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夏といえば音楽祭

欧米のコンサートシーズンは9月から翌年6月。その後の7月・8月は音楽祭の季節です。各地で数百の音楽祭が開かれているといわれます。音楽祭ならではの演奏者や親しみやすいプログラムに加え、開催地が避暑地やリゾートであったり、屋外の解放感のなかで音楽を聴けたり、非日常感に満ちています。
音楽祭を目的に旅すれば、感性を刺激される、忘れられない夏になるはずです。


まさに音楽の祭典。100年以上の歴史ある音楽祭  

BBCプロムス
現在開催されている音楽祭でもっとも歴史が古い音楽祭のひとつが、1895年に始まったイギリスの「BBCプロムス」(正式名:ヘンリー・ウッド・プロムナード・コンサート)です。毎年夏にロンドンで8週間(今年は7月19日~9月14日)にわたって行われ、ロイヤル・アルバート・ホールを中心に100近いプログラムが行われます。
プロムスの企画者、ロバート・ニューマンが「より親しみやすいプログラム、雰囲気であれば、普段クラシック音楽のコンサートに来ない人も魅力を感じて来てくれるのではないか」と考えたことが始まりでした。その趣旨どおり、当初は歩き回ったり(Promenading)、飲食、喫煙も自由、曲目もポピュラーな名曲から同時代の作曲家であるドビュッシー、リヒャルト・シュトラウス、ラフマニノフ、ラヴェルなどの作品まで幅広く演奏され、夏のロンドンに欠かせないイベントになったのです。第ニ次世界大戦中も1941年に当時開催ホールであったクイーンズホールが空襲を受けるまで続いていました。
現在も当初の趣旨に沿い、立見席が設けられ、世界中で活躍する音楽家が、幅広い聴衆に向けて多彩なプログラムを演奏。もちろん日本人アーティストも。昨年の夏は辻井伸行さんがラフマニノフのピアノ協奏曲第3番を演奏し、7000人以上が詰めかけた会場を沸かせました。今年は藤田真央さんも登場する予定です。
世界最大級の動員数を誇る夏の音楽祭「BBCプロムス」は、まさにイギリスの国民的イベントでもあるのです。

BBCプロムスの主な公演が行われるロイヤル・アルバート・ホール

ザルツブルク音楽祭
サントリーホールとは長年親しい関係にあるウィーン・フィルハーモニー管弦楽団。今年も11月12~17日に「ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン2024」が開催されます。そのウィーン・フィールハーモニー管弦楽団がレンジデントオーケストラを務めるのがザルツブルク音楽祭です。
来場者数に加え、プログラムの豪華さ、演奏のクオリティすべてにおいて最高峰といわれるこの音楽祭は、モーツァルトの生誕地、オーストリア・ザルツブルクで行われます。巨匠とよばれる指揮者、演奏者が登場し、その年のプログラムの発表にも注目が集まります。
モーツァルトのオペラが必ず演奏されるものも、ザルツブルク音楽祭の特徴です。

開催時期には音楽祭一色となり華やぐザルツブルク

自然もステージの一部。夏ならではの演出に感動

ブレゲンツ音楽祭
ヨーロッパは夏が短い国も多く、陽光溢れる夏の悦びはひとしお。バカンスのシーズンでもあり、音楽祭を旅先の楽しみとしている人も多いのですが、なかでも人気なのは野外で行われる音楽祭。自然の中で音楽を楽しむ、というスタイルは、夏ならではの楽しみ。
たとえば、オーストリアの「ブレゲンツ音楽祭」はドイツ・スイスと国境を接するボーデン湖の湖上に設けられたステージで、オペラの名作が繰り広げられます。オペラの演目は2年ごとに変わり、新しい演目に合わせ、壮大なセットがそこに登場します。舞台のデザインが誰なのかというのも大きな話題になります。
夕暮れ、山に囲まれた湖に夜の帳が降りるのと時同じくして、ステージでオペラの幕が上がり、観る人を別世界に誘います。夏ならではの群青の夜空の月までがセットの一部。視覚、聴覚、そして湖を渡る風に五感が震えるような、幻想的な宵が更けていきます。

湖上にオペラの舞台が登場(2019年リゴレット)

夏の音楽祭は「祝祭」。音楽祭を目的に旅する

アレーナ・ディ・オペラ音楽祭
その地ならではの自然・文化を感じられるユニークな音楽祭は各地で行われます。
イタリアの輝かしい夏を象徴する存在の「アレーナ・ディ・オペラ音楽祭」。古都ヴェローナのローマ時代に建築されたアレーナ(円形闘技場)でオペラが上演されます。ヴェローナはミラノとヴェネチアの間にあり、高速鉄道の駅、空港もあるので、イタリア旅行の旅程に組み込みやすいのもうれしいところ。
ヴェローナはロミオとジュリエットの悲恋物語の地でもある美しい街並みが自慢です。昼間は街歩きを楽しみ、夕方にはトラットリアで早めの夕食。ヴェローナはヴェネト料理やワイン、グラッパの本場でもあります。ほろ酔い気分で、いざアレーナでのオペラへ。
この音楽祭は、プッチーニやヴェルディなどイタリアの作曲家による作品の上演が多く、盛り上がりもひとしお。ヴェルディ「ナブッコ」にはイタリアの第2の国歌ともいわれる「行け、我が想いよ、黄金の翼に乗って(Va, pensiero)」が登場しますが、その場面では客席から大きな合唱が沸き上がり、アンコールまで。こうしたエモーショナルな一場面は夏の音楽祭ならでは。
そう、夏の音楽祭は生きている悦びを味わう、まさに「祝祭」なのです。

ローマ時代の遺跡を利用したドラマチックな会場


ヴェローナの町とアレーナ

音楽祭は才能が花開く場所

タングルウッド音楽祭
アメリカ・マサチューセッツ州、ボストンの町から車で3時間ほどの小さな町で行われるタングルウッド音楽祭は、ボストン交響楽団とボストン・ポップス・オーケストラを中心にさまざまなオーケストラや演奏家が集います。
タングルウッド音楽祭の伝統のひとつは、「才能ある若手音楽家を、現役の音楽家が直接指導する」という教育プログラムに力を入れていることです。

弦楽フェローたち photo by Hilary Scott

開催期間中には若手音楽家のための夏期講座が開かれ、教育音楽祭ともよばれています。この伝統を始めたのは、今年生誕150周年になる、初代音楽監督クーセヴィツキーでした。当時、タングルウッドで学んだ若手音楽家のなかには指揮者レナード・バーンスタイン、作曲家ヒンデミットもいました。学生だった若手がその後教育する立場となり、再びタングルウッドに戻ってきます。
小澤征爾さんも当時音楽監督だったシャルル・ミュンシュの教えを受けたいと1960年に参加し、大きなチャンスを得ました。その後1973年から2002年まで音楽監督を務め、タングルウッド音楽祭で多くの若手を育てました。指揮者・佐渡裕さんもタングルウッドで指導を受けた一人です。
小澤征爾さんの功績を称え、セイジ・オザワホールが建立され、いまやさまざまなコンサートの場となっています。

セイジ・オザワホール。屋外と繋がるようなつくり。photo by Hilary Scott

音楽祭は才能を育む場となっているのと同時に、注目される気鋭のアーティストや前衛的な演出やプログラムなどと出会える場でもあります。

耳が目覚める!頭に響く!圧倒的ナナメ上

サントリーホール サマーフェスティバル
サントリーホールの夏の音楽祭、その名もサマーフェスティバルは、現代音楽の祭典として海外にも広く知られる音楽祭です。
1987年に始まり、今年で37年目となりました。世界各国で現在(いま)活躍する音楽家が集い、自由かつ冒険的な精神にあふれる音楽を届けてくれる、耳が目覚める音楽祭です。今年のプロデューサーは創設50周年を迎えるアルディッティ弦楽四重奏団のリーダー: アーヴィン・アルディッティを招きます。またこれまでに現代の名曲も多く誕生した国際作曲委嘱シリーズでは、フランスの作曲家の巨匠、フィリップ・マヌリの作品の世界初演も行われます。新進作曲家たちの旬で熱いオーケストラ作品を聴くことができる芥川也寸志サントリー作曲賞選考演奏会にも注目です。

クセナキス生誕100周年を記念した『ペルセファッサ』では、大ホールの座席を一部取り外し、6人のパーカッション奏者を舞台から客席にかけて円状に配置、360度の音響空間を作り出した
(サントリーホール サマーフェスティバル 2022より)©N. Ikegami

音楽祭ならではの、非日常の時間、特別な空間、そして新たな音楽との出会い。音楽祭でどきどきする夏を!

それぞれの音楽祭について、詳しくはこちらからご覧ください
BBCプロムス
ザルツブルク音楽祭
ブレゲンツ音楽祭
アレーナ・ディ・オペラ音楽祭
タングルウッド音楽祭
サントリーホール サマーフェスティバル

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