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2019/01/20 サカナクション「SAKANAQUARIUM 2018-2019”魚図鑑ゼミナール“ホールツアー」@周南市文化会館

とにかくオリジナルアルバムが出ない。6枚目のアルバム「sakanaction」がリリースされたのは2013年3月。もうすぐ6年が経つ。くるりは4年で出た、10-FEETも5年で出た、しかしサカナクションは出ない。もう出なさすぎて、“アルバムを出さないということ自体がアルバム“といった類の何らかのメッセージなのではないか、と観念的な境地に達しつつある。

そんなタイミングで敢行された、2018年3月のベストアルバム「魚図鑑」のレコ発ツアー。1/20の周南市文化会館に参加したのだけど、これがアルバム6年出てないとかどうでもよくなるくらい素晴らしくて!深層、中層、浅瀬と楽曲を分類して整理し直したベスト盤自体もユニークだったが、ツアーではそのコンセプトを肉体化。そして、それぞれのセクションで山田智和、田中祐介、山口保幸の3名の監督がバックスクリーンの映像を担当する贅沢な試み。これらの演出が、今までの楽曲に新たな角度から光を当て、違う魅力を引き出しまくり。

chapt.深層
水面を滑空するオープニング映像と、どこまで揺蕩うようなインスト曲で幕を開けたこのライブ。水中に沈むショットを残して、最初のチャプターへ。1曲目こそさっぱりとした「朝の歌」だったが、あとはドープでサイケ、暗く重たい面が強調された深層。初っ端からオイルアートもべっとりと展開され、没入感へ誘っていく。いつものツアーならば中盤で登場するようなゾーンだがベスト盤を立体化すべく、まずはいったん観客を潜らせるという。「フクロウ」の虚無感なんか、恐怖すら覚えた。森の画にオイルアートを重ねるのはおどろおどろしい。

「enough」はこのパートをよく象徴していた。鍵盤のみで粛々と歌唱する山口一郎、そこからダンスビートに移行し、この日1番の破壊的な演奏を見せ、また鍵盤のみに戻る、、、サカナクションの楽曲は1曲の中でも様々に階層を行き来する、その特性がよく表れていた。このブロックの最後に披露された新曲「ナイロンの糸」は、サンプラーを用いたカラッとした始まりから、徐々に雄大なイメージにタッチしていく、深層から中層のちょうど間のような楽曲だった。浦人方岡崎圭吾という2人のモデルが裸体で触れ合うシーンに接写した山田智和の映像もあいまって、とても蠱惑的な時間だった。

chapt.中層
江島啓一の勇ましいドラムソロから突入した中層。幕が下り、シルエットで草刈愛美と岩寺基晴の太鼓パフォーマンスを映したあと、30秒くらいで再び幕が開くという、恐らく世界で最も短時間の幕の使い方をして笑、インスト曲「21.1」をハーフサイズ→「明日から」のセットで、この日ピーク級の熱狂が。深層が深層だっただけに、観客の抑圧されたものが明らかにここで噴出していた。また、田中裕介が監督した、ダンサー・山田葵が街で踊り(泳ぎ?)続ける映像が、こちらのダンスを否応なしに煽ってくる。

「ネイティブダンサー」で夜、「三日月サンセット」では夕暮れと、時間帯に合わせた街並みは美しかった。「ホーリーダンス」なのに、その映像では山田葵は踊らずに走り続けていたというのもとても印象的。そして何よりこのブロック最後の新曲「忘れられないの(仮)」の衝撃たるや。これボニーピンクやないか!というような享楽性のあるシティなポップソング。完全なる新機軸。バックの映像も永井博デザイン的なタッチに代わり、山田葵もアニメーションに。柔らかで新鮮な南国の風を吹かせて、中層は終わった。

chapt.浅瀬
「新宝島」の、アクの強いレトロな映像で始まった浅瀬は、サカナクションのキャッチーサイドの応酬。「Aoi」、「ナイトフィッシングイズグッド」といった、ライブのクライマックスに位置づけられそうな楽曲が次々と投下されていく中で、9年前のアルバム曲「表参道26時」が輝いていた。90sな画質で展開される、レストランで黙りこける1組のカップルという、ひたすらに"静"な映像。山口保幸監督によるその異端なアプローチが、楽曲のユーモアを増幅させていた。

「ルーキー」では首都高を疾走し、「ミュージック」では鳥が飛び交う、スケールたっぷりの映像でお馴染みの楽曲を支えている。フェスでもよく披露されている楽曲だが、繋ぎ方やビジュアル演出で、画期的な再構築を果たしていた。テン年代のフェスアンセムとなった「アイデンティティ」ですら、ゾエトロープアニメーションを用いて、様々なフォントで歌詞が映し出される映像で、目が醒めるような新しさをくれた。本編のシメは2018年唯一音源化された楽曲「陽炎」。2017年の10周年ツアーでもその即効性は抜群だったが、山口一郎の盆踊りとも大衆歌謡スターともつかない謎モーションも合わさって、何だか笑ってしまうほどに楽しい時間だった。最後は、映像もさておき、一郎さんの姿しか見てなかった。

アンコール
MCナシで駆け抜けた本編を経て、アンコールでようやくお喋りが。トリを務める予定だったWILD BUNCH FEST.2018が台風で中止になったこと(僕も楽しみにしていたヨ)や、2019年もワイルドバンチに呼んで欲しいということ、ワイルドバンチというフェス名がダサいことなど、楽しげに話していた。

その後、アンコールでは「years」が。2011年のシングルカップリング曲だが、Honda「INSIGHT」のCMソングに起用された。これほどまでリリースがなくとも、過去の楽曲にもタイアップがつき、6年間フェスのトリを務め続け、今回の大規模な全国ツアーも軒並みソールドアウトという存在感の持続には感嘆する。 

今回のツアーも、元々は7thアルバムのツアーとして企画されていたものだろう。しかし、結果として彼らのこれまでの楽曲の耐久性と汎用性の凄まじさに触れるライブとして化け、未知の感動を与えてくれた。どんな局面もアイデアで乗り切り続けるチームの姿、ただただ素敵だ。そして、4月からの6.1chサラウンドのアリーナツアーが来るニューアルバムのレコ発ツアーになることも明かされた(まだレコーディング中で、目下試行錯誤中っぽいので出るかどうか保証はない)。このサカナクションを再検証するツアーを経て、新アルバムツアーへと辿り着く流れも完璧なように思える。まずは、まずはとにかく、春までに、年度内に完成させて!


setlist
chapt.深層
1.朝の歌
2.mellow
3.フクロウ
4.enough
5.ナイロンの糸(新曲)
chapt.中層
6.21.1
7.明日から
8.ネイティブダンサー
9.ホーリーダンス
10.三日月サンセット
11.忘れられないの(新曲)
chapt.浅瀬
12.新宝島
13.Aoi
14.ナイトフィッシングイズグッド
15.表参道26時
16.ルーキー
17.アイデンティティ
18.ミュージック
19.陽炎
-encore-
20.years
21.夜の踊り子

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