ソーシャルアクティビストの生き様ドキュメンタリー「希死念慮を抱えていた若者達が田舎のシェアハウスで元気を取り戻していくその理由は?」能登大次さん (NPO法人山村エンタープライズ)

能登大次さん (NPO法人 山村エンタープライズ 人おこしシェアハウス運営) 
聞き手:山田英治(社会の広告社)

〜この記事は上記動画の書き起こしです〜

能登さん)NPO法人、山村エンタープライズ代表理事の能登と申します。岡山県美作市の中山間地なのですが、7年半前からひきこもりや不登校など、いわゆる生きづらさを抱える若者たちが全国から集って共同生活をすることや、地域のいろいろな活動を通して社会復帰を目指すためのシェアハウスを運営しております。

山田)『人おこしシェアハウス』はどういうきっかけで誕生したのですか?

能登さん)私ども元々は、福祉畑の人間ではなく、総務省がやっている地域おこし協力隊という事業で美作市に移住をしてきました。美作市と一緒に地域おこしの活動をしており、その一環で、とにかく使われてない田んぼやおうちなどがすごくいっぱいあることを知りました。そのため、そういったところの利活用ということで、空いたおうちをひとつお借りして、田舎のシェアハウスというものを立ち上げたんですよ。

当時、田舎のシェアハウスはほとんど全国に存在してなかったため、結構たくさんの若者たちが集まってくれて、みんなで一緒に古い家を改修工事したり、使われていない田んぼを再生してお米を作ったり、山に行って木を切ったりしました。

そんな地域の活動を集まった若者たちと一緒にやっていると、最初は地域おこしとしてやっていたのですが、どちらかというと地域おこしというものは、なかなか先が見えず、どこまでいったら本当に地域が起きたかがわかりにくいと感じました。けれども、逆に来てくれた方たちがみんな生き生きと元気になっていくんです。

当時、田舎というものに心惹かれてくる方々は、それなりに都会の生活に疲れたり、毎日お仕事と家の繰り返しにちょっと疲れてきたりと、そういう方々が多かったです。そういう方々が田舎に来て地域で元気になっていくのを見て、今のやり方の方が明らかに人の役に立てるし、田舎の強さというのを活かせるんじゃないかなということでこの事業を始めました。

地域おこしをやっていたのが地域ではなく、地域で人が起きるという意味で『人おこし』というふうに名付けて、事業が誕生しました。


【データからも証明される『人おこしシェアハウス』による“レジリエンス力”】


山田)シェアハウスに来て、若者たちの変化はありましたか?

能登さん)ここに来てくれている若者たち自身と接していて、ここのスタッフ全員が感じることですが、明らかに変わっていくんですよ。入居した時はすごく表情がなくて、常に人と接する時はとても緊張したような顔をして、下手すれば、脂汗をかいているみたいな状況なんです。

けれども、1~2カ月すると、だいぶ表情が柔らかくなって、ほぐれて笑顔も出てきて気付けば、僕らともわちゃわちゃ普通に会話するようになってくれるんです。そうすると、自然に働きたいみたいな話になって、生き生きと元気に朝出勤していて、(帰ってくる時は)「ただいま」みたいな感じになってくるんですよ。それはもう本当に一番嬉しい部分です。

あとは、僕から入居している方々の親御さん宛てに毎月、月末に報告書をメールで出しているのですが、そのメールを出した時から、どんどん皆さんお返事をくださいます。「おうちではできなかったことをやっていただいて、本当にありがとうございます」とか、下手すると、子供がひきこもって何十年と悩んでこられた親御さんもいらっしゃるため、そこから「こんなに早く笑顔が見られると思いませんでした」といったお礼のメールを毎月いただけます。

それを見ると、私自身が自己肯定感アップで、やっていて良かったなといつも思いながらやらせてもらっていますね。

ここの近くにある日本原病院という病院の心療内科の先生にサポーターをしていただいていて、開所当時から入居した方全員の健康診断を入居時にしていただいているんですよ。それから一定期間を経て、定期健康診断もやっているのですが、そこで血液とか尿検査だけではなく、心理検査もしてもらっているんです。

その中で希死念慮を測る項目があって、いわゆる自殺願望的なものがどのくらいあるかというのを0から5までの6段階評価をするんです。入居時の方々を測ってみますと、3分の1以上の方が5とか4とかすごく高い希死念慮で入居されるんです。けれども、それがここでの生活を経て、定期健康診断になると、その中の7割の方が0になっているんですよ。

ですので、生きづらかった方が生きやすくなっているというのは、データでも明らかに出ています。

山田)どうしてなのですかね?

能登さん)それは、僕らもはっきりとは分からないところなんです。ただ、僕らが見ていても明らかに笑顔も増えてくるし、緊張した顔立ちだったのが普通のリラックスした顔立ちで暮らしてくれるようになるし。そうなってくると、もうちょっと社会で自分の社会生活を営みたいと思って、アルバイトしたいとなってきますし。自然に社会の方に出ていくようになりますね。

こういった若者支援の施設は、「生活リズムをちゃんとしないと」とか「食事をしっかりみんなで手を合わせて感謝しながら食べるのが大事」とか言われます。確かにその通りで、そういうことを大事にしている施設さんは非常に多いんですけど、我々は全く真逆のことを行っていて、基本すべて自由です。

朝起こさないですし、夜寝る時間も決まってないです。食事をする場所も時間も全て自由というふうにしているのですが、最初に問い合わせをしてくださる親御さんからは、生活リズムを立て直したいから、そちらにお預けするんですというニーズも非常に多かったりします。

しかしながら、自由な暮らしの中で、なぜかほとんどの方が自然に朝起きるんです。日中に何かをする。夜は「もうそろそろ明日早いから寝ます」と自分で言う、という暮らしになっていくんですよ。人間の体の中のいわゆる“レジリエンス”というか、そういう自然の形に戻っていく力があるんじゃないかなと思っているんですね。

山田)私は撮影の仕事をしており、都会で仕事をして、また地方で撮影などをするのですが、地方ロケのたびに健康になって帰るとスタッフはよく言うんですよね。

能登さん)自然の力みたいなこともあると思いますが、やっぱり自分の中から湧いてくるもので物事を改善しないと結局のところ、元の木阿弥になる。

強制されてたたき起こされて、日中起きるようにして、夜この時間に必ず寝なさいとしても結局のところ、自分で一人暮らしをして、自分で会社に通うとなったら、会社の時間には起きなきゃいけなくなる。そういうことを自分の力で整えていくための練習をするのが大事なのかなと思っている部分もあり、自由にしているということもあるんです。

そういった生活リズムだけではなく、例えば、最近凄く話題になっているゲームやYouTubeなど色々と依存対象があるじゃないですか。メディア的なものもここでは全く禁止はしてなくて、何時まででも好きなだけゲームしていいし、好きなだけ動画を見て寝てもいいとしているんです。

けれども、ここに住みながら依存によって社会生活がどんどんダメになっていくことは全然ないんです。みんなどちらかというと、ちゃんとした暮らしをしたいというモチベーションを元々持っているので、そちらの力がどんどん強くなってきて、そうすると自ずと依存は減っていくっていう感じなんですよね。

山田)面白いですね。人間の奥底にあるそれぞれが持っている“レジリエンス”とおっしゃっていましたが、自由にすると沸き起こる、ふつふつとみなぎる“レジリエンス力”みたいなものが出てくる感じですか?

能登さん)何かそんなイメージです。

山田)凄いですね。

能登さん)でも、生きづらさが解消するためにかかる時間には、個人差があり自然の力のため、そこを「何か月までに必ず仕上げます」といったようなお約束は、私たちは決してできないのです。


【みんなが緩やかに繋がっていける“コニュニティの拡大”を目指す】


山田)今後の展望はどんなイメージですか?

能登さん)元々このシェアハウスを立ち上げた時は、ここのシェアハウスを作って、困っている子達が入居し、一定期間を過ごして、元気になったら次に行く、という期間を過ごす場所として設計していたんです。けれども、途中からだんだん様相が変わってきて、ここを出た方達がこの近くで一人暮らしをするというケースがどんどん増えてきています。

僕らはOBと呼んでいるのですが、今15人ぐらいの人おこしのOB達がこの近くで、働きながら一人暮らしをしています。たまにここにも遊びに来たり、困ったら僕に相談に来たり、時々たっぷりお菓子の手土産を持って遊びに来てくれたりしてくれます。それも結構遠くにいるOBも遊びに来てくれたりするのですが、そういう形でここを出た子達とも緩やかに繋がっています。

言わば最初は、シェアハウスという形で設計していたのですが、今は『人おこしコミュニティ』みたいなものが美作市や近隣の町も含めてできてきているのが僕としてはちょっと嬉しい誤算です(笑)

今、僕は人おこし2.0って呼んでいるのですが、シェアハウス設計からコミュニティ設計みたいなところに移ってきていて、そこをどういう風にしようかなと考えています。そういうひきこもりになりがちとかコミュニケーションに課題を抱えているという若者達の場合は一人暮らしをし始めると孤立しがちなんですよね。

誰にも困っていることを言えなくなったり、一応会社は行けているけど、会社と家の繰り返しだけで誰も話せる人がいなくなったりしてしまいます。それを防ぐ為に、彼らが近くに住むという選択肢をしてくれたのかなと思うんです。

そこを、うまく孤立させずにみんなが緩やかに繋がっていけるコミュニティみたいなものを、どういう風に今後保ちながら拡大させていけるか、ということを更に地域の方々や企業さんも含めて、みんなの理解を少し持ち上げながら(進めていく)というところが今、僕の次のステップの興味と関心です。


【“人おこしシェアハウス”で一人でも多くの若者に活力を!】


山田)全国にひきこもり当事者は今146万人もいるというデータが出ていると思うんですよ。

能登さん)どんどん増えていますよね。

山田)それで本当に困られている親御さんもいますし、本人が一番この生きづらさを抱えていると思うんです。けれど、本当に『人おこしシェアハウス』のような仕組みがもっと日本に広がっていくといいなと思うじゃないですか。

例えば、フランチャイズじゃないですが、卒業生の方が『人おこしシェアハウス』をどんどん支店として作っていく風にしていけば、自分が実証しているエビデンスな訳じゃないですか。その卒業生は、「私を見て!」、「私はこうして今がある!」という人がオーナーとなって、シェアハウスをどんどん広げていく。

そのシェアハウスの運営などは能登さんがレクチャー、育成して、事業にもしていくし、世の中のためにもなるというような『人おこしシェアハウスのフランチャイズ化』はどうですか?

能登さん)めっちゃ面白いですね(笑)

山田)やりましょうよ。うちメガホンというクラウドファンディングをやっています。例えば、卒業生の中に『人おこしシェアハウスフランチャイズ化計画』の第1号で手を挙げてくれる人がいるんですよ、と。

今度、どこどこに空き家が発見されて、それをみんなで解体して何かをする模様から、我々が取材も行きますよと。それを動画にしてみたら、実際に運営資金が300万円足りないという。だったら、うちのメガホンでクラファンして資金を集めて実施するというような感じでどうでしょうか?

能登さん)素晴らしいです!

山田)そういった手を挙げてくれそうな次のリーダーというか次の能登さんみたいな方はいそうでしょうか?

能登さん)そうですね。そこは、もしかしたらもうちょっと時間がかかるかもしれないですね。このポジションは一番忍耐力が必要だったりするんですよ。僕も本当に始めた頃は、素人からのスタートだったので、彼らと日々接して、本当に色んな失敗もしました。

人おこしを始めた直後に入居してきた子達には、本当に僕も迷惑をかけて、言っちゃいけないことを言ったりとか、本来だったら福祉の世界ではやってはいけないような対応とかもあったりしたかもしれないです。けれども、彼らとの日々の対話の中から少しずつ私もこうした方がいいんだということを学びながらやってきていますので。

だから、一朝一夕にこのポジションというのは、もしかしたら難しいかもしれないですが、やりながら学んでいくとかですね。もしかしたらここに住んだことで、そういうこともある程度素地はできているかもしれないので、可能性はすごくあると思います。

逆に言えば、別にここのOBじゃなくても全然いいと思うんですよ。志のある方で社会に貢献したいとか、若者の問題の課題意識を持っていて自分も役に立てるかなと思っている方などが全国にいっぱいいらっしゃると思います。そういう方がやりたいという時には、こちらがノウハウを提供して、資金をメガホンさんで。

山田)素晴らしいですね。いいですね。地域おこし協力隊は全国で1,700自治体もありますよね。いろんなところでやられていて、結構僕も地域おこし協力隊の方は知っているんですが、事業に困っている人たちが多いんですよ。

地域おこし協力隊の方や全国の組織体に呼びかけて。オーナー研修じゃないですけど、ここに一緒に暮らしながら、支援の場に携わりながら、そこにあるプログラムを経たらちゃんとそれぞれの地域で事業化していく『人おこしシェアハウスオーナースクール』みたいな感じでね。

それで、そうするとこの試み自体がより広がれば、困っている若者たちも助かるし、地域おこし協力隊の事業プランにもなっていく。どの地域でもぶっちゃけ、ちゃんと能登さんのノウハウというかご経験を伝承できれば、実現できますよね。

能登さん)そうですね。それが先程のご質問の未来の話の、僕のもうひとつのプランとして本当にそれを言おうと思っていたことなんです。モデルにはなれるなという気はしているんですよ。こういうシェアハウスという形もそうですし、そこからコミュニティになっていく。地域の理解も得ていくみたいな形を僕らは本当にいっぱい失敗しながら、いろんな危機を乗り越えながらやってきました。

それが一通りノウハウとして溜まっている気はするので、それをまた別の地域でも作っていく。まさにお役に立ちたいなとすごく思っていたところでした。

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