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珈琲の大霊師

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シャベルの1次創作、珈琲の大霊師のまとめマガジン。 なろうにも投稿してますが、こちらでもまとめています。
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2019年7月の記事一覧

珈琲の大霊師274

珈琲の大霊師274

 何度、洞窟の中を行き来しただろうか?

 入り口の近くから、徐々に奥に進んでは戻り、進んでは戻り、道にも随分と慣れた気がする。

 最近じゃ、リルケの補助無くても一度通った道は通れるようになった程だ。こうして何度も行き来を繰り返している内に、神経が研ぎ澄まされているのが分かる。元々、他人より鋭敏な方だと思っていたが、暗闇の中で、触れてもいない壁がなんとなくどの程度の距離にあるか分かる。

 そん

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珈琲の大霊師273

珈琲の大霊師273

 洞窟の中は、ただただ暗い。最初に持ってきた松明が切れたら、後は洞窟内に存在するヒカリタケやらの発光キノコや植物の明かりを頼りに歩かなければならないらしい。

 試しに松明を消してみると、漆黒の闇。なるほど、ここで生活すれば確かに感覚は研ぎ澄まされそうだ。人間の重要な感覚の1つ、視覚をほぼ失うに等しいんだからな。

「でも、あたしがいるからあまり修行にならないかも?」

 リルケがおどけて言う。リ

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珈琲の大霊師272

珈琲の大霊師272

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第33章

    呻きの洞窟・土の囁き

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 ヘラの村から、馬車に揺られる事五日間。

 《土の精霊の大洞窟》、という名前で知られている、鍾乳洞の入り口にはちょっとした町ができていた。

「ここは作物の出来が良いからな。辺鄙な土地だけど、畑作にはもってこいの土地なんだ」

 とは、宿のおっさんの言。

「なんで

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珈琲の大霊師269

珈琲の大霊師269

 これまで気にしてこなかった事が、急に意味を持ち始める。

 一通り村を回って、墓が1つも無いことを確認したジョージは改めて村人達を観察した。

 すると、子供達の腰ひもに、小さな袋を常に携帯している事に気づいた。袋はさほどたわんでおらず、中身が軽いことを示していた。また、その袋を下げる腰ひもは大人のそれと比べても革製で細かい細工がしてあり、高価であることが伺える。

「ルビー、悪いんだがもう一度

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珈琲の大霊師263

珈琲の大霊師263

「ごめんなさい、ルビーちゃん。本当は、ついていきたかったでしょう?」

「いいさ。あたいは、別に誘われてないし、さ・・・・・」

 カルディが俯き気味に気を使うと、ルビーは何でもない風を装い、しかし頬を膨らませてあぐらに膝をつき、そっぽを向いた。

 もちろんそれは、目の見えないカルディには分からない事だったが、ルビーが不満を抱えている事くらいカルディから見れば一目瞭然であった。

 カルディには

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珈琲の大霊師262

珈琲の大霊師262

 いつの間にか旅の詩人兼商人として狭い村の中で名前が知れたジョージが家々を巡り始めて1週間。

「いやぁ、あんたが毎日野菜をこれでもかってくらい貰ってきてくれるから、あたしも料理しがいがあるってもんだよ。普段は、こんなに誰彼構わず野菜貰ったりしないしねえ。見なよ、このトウモロコシ。でっぷりして美味そうだろう?これを潰して、ポタージュにでもしようかね!ひひひ。ありがたやありがたや」

 女将は上機嫌

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珈琲の大霊師261

珈琲の大霊師261

「で、ですね。ここで引き上げるんです。」

 そう言いながら、モカナは黒く沸騰する鍋から亜麻の布袋を引き上げる。布袋に焙煎粉砕した珈琲を入れ、沸騰した湯の中に入れる抽出方法は俺が考案したものだが、既にモカナの方が使いこなしてる。

 モカナがそれまで淹れてた、鍋でそのまま粉砕した珈琲を煮出して、上澄みを掬う方法は後始末が面倒だし、どうしても破片の中に残る珈琲がもったいない。

 要するに湯に漬けれ

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珈琲の大霊師260

珈琲の大霊師260

 夏虫の鳴く夜、宿から覗くは満月。ジョージが窓辺のベッドに座り、夜の珈琲を楽しんでいると、リルケが唐突に目の前に現れた。

「こんばんは!ジョージさん!良いお月さまだよね~。出会った頃を思い出さない?」

「出会った頃ったって、2年も経ってないだろ?」

「そういう事言っちゃう~?ジョージさんにとっては、その程度の事だったんだね」

 むすっとした顔をしてみせるが、すぐに顔を綻ばせる。その笑顔は、

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珈琲の大霊師259

珈琲の大霊師259

 世界一の花でありたいリルケだよ!

 って言っても、花に順位なんてつけられないんだけどね。皆違って皆良いんだよ。

 芝桜の、小さくて可愛らしい花も、百合の厚ぼったくて私を見てーって感じに手を広げる花も、紫陽花のみっちり隣の人詰めてー感のある花も、みんな可愛くて愛おしいよね。

 そんなリルケさんですが、今ヘラっていう村に来ています。関係ないけど、お前ヘラヘラしてるよなってジョージさんに言われま

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珈琲の大霊師258

珈琲の大霊師258

 ルビーさ!ジョージの気まぐれにも困ったもんさ。

「お前は王族なんだから、もっと文書に慣れた方がいいぞ。って事でお前も旅日記書け」

 って、日記帳を押し付けられたさ!

 う~、めんどくさいさ。こういう細かいの書くの苦手さね。あたいが持つ一番軽いものは、ナイフで十分さ。

 でも、確かにいずれ親父も引退するって考えたら、やらなきゃいけないって事はあたいも分かってるさ。

 仕方ない。仕方ないさ

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珈琲の大霊師257

珈琲の大霊師257

 ヘラの朝は早い。雄鶏が鳴き出す前に村人たちはこぞって目覚め、日が昇る前に一仕事。よくやるもんだ。

 自然と、気配で一度起こされるこっちの身にもなって欲しいが、仕事じゃ仕方ねえ。

 飯を食う時は、必ず家族揃って食べる。

「父に、母に、先祖に、土の恵みに感謝して。頂きます」

 というのが、この村での食事前の挨拶だ。

 この挨拶だが、村人全員妙に堂に入ってやがるんだよなぁ。その一瞬だけ、水宮

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珈琲の大霊師256

珈琲の大霊師256

 俺は、あまり知られてないが、旅の記録をつけている。

 といっても、簡単なものだ。

 1日一行くらいの時もある。

 今日、死者の国なんて物騒な名前の国に入った。

 最初の村、ヘラは実にのどかな田舎といった風景だ。これの、どこが死者の国なのか分からない。

 ただ、カルディだけは宿屋に来てしばらくしてから、何か違和感を感じたらしかった。

「ここの地面には、他の場所より沢山の魂がある気が、し

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珈琲の大霊師255

珈琲の大霊師255

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第32章

    山脈道中記

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 全世界を私のテリトリーにしたいリルケだよ。

 またジョージさん達と旅ができるようになって嬉しいな~。皆私の事見えるから、お話できるしね。

 死者の国アナンザの国境近い村、ヘラに到着すると、野で遊んでいた子供達がわいわいと馬車に寄ってきた。元気でいいなー。

「こんにちはー

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珈琲の大霊師254

珈琲の大霊師254

 ガクシュでの最後の夜、ジョージ、モカナ、ルビー、カルディ、リルケの5人を送り出す宴が催された。

「偉大なる珈琲の大霊師に乾杯!!」

「「「乾杯ッ!!」」」

 それは、ガクシュの図書館長や、ニカラグアの友人貴族などが集まって、随分と華やかな宴となった。また、各国のガクシュ駐在大使も、珈琲商会とのツテを目的に挙って集まってしまったのだった。

「あわゎゎゎ・・・」

 慣れないドレス姿に着せ替

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