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小説|1000文字のラブレター

 お元気ですか。これは僕からあなたに向けて書くラブレターです。もしよければ最後まで読んでくれると嬉しいです。

 僕はあなたのことがずっと好きでした。

 あなたと最初に出会ったのは、高1の春。たしか4時間目の体育の前。僕が家にジャージを忘れてきてしまって、友達のを借りようとした時。その友達の隣に座っていたのが、あなたでした。

 その時、僕は一目惚れをしてしまいました。誰かを好きになる経験はこれまでにも何回かあったのですが、一目惚れはこの時がはじめてでした。友達の教室に入った瞬間、友達よりも真っ先に、本を読むあなたの横顔が目にとまりした。その横顔は、カーテンの隙間から差し込む光に照らされて、まるで透明のガラスのように透き通っていました。時折、窓の隙間から吹く春風に髪がふわりとなびいて、あなたのその白くて細い指がなびく髪を耳にかける。あなたを一目見たその瞬間から、僕から見えるこの世界は2倍にも3倍にも美しく、華やかになりました。

 高2の時の学祭を覚えていますか。実は、あなたに一目惚れをしたその日から、あなたを見ると緊張してしまってずっと話しかけられずにいて、高2の学祭では絶対に話しかけるぞと意気込んでいました。軽音部のステージ発表で、みんながステージにびたりと張り付いて声を上げながら跳ねている中、あなたは少し離れたところで涼んでいましたね。あなたに話しかける僕の声は、今にも消えてしまうかのように細く震えていたのに、あなたは笑顔で振り向いてくれましたね。緊張に一切気づかない様子で話してくれたあの時間は、きっと数分にも満たないのでしょうけれど、僕にとっては一生のように感じました。

 高3になって同じクラスになりましたね。それからは話す機会も増えて夏休みに何度か、近所の図書館で一緒に勉強したりもしましたね。あなたは英語が得意で僕は数学が得意だったからお互いに教えあったりもしましたね。お互い京大に合格できたら、その時は付き合おうねって約束もしましたね。

 あなたが丁寧に英語を教えてくれたおかげなのか、僕は今、なんとか京大に通えています。

 あなたがいなくなってからも、よくあなたのことを考えます。どうしてあなたじゃなきゃいけなかったのでしょうか。突然、あなたの母親から告げられた、あなたの死。どうして病気のこと、教えてくれなかったの。

 僕は今でもあなたの美しい横顔が忘れられません。







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