見出し画像

鏡越しに唱える 今日を生きることば

「けれど、痛みも焦燥も、それは人生の一部だ。充実と成熟という果実を薄皮のように包む、人生の収穫の一部。」

(『Spring』恩田陸、2024年、筑摩書房)

こんにちは、Shadeと申します。
僕は30代、既婚(子無し)、バイセクシャル、メンタル疾患持ちの男性です。
このコラムでは、映画や小説、ドラマ、音楽など、サブカル大好きな僕が日常的に触れるあらゆるものから拾った、「今日を生きる」ための言葉を記録していきたいと思います。

「不安と苦痛」の先に…

前回の記事にも書きましたが、30代後半を迎えてようやく自分のセクシャリティに向き合う覚悟が生まれた僕は、先日、生まれて初めてのカミングアウトを決行しました。
しかも相手は、現在のパートナーである奥さん。
正直、人生で一番勇気を出した経験だったかもしれません…。
(その経緯や結果などは以下の記事にまとめましたので、詳細は省きます)

当然ながら、奥さんにそのことを伝えるまでの僕は、言葉にできないくらいの不安や苦痛を感じていました。
自分のセクシャリティをはっきりと意識してから、カミングアウトをするまでの期間は、もともとメンタル疾患を患っているということもあり、自分で自分の葛藤に押し潰されそうになっていた、最高にダウナーな時期だったと思います。
ですが、そんな中でnoteを始め、さまざまな方々がリアクションやフォローをしてくださったり、他の方の書かれた記事を読んだりしたことで、背中を押されたような気持ちになりました。
結果として、僕はこれまで自分の中に閉じ込めていた「もう一人の僕」を外に出して上げることに成功し(それは本当に貴重な体験でした)、現在のところ、非常にありがたいことに、奥さんとも良好な関係を続けられています。
今思えば、カミングアウト前に感じていた葛藤は、「新しい自分を創る」ための、いわゆる「産みの苦しみ」に近いものだったのかな、と考えているところです。

葛藤とともに生きる

そこで実感したのが、冒頭に引用した文章です。
作者の恩田陸さんは非常に多才な方で、一作ごとに作風やジャンルが変わることで知られていますが、『Spring』はバレエを題材にした小説で、萬春(よろず・はる)という一人の天才バレエ・ダンサー(振付師でもある)と、彼を取り巻くさまざまな人々の人間模様を描いた爽やかな群像劇になっています(一部BL要素もありますので、苦手な方はご注意ください)。
引用した箇所は、物語のラスト、萬春が難しい舞台に挑む際に頭の中で考えるモノローグの一部で、まさに芸術家が「産みの苦しみ」を感じながら、より高い次元へと向かっていく姿を活写した素晴らしい一文です。
そんな天才と自分を重ねるのはおこがましいのですが、これは、今人生を生きているすべての人に当てはまる、普遍的な言葉なのではないかと思い、引用させて頂いた次第です。

変化が起こる時には痛みや焦燥がつきものです。そして、それを乗り越えて充実を手にした後でさえ、さらに一皮めくれば、また同じような痛みや焦燥が姿を現わし、僕らを困惑させるというのが、人生の残酷な真実です。
初のカミングアウトを終えた僕も、それで全てが「めでたしめでたし」となるわけではなく、相変わらずメンタル疾患とは付き合わなければなりませんし、少し重い話にはなりますが、抑うつ症状や、突然やってくる希死念慮、動悸や睡眠障害などといった問題は現在も抱えたままです。(奥さんのサポートに感謝!)
また、これから家族をはじめとする周囲の人にも、徐々にカミングアウトをしていこうと考えているので、その前にはまた同じように葛藤が生まれることでしょう。

けれど、そんな時にも、この言葉を思い出し、鏡に映る自分に向かって呪文のように唱えながら、再び「充実と成熟という果実」を手にするべく、「痛みや焦燥」を乗り越えていきたい。今はそう考えているところです。
愚直に聞こえるかもしれませんが、その繰り返しこそが、人生をさらに豊かなものにすると、僕は信じているのです。
人生に悩みはつきものだし、この世に生きていて悩みがない人なんてほぼいないと思います(何事にも絶対はないので断言は避けておきますが…)。
「悩みの内容」は人それぞれ違いますが、「悩みながら生きている」という点は人類皆共通。高い壁にぶつかった時、挫けそうになった時、こんな考え方もあるなと、冒頭の一文を、頭の片隅にでも思い出して頂ければ幸いです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?