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【小説】くの一が如く(21)

第21話 くの一が如く

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 陽菜は朝倉に電話し、伝説のスプリンター末広の紹介をお願いした。


一週間後

 プルルル 陽菜の携帯が鳴った。

「陽菜ちゃん。こんにちは。朝倉だけど」

「あっ、朝倉さん。待ってました!」

「末広に話したら、すごく乗り気で、是非教えたいって!」

「えー、本当ですかぁ?」

「基本は熊本で活動してるけど、来月用事があって東京に来るみたいだから、その時少し時間くれるってさ」

「本当ですか。やったー! 朝倉さんありがとうございます」

「スゴイ真面目でいいヤツだから、どんどん聞いて吸収するといいよ!」

「はい、ありがとうございます」


一か月後

 都内の陸上競技場で陽菜は、末広が来るのを待っていた。

「こんにちは。陽菜さんですか?」

「こんにちは。末広さん。よろしくお願いします」

「よろしく。僕に教えて欲しいと頼むなんてセンスあるね」

「パリでDiorのマネージャーの方に教えていただいたんです」

「パリで?マジか。だいぶ前だけどね」

「すごくよく覚えていて、末広さんのことを ”忍者が走っているみたいだった” って言ってました」

「本当?日本では言われたことあるけど、海外の人にまで言われるとは」

 ウォームアップが終了した。

「さて、じゃあちょっと走るところを見せてもらえる?」

「はい。どうすればいいですか」

「軽く60mくらいを2,3本流してくれる?」

「はい。じゃあ、行きます!」


 陽菜はスタート地点から前傾で体を倒す形でスタートし、走り出した。

「うん、いいね」
「なるほど、そうきたか」


 3本走った。

「末広さん、どうですか?」

「オーソドックスな走りだね。ただ筋力が少なくて、馬力が弱いね」

「はい、おっしゃるとおりです」

「ほう、自分でも自覚があるんんだね。それを解消しようとオレの走りをしたいんだね」

「はい」

「ちょっとじゃあ、オレが流して走るから、見ててね」


 末広は同じように60mを流して走った。

『なにこれ?変わった走り方!!  どーゆーこと?』

「どうだい?」

「スゴイです」

「何が?」

「えっと、きれいというか」

「.................」


 陽菜は末広の走り方が独特なのはわかったが、どういう原理なのか理解できなかった。

「足を着地する時にわざと骨盤の位置を下げているんだよ」

「?!」


 そういえば、なんとなく末広が着地の反対側の足を水平ではなく内またのような走り方をしているように見えた。

「着地の時に地面をつま先でそっと軽くこすって、ついてその反動で前に進む感じかな」

「えええ?」

「走ると速すぎてわからないから、ちょっと動きをみせるね」

「はい、お願いします」

「こうやって、こうして、こうだよ」

「すごい!」

「できそうかい?」

「やります!」

「わかった。やる気があるなら教える。フォームも崩れるかもしれないけどいいかい?」

「かまいません!」

「じゃあ基本的な動きを教える。真似してみて」


 末広は歩きながらゆっくりと動きをやり、陽菜はそれを見よう見真似でやってみた。

「ちょっとずつならしていくしかない」
「そうそう」

「これが忍者走りなのですね!」

「まぁ、そうね。でも君は女の子だから忍者というよりも、くの一じゃないかな?

「くの一走りですか?」

「そう、くの一走り」

「へぇ、カッコいいかも!」

....


「お疲れ様。じゃあ、陽菜ちゃんその調子で頑張って。世界でメダル獲るんだよ」

「はい。必ず取ります!! ありがとうございました」

 陽菜はメダル獲得を末広に約束した。

 そして陽菜はシーズン最終戦で3人の中で最も速いタイム11.02をたたき出した。



 七海は出産し、育児の為に陸上を休んでいたが、晴れて復活することになった。結婚して性は藤森となっていたが、陸上では旧姓の田原のままでいくのだという。

 旦那である藤森が主夫になり育児で陸翔君を世話するという。 元々やっていコーチはしばらく休業する。


 そして、米国から新コーチ エディさんの弟子であるロバートが来日した。 L.A 合宿の時は運転手だったが、それだけではなかった。

 七海の復帰でリレーに再び活気を取り戻せる。

 七海は1年半まともに走っていなかったので、体重い。でもやる気はみなぎり楽しくて仕方がなかった。ゆえに日増しに復調していった。出産によりスタミナは逆に増していた。


 最初に小さな大会でレース復帰した。タイムは良くなかったが、手ごたえは十分にあった。


 陽菜が習得したくの一走りを七海も真似した。もともとコーナリングに定評があったが、腕振りを変えたことで、さらに安定感が増した。

 具体的には、

右半身、左半身入替える。肩甲骨から腕を上下に動かす。

上り坂での練習 蹴るのではなく足を置いていき、回していく。

歩きながら動きを覚える。 型は前後ではなく上下に動かすと楽になる。蹴る意識を置く。

腸腰筋を使って足を前に出す。

スタートで前に出して引く、回収を早く、肩で地面を押せる。 一歩目は巻き近く、足が後ろに流れない。


 また、ロバートコーチがテンポよくトレーニングさせた。

 ミニハードル、ハードル横向きにしてまたぐ練習。 筋トレでは足を回転させて手でつかんで足をバタバタさせる。 台にジャンプして乗ったり、プールで歩行する。


 これらのトレーニングをこなしていくことで誰もが思いもよらないようなスピードで七海は復活していった。

 七海は驚異的にタイムを縮めて、どうにかビッグイベントである世界陸上2031,ブリスベン五輪2032に間に合いそうなところまで来ていた。


つづく


◎登場人物

桜井 陽菜/はるはる 175cm 物静かな美人

朝倉宣伸 元五輪リレーメダリスト 陸連理事

末広真蔵 元世界陸上200mメダリスト

田原七海/みーなな 166cm 知恵袋

藤森健次郎  滝野川大監督 元世界陸上リレーメンバー

ロバート 3人の新コーチ エディL.A. TCコーチの弟子


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