#343 天下人が求めた宝物「蘭奢待(ランジャタイ)」とは?
聖武天皇の遺品が収められている東大寺の「正倉院」には、数々の宝物が収蔵されている。
正倉院の宝物といえば、シルクロードを通した交易を想像させる、
螺鈿紫檀五弦琵琶(らでんしたんごげんびわ)
瑠璃坏(るりのつき)
などが有名だ。
教科書には載っていないが、正倉院には、天下人が追い求めた「蘭奢待(らんじゃたい)」という宝物がある。
蘭奢待とは、長さ156cmの沈香(じんこう、香木の一種)である。
もともとは「東大寺」と呼ばれていたが、たびたび火災に見舞われた東大寺の名称を燃やして使う香木に用いるのは縁起がわるいという理由で、東大寺の字を「蘭奢待」それぞれの文字に隠してこの名がつけられたと言われている。
また、本来は「黄熟香」よいう名前で、「蘭奢待」は別称である。
香木の産地はベトナムからラオスにかけての山岳部とされているが、どのように伝来したのかも含めて詳しいことはわかっていない。
しかし、東大寺に素晴らしい香木があるという話は天下に広まり、時代の権力者は蘭奢待を求めた。
蘭奢待には切り取られた跡が38か所もあり、過去に50回は切り取られたのではないかと言われている。
とくに、足利義政と織田信長は5.5㎝四方程度を切り取り、その跡には2人の名前が書かれた札がつけられている。
切り取った権力者たちは、香を焚いて権力の誇示をするほか、切り取った蘭奢待を細かく切り分けて部下に与えるなど、権威をもった褒美としても活用された。
明治天皇も蘭奢待を切り取り、その香りを聞いた。
2022年には、コロナなどの混沌とした世の中の終息を願って、明治天皇が切り取った欠片の一部を焚いて献香式が行われた。
蘭奢待は現代でも幻の香木としてその価値が注目されている。
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