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ひきこもりの原因は?長期化してしまう理由は?臨床心理の専門家に聞きました!

ひきこもり当事者、家族、支援者の思いをみんなに伝えるラジオ【ひきこもりVOICE STATION】♯4、ラジオ音声を全文書き起こしました。(PART1)

臨床心理の研究をしながら、ひきこもり当事者の家族支援もされている、東京学芸大学准教授福井里江さんに、構成担当の社会の広告社山田英治が聞きました。
※音声で聴きたい方は、コチから!

パーソナリティ:高橋みなみ                      ゲスト: 東京学芸大学准教授 福井里江さん                               取材構成:山田英治(社会の広告社)


高橋みなみさん「ひきこもりボイスステーション パーソナリティの高橋みなみです。今回お話をうかがったのは、東京学芸大学准教授の福井里江さんです。福井さんは、臨床心理の研究をしながらひきこもり当事者のご家族の支援をされています。この時間は、臨床心理の観点からひきこもりについてうかがってみます。聞き手は構成担当、社会の広告社の山田英治さんです」

山田「そもそもひきこもりって、どういうものですか」

福井先生「ひきこもりに関する国の定義では、学校に行くとか、仕事に行くとか、人と交流するといったことを避ける状態が、だいたい半年以上続いていることとされています。内閣府の調査では、今ひきこもり状態にある人は、だいたい115万人くらいいるとされていて、これはざっと計算すると国民の100人に1人というようになっています。ひきこもり状態にあることは決して珍しくないんだなという数字になっていると思います。

ただ、こうした定義がしっくりこない人もいて、ご自分がひきこもり状態にあると思うかどうかというのは、その人その人の認識が重要だと思うんですね。例えば、中には仕事をしていても自分は人とのつながりがなかなかないから、ひきこもり状態にあるというふうに感じている人もいるので、その人その人の感じ方を尊重していくことが大切なんじゃないかなと思います」

山田「ひきこもりになってしまうきっかけは、どういうものなんでしょうか」

ひきこもりの原因やきっかけ改訂

福井先生「最近いろいろなところで、ひきこもりに関する実態調査が行われているんですが、ひきこもり状態になったきっかけには、本当に様々なストレスが関係しているということが分かっています。例えば家族関係や、友人、知人との関係ですとか、いじめ、不登校、就職活動、職場の人間関係やハラスメント、そうしたものが挙げられています。しかも複数の選択肢を選んでいる人がすごく多いという調査結果もあって、やはりいろいろなストレスが重なり合って生じてることが多いということが言えると思います」

山田「心の病気との関係はどうなんでしょうか」
 
福井先生「ひきこもり状態の背景には、例えば統合失調症やうつ病などの精神疾患だったり、よく最近言われている発達障害や、その他にもいろいろな心の傾向が関わっていることが少なくないと言われています。ただ、心の病気や障害というのは、本当に先ほど申し上げたようないろいろなストレスが関わっていることが多くあるんですよね。いろいろな心の傾向と言っても、それ自体はいいも悪いもなくて個性だなというところだと思うんですけれども、周りの人からそれが理解されないために生きづらさになってしまうということもあります。周囲から見れば心配な状態でも、ご本人にとってみれば、そうしたストレスから身を守ってなんとか自分を保つためにそうならざるを得ないということも多いんですよね。ですので、そういったひきこもり状態があったとしても、それを最初から何かの病気とか障害に当てはめようとしたり、その人の中に治療すべきところがあるなどと考えたりしてしまうと、どうしてもご本人と気持ちのすれ違いが起こりやすくなるんじゃないかなと思います。

だから、まずは、その人自身のご事情に寄り添って、安心できる関係から始めるということが大事じゃないかなと思います。ただ、周りの方からすれば医療機関を受診した方がいいんじゃないかと思うけれど、どうしたらいいんだろうと迷うこともいろいろあるかなと思いますので、そんな時は、まず周りの方が身近な相談機関にそのことを相談してみるのが良いのではないかと思います」

ひきこもりが長期化する理由は、

①孤立をめぐる悪循環によって

②生きるエネルギーの回復に時間がかかるから

③社会的要因から

山田「ひきこもりの方は、平均で10年ひきこもりという話をうかがったことがあるんですが、なぜ、ひきこもりは長期化する傾向にあるんでしょうか」

福井先生「ひきこもりというのは、それ自体が長期化しやすい性質を持っているところがあります。ここでは今3つぐらいのことが思い浮かんでいるんですが、まず1つ目としては、孤立ということがあるので、その孤立を巡る悪循環がひとつの難しさとしてあると思います。例えば、ご本人はひきこもり状態になることで、家族とか社会から孤立するということがあるわけですよね。そして、ご家族も家族の一員がひきこもり状態にあるということを誰にも言えなくて、社会から孤立してしまうことがあります。そんな時に甘えじゃないかとか、怠けているんじゃないかとか、親の育て方が良くないんじゃないかとか、そういう声が周りにあると、ますます緊張感が強まってしまい、お互い安心して交流できるチャンスがどんどん失われていって悪循環になってしまうことがあります。

2つ目は、心や身体のエネルギーの性質が関わっていると思います。ひきこもり状態になる時というのは、それよりもずっと前から、ご本人は頑張りすぎるくらい頑張っていることが結構珍しくないんですよね。そんな時は心や体のエネルギーが消耗し切ってしまって、いよいよ、なくなってしまった時にひきこもり状態になってしまうことがよくあります。そんなとき、そこから行動を起こせるようになるには十分にそのエネルギーが回復して溜まっていくことが必要なんですが、そのための時間はすぐには、というわけにはいかなくて、たくさんかかるところがあるなあと思うんですよね。ただ、ちょっと溜まった感じだと、もう少しで動き出せるんじゃないかと焦ってね、ご本人だったり周りの方だったりが、そういうふうに動き出そうとされてしまうと、かえってうまくいかなくて逆戻りしてしまい、さらに長引いてしまうこともあるんじゃないかなと思います。

もう一つですが、社会の側の要因というのもあると思います。今ひきこもり状態にある方の中には、社会に出るときの雇用環境が本当に極めて厳しかった就職氷河期世代という方たちも多くいらっしゃいますし、今の日本って雇用状況が本当に厳しい状況にありますので、そういった中で生きづらさというのがどうしても続いてしまって、長期化してしまうところがあると思います。

そもそも、ひきこもり状態でなくても、今働いている人であっても生きづらいんだっていうような、そんな調査結果もあったりするんですよね。日本は他の国と比べて働くことへの満足度がダントツに低いという結果もあったりするので、こういう厳しい社会状況がありますと、個人の力だけで立ち向かうということは、やはり難しいなと思うんですね。ですので、社会や職場の方が変わっていかなきゃいけないようなそういう難しい要因も、長引いてしまうことに関わってくるかと思います。

ご本人や家族が悪いっていう要素は、この今の3つの要因の中にはなかったと思うんですよね。ひきこもり現象をめぐるいろいろな要因が、事態を長期化させているということであって、決してご本人やご家族のせいではないという理解をすることが大事だと思います」

ひきこもりから回復するためには?そのプロセスは?

山田「先生は、いろいろな実際の現場で、直接ご家族の支援などもされていると思うんですけども、ひきこもり状態から回復へのプロセス、その辺りも教えて頂けますか」

福井先生「今ね、なぜ長期化するのかという話をさせていただいたんですけれども、そういったことへの手当を考えていくということが、回復に向けてのプロセスになるんじゃないかなと考えています。1つ目は孤立を巡る悪循環っていう話をしましたが、そこへの手当てとしては、ご本人とご家族と社会との間に、交流を取り戻すということが一つ大事なポイントとしてあります。これは、どの方とどの方の間に交流を取り戻していただいても全然構わないんですが、ひきこもりという性質上、やはりご本人から動き出すっていうのはなかなか難しいこともあるので、多くの場合、家族がまず支援機関だったり、家族会だったり、そういったところとつながるということが近道となることがあります。そこでの出会いに支えられて、ご家族がまずご本人との関わりを取り戻していって、そういうつながりが橋渡しとなって、徐々にご本人が外の世界とつながっていく。そんな道筋が一つの例としては考えられます。

もちろんご本人が社会とつながるということもあります。その場合の社会というのは、仕事をするとか、動き出すとかそういうことではなくて、本当に今のその人のままでつながれるということが大事で、話を聞いてくれる人だったり、同じような経験をした仲間と出会えることだったり、そのままでいいよと言ってもらえる居場所だったり、趣味とかで楽しめるつながりだったり、どんなことでもいいので、そういう何かをご本人に合った形でつながりが取り戻されていくことがあるといいなと思います。本人を変えようとするという関わりじゃなくて、孤立を巡る悪循環を何とかしようという時は、つながり続けることを目的として、何か変化が起こってくる時は副産物だというそれぐらいのお気持ちでね、そんなふうにやっていくことが大事じゃないかなと思います。

ご本人のエネルギーの回復のためには安心できる

環境作りや居場所に出会うことが大切

2つ目にエネルギーの話をしたんですが、その点からいうと十分にエネルギーが回復できるような安心できる環境を作ることが、もう1つのポイントとして挙げられます。その場合、どうしても一番多くの時間を過ごすのは自宅になってきますので、そういう安心できる環境をご家族の協力も得ながら、どんなふうに作っていけるのかというところがあると思います。意外とご家族は不安でいっぱいな気持ちだったりするので、どう接したらいいか分からなくって、ついきつく当たってしまうこともあるんですけれども、でも、それってやはりご家族が十分なサポートを得られなくて、一生懸命やってる結果としてそうなってしまっていることもあるので、家族がまずは支えられて、そして安心できる環境を家の中で作ることができるようになってということがすごく大事なんじゃないのかなと思います。そんなふうに家族が救われると、本人もホッとして休める、エネルギーが回復できるということがあると思います。

3つ目は社会の側の要因ですが、一朝一夕にできることではないですが、根本的なところなので。ひきこもりということを、ただ単に、当事者に寄り添いましょうとか支援しましょうという文脈で終わりにするのではなく、今のストレスフルな社会をどう考えていけるのかと、そういうことを考えて、みんなで変えていくということが必要じゃないかなと思います。社会の方を変えていくということでは、回復に役立つメニューがまだまだ少ないというところがあるので、先ほどと同じ話になってしまいますが、同じような経験をした人と出会える居場所を作ったり、仕事をするちょっと手前のいろいろな活動ができるようなメニューがたくさん作られていくとか、お仕事っていうことに関しても、人と関わらなくても在宅でできるようなそういった仕事だとか、1日から、1時間からと短時間でもできるような仕事を作るとか、そういったいろいろな工夫をしていけることがすごく必要なことじゃないかなと思います。今、ひきこもり状態にあったとしても、その人にできることがけっこうたくさんあることも多いですので、それを活かして社会に貢献できるような仕組みを作るというような発想も、これからは必要になってくるかなと思います」

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高橋さん「ひきこもりボイスステーション、今回は東京学芸大学准教授福井里江さんへのインタビュー前半をお届けしました。後半ではひきこもり当事者と家族の関係についてうかがいます」(PART2へ続く)

◆イベント開催 2021年1月16日13時スタート!
『ひきこもりVOICE STATION』公開生配信! (パーソナリティ高橋みなみ)
視聴登録はコチラ https://www.asahi.com/ads/hikikomori-voice-station/

◆『ひきこもりVOICE STATION』 公式WEBサイト     https://hikikomori-voice-station.mhlw.go.jp/ (2021年1月14日公開予定)  


◆TOKYO FMサンデースペシャル『ひきこもりVOICE STATION』放送決定! (2022年2月13日19:00~19:55)


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