された「Tranfer Girl」もより遠ざかる追憶の楽曲として一層センチメンタルに響いていた。過去が時に今を照らすことに向き合ったブロックだろう。他の会場では不可逆なさよならと向き合う「海へ」、またかつて描いた“天使性”について向き合う「SIMAITAI」と入れ替えて演奏されていた。過去と向き合い、未来へと託すために必要な選曲がなされていたのだと思う。


新たなベボベと過去のベボベ。新作のツアーならばそれが混ざるのは必然だろうが、特にこのツアーではその溶け合い方が印象深い。この日最後のMCでは小出がかつての自分を懐かしみ、”可愛い過去“として受容していることが語られた。またアマチュア時代に志向していたサウンドに原点回帰した、というわけではないが”循環“してかつての音楽性に再び取り組んでいることも語られた。

このMC、また今回の新作とツアーは円環的時間直線的時間という概念を紐づけたくなる。現代社会に生きる我々は常に成長や進歩に駆り立てられ、不可逆な時間を生きているという認識が強い。この時間の捉え方を直線的時間と言う。一方で季節が1年で四季を辿るような、朝が来ては夜が来て朝に戻るような、同じことを繰り返す時間の捉え方もある。これを円環的時間と言う。

ベボベは常に進化を絶えず続け、価値観も時代に応じて変化させるまさしく直線的時間を重要視するバンドだと思っていた。しかし一昨年20周年の武道館という節目を終え、次なる一手を選ぶ際にアマチュア時代の音楽性の辿り着き、円環的時間を意識したのだ。ただの回帰ではなく、進行しながらもう1度その地点に立てたベボベは、螺旋状の進化をしてきたことを初めて知ったのだ。

このMCの後で演奏された「夕日、刺さる部屋」はそれはもう格別だった。円環的時間を噛み締めながら、しかし同時に直線的時間も実感する。繰り返し思い出しながら、戻れない世界とこれからの未来に想いを馳せる。新作に息づくこの時間の認識が、今回のツアーの色合いを特別なものにしていく。だからこそ終盤に畳み掛けられたライブ鉄板のナンバーにも不思議な質感が宿っていた。

LOVE MATHEMATICS」は初めて観たライブでカウントを周囲の見よう見まねでやってみたことがあった。「DIARY KEY」はコロナ禍、久しぶりに観たあのツアーを思い出した。「ドラマチック」はなんとも言えないあのMVに苦笑したことがあった。様々な思い出と共にあるベボベの楽曲を、今ここにいる自分と過去の自分が重なり合いながら堪能している時間がそこにあった。

今だからこそ歌える愛の歌「Power (Pop) Of Love」で本編を締め、アンコール定番の「夕方ジェネレーション」でまたしても心を夕焼け色にゆらめかした後、「BREEEEZE GIRL」で疾走するエンドロール。最後の最後まで、新しい音と、新しい曲と、新しく聴こえる過去曲が今ここに注ぎ込まれる愛おしい2時間であった。『天使だったじゃないか』をこの上なく表現していた。

染み渡るひとときも多いライブだったが、例えば「Endless Etude」という刺激的なもう1つの新モードでも爆発的な熱狂を起こしていたし、ここからどのように突き進んでいくかが全く分からないのがベボベの面白さだ。これからも未来へと真っ直ぐに、しかし時に本作のようにかつてあった時間にも目を向ける、そんなスパイラルを描きながら健やかに活動を続けて欲しいと切に願う。

《setlist》
1.ランドリー
2._FREE_

3.そんなに好きじゃなかった
4.抱きしめたい
5.Thousand Chords Wonders
6.WINK SNIPER

7.Late Show
8.ホーリーロンリーマウンテン
9.檸檬タージュ
10.Transfer Girl

11.夕日、刺さる部屋
12.Endless Etude
13.LOVE MATHEMATICS
14.DIARY KEY
15.ドラマチック
16.Power (Pop) of Love

-encore-
17.夕方ジェネレーション
18.BREEEZE GIRL


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