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ダリアとゴッホ展と原田マハ

上野の東京都美術館で開催中のゴッホ展を見学に行こうと思い立ったものの、冷静に考えてみると自分はゴッホについてほとんど何も知らないことに気付いた。知識として覚えているのは、「ひまわり」などの主な代表作と、生前は世間的にあまり認められず道半ばで夭折したことくらいだろうか。

ところで数日前に上野東照宮を参拝したところ、敷地内のぼたん苑ではダリアの特別祭典が開催中だった。気まぐれに見学してみたところ、花々が事前の想像以上に彩り鮮やかでびっくりしてしまった。

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ダリアをあしらった限定の御朱印がいただけると知り授与所を訪れると、その受け渡し場でもゴッホ展の栞が配布されていた。引き続きコロナ禍ではあるが、せっかく近場に暮らしているのだから、やはり見学に行ってみたい。

どうせならば事前に最低限の知識は身に着けたいと考え、敬愛する小説家・原田マハさんのゴッホ関連作2冊を購入した。

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原田さんの作品は何作も読んでいるが、そういえばアート関連作品を読むのは今回が初めて。意識的に避けていたわけではなく、現代日本を舞台にしたお仕事ものやヒューマンドラマものの小説がとても面白く、そうした作品たちを追いかけるのを優先していたため、結果的にアート系の作品にはこれまで手を出してこなかった。

だから初めてのアート系作品を読むのがすごく楽しみだった……と書きかけてなんだが、ゴッホ関連2作と一緒に購入した『総理の夫』をついうっかり先に読み始めてしまい、この週末あっという間に読み終えてしまった。ちなみにゴッホ関連作品は現時点で全く手を付けていない。

『総理の夫』は原田さんの作品の中でも、エンターテインメント性という意味では最高峰ではないだろうか。42歳の若さで日本初の女性総理に選出された相馬凛子の大活躍とそれゆえの悩みやトラブルを、夫の鳥類学者・相馬日和の視点から描いている。

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この作品は現実の日本ではいまだ実現していない女性首相を、フィクションの世界で実現させただけの作品ではない。社会福祉や脱原発、消費税を含めた税制問題など、現実の日本社会にも厳然として横たわっている諸問題に相馬内閣が真正面から取り組む様子はリアリティと臨場感たっぷりだ。

これほど誠実に国民のために働いてくれるリーダーがいたらいいのに……、とフィクションながら羨ましくなってしまう。私にとって最も愛着のある原田作品『本日は、お日柄もよく』の重要人物が、ささやかにゲスト出演しているのも嬉しかった。

『総理の夫』は、田中圭(相馬日和役)と中谷美紀(相馬凛子役)のW主演で実写映画が放映中だ。原作を読み終わってから実写キャストの2人を眺めてみると、2人ともこれ以上なく適役に思える。特に田中圭。原作の相馬日和はアラフォーで若作りのイケメン、日本有数の大財閥の出身だが、本人はどこか抜けたところのある天然な性格。田中圭は日和のような二枚目半の役どころを演じるのが抜群にうまい。原作を読む前はその気はなかったが、映画館に観に行ってもいいかもしれない、と思い始めた。

原田マハさんの小説を読むと、いつも人間への信頼を感じる。登場人物たちは苦境に立たされたり挫折を経験したりするが、多くの場合は前向きに立ち向かっていく。もちろん目標に向けてガンガン進んでいく人物ばかりではなく、そろそろと手探りで進んでいくタイプのキャラクターもいる。

原田作品の主人公の多くは、挫折や失敗を乗り越えて前に進む。作者が「たとえ一度転んでも大丈夫。再起できる、やり直せる」と信じており、その思いを登場人物たちに託しているようにも感じられる。それは長編小説だけでなく、『さいはての彼女』や『独立記念日』などの短編集でも同じだ。

ゴッホ展は12月12日まで。予約も必要なようなので、余裕をもって10月中には見学に行きたい。とりあえず今夜から、『たゆたえども沈まず』を読み始めようと思う。




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