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【小説】くの一が如く(20)

第20話 サンドニの奇跡

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 秋になり、ミニマム松村からモデルとして本場のファッションショーであるパリコレの視察を誘われた陽菜は決して乗り気ではなく、しぶしぶ行くことにした。

10月某日

 ミニマムと陽菜と3名のスタッフが雨が降りしきるフランス・パリに到着した。

「はぁ~ついたぁ。長かったなぁ」

「陽菜、空港は置き引きとかスリとかいるからぼうっとしないようにな」

「えっ? あ、はい」

 休む間もなく会場へバスで移動した。

 実際に会場に行って観ると、そこはある種の宇宙空間のようなところで、噂以上に日本のファッションショーとはモード、ショービズ、すべてにおいて次元が違っていた。

  陽菜はあまりの緊張感とレベルの高さに圧倒され、吐きそうになっていた。

『わたしの居場所はここじゃあない』


ショーが終わった後、陽菜はロビーで休んでいた。その間どこかに行っていてたミニマムが走って戻ってきた。

「おーい陽菜! 大変だぁ。Diorのデザイン部門マネージャーが呼んでるから行くぞ、さぁ!」

「ええっ、私ショーに出てないですよ。なんでー?」

「わからん。会いたいと言ってるから、早くいかないと帰っちゃうから急いで!!」

「えっ?はっ、はい」


 会場内のある控室に着くと、背筋のピンと張った老紳士がソファに座っていた。

「ボンジュール! ! 君かね、スプリンターのモデルは?」

「えっ、はい」

「種目は何をやっているんだ?」

「えっ、あっ、100mです」

「そうか。ワシは昔サンドニ(パリ郊外)に住んでてな。20年以上前だったか、世界陸上大会が開かれて、スタジアムに観に行ったんだよ」

「へぇ、そうなんですかー。陸上を?」

「その時に男子の200mの決勝がやっていたんじゃが、驚いたことに黒人選手の中に一人日本人の選手がいるではないか!!」

「えー、本当ですか?」

「スエヒロ、だったかな?  身長も筋肉も黒人に比べたらだいぶ小さかったんじゃ」

『えースエヒロってだれ? 知らないわ』

「レースはな、スターターと選手の呼吸が合わなくて何回もスタートをやり直ししたが、なんとスエヒロは銅メダルをとってしまったんじゃ!!」

「えええ、本当ですか?!」

「そうじゃ、小さな日本人がスプリントでメダルを獲ったんじゃ。奇跡が起きたんじゃ。あの走り方はまるでニンジャのようじゃった」

「え?ニンジャ?」『ってあの忍者のことかな?』

「君も頑張って世界でメダルを獲るんだよ。それじゃあ、メルシー!」

「は、はい、ありがとうございましたー!!」


 二人の会話を見ていたミニマムが話しかけてきた。

「おい陽菜、すっげぇな自分!!  ピエールさんとあんなに話すなんてさ。オレクラスでもほとんど相手にされないのに」

「いえいえ、それほどでもー。あっ、ミニマムさんすいません。今からちょっと急ぎの用事があるので、ホテルに戻っていいですか?」

「はぁ? なんだよ、これからパリ市内の夜を楽しもうと思ったのに。しょうがないなぁ。エッフェル塔やシャンゼリゼは明日だな。」

「ええ.....ホントにすみません!!」



 陽菜は急いで滞在先のホテルに戻った。そして部屋からある人物に国際電話をかけた。

プルルルルル....

「....も、しもし?」

「あっ、朝倉さんですか。あの、私、陽菜です」

「...えっ? ああ、陽菜ちゃんか。どうしたの?」

「すいません。今電話大丈夫ですか?」

「うーん。大丈夫だけど、夜中の2時だよ。フワァ」

 朝倉は熟睡していた。


「あー、すいません。今私パリにいまして」

「パリ?そうか、あれ何かの試合あったっけ?」

「いえ、モデルの仕事の関係でして」

「あ、そう。それで俺にどんな用事だい?」

「朝倉さん、スエヒロさんってご存知ですか?」

「んー? 末広? 短距離の?」

「はい、200でメダル獲った方かな」

「ああ、知ってるも何も、オリンピックのリレーでメダルを獲った時のメンバーだからね。大事な戦友だよ」

「こちらのDiorのマネージャーさんが昔世界陸上をパリのスタジアムでレースを見て、感動したって話をされたんです!まるで忍者が走っているみたいだったって!!」

「忍者? すごいなぁ。欧米人らしい表現だね」

「私、末広さんに走り方教わりたいんですけど、連絡先ご存知ですか?」

「ああ、最近は連絡とってないけど、アイツたしか九州の田舎に帰って高校生とかに教えてるんじゃないかな」

「そうなんですね。あの、できたら是非紹介してください!! お願いします」

「ああ、わかったよ。そしたら聞いておくから、連絡が取れるまで待っててね」

「はい!」

 陽菜は伝説のスプリンター末広真蔵という男に指導を受けられるのか、受けれるとしたらそれによってもしかしたら自分が突きぬけられるかもしれないとワクワクしていた。


◎登場人物

桜井 陽菜/はるはる 175cm 物静かな美人

ミニマム松村 芸能事務所 シャイベックス代表

ジャン・ピエール・ロッサム Dior デザイン部門マネージャー

朝倉宣伸 元五輪リレーメダリスト 陸連理事




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