第9回 破産を回避し、自宅を守るために社長は退路を開拓すべし【倒産論】
学生のみなさん、おはようございます。
この先は、強制終了について学んでいただき、自身の今後の計画立案を実施して、卒業という流れになります。いよいよゴールが見えてきた感じがします。
今日は、強制終了の一つである『倒産』について見ていきましょう。
前回は学長の私が、事業承継などの会社の着地支援を仕事とすることになったきっかけの事件をお話しました。あのケースも強制終了の中の倒産でした。
私は、すべての社長が倒産というものを一度は直視しておくべきだと考えています。たとえ起業してすぐの起業家だろうが、どんなに今の業績がよい経営者だろうが、です。
もちろん、破産申請を裁判所にするときの必要書類などの手続きなんて、今から学んでおく必要はありません。
学ぶべきは、もっと本質的なところです。倒産の本質を押さえることが、あなたの経営を変える可能性があるからです。
またこういう問題は、実際にコトが起きてからではダメなのです。会社が潰れそうになると、社長は地に足が立たなくなってまともな判断ができなくなります。「そのときがきたら学ぼう」では遅いのです。
いざというときのふるまい方や禁止事項を事前にシミュレーションしておくことで、間違いを起こしてしまうことを回避できます。
要は、避難訓練です。
なお、私も含め、避難訓練を軽視してしまう方がいるように思います。しかし、2001年9月11日のアメリカの同時多発テロにおけるモルガン・スタンレー社員の脱出ケースのように、訓練には意味があります。逆に「訓練していないことはできない」のです。
あちこちに負債を作った社長の末路は?
「ある会社が売掛金を払えなくなっている。どうも、もう会社はこれいじょうもたない様子だ。売掛金を払ってもらう代わりに事業譲渡をしてもらって、弊社で事業を引き継ごうと考えている」
相談主は食材の卸をしている会社の社長でした。
この顧客である会社からは、売掛金がもう4カ月分も未払になっています。この会社はもうダメだろうと感じて、救済の意味も込めて事業譲渡の話を持ち掛けたところ、先方の社長も基本的にOKだということでした。
相談主の社長としては、対象の事業は良い顧客基盤を持っており、自分が経営すれば十分黒字になると見込んでいたのでしょう。
私は、両者の間で事業譲渡の調整を引き受けることとなりました。
★負債が出てくる、出てくる・・・
支払いが滞っている会社の社長は田中さん(仮名)でした。
人が良さそうなおじいちゃんといった印象です。ニコニコしながら、口癖のように「こまったなぁ」「どうしたらいいかな」と言います。危機感や切迫感があるのやら、ないのやら。問題をこじらせて大きくするのは、わかりやすい悪人よりも、案外こんないい人がだったりします。人当たりはソフトですが、裏を返せば外面が良くて優柔不断とも言えます。
決算書を見せてもらうと、大きな債務超過。借金が膨らんで、資産よりもずっと負債のほうが多い状況です。普通に考えれば、銀行はこんなになるまで金を貸しません。
そう思って話を聞いていると、個人名義で収益マンションを3棟持っていました。この担保があるから金を借りられたのでしょう。
それにしてもひどいバランスシートでした。銀行からの借入金額があまりに大きすぎます。現在の収支はマイナスですが、これが多少黒字に転じたところで100年かけても完済はできないでしょう。
ただし、銀行借り入れが膨らみすぎているというバランスシートは見慣れているので、それくらいで私は何も感じません。
問題は、負債の中身にありました。
まず買掛金が異様に大きいことです。だいたい月商の4から5カ月分にあたる金額です。
これは、通常の支払いサイトでは買掛金払えていないことを意味します。翌月には払わなければいけない仕入れ代金等を、資金繰りの苦しさから待ってもらっているのでしょう。
未払金や未払費用も妙に多額となっています。
この内容を細かく聞くと、従業員への給料と大家への家賃の未払も含まれているそうです。なんと、給料は3カ月分遅配しているし、大家に関しては、家賃の支払いが8カ月分溜まっているそうです。「これでよく従業員は辞めずに働いてくれてますね」と変な感心をしてしまいました。
ちなみに田中社長は、銀行の借入についてはリスケ(返済猶予)をしていません。ということは、月々の銀行への返済はクリアできていることを意味します。
銀行に対する返済は止めないで、一生懸命良い顔をしようとしてきた。それで足りなくなった金については、仕入れ代金や従業員への支払いを遅らせることで帳尻を合わせてきた。こんな図式が見えてきました。
要は、強い者(銀行)に媚びを売り、こちらの要求を通しやすい相手には無理を言ってきたのです。なかなかクズな感じです。
話はここで終わりません。
社長は個人として、友人から1000万円以上の借金もしていました。どうせ、「俺を信じて貸してくれ」と返済のあてもないのに借りてしまったのでしょう。
さらに、奥さんに黙って自宅を担保に差し出していたうえ、奥さんが「何かあった時のために」と貯めていたヘソクリの4000万円まで、すでに溶かしてしまったそうです。
運転資金が足りないときに、奥さんに頼み込んでその金を出してもらい、すべて会社に投入。その金は、あっという間に銀行等への返済のために使い切ってしまったそうです。
虎の子の予備の金を、会社のわずかな延命のためだけに使ってしまったわけです。アーメン。
★社長の自宅はどうなる?
田中社長の会社の倒産は必至です。
もともとの私への依頼であった事業譲渡はできるでしょう。事業を他社が引継ぎ、運営することで、従業員や仕入れ先、顧客は引き継がれます。
しかし、ここまで傷んだ会社はとても救えません。負債はあまりに大きすぎます。
会社が倒産すれば、そこで残ってしまう借金の請求が田中社長個人にやってきます。銀行からの借金に関わる個人保証があるためです。
すると、この先どんなことが起きるでしょうか。
まず、社長の自宅は競売にかけられることでしょう。もちろん原則的には今の家に住み続けることはできなくなります。
「女房には何も言ってないんだよ。話をしたら離婚されちゃうよ」なんて泣き言をいうから、私は話を打ち明けるときに同席してあげることにしました。
「どうしてくれるのよぉ!!」
事の顛末を聞いた奥様は絶叫しました。大げさな表現ではなくて絶叫でした。
奥様としては夫に渡した4000万円の回収ができなくなるどころか、自宅までも失うのです。
奥様は、自宅を買うとき、資金の半分を出したと言います(でも、所有権の名義はすべて社長でした)。それを全部夫がダメにされたわけですから、荒れるのも当然です。
しかし田中社長は、奥様に対して、ヘラヘラと言い訳ばかりします。私まで腹が立ってきました。せめてちゃんと謝れよ!と。
★破産すればそれで問題を解決できるの?
この案件、私が関わったのは事業譲渡までです。その後は、自己破産を申し立てるため弁護士を紹介しました。
負債額はかなり大きいのですが、正直それは問題ではありません。少額だろうが、多額だろうが、払えなければ同じです。
田中社長の一番の問題は、債権者の面子とその数にあります。
何十社もある買掛先だって、家賃を滞納している大家だって、給料を払えていない従業員だって債権者なのです。
裁判所の手続き上の話では、自己破産を申し立て免責が認められれば借金はチャラになります。でも、そんな話を債権者が認めてくれますか?
銀行はいいのです。それが本業ですから。貸し倒れまで想定してビジネスを構築しています。法律手続きにのっとれば「わかりました」で終わりです。
でも、田中社長の債権者には金融業ではない債権者がたくさんいます。仕入れ業者、従業員、不動産大家、友人、妻。これらの面々が「破産しましたから、もう金は払いません」で納得してくれると思いますか?
もしそう思うならば、あなたは自分都合で世界を見すぎています。
たとえば仕入れ業者は、田中社長の会社への売掛金の回収不能で、自社まで潰れてしまうかもしれません。
田中社長の「絶対返すから」という言葉を信じて、大切な老後資金を貸してあげた友人は激情するでしょう。
害された人々が、それこそナイフを持ち出して刺しに来たっておかしくありません。
田中社長は、巻き込むべきではない人まで巻き込み、深い傷を負わせてしまったのです。もう今いる地域で暮らし続けられなくなり、同じ業界で働くこともできません。
「会社をどうにかしなければ」
そんな強迫観念にかられて、余計な人たちまで傷を負わせてしまいました。その報いは自分に返ってきます。これが負けを認められなかった人間の終末です。
★「「自分だったら大丈夫」が危ない
「こんな話は、あくまで特別。自分だったら絶対そうはならない」
田中社長の事例を知っても、どこかで、自分が同じような失敗に陥ることはないと感じていませんか。正直なところ、私もそうです。自分はこんな失敗を犯さないと内心では感じています。
でも、客観的に、たくさんの社長の人生を見てきた私からすると、やっぱり追い込まれれば誰もが田中社長のようになってしまう可能性が高いと言わざるを得ません。いざというときに魔がさしたり、逃げてしまうのも人間の一面です。
「自分は大丈夫」という過信が、こういった失敗を犯すことになる一番の危険なのでしょう。この過信が、追い込まれるまで状況を悪化させてしまいます。
追い込まれないようにしなければならないのです。追い込まれたときにどう対処するかではなく、そもそも追い込まれてはいけないのです。「あきらめなければうまくいく」なんていう根性論を、現実を見ない言い訳にしてはいけません。
負けを受け入れれば温存ができる
精神論と根性論で暴走をしてしまったのが、第二次世界大戦のときの日本軍だったと私は思っています。
でもその陰で、未来を見つめ、虎視眈々と準備をしていた人たちもいたようです。
海軍士官の養成を目的とする海軍兵学校は、戦時中に生徒の数を増やしたそうです。戦争の状況が悪くなってからも、生徒を増やしました。こんなタイミングで学生を増やしたところで、戦争においてはなんの役には立ちません。
じゃあ、なぜこんなことをしたのか。
それは、戦争が終わった時に日本を再建する人材を温存するためでした。この戦争は負けると学校の上層部は見ていました。若くて優秀な人材を、みすみす戦争に行かせて無駄死にさせてはいけないという上層部の志がそこにはあったのです。
負けを受け入れることで温存ができます。
企業経営でも同じです。倒産をテーマにする今回の講義で、最も学んでいただきたい本質です。
★倒産と廃業では結末はまったく違う
もうちょっと具体的な話をしましょう。倒産論において、価値あるものをどうやって温存すればいいのか。
それは、倒産をする前に、廃業をすることです。
倒産と廃業が混同しているケースがありますが、まったく異なります。
廃業は自主的にたたむことです。それゆえ、タイミングを図れるし、やり方にも自己の裁量の余地があります。だから温存ができます。
先の田中社長だって、どこかのタイミングで事業に見切りをつけることができれば、自宅も、妻のヘソクリも、業界の人との人間関係も温存することができました。
ただ田中社長にとって、これらのものは、はじめから温存するに値するものではなかったという可能性もあります。身近な人よりも、銀行にいい顔することであったり、世間体のほうが大切だったから、あんな状況に陥ってしまったのかもしれません・・・。
倒産の可能性を考えて、前々から退路を作っておく。
早めにリセットボタンを押す。
とても、とても大切なポイントです。
なお、私たち専門家からすると、誰も動きだすのが遅すぎると感じています。本人の「まだ大丈夫」は、ほとんどの場合でギリギリか、もう遅いのです。
では、どのタイミングならば遅くないのか?
このあたりは感覚的なところなので、個別の状況によっても差があり、一概に言うことは難しいところです。
企業再建をやっている私の知人の弁護士は「半年先の資金繰りの目途が立たなくなる前に動きはじめるべき」と基準を語っていました。参考までに。
★分社でよい部分を温存できる
リセットボタンに手をかけるとき、分社手法が効きます。
たとえば会社の借金が大きくなりすぎていたとします。
でも、事業単体で見ると営業利益は出ている。もしくは、複数の事業のうち一部だけならば営業利益が出ている。ということは、この利益が出ている事業だけを別会社にすれば、その会社は生き残らせることができるという理屈になります。
私が『分社手法』と呼ぶ、事業譲渡や会社分割を使えば、それが実現できます。
分社手法をいかに、どのように使うかは奥深く、難しい論点がたくさんあります。でも、それは専門家が考えればいいこと。社長のみなさんには、ぜひ「会社を分ければ!?」というアイデアを持っておいていただきたいところです。事実、会社を分けることで道が拓けたことはたくさんありますし、私は分社手法でコンサルティングの成果を多数あげてきました。
倒産したら、かならず自己破産になるのか?
世間では、倒産=自己破産と思われているようです。でも、その二つは同じ意味でもなければ、必ずしもセットではありません。
倒産というのは状態です。資金が尽きて、企業活動が止まったという意味合いです。
一方、自己破産というのは事後処理の方法であったり、救済のためのアクションです。負債の支払いができなくなった者が、裁判所に自己破産を申し立て、「もう返済をしないでいいよ」という免責をもらいたいがために行います。
で、何を述べたいかといえば、倒産をしても、自己破産はしていないケースがあるということです。
たとえば、法人と連帯保証人である社長の自己破産をしようとすると、トータルで200万から300万円かかるのが一般的なようです。このお金すらない社長は、破産をしたくてもできません。
ちなみに、裁判所への破産申し立ては債権者からすることも可能ですが、わざわざ債権者が自分の金を使って、他人の破産を申し立てまでするケースはかなりレアでしょう。
信条的な問題や考えがあって「会社は倒産したのに破産はしない」という人もいます。
もちろん負債は残ります。でも、支払う資産なければ、どうにもなりません。
会社や社長としても、借金の返済はできないわけですし、債権者からしても「無いところ」からは金はとれません。
こうして借金が塩漬けになったり、月々超わずかな金額の分割弁済に落ち着いたりすることもあります。
法律的にきっちり処理をしたわけではありませんが、事実上の話として、こんなふうにお茶を濁せる場合もあります。
★「親類縁者から金をかき集めろ」と助言する顧問税理士
ただし、こういうのは、借金の相手が普通の金融機関にとどまっているからできる振舞い方です。金融機関はさすがに、ルールを無視した無理な取り立てはしません。
しかし、むやみに債権者の範囲を拡大させてしまっていたらこうはいきません。ガラの悪い貸金業はもとより、こういうとき一番怖いのは普通の一般人だったりします。怒りにまかせて一線を超えることをしてきたりします。素人ゆえに常識が通じなかったりするのです。
だからこそ、債権者の顔ぶれのコントロールが重要な視点となります。
金融機関以外からの負債は残らないようにしていただきたいところです。
倒産まで突っ走るのではなく、その手前で自主的に廃業をするのであれば、それを実現できるはずです。
そういえば、先日こんな相談がありました。
「税務署から消費税の滞納(700万円)を納めろと要求されているのですが、会社の顧問税理士は『親類縁者から金をかき集めて払え』と言います。それが正しいのでしょうか?」
私に言わせれば、とんでもない助言です。顧問税理士に腹が立ちました。
会社はもう消火不能なレベルで、炎上しています。多額の借金や社保の滞納もあるのだから、消費税の滞納だけをどうにかしたところで、気休めにもなりません。
「関係ない人を巻き込むな」「余計な被害者を増やすな」
税理士には、こう言いたいのです。
消費税の滞納を支払うために、苦し紛れに他から借金をしたって、どうせその借金を返せなくなるだけです。この未来が見えないのならば、その税理士は、ものの道理を知らな過ぎます。
税理士が言うべきは、消費税を納めるための助言ではなく、「ここまでにしましょう」と社長を止めることでした。
ここまで学んでいただいたみなさんには、顧問税理士の助言が、いかに「債権者の顔ぶれをコントロールすべし」という鉄則から外れたものかおわかりいただけるでしょう。
前もって退路を作っておく
私は社長に、何事もない普通の時から、倒産の可能性まで視野に入れて、備えておいていただきたいと考えている人間です。資金繰りが危なくなってくなってからでは、遅い場合が多々あるのです。
わかりやすい例は、自宅です。
自宅を社長名義で持っていたとして、社長が会社の借金の連帯保証もしていたとします。すると会社がつぶれた時、自宅は差し押さえられ競売にかけられます。
でも、最初から社長の名義にしなければ、会社がつぶれても自宅は残せる場合が多いでしょう。借金や連帯保証については、家族だろうが法律上は他人の扱いですからね。
ところが、多くの社長は、ギリギリになって事を起こします。どこからか「家の名義なんて嫁さんに変えとけばいいんだよ」などと入れ知恵されて、あわてて妻に贈与したりします。
しかし、会社がつぶれる直前にそんなことをすれば、他の債権者を害する詐害行為とされてしまう可能性が高いところ。債権者の心情からしても「うちに金を払わないくせに、贈与なんてしてんじゃねえよ、この野郎!」ってものでしょう。
だったら、もっと前から備えておきましょう、という話です。
ピンチを見据えて、準備しておけばどうでしょうか。備えはしておいて、何も起きなければ、それでもOKじゃなないですか。
備えを使わないで済んだとしても別に損になる話ではありません。
いや、むしろ得になるかもしれません。
将来のピンチを予想して備える生き方は、心を落ち着かせます。「何かあっても大丈夫」と思えれば、人は冷静になれます。
これは根っこがある、地に足の着いた“大丈夫”です。ちまたに氾濫している、中身のない、威勢だけがいいポジティブな言葉とは別物です。(こういう人たくさんいますよね)
世のトラブルの多くは、不安によって引き起こされることを考えれば、心が落ち着ける状況を意図的に作るという視点はあってよいのでしょう。
専門家への相談にメスを入れる
ここまでの話を聞いて、すぐに何かに着手しようとしている方がいらっしゃるかもしれません。しかし、焦っちゃダメですよ。思いつきで行動したら失敗する可能性は高くなります。
まず、全体像から押さえていかなければいけません。
素人判断でものごとを進めてしまうのはもってのほか。まずは専門家に相談し、時には力を借りてやるのがセオリーです。
それで、今日の講座のラストに、専門家との付き合い方について、お話をさせていただきましょう。倒産論に限った話ではありませんが、どこかで触れておきたいテーマです。
「弁護士に相談いったら、すぐ破産しろと言われた」
こんな相談者からの苦情のような嘆きは、これまで何度も聞いたことがあります。しかしこれって、その専門家のせいなのでしょうか。
私に言わせれば、相談に関するトラブルの大半は、相談者が相手をちゃんと選んでいないことにあります。
資格などの肩書だけで選んでいませんか。
無料だからと、市区町村がやっているような相談窓口でお茶を濁そうとしていませんか。
一口に専門家と言っても、本当にバラバラです。単純な力量の差でも、天と地ほどの差があったりします。さらに、その人それぞれに得意分野があったり、独自の傾向があったりします。好みの違いもあれば、価値観も違うのです。その前提をまずは確認してください。
たとえば、ヤメ大で教えていることだって、この内容は奥村だけのものであり、同じ事業承継等を扱う専門家でも言うことは全然違うはずです。
専門家であっても一人の人間で、能力差と個性がある。ではどうするか?
「ちゃんと相談すべき相手なのか見極めましょう」ということに尽きます。M&A論のときに、会社を売るときのアドバイザー選びでお話しした内容に通じますね。
相談する相手のことを調べ、「この人の言うことならば信じるべきだ」と思える人にだけ相談をしましょう。
私たちはこの点で誤りを犯しやすいのです。相談すべき人ではなく、「相談しやすい人」を選んでしまいがちです。
相談というのは、あなたが思っているよりもリスクが高い行為です。
情報をさらけ出し、場合によっては弱みを相手に見せることです。
間違った回答が得られたときに、それを是としてしまう恐れもあります。
人は、相談した専門家がおかしなことを言ったとしても、自分ならばそれを間違っていると気づけるはずだとタカをくくりがちです。
でも、そうでもありません。特に、自分にとって都合がいい回答を得られたときなんて危ないものです。
★紹介にもメスを入れる
相談する相手をよく見て、相談相手とするか否かを判断しましょう。
ゆえに紹介というのもが、いかに難しいものであるかも、おわかりいただけると思います。
専門家紹介制度とかサイトとサービスとかありますが、あんなのがちゃんと機能するとは思えません。
私のところにくる相談者は、ほとんど直接やってきます。本やテレビなどで私のことを知り、相談を申し込んでくださる方ばかりです。
しかし、たまに紹介の人もいます。
紹介の場合は、やりづらさを感じることがよくあります。だいたい何か問題が起きるときは、誰かからの紹介のような気がします。
どうしてそうなるか?
紹介で来る相談者は、私のことをよく知らないのに相談に来るからです。
これがうまく機能しない原因の一つです。私のことは知らないくせに、なんとなく自分を助けてくれそうだからとか、紹介されたからという理由でやってきます。
さらに紹介だと、「なにかしらの便宜を図ってもらえるもの」や「助けてもらって当然」といった感覚を持つ人が多いようです。ある種の甘えが存在しています。
こちらは紹介だからといってひいきしてあげるつもりは毛頭ないので、話がこじれやすくなるというわけです。
紹介というのは、本当は難しいのです。
でも、そんなことは知りもせず、安易に人を紹介しようとする人間が多いことには辟易とさせられます。
こう考えると、世の紹介システムのほとんどは、上手く機能しないのも当然だとお思いませんか。
★相談は乗って当然? 仕事は受けて当然?
先日も、会社がつぶれそうな社長が、知人から紹介されたと相談に来ました。
彼は一度相談日を決めものの、翌日「急いでいるから相談日を早くしてくれ」と要求してきました。
私は無理をしてスケジュール調整をしてあげましたが、契約もしていなければ、お金をいただいたこともない無い相手です。本来そこまでしてあげる筋合いはありません。こちらには、ちゃんと契約やお金をいただいているお客様がいるのですから、優先されるのはそちらのお客様です。
で、その社長が相談にきました。自分の話を延々とします。要領を得ないので、私はストレートに聞いてみました。「それで、私にどうしてほしいのですか?」と。
その社長は息をのみ、目を丸くしました。
それから再びぶつぶつと話をはじめました。その相談者からは、私が自分を助けるのは当然だ。かつて紹介者にしたことを、自分にもするのが当たり前だというメッセージを感じ取りました。
私は、すべての仕事を受けるわけではない。その知人がやってもらったことを、あなたもやってもらって当然だと考えるのはおかしいと、伝えました。クライアントとの信頼関係は大切だし、クライアントの状況によって施す策も変わります。
それを聞いた相談者は、不貞腐れて、荷物をまとめて帰っていきました。
最初から最後まで、相談料を払うという意思も見せませんでした。
まあ、払うと言われても、私は受け取らなかったでしょう。私としては、目先の相談料より、関係を持ちたくない人と関係を持たないで済ませることのほうがずっと大切です。そのために自営業をやっているようなものです。
奥村の相談料やコンサルティング料などは、他と比較したら安いと言われることが多くあります。しかも、余人をもって代えがたい仕事がほとんどです。
たしかに仕事の金額にはあまり執着がないかもしれません。しかし一方で、絶対にゆずれない部分があります。それが気持ちよく仕事をさせていただけることです。
「この人のためならば頑張りたい」と思えなければ仕事は受けません。
相談者が専門家を見ているように、相談者だって専門家からも見られているのです。やっぱりお互い人なんですね。
ところがどうでしょうか。
質問すればいくらでもタダで答えてくれて、お願いすれば助けてくれるのが当然。こんな自動販売機のような感覚になってしまっている人が多いと思いませんか。
★足りていない、専門家の力を引き出すという発想
相談も、仕事も、直接的であれ間接的であれ、人と人がかかわって行われることです。であれば、相手の力を引き出す方向に、スタンスを変えたほうが得策だと思います。
Aさん:「誰でもいいから、相談に乗ってもらいたい」
Bさん:「紹介されたから、相談に来ました」
Cさん:「奥村さんだから、相談を申し込みました」
さあ、どの人を助けたいと思いますか。
相談者や依頼者のスタンスによって、こちらだって力の入れ方が変わります。人間ですから。
かなり相談という行為について、熱く語ってしまいました。大切なところだと思います。
あなたの問題を解決できる専門家、あなたと馬の合う専門家って、よくよく探してみたら、案外見つからないものです。だから見つけた時は、しっかり投資して関係性を確保することをおすすめします。
まな板の上の鯉になれますように
そろそろ、今日の講義もおしまいです。
最後にもう一度、倒産のお話に戻りましょう。
倒産の二文字が見えてきて、ほとんどの社長は焦り、浮足だちます。でも、そんな場面でも動じず、淡々とコトにあたる社長もいました。
かつて、円安向けの為替関連のサービスを、銀行から半ば無理やり買わされた社長がいました。為替が円高に転じてしまったために大損し、一気に倒産間際まで追い込まれていました。
この社長のことを心配した保険営業マンの方から依頼があり、私は社長に会うことになりました。
すごく気落ちしているか、銀行に対して怒っているか、不安で焦っているか。とにかく私はネガティブな感情に飲み込まれている社長を予想していました。
ところが、実際にお会いしてみると、社長は平然としていらっしゃいます。
思わず「どうしてそんなに落ち着いていられるのですか?」と聞いてしまいました。すると社長は答えます。
「ここまできたらどうしようもないよ。状況を受け入れるしか。まな板の上の鯉になるだけだよ」
なんのてらいもなければ、力みもありません。本当に自然体です。
すごいなと、心底感心しました。こんな人がいるんだなぁと感動しました。
好まなくても危機は来てしまいます。会社経営をするということは、いつだって倒産の可能性を背負うことでもあります。
ただ、危機を前にした「あり方」については、自分次第です。
危機を前にしたときほど、その人の人間性や器のようなものが現れます。また、世間はその姿をよく見ています。
いざというときでも、淡々と自分がやるべきことをやるだけ。この社長のように肚が座った人間になれたらと願います。
危機が来てから焦っても無駄なのです。
むしろ、危機のときに焦るくらいなら、平時に焦るべきなのでしょう。まだやれることがあるときに、焦ってやっておけという話です。
そして、やることをやった後は、ただドンと待ち構える、と。
口で言うだけならば簡単ですが・・・
《事務局からの連絡》
①本日の宿題
自分が経営をするにおいて「超えてはいけない一線」を書き出してみてください。
提出していただける方は、奥村のホームページの問い合わせフォームからお願いします。
→ 奥村のホームページ
②次回の講義
次回の講義は3月28日(金)の予定です。
③入学金の納付手続きについて
払っても、払わなくてもいい入学金(税込8万8000円)は随時受付中!!
ご納付は、リンク先のシステムで決済してください。
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