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ひきこもり当事者の回復のために家族ができることは?周囲や社会にできることは? 臨床心理の専門家に聞きました!

ひきこもり当事者、家族、支援者の思いをみんなに伝えるラジオ【ひきこもりVOICE STATION】♯5、ラジオ音声を全文書き起こしました。

臨床心理の研究をしながら、ひきこもり当事者の家族支援もされている、東京学芸大学准教授福井里江さんに、構成担当の社会の広告社山田英治が聞きました。
※音声で聴きたい方は、コチラから!

パーソナリティ:高橋みなみ                      ゲスト: 東京学芸大学准教授 福井里江さん  (PART2)          取材構成:山田英治(社会の広告社)

高橋みなみさん「ひきこもりボイスステーション。パーソナリティの高橋みなみです。今回は前回に引き続き、東京学芸大学准教授の福井里江さんにお話をうかがいます。福井さんは臨床心理の研究をしながら、ひきこもり当事者のご家族の支援をされています。家族への支援として必要なことは?家族はご本人にどう接したらいいの?といった疑問についてうかがいます。聞き手は構成担当、社会の広告社の山田英治さんです」

ひきこもりは自分たちのせいと思って親たちも孤立して生きづらさを抱えている

山田「まずひきこもり当事者をもつ家族の心理状況について、先生にお話をうかがいたいのですが」

福井先生「はい。大切な家族の一員がひきこもり状態になってしまうというのは、やはり家族にとっては大きなショックを受けることだと思います。そしてそんな時、家族はやっぱり何とかしようと思って、いろいろ試されるんですよね。でも、うまくいかなくってどうしたらいいか分からなくて、時間ばかりが過ぎていくっていうことが割と多いです。その間、家族は何にもしてない訳じゃなくて、本当にいろいろなことを試していらっしゃるんですよね。でも、うまくいかないので、挫折感とか無力感とかそういったものを感じるお気持ちも出てきてしまいます。

そんなふうに悩んでいると、だんだん自分の育て方がいけなかったんじゃないかなとか、世間に対して申し訳ないなとか、そんな自分を責めるような気持ちが生まれてきたりします。意外と、子育ては親の責任だというような社会の風潮があったりもしますので、そういったものも更に、家族を追い詰めてしまうところがあります。そうしたことから、家族は誰にも相談できないで孤立していってしまうことがあると思います。家族が鬱になってしまうというのも、本当によくあることで、ご本人のことで一生懸命になってしまいますので、自分が本当にどれだけ辛いのかとか、心の健康が脅かされる状況になっているのかということに、意外と家族自身も気が付かなかったりすることもあるんですよね。ですので、家族が自分のことを大切にするとか、ご家族が辛い時は、家族が自分のために受診をするとか、そういったことも、とても必要なことだと思います」

山田「子どもを何とかしたいから相談じゃなくて、自分自身の気持ちを何とかしたいから、支援につながってもいいですよってことですね」

福井先生「本当に今おっしゃる通りです」

山田「むしろ親が子どものことばっかり考え過ぎて辛くなるというよりは、親自身が、普通の暮らし、普段ならではの暮らしをすることが、意外とその子にとっても大事なことというお話を聞いたことがございますけれども、先生どう思いますか」

福井先生「本当にそれもその通りで、家族が落ち込んでたり心配して暗い顔をしたり、体調悪くなったりしていると、ご本人っていうのは自分のせいで家族がそうなってるというふうに思ってしまうところがあって、やっぱりそういう姿を見ていることも、ご本人にとっては辛いということにもなってしまうところがあるので、家族が家族として、ご本人の状況がいろいろあるけれども、自分を大切にして健やかに普通の暮らしを継続していくということは、本当にご本人にとっても、ほっとすることになると思います」

山田「そんな家族にはですね、どんな支援が必要なんでしょうか」

福井先生「今のお話とも重なるところがあるんですけれども、一番大事だなと思うのは、家族がまずほっとできて、安心できることかなと思います。そのためには辛い気持ちを安心して誰かに話すことができたり、あるいは自分が頑張っていることを認めてもらえたりといったことが大事じゃないかなと思います。

ここでちょっと話は飛ぶんですけど、お饅頭を想像してみていただけたらと思うんですね。ここでは、あんこを皮が包んでいる、そういうタイプのお饅頭を思い浮かべていただいて、今からご家族の心をこのお饅頭に例えてみたいと思います。あんこは家族の辛さとか苦しみを表しています。そして皮は、そんな中でも家族が頑張ってることとか工夫してることを表しています。一番辛くて苦しい時は、家族の心はまさにあんこでいっぱいみたいな状況になっているわけです。そんな時は、皮は薄いものしかないような感じに思えて、もう自分の心はあんこばかりだ、きっと、あんこが外からも丸見えになってしまうんだという感じで、世間に顔を出せないと、そんな気持ちになってしまったりということがあります。

でも、私は本当にたくさんの家族の方とお会いするんですけど、薄い皮しかない家族なんて本当に誰一人いないなといつも実感しているんです。ご家族は、たとえうまくいっていなかったかもしれないけれど、家族なりに本当にいろいろな頑張りとか工夫とか対処をしているし、いっぱい魅力的なところがある、本当に人間的にも素晴らしいご家族の方ばかりだなと常に思っているんですよね。でも、ご家族って、自分のお子さんだったりあるいは兄弟だったり、そういう人たちのために頑張ることは、どこかで当たり前のことと思っておられるところがあって、それを自分の頑張りだとは、なかなか思っていらっしゃらないことも多いなと感じています。

こんな時には、家族がどうやって元気になっていくのかということを、今のお饅頭の例で考えていきますと、1つは、このあんこの部分を、安心して話して誰かに分かってもらえて、あんこの大きさは変わらないかもしれないけれど、ちょっと重さが和らいで抱えやすくなることがあるかなと思います。

それからもう一つは皮の部分ですよね。ご家族自身としては自分が頑張っているって、なかなか思えないかもしれないけど、一緒に話をしていけば、あ、そうか、そういうことも頑張っていたことかもしれないという感じで、皮の要素がたくさん見つかってくることがあるんですよね。そうすると、お饅頭の皮の部分が、ふっくらと膨らんで大きくなるという変化が、心の中に起こってきて、あんこの大きさがたとえ変わっていなくても、皮の大きさがふっくらと大きくなることで、心のお饅頭の大きさ自体が大きくなっていくので、心の中に占めるあんこの大きさの割合が小さくなるという、そんなことが家族の心に起こってきたりするなと思うんですよね。ですから、そういうイメージで、家族のお饅頭がふっくらとしていくような、そういうサポートをしていくことかなと考えています」

山田「ふっくらとした饅頭ですね。中のあんこの大きさは変わらないけれども、その周りの部分を厚くしていくためには、いろいろな方とお話をするとか、それぞれの趣味を充実させるとか、どんな方法が考えられるでしょうか」

福井先生「趣味の時間を充実させるっていうのも、もちろん一つそうですし、しばらく連絡を取っていなかったお友達ともう一回連絡を取ってみるとか、あるいは一人でほっと休める時間を持つとか、そんなこともお饅頭の皮をふっくらさせていくことにつながると思います。これって一人ではね、なかなかふくらませていくことは難しくて、やっぱり一緒にふくらませてくれる人、歩んでくれる人、伴走してくれる人が家族にとっても必要だなと思います」

ご両親が普段の通りの暮らしを取り戻すことで、
ご本人も変わってくる?

山田「先ほど先生のお話で、ご両親がそうやって普段通りの暮らしをされたり安心できる環境に身を置いたりすることで、ご本人が変わってくる、ご本人もエネルギーがわき上がるというか、変わっていくというお話をされたと思うんですが、それはどうして、ご本人も変わっていくようになるんでしょうか。心理面的にはどういうことが行われているのでしょうか」

福井先生「家族がそういうふうに、ほっとできたり安心できたり楽しめる時間が増えたりすると、まずシンプルに家族の表情とか雰囲気が和らいで、笑顔が増えて、そのことが家の雰囲気を少し楽なものにしてくれるということがあると思います。

それからもう一つは、家族がご本人のことをずっと心配していると、何か一挙手一投足が気になってしまって、ちょっと物音があっただけでも、あ、どうしたんだろうとか、ちょっと出かけようとしたら、どこに行くんだろうとか、そういうふうになってしまうことがあります。でも、そうやって、じっといつも気にされているというのは、かえって動きにくかったり、過ごしづらかったり、ということがあると思うんですね。だから、適度にご家族が外の世界に出入りしている方が、むしろ心がホッとできて、ゆとりが出るんじゃないかなと思うんです。なかなか、どんなに関係の良いご家族でも、長い時間一緒にいると、どうしてもトゲトゲしてきてしまうことがあったりするので、やっぱり近しいご家族であっても、それぞれの時間を大事にするという適度な距離感が必要ではないかなと思います」

山田「全国で家族会といったものが結構ありますよね。全国組織でもありますし、各地域にもあると思いますが、そういう家族会に参加して、別の親御さんたちはどうしてるんだろうとか、そういうところでお話しすることでも、ほっとしたり楽になったりするものなんでしょうか」

福井先生「本当にそうだと思うんですよね。同じような経験をしていると、長く話さなくても、ちょっと話しただけでも、あぁ分かるというふうに反応が返ってくるところがあったりして、そうすると、うちだけじゃないんだなと思えることが、一つすごくほっとできることになったりとか。それから、そういった家族会に行けば、自分たちが育ってくる中で身につけてきた常識みたいなところが苦しいんだよねとか、そういう気持ちも共有して分かち合っていくことができるので、そういう気持ち、辛さをね、ご本人に向けるのではなく、共有している仲間同士で分かち合いながら和らげていく方が、きっとご家族も楽なんじゃないかなと思います」

山田「当事者のご家族は、ご本人たちとどう接するのが良いでしょうか」

福井先生「まず大事なのは、その人が存在していることそのものを認めることだと思います。どうしても、ひきこもり状態というと、周りにいる人はついどうしたら外に出られるのかとか、仕事ができるのかということを考えてしまうんですが、エネルギーを貯めるという話を先ほどしたんですけど、そのためには今のありのままが認められるっていうことがなければ、エネルギーを貯めることはできないんじゃないかなと思います。

でも、そうは言っても、会話がない中で、どうやってその人の存在を認めたらいいだろうというご家族も多いと思うんです。そんな時でも、できる関わりの工夫は幾つかあります。例えば声に出して挨拶をするということですね。おはようとか、お休みとか、どんなことでもいいと思います。それから、返事がなくても大丈夫な声掛けをするということです。今日はいいお天気だねとか、おやつ買ってきたから良かったら食べてねとか、その時は返事がなくても気にしないという、そういう心持ちも結構大事だったりするんです。

あとはですね、今心配していることとは関係のない何げない話をするということも、結構大事かなと思います。ご家族が日常会話をしたい、コミュニケーションしたいという時の話題は、しばしば外に出ることとか仕事のことだったりするんですよね。でも日常会話って、本当はそういうことじゃなくって、ちょっとこんなことがあったよとか、こんなお店が新しくできたのを見掛けたよとか、何げない話が日常会話じゃないのかなと思うんですよね。ただ結構、心配事で心がいっぱいだと、意外とそういう話題もないな、という感じになったりすることが結構あるので、そんな時は、会話の種がないかなと思いながら町を歩いてみたりして、そこで見聞きしたことを、ご本人がいるところで独り言みたいにでもいいから話していくと。どんなふうに思われてもいいやぐらいの気持ちでね、普通の会話を続けていくというね。そんなことがヒントとしては幾つか考えられるんじゃないかなと思います。関わりが日常のメインになるようにして、この後いろいろな展開があったとしても、そういう関わりは続けていくということがいいんじゃないかなと思います」

山田さん「焦らず待つみたいなことも大事なんですかね」

福井先生「そうですね。ご本人にとっても、親御さんやご家族が心配していることが分かりますから、申し訳ないなとか、自分のせいじゃないかなとか、そんなふうに思っているので、そんなことないよというかね、あなたがいてくれることが大事なんだよというメッセージを心から届けてあげると、ご本人にとっても救いになるんじゃないかなと思います。

それから、先ほどのお饅頭理論なんですけど、これはご本人にも心の饅頭っていうのはあるので、同じことがご本人にも言えます。つまり、ご本人の心のお饅頭がふっくらするということですね。どうしてもひきこもり状態にあると、そのことばかりが目に付いてしまいますけど、でも、その人の全てがひきこもり状態で占められているわけじゃないので。例えば、優しかったり正義感が強かったり、家事を手伝ってくれるとか、我慢強いとか、アイドルのことだったら家族の中で一番詳しいとか、なにかそういう皮の部分がいっぱいあると思うので、そういったところを認めていくことも一つのアイデアとしてあるかなと思います。

例えば、ひきこもり状態にあることそのものも、もちろん、辛いあんこだというのはあるんですが、でも何とかして自分を保とうとする、その人なりの工夫だと見ることもできるし、あるいは辛いのに誰にも頼らずに一人で耐えているなんて、なんて強い人なんだろう、そんな見方もすることができるし、そうするとそれって皮にもなり得ると思うんですね。だからひきこもり状態にあることが、その人の全てではないということを忘れないで、あんこに寄り添ったり、その人の健康なところを認めていったり、そういうことが大事なんじゃないかなと思います」

山田「周囲や社会の側にできることは、先生はどう考えられているのかお聞きしたいんですが」

福井先生「まずご本人やご家族が、相談しやすくて活用しやすいような仕組みが、まだまだ少ないところがあるので、そこを充実させるということがあるかなと思います。例えば、最初の相談窓口はすごくハードルが高いところがあるんですが、そんな時に電話だけじゃなく、ラインとかメールとか、オンラインで面談できるとか、訪問してもらえるとか、いろいろなその人のニーズに合った入り口があると、少しでも相談しやすい状況になるんじゃないかなと思います。

それから、こういうことは、医療や福祉の世界だけのことだと思われがちなんですけど、それだけじゃなくってですね。今、このラジオを聞いてくださっている方々の中に、居場所として使える場所を提供してもいいよとか、あるいは、自分たちがやってる仕事のこの部分だったら切り分けて誰かに依頼することができるかなとか、あの人そういえば心配してたけど、久しぶりにちょっと連絡取ってみようかなとか。それぞれにできることを考えていただけたら、それだけでも大きな一歩になるんじゃないかなと思います。

私がすごく大事だなと思っているのは、ひきこもり状態にある方というのは、すごく力のあるユニークなそして真っ当な人なんだということを、よく知ってですね、そういった人の可能性に際限はないということを周囲にいる人達がみんなで信じていくことが、すごく必要なんじゃないかなと思っています。どうしたら、そういうふうに信じられるのかっていうことですが、やはりいろいろな生き方をしている、ひきこもりの経験者とたくさん出会うことが役に立つんじゃないかなと思っています。このひきこもりボイスステーションには、たくさんのひきこもり経験者やご家族の生の声に出会えるものが詰まっていますので、是非多くの方に少しでも出会っていただければと思っています。

ストレスフルな現代社会では、誰だって心が疲れてひきこもることもある。そんな時エネルギーを貯めて、また歩き出していける社会にしたい。

ここまでお話をしてきたんですけど、本当に今のストレスフルな時代ということを考えると、ひきこもり状態であってもなくても、誰だって心が疲れ切ってしまうことがあるなと思います。そんな時、いつでも何歳からでも、仲間がいて安心して休むことができて、エネルギーを貯めて、また歩き出せるような、そういう社会にしていきたいなと思いますし、人とたとえ違ったとしても、それが面白いねって、かけがえのない個性だね、と大事にされる社会になるといいなと思います。今、そういう社会になっていないところがあることを、ひきこもり状態にある人たちの存在が教えてくれているというか、投げかけてくれているんじゃないかなと感じていますので、このひきこもりボイスステーションなどを通してですね、ひきこもり経験というもののイメージが変わっていったり、偏見が和らいでいったり、社会にいる一人一人が、自分にできることを考えていく、そんなきっかけになることを心より願っています」

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高橋さん「ひきこもりボイスステーション。今回は、東京学芸大学准教授 福井里江さんへのインタビュー後半をお届けしました」(前半パート1はコチラ)

◆イベント開催 2021年1月16日13時スタート!
『ひきこもりVOICE STATION』公開生配信! (パーソナリティ高橋みなみ)
視聴登録はコチラ https://www.asahi.com/ads/hikikomori-voice-station/

◆『ひきこもりVOICE STATION』 公式WEBサイト https://hikikomori-voice-station.mhlw.go.jp/ (2021年1月14日公開予定)  
◆TOKYO FMサンデースペシャル『ひきこもりVOICE STATION』放送決定! (2022年2月13日19:00~19:55)

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